これまで4回にわたり連載してきた90年代ベーシックセダン特集も、いよいよ最後のクルマとなりました。
今回はホンダ・シビックフェリオ(EK型)をご紹介します。
「スポーツシビック」と名付けられた先代のEG型からモデルチェンジし、1995年に登場したEKシビック。
新型には「ミラクルシビック」というニックネームが与えられ、セダンにも先代から始まった「フェリオ」のサブネームも引き継がれました。
今回見ていくシビックフェリオは、登場から2年目、1998年にマイナーチェンジを行った後のモデルになります。
それまであまりスポーティイメージのなかったフェリオですが、このマイナーチェンジを機に、1.5Lながら一段と走行性能を高めたフェリオ専用の新グレード、Vi-RSが登場。
RSの名を冠したシビックは初代SB1以来約20年ぶりの復活で、ホンダ流の解釈ではRSは「Racing Sports」ではなく「Road Sailing」。
タイプRのように極限まで求めた高性能ではなく、あくまでも「快走」する楽しみを与えてくれる運動性能がRSのコンセプト。
比較的大人しい雰囲気だったフェリオにも、新たなスポーティイメージが加わりました。
搭載されるエンジンは5種類。
お馴染みのB16A型1.6DOHC VTECを筆頭に、EK型からは1.5Lにも「3ステージVTEC」を採用。
日常での扱いやすさに加え、ホンダエンジンならではの気持ち良い高回転の伸び、そしてリーンバーンによる優れた低燃費も実現した優れものでした。
そしてトランスミッションにはホンダ初となるCVTの「ホンダマルチマチックS」を搭載。
当時はまだ発展途上だったCVTに先鞭をつけ、走行モード切り替えやクリープ機構も備え、他車のCVTに比べて圧倒的にスムーズな走りを実現していましたね。
90年代後半と言えば、高性能よりも省資源・低公害というクルマが注目され始めていた頃。
ホンダも例に漏れず、環境対策には比較的早い時期から取り組んできたメーカーだけに、代表格であるシビックにも積極的に技術をフィードバック。
「LEV」は市場にも認知され、シビックのみならず、誇らしげにLEVのエンブレムを付けたホンダ車はとても良く見かける存在でした。
機能性を重視したシビックらしいインパネ。
今ではありふれたオレンジ色のメーター照明ですが、この頃はホンダの「専売特許」というイメージが強かったですね。
ボディサイズ拡大の恩恵でゆとりが生まれた室内。
元々対米輸出も多いシビックですから、この辺りについてもグローバル化が一段と推進されました。
ホンダマルチマチックを搭載するVi-RS、Vi、Mi。
だいぶ前にVi-RSの5MTに乗った事が有りますが、1.5Lとは思えない活発な走りとしなやかなハンドリングがナイスなクルマでした。
DOHC-VTECの気持ち良さも捨てがたいですが、肩筋張らずにスポーティーランを心地よく楽しめる1台。
その他のグレード。
唯一1.3Lエンジンを搭載する最廉価のELはビジネスマンのお供として良く見かけたもの。
1.6で四駆のRTiはお馴染みだったデュアルポンプ式のリアルタイム4WD。
そしてSiはB16Aを搭載する最強グレード。
タイプRの陰に隠れて目立たない存在でしたが、セダンながら楽しさあふれる1台。
しかしノーマル状態ではどう見ても普通のシビックフェリオにしか見えないのがミソ。
同時期のカローラGTやサニーVZ-R等もそうでしたが、こういう「羊の皮を被った狼」的なセダンがなくなってしまったのは残念でなりませんね。
シビックというクルマは、いつの時代も普遍的な中に最新技術を取り入れたモデルでした。
今ようやくエコと走りの両立が当たり前のように実現される時代になりましたが、そんな技術進歩の先駆けとして、このEKシビックはぜひ記憶の中にとどめておきたいですね。
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さてここまで5回にわたり、国内メーカーの1.5Lクラスの一部を当時のカタログとともにご紹介してきましたがいかがだったでしょうか。
第1回:
マツダ・ファミリア
第2回:
三菱・ランサー
第3回:
日産・パルサー
第4回:
いすゞ・ジェミニ
第5回:ホンダ・シビックフェリオ
これらの5台は、90年代初頭にはどれも勢いのあった車種ばかりでしたが、今現在国内市場ではモデル廃止もしくは風前の灯という、非常に寂しい状況になってしまいました。
後継モデルは欧州Cセグメントに移行してしまい、従来の5ナンバーサイズを守るのはカローラアクシオ・ラティオぐらいという状況。
しかし、この2台はとても走りの楽しさを演出するようなものではなく、単なる実用車としての販売がメイン。
それに比べ、大きくなったCセグカーはなかなか魅力的な車種も目白押し。
でも、やっぱり日本の交通事情の中での使い勝手が優れているのは何と言っても5ナンバーのセダンですよね。
これから先は時代もどんどん変わっていき、セダンのあり方もどんどん変化して行くと思います。
今やタクシーですらクラウンやセドリックといったセダンの定番から、より利便性の高いミニバンへとって代わる時代。
特に居住性の面で不利なセダンには少しばかり逆風が強いですが、あの頃の皆をワクワクさせたような、走って楽しいコンパクトなセダンの復活を心から願いたいですね。