あまり、こちらのブログで書こうとは思っていなかったんですが…
草彅剛氏の事件は、皆さんもご存知の通りですね。
で、です。
まあ、「あいつ、
最低の人間」などと言い触らした鳩山氏の事務所が、「おいコラ
ブ○!!」と散々な悪口雑言の電話がジャンジャンかかってきて、そんなことを言われて初めて、「…ワ、ワシ、
不人気??」ということを悟ったのか、慌てて発言を取り消す騒ぎにもなっているとか。
あれでも元・法務大臣なのだろうか?
処刑人(死刑執行書に片っ端からサインし執行させた)とか言われたけれど、今回のはちょっとまずい。
取り消すくらいなら、発言内容に関しては謝罪した方が良かった
取り消しが効くのであれば、
この世で名誉毀損は絶対成立しないのですから(笑)。
さてさて。
ワタクシの知り合いも含め、ワタクシにも意見を問う声が業界からも来ています。
つまり、今回の事件で論争になっていたのが、
「逮捕は行き過ぎでは?」
ということ。
実は、確かに、ついこの前までなら、こういう酔っ払い事件では、
保護して説諭というくらいで済んでいました。
しかし、時代は変わっています。
今は、ただの酔っ払いなのか、それとも
薬物による異常行動になっているのかが分からないほど、薬物犯の数が多くなっているということがあるのでしょう。
保護が妥当…
このように言われる方々(特に人権派と名乗る人や女性ファン)は、全て
後出しジャンケンで勝つようなもの。
事件の真相が分かってから言うことは、誰でも非常に容易いものです。
しかし、生々しい現実と常に向き合う現場の判断は、かなり違うのだと思います。
ワタクシは、もし自分がその場の警察官だったとしたら?と考えました。
昨今の事件から考えると、少なくとも大麻程度の薬物犯は、常日頃から疑うようになっているでしょう。
このことを前提に考えると…
まず、捕まった場所が、かなりの高級住宅街。
非常に静かな場所であり、かつ、
日常、このように騒ぐ人は滅多にいない地区ではないかと思います。
また、
酔っ払いがウロウロする場所ではないでしょう。
反対に言えば、繁華街では、酒臭ければこのような逮捕にまで至るかどうかは分かりません。ただ、
素っ裸というのは、たとえ繁華街であっても、不特定多数の目に触れるにはそのままにしておけない行為で、周りへの影響は悪質で大きいので、そのまま逮捕になるように感じます。理由は後で述べます。
問題は、
彼の暴れっぷりと逮捕容疑ではないでしょうか?
というのは、公然猥褻罪が守ろうとする
保護法益は、
善良な性風俗という
社会的法益ですので、犯罪として成立する行為(構成要件)は、実は、被害者がいるかいないかではなく、
法益を破壊する程度の行為があったかどうかだけで良いからなのです。
殺意があっても、誰もいないところとか、道場で一人真剣を振るうのでは殺人未遂は成立せず、反対に、道端で人が大勢がいるところで殺意を持って真剣を振り回せば成立するのとは、大きく違います。
一般的な通常人を想定して、家の中とかではなく、不特定多数の目に触れる(可能性がある)場所で、
「こりゃ~卑猥やで~」と思われる行為をしたら、それで成立してしまうのです。
周りに人がいるかどうかではありません。
この刑罰が守ろうとするのは、あくまでも
社会の善良な性風俗だからです。
ただ。
公然猥褻罪と同じ
社会的法益を守る刑罰でも、
現住建造物放火罪などのように、不特定または多数人の生命・身体・重要な財産の安全を脅かす
公共危険罪などとはレベルが違います。
酩酊状態で記憶も定かではない状態(心神耗弱か心身喪失)では、責任能力に明らかな問題があると思われるケースで、またこのような行為に及ぶことも一般的な社会では十分ありうるので、犯罪の程度問題ではあまり重要ではなければ逮捕するには至らないことがあるのはこのためです。
今回の場合も、①周りに人がまったくいない②夜中で見られる可能性が比較的低い③ほぼ酩酊状態なのであれば、保護する可能性もあったかもしれません。
だから問題なのです。
今回の場合、最初から明らかに
薬物犯を疑っていたと思われるからです。
つまり、一応成立している公然猥褻罪で逮捕しておき、
実際は薬物犯の捜査に使う「別件逮捕」があったのではないか?
公然性も明らかで行為が悪質、かつ、異常な暴れ方をしていたことから、ほぼ間違いなく
薬物犯をも念頭において、保護対象ではなく逮捕となったのだと思います。
※暴れ方が酷ければ、もしかすると、酔っ払ってポリ公どついたどこかの役者さんのように、
暴行(酷ければ傷害)および公務執行妨害での逮捕だったかもしれない。このケースでは、薬物犯はまったく疑われていなかったが。どちらかというと、
どつかれたポリ公の復讐に近かったのではないだろうか(笑)。
だから、一番の問題なのは、逮捕理由は勿論、
公然猥褻罪に家宅捜索が必要なのか?
ということなのです。
まあ、逮捕は違法かどうかといわれれば、非常にビミョーで、合法といえるでしょうね。一応、公然猥褻罪の構成要件には該当しているので。
しかし、通常、公然猥褻罪(それも現行犯)で家宅捜索など、どうしても結びつきません。
家宅捜索令状(捜索差押令状)には、
適用条文と捜索差押の対象物(ある程度明らかに書く必要がある)を書かなければなりません。
…。
…公然猥褻罪の現行犯で…
何差し押さえればええの??(汗)
想定できないのです。
つまり、別件逮捕と同じく、逮捕・起訴の基本となる証拠能力が否定される違法な
別件捜索が公然と行われたんじゃないの?!という点なんですけどね。
このような時代では、ただ酔っ払っているからと言っても、あまりにも異常性があれば、
薬物からなのか酒からなのかが分からないことも多いでしょう。
そのような場合、今までのケースをあげつらい、
保護すりゃいいじゃん!と怒る女性ファンは、あまりにも一方的な見方をしていると思います。
現場警察官の立場になってみましょう。
もし、ただの酔っ払いだと思っていて、実際は薬物犯だとしたら?
薬物犯の尿検査は、使用量によっては何時間も経てば陽性反応が出ない場合があると聞いています。
それで、そこで見逃してしまい、後から重大な薬物犯であること、しかもラリって殺人行為までした現行犯だったら?
これは、大きな責任問題になる可能性もあります。
今の時代では、成立している犯罪での逮捕は勿論、その上で、疑いがある薬物犯について、
任意捜査の名の下に(※尿検査は、本人の同意がなければ捜索差押令状と場合によっては身体検査令状が必要。だから、通常は同意を得て、任意に提出を求め、任意捜査に応じたという形式になっている)、素早く薬物犯を取り締まらなければならない状況になっているのだと思います。
だから、逮捕までは違法とはいえないと思います。
別件逮捕に限りなく近いような場合を除き、一応現行犯ですから、逆に逮捕しなかったら、それはそれで問題になるような気がしてならないんですね。
でも、家宅捜索はどうでしょう?
別件捜索だよなあ…と思います。
だって、
何も持ち出さずに30分で終わっているんですもん。
しかし、ワタクシ自身は、それほど重要視していませんでした。
だって、
そこで薬物が出てきたらどうするの?という感じもするから。
第一、何も出なかったんだから、逆に彼の潔白(??)は明らかになったでしょう。
※もし出てきてしまったら、一応、毒樹の果実理論(違法収集証拠排除法則)で、証拠能力が無いという建前だが、おそらく裁判所では否定されないだろう。「偶然出てきてしまった」ということで、色々な抜け道がありそう。過去の判例を見たら、薬物犯では否定されている例が目立つくらいだから。ホンマ、捜索差押の現場での現行犯逮捕という例も極めて多い。今回は、酒での酔っ払いで本当に良かった(??)。
今回の場合、別件捜索が明らかだったとしても(令状みてないから断言できない)、「草彅側は国を訴えないでしょうから、問題にならないでしょう」との知り合いの意見ですが、私も同意見です。
※薬物犯と尿検査(特にカテーテル)、そして令状というのは、刑事訴訟法上あまりにも有名な論点になっている。薬物を所持しておきながら、尿の提出という任意に捜査に応じないと言うのであれば、これは令状を使わなければならない。しかし、どの令状によるべきか?というのが最高裁にまで持ちこまれたケースがある。結果は、捜索差押令状ということになった。ところで、ほとんどの皆さんが、
警察って何でもかんでも強制的に捜査できると思い込んでいるフシがあるが、実際は、
任意捜査が原則とされている。でも、逮捕令状について、ほとんど却下されないのは、それだけ合理的疑いが強いと裁判所でも信用しているという建前だが、本当はどうだかねぇ(汗)。なお、逮捕(令状)や取調べについては
こちらと
こちらを参照。ただ、この時は、逮捕権限について、
自衛隊の警務官(※憲兵みたいなものか)を忘れていた。彼らも拳銃所持と司法・行政警察活動と同等の職務を行っている。
※ちなみに、
飲酒検問について、皆さんはどうお思いだろうか?実は、あれは立派な
任意捜査。停止に従わなかった場合、停止を振り切るやり方が極端でなければ、実は逮捕できないのである。つまり、
飲酒検問で強制的に停止させる法的根拠は全く無いというのが法理論上明らかなところ。しかし、停止後の呼気検査などは、別の法規範(道路交通法)と政令により、拒否すれば直ちに拒否そのものを理由に逮捕される可能性がある。とはいえ、その場合でも、強制的に呼気検査をするには、少なくとも身体検査令状か捜索差押令状が必要になってしまう。昔、今では司法試験その他の資格試験受験予備校界で知らぬものはいない有名講師(※弁護士登録時代)が威張っていた事例があった。当時、飲酒検問で停止せずに突破し、警察官たちに追いかけられ、ほとんど無理やり停止させられたという。その際、怒鳴り込む警察官たちに弁護士バッジを見せつけ、
「君たち、飲酒検問は『任意捜査』だよ?私は『無理やり突破』したのではなく、ただ『停止しなかった』だけだ!それなのに、この強制的な停止行動は何だ!『令状なき強制捜査』だなあ?ん~?これは『大問題』だねぇ!勿論、『国家と県(府?)』を訴えさせてもらうし、刑事事件なら徹底的に争うからそのつもりでいたまえ!」と凄んだという。あからさまな行動だが、勿論法的に違反している行動は無い。まして、弁護士相手に、飲酒検問で停止しなかった程度で逮捕などできるはずもない。後でせせら笑われるだけでなく、県(府?)警本部長や検事まで怒り心頭になるかもしれない。警察官は手の平を返し、
「センセ~♪下っ端の警官を苛めないで下さいよ~♪」などと慇懃な態度に出たというから呆れたものである。とはいえ、通常、予備校の講師をする弁護士さんたちは、自分の実務経験に照らしながら教えてくれるので、ほとんどの法律の授業では、実務での面白い話を聞かせてくれたりするものだ。しかし、この有名講師は、ワタクシの知り合いたちも含め、これ以外、ほとんど聞いた事が無かった。その後、予備校経営をしているが、色々な理由を言いつつ弁護士登録を外している。正解だと思う。おそらく、弁護士としてより予備校講師・経営者としての方がずっと成功に近いと感じるからだ。