最近レーシックのことを調べている。
レーシックとは、眼球の角膜の厚さを変えることで屈折率を変化させて、網膜に像を結ぶ様にする手術のことだ。
レーシックはマイクロケラトームと言うカンナのような用具で角膜表層をを薄くはがしてフラップを作成(もとに戻しやすいように眼球につながった状態にするため、一部を残してヒンジとする)、角膜の内側をレーザーで焼いてけずり、また表層を戻すことで実現する。
最近はマイクロケラトームではなくレーザーでより正確で安定なフラップを作成するようになっている。こちらはイントラレーシックと呼ばれている。
かなりの部分をコンピューター制御の機械が行い、最新の機械では眼球の動きの認識と補正を行うので、事故が少なく正確で安定な手術が行えるようになっている。
だが問題点はいくつかある。
以前銀座眼科が集団感染症を起こして閉院したが、あれはかなりずさんな管理体制であったためで、常識的には考えがたいケース。他院では同じようなケースは知られていないようだ。
しかし、一方でレーシック手術による後遺症が出ることは少なからずある。
ハロやグレア、スターバーストと言った症状が出やすいこと。
ハロは光の回りに輪がかかったように見える(日がさや月がさのような)症状。
グレアは光の周囲がぼやっと光ってまぶしく見える症状(汚れたガラスやメガネ、コンタクト越しに光を見た感じ)。
スターバーストは光から周囲に向かって何本かの光線が出ている様に見える症状(傷のついたプラスチックやガラス板越しに光を見たときに出る物と同じ)。
ハロやグレアは黒目の瞳孔の大きさに対して、角膜を削った部分のうちレンズの役割を負わせる部分(オプティカルゾーン)の大きさが充分大きくないと、オプティカルゾーンの周辺で起きる光の散乱の影響を受けやすくなり生じるようだ。
スターバーストが生じる理由をレーシックの後遺症原因として細かく解説しているものは見かけなかったが、原理的に角膜の傷、オプティカルゾーンの周囲についている歪み/傷の影響はあるのだろう。
それぞれに見え方はいろいろなところに載っているが、たとえば以下あたりを見るといい。
http://www.visionsimulations.com/index.php
汚れたメガネやコンタクトでは経験することではあるが、それがいかにしても晴れない状態はストレスだろう。メガネやコンタクトは外せばすむ。
他にも、コントラストが弱く見えたり色味が変わって見えるようになることもある。
こうした症状は当初誰でも出やすいが、瞳孔の大きさは年齢と共に縮小していくこともあって若い人ほど出やすいようだ。また、暗いところでは瞳孔が広がるので夜間特に自覚しやすい。
瞳孔が大きい人はオプティカルゾーンを瞳孔サイズより大きく取りにくくなり起きやすい。
近視や乱視が強い場合角膜を削る量が多くなるが角膜が薄くなりすぎる。その対策として角膜を削る深さを減らすためにオプティカルゾーンを小さく取ると出やすい。
角膜の修復が進むことによって改善していくが、瞳孔とオプティカルゾーンの大きさの関係がうまくないと残りやすい。これには手術機械による違いの影響も大きいようだ。
こうした症状が残るといつも目がかすんでいる感じになり、夜間ははかなり不快だろう。
また、フラップが正確に元に戻らず皺が残ることがあり、乱視が起きることがある。ある程度修正は出来るようではあるが。
しかし、もっとも大きく、誰でも起こりえる問題は過矯正である。
レーシック手術によって視力が2.0などになる例もある。しかしそれは強い近視のレンズを通して物を見ているのと同じで、近くにピントが合いづらくなることでもある。遠視、あるいは老眼の状態になる。
我々の生活はかなり近くを見ての作業が多く、ここにピントが合わせられなくなってしまうとかなりしんどい。
また、ピントをあわせようとする際には眼の中の毛様筋を強く収縮させる必要があり、目が疲れやすくなったり、頭痛を起こすなど生活の質の悪化が起こりうる。この結果通常の生活が困難になるものもいる。
超近接で物を見続けてみればかなり疲れるのを自覚できると思うが、それがずっと続くと考えればよい。
ハロ/グレアもそうだが、こうした症状が目の機能(のうち遠くにピントを合わせる機能)と関係がないために数値上は手術に問題がなく、後遺症として理解されづらい。そのためフォローを受けにくい。
さらに、再手術によって修正することで軽減も可能だが、すでに角膜を削っているのでさらに多く削ることが難しい例も多い。
過矯正は数字上の視力をよく見せるために行われやすい傾向がある。
また、検査の測定値だけから術後の影響の出方を完全に予測することは困難で、個人差の影響も出やすい手術であるため、意図せず過矯正になることがある。
過矯正は修正が困難なことがあり、一度起きてしまうと影響が極めて大きい。
さらに非常にありふれているのはドライアイである。術後の時間経過によって改善することも多いが、人口涙液が手放せなくなることもある。
パソコンモニターを見ることが多い仕事や生活では、遠視傾向やドライアイはかなり問題がある。
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と言うわけで、レーシックには、リスクはそれなりにある。
うまくいけば裸眼で歪みのない快適な視野と生活を得られるが、うまくいかないと視界に問題を生じるだけでなく頭痛や吐き気などが生じ、生活の質にかなりの悪影響を及ぼす。しかもそれを修正することが難しい。
どんな手術であっても100%はあり得ないが、一般に問題のある症状があり、命や生活の質に多大な影響があるためにリスクを覚悟で行われる。そうでなければ必要もなく体にメスを入れる行為などしない方がよい。
レーシックの場合はメガネやコンタクトレンズによって矯正可能で、必ずしも必須のものではない。手術によってそうした煩わしさから解放される可能性は高いが、それが不可逆的で深刻なリスクを覚悟してでも行う必要があるものなのかどうかは疑問がある。
大手の院を対象とした訴訟もそれなりにある。美容系だけではない。
イントラレーシックでフラップ作成の失敗は少なくなり、エキシマレーザーが正確に当てられるようになり、角膜削り量が抑えられるようになってきてはいても、基本的な術式は同じなのでリスクは減少してもなくなることはない。術後の結果に不確定要素の影響が大きいのだ。
うまくいっても、角膜の強度は落ちるし、眼圧検査が行いにくくなったり、白内障手術がうまくいかなくなったりする影響もある。
保険加入でもレーシック経歴はリスクとして取られることがあるそうだ。
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そして、このレーシックはインターネットのブログやホームページ、クチコミサイト等を通じて意図的に印象操作を行ういわゆるステルスマーケティングが盛大に行われている、極めて問題の多い状況にある。
ネット上の情報にかなりバイアスをかけられており、レーシックについて様々な手法でメリットや安全を強調したり、手軽さを強調するだけでなく、それぞれの院についての情報に院同士が正負両方のバイアスをかけあっている状態にあり、とても額面通りに受け取れる状況にない。
この状況下でのレーシックは、情報リテラシー的にもかなりリスクを伴う案件と考えた方が安全だ。
視力や乱視の改善率は高いので受けるのは選択肢の一つだが、本来不必要な手術であり、問題が起こった場合に不可逆的であることを考慮すると、安易に受けるべきものではないし、人にも勧められるものではないと私は結論した。