先日住んでる街で落語会があったのですがね、
私 そこそこ古典落語が好きなんです。
おゥ すンなら今から『芝浜』を演ってくんねェ!
と言われたらすいませんとすぐ謝る程度の横好きなのですが、
それでも聞いているうちに何やらもやもやしてきまして、帰宅後、Wordにぱちぱちと打ち込んだる素人落語。
まぁここにアゲて誰も迷惑はかからないでしょうから、モヤを晴らすために貼ってしまいますが、長いので興味のない方は窓をお閉じください。 では…
(出囃子)
え、
こんな時分にお運びいただき 有難うございます。
折角いらした皆様に 毎度つまらないお話で と進めるのも如何とは思いますが、
落語たぁ元来 ごくささやかな、ごく つまらないものでして、
ま それをわざわざ聞こうてぇ皆様も、 随分 物好きなことかとは、 いや これ以上は申しませんで。
さてこの落語と申しますものは、江戸時代に大成したものと聞いておりますが、
昔よりの日本のお話と言いますと、お伽話、というものもございます。
皆様も子供時分に聞き覚えがございましょうが、大人になって、改めて聞きますと、
どうも理屈が合わない。 子供騙しである。
と言いだす捻くれ者が世の中には居るものです。
例えば、浦島太郎。
折角 身銭を切って亀を助けたのに、爺さんにされる。 あんまりだ。
などと文句をつける。
しかし世の中にはさらに捻くれ者がおりまして、いやあれは実は、女遊びの話なンだと。
まず亀というのは、吉原の禿
(かむろ ※見習い)である。
お遣いの禿に声をかけた田舎者が、店で花魁
(おいらん)の乙姫太夫を揚げて、 散々っぱら遊んだ挙句のその翌朝、
番頭にそっと玉手箱で 出された勘定書きが数百両。
それで途端に頭が真ッ白になっちまった。 これ即ち浦島太郎という話のまことである。
また 竹取物語という話で、幼女が竹の中から生まれる。実に非科学的である。と言う輩もある。
と すかさず、 いやいや昔の家道具というのは竹で造られる物が多かった。箸だのだの傘だの篩
(ふるい)だの。
タンスなどという物。あれも一昔前は桐の箪笥で嫁入り道具、と申したが、漢字で書くと竹かんむりで、つまり昔の家財は竹による物が多かった。ゆえに家具屋姫、これが竹から生まれるのは道理である。
などと講釈を垂れる御仁も御座いますわけでして。
さて 人ではないものから生まれた者が活躍する、という話で最も有名なのは桃太郎、でありましょう。
今に伝わっている話では、桃から生まれた ということになっておりますが、
勿論、桃の中に人が生まれる訳はございません。
昔々 あるところに住んでおりました、爺さんと婆さん。
長く子を望んでおりましたが、授かりませんでして。しかし。 これが五十路を過ぎて、子をなした。
これが若い夫婦ならば、めでためでたと鎮守に詣で、隣近所に酒肴を振舞うところでしょうが、そこはそれ。二人とも、老いてからの子がどうも 嬉しさを超えて、 恥ずかしい。
そこで、
川で洗濯をしていたらば桃がどんぶらこ、どんぶらこ。中を開けたら、男の子。
という話を作り上げます。
当然、村の連中は皆そんなことが方便なのは先刻承知な訳でして、可哀想なのは、
お前は桃から生まれた。
お前は桃から生まれたんだよ。
と信じ込まされた 当の息子で御座います。
幸い息子は元気に育ちまして、しかし、歳を取ってからの子供に、親は甘うございます。桃太郎と名づけられた子は、畑仕事も手伝わず、読み書きも習わず、遊び呆けて大きくなってまいりました。流石に親も、 これぁいかん。 と思いまして、ようよう 太郎を世間の風に当てようと思い始める次第で。
「
太郎。(手を叩く)太郎。」
「
あい、 おとっつぁん。 …おはよう。 」
「こんな日が昇って、お早うも無えもんだ。 ぁ、 そこン座ンな。
おめえ、今年で幾つんなった。 」
「
… あぇ、 ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな、やぁ、ここのつ、とぉ、…
… (握った手を見て 顔を上げる)
…… とぉより多くだ。」
「おめえはもう今年で十五だ。侍で言えば元服の歳だ。なのにお前ときたら… 昨日は日が暮れるまで、何をしていた?」
「
… ぇ、昨日はね、おとっつぁん、猪と相撲をとったよ。どたあん、ばたあんて。兎ともとったよ。 」
(天を仰ぎ、長考)(やがて顔を上げ、煙管に煙草を詰め、火を着ける)
「太郎。 歳で言えば、お前ももう一人前だ。本来なら畑を継がせるか、とっくに奉公に出したところだ。
(煙管を一口)けんど、お前はいい歳をして、日がな一日裏山で、獣と楽しく相撲三昧か…
(大きく一服、煙を吐く) おめえ…
(囲炉裏端に雁首をカンと叩く)鬼ぃ、退治してこい。」
「
… …お に? 」
「ああ、鬼だ。お前、鬼、ってな、わかっつるな?」
「
… お、おに、だ。わかる。 」
「おめえ、これから、鬼んとこ、行っつ来。わかるな? 」
「
… わ、わかる。 う、うれしいな。」
「何? 」
「
… お、おらぁ、いままで、も、桃からうまれたって、だからひとりだって、お、おもてた。
だけど、いただなぁ。」
「居た? 何が。」
「
… お、おにぃ が。 に、にいちゃんとこ、いくのか。」
「馬鹿。そうじゃねえ、鬼だ。角がへえてて、牙がへえてて、虎のふんどししちょる鬼だ!」
「
… はあ。 で、でも、何でおらぁが、お、鬼のとこ、行くだ? 」
「・・・鬼は、わりいからじゃ。 」
「
… わ、わりい? …な、何が、わりいんじゃ? …そ、そもそもぉ、おらぁ、鬼、み、見たこたぁ、ねえ。」
「・・・鬼ぁ、身ぃ、隠せるんじゃ!」
「
… で、み、見えん鬼が、な、何のわるさぁ、す、するんじゃ?」
「・・・・・
太郎。今年の正月、おめえに、凧ォ買うちゃろうが。」
「
… あ、凧ォ。こ、こうてもろた!こうてもろた!
… で、でも、すぐに 糸ォ切れて、…と、飛んでいきよった。」
「あれぁ、鬼ン仕業じゃ。」
「
… あ、あれがか!!!」
「鬼が悪さしようて、おめえん凧、飛ばしよったんじゃ。」
「
… お、鬼、 わ、わりいやっちゃなぁ。」
「あとな、つい前、婆さんが、うちの糠味噌、悪うなった言うとったじゃろう。
あれも鬼じゃ。
鬼がみんなんおらんうちに、わりいもん、混ぜよったんじゃ。」
「
… あ、あれも、お、鬼か! … お、お、鬼、 わ、わ、悪いやっちゃなぁ。 」
「な、わかったじゃろう。じゃからお前は、鬼退治に行くんじゃ。
(羽織を出し)さ、田舎芝居の古着じゃが、羽織じゃ、羽織じゃ。
着て行ったらええ。
(無理矢理着せる)
(袋を出し)さ、婆さんのこしらえた、黍団子じゃ。持っとけ、持ってとけ。 (無理矢理、腰にゆわえる)
(刀を出し)わしの若い頃、合戦場で拾うた刀じゃ。
見目は汚えが、差しちょけ、差しちょけ。(無理矢理)
(のぼりを出し)そして、「日本一」の幟じゃ。
これを差せば、強そうに見えること、間違いなしじゃ! (無理矢理)」
「
… こ、これ…差すと、こ、腰が、ま、曲がらんが… 」
「(と言うの声を聞かず)やあ、立派な侍装束じゃ!
しかし太郎、お前は喋りが…ちと不自由じゃ。
だから、これだけ言っときぁあいい、という言葉を教えるで。
まず、人に名前を聞かれたら、『桃から生まれた桃太郎!』」
「
『ももからうまれた ももたろう!』」
「どこに行くかを聞かれたら、『鬼が島に鬼退治!』」
「
『おにがしまに おにたいじ!』」
「『お腰につけとる そりゃ何じゃ?』と聞かれたら、『日本一のきび団子!』」
「
『にっぽんいちの きびだんご!』」
「それで、腹の減ったもんは『ひとつください、おともします』と言うじゃろう。さ、これで一安心じゃ。」
「
… お、お父つぁん、 で、お、鬼が島?は、ど、どこに… 」
「さあ行ってくるだ!行ってくるだ!行ってしまえ! 行け!」(戸を閉める)・・・
(また開けて)戻ってくるな!」(ぴしゃりと閉める)
こうして桃太郎は親元を追ン出され、旅立つこととなりました。まずは近くの村に着くわけですが…
おい、源兵衛、源兵衛。あれぁ見ろよ、桃太郎じゃねぇか。
まあ 酷い格好だね。 皺っくちゃの羽織に袴、腰にはおっきな袋と、何だか汚い棒っきれ差して、…おいおい、背中に旗まで背負ってるよ。
何か書いてあるぜ… に ほん いち 日本一 ? ありゃ日本一のばかだね。おぅーい!
あ、来た来た。笑ってらあ。ほんとの馬鹿だよ。おい、いってえ 何がどうしたんだ?
「
ええ、まず聞かれたらこう言うんだっけ。
『ももからうまれた ももたろう!』」
ぅわ。なんでえ急に。んなこつは皆知ってらあ。川からどんぶらこ、どんぶらこ、流れてきたンだろう?おめえもおめえなら、お前の親父も大概でえ。
で、そんななりで、どこに行くンだい?
「
『おにがしまに おにたいじ!』」
…おい 聞いたか、鬼退治だってよ。こらぁ只事じゃねえぜ。
可哀想に、太郎も馬鹿だが、爺さんも婆さんも、とうとうぼけちまったか。
太郎よ、鬼退治ッたって、その、鬼とやらに何か、悪さでもされたんか?
「
ぇぇ… た、た、たこをきられた。」
た、蛸ォ?
「
で、でぇ… ぬかみそぉぃ、まぜられた。」
おいおい、蛸を切るだの、味噌を混ぜるだの、鬼が一膳飯屋
(いちぜんめしや)だね どうも。
これぁ 爺さんも婆さんも、無駄飯喰れえの厄介者に愛想ォ尽かして、追ン出したに違えねえよ。
「
『に、にっぽんいちの きびだんご!』」
ウ、なんでぇ急に!
シッ、シッ、止しつくれ、そんな不味そうな団子、こっちから願い下げでぇ!
鬼が島でもどこでも、行っつ来らぁいいや!
まあそんな調子で桃太郎は這う這うの体で生まれた村を後にいたします。
村の先に待ちうけまするのは、夜目にも黒々とした山道。まァ、山育ちの桃太郎にとっては雑作のない道行で御座いますが、
(藪を掻き分けながら)「
… ああ、畜生、さ、さんざに言われっちったなあ。
お父つぁんにおすわったとおりに、やったつもり、なんだがなぁ。
お、俺ぁやっぱり、人とさべるのは、苦手だなあ… おぅ!
…犬っころでねえか。ど、どうした、こんなとこで。
…腹ァ、減ってんのか? ほれ、おっ母が作ったきび団子だ。
さっき、源兵衛さんと太助さんにはさんざ言われちまったけんどな…
…おお、食うちょる、食うちょる…おめえらはええよな、ええだのわりいだの、馬鹿だの言わんで…
どうじゃ、おらと一緒に来るか?
わっ。
いつの間に、こっちには、猿じゃ。 …(犬を見て)
…ほ、吠えねえ、なあ。
…犬と猿、っうのは仲のわりいもんでなかったのか?
… まあええ、お、おめえもひもじいんじゃろう、(団子を出す)
…く、食うか。
ほ、食た食た、上手に食いよる。も一つどうじゃ。
…? あ、 …犬がおらん。 どこ行きよったんじゃ…
(吠え声)
わっ。 おめえ!… …なにを咥えて…?
わっ、鳥じゃ!でけえ鳥じゃ!これぁ 雉じゃ! だ、団子の礼か… 律義な犬じゃのう…
あ、この雉、まだ生うとる。い、犬よ、放せ放せ。…ほれ、お前も食うか…?
ああ、食いよる、食いよる。 (バサバサバサ)
ぅあっ!これ、お前はまだ傷が治りよらん!
こ、この紐で… い、今はつながれちょれ! 」
とまあ山歩きの中で旅のお供を従えた桃太郎。ようよう山を下り、城下の町にたどり着きましたが まあその風体たるや、右には犬を従えて、左の伴に猿がつき、片手に握った紐の先には雉がばっさばっさと飛んでおりまして、さらには当の桃太郎の この様相たるや、十年来の山育ちでなりだけは人一倍にでかくなった上に、垢にまみれた羽織袴で、腰にはぶらぶらずだ袋、その一方には太刀をはき、背中に差したるのぼりには、墨黒々と日本一。これが道ゆく者の耳目を集めない訳は御座いませんで。
お?なんですかあの変ちくりんな若者は。あれですか前の宿場でも話の一等に上っておりましたが突然山から降りて街道を黙々と歩いておるらしいのですよ。そのくせ宿に泊る気配はありませんで。しかしつぎの朝にはまたいつの間にやら道行が伴になっているそうで。あの幟には日本一とありますが、どうですかあんななりと見て、まことは剣豪宮本武蔵の再来では。いやいや街道筋の茶店では、いきなり「日本一のきび団子」と叫んで、店の主人が腰を抜かしたそうですよ。では衆目を集めんがための物売りでござろう。しかしあの者が商いをするを見た者がござらんのです。
わずか数日のうちに流言は燎原の火の如く城中にも広まりました。斯くして風体怪しき桃太郎は奉行所で、その身を詮議されることと相成る次第でございます。
「そのほう、面
(おもて)を上げい。 」
「
…? 」
「(頭を上げるのじゃ) 」
「
!へへっ! 」
《困ったな、困ったな、お父つぁんにおすわったことばはちょっとしかないのに、
こんなにお侍にかこまれて、困ったな、困ったな》
「その方。桃太郎と申せしが、我が殿の許し無く城下で荷売りせしを咎める。
委細相違ないか。」
《困っちゃったな、困っちゃったな、なに言えばいいのかな》
「ふむ。どうも貴様の様子、気になる。要は何を商い、何を持ち居っておる。答えよ!」
「
… え、えー -、も、『ももからうまれた』『もも』『だんご!』」
《あぁぁぁ、しくじっちゃった、しくじっちゃった、まぜっちゃった、まぜっちゃった、》
「ほう。桃団子とやら、美味にも覚ゆるが、やはりそちは、団子の振り売りであるか?」
《困っちゃったな、困っちゃったな、ももだんごなんてないのに、えーと、えーと、》
「
… え、えー -、『にっぽんいちの』「もも』『だんご!』」
《ええ、また やっちゃった、やっちゃった、》
「ほほう、そこまで そなたが言う桃団子、ぜひ食してみたいのう。で、団子はいずこに?」
《うー、うー、?》「
『…お、おにがしま…?』」
「馬鹿を申すでない。そちの腰に下げている袋、その中にあるのであろう! さ、速やかに腰元の袋を…
! …その方、腰に何か、下げておるな。それは、なんじゃ。 」
「
… え、えー -、『おこしにつけてる そりゃ何じゃ?』」
「こちらが訊いておるのだ。 者共。桃太郎の腰元にある、その、刀を召し上げい。」
・・・・・
(奉行、刀を検分する)
・・・・・
「桃太郎とやら。
鞘は古びておるが、この奉行の目は欺けぬぞ。
是は名刀、しかもそれがしの目が確かならば、 権現様の治世に遡るまでの由緒正しき業物じゃ。
かような刀を持っておる汝が、ただの団子売りとはとても思えぬ。
いや誠由緒正しき武家の縁のはず。
答えよ!貴方なにゆえ、侍でありながら振り売りに身を偽っておる!? 」
《えぇ、お父つぁんが拾った刀が、選りにも選ってそんなごてえそうなものなんて、
いってえどう答えりゃいんだぃ、おすわッた言葉、教わッた言葉… 》
… 「
『おにたいじ、おにたいじ!!!』」
「はて、鬼、退治、とな… 。
言っておることは訳がわからぬが、やはり 気に、なるのう…。
賤しき輩にまで身をやつすからには、 それ相応のことわりがあろうというもの…
! はて、退治!? さては!貴殿、敵討のさなかであろうか!」
《か た き う ち !!!???》
「成程、敵討で身を隠す最中ならば、不審な身なりの訳も知れよう、
や、それがし、武士の鑑と知れたからには、
はからいを妨げるつもりは毛頭ござらん。
しかし、なにゆえ貴殿は、敵討を!?」
《うぇ、うぇ、おにたいじ、の、わけは…》
「
『…たこの、いと ぉ、きられてぇ、…』」
「なに!従兄
(いとこ)を斬られた。それはまかりならん。 成程、一族の恥を漱ぐは武士の道理である。
然して、その後は如何に!? 」
「
『…ぬかみそもぉ、だめに、なてぇ …』」
「なんと!内儀
(かみ)様も駄目になったと。
それで貴殿は今、仇討のため、かように珍奇ななりをして、 耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、諸国を廻っておるのだな。
(膝を叩く)
それがし、まっこと、感服いたした! この世に未だ、かような侍の本分に準じた輩があろうとは。
それがし、すぐにでも我が殿にご注進の上、貴殿を我が藩に、迎える所存にござるぞ。
我が殿は義心に篤きかた故、仇をば晴らした暁には、ただちに貴殿を相応の職に置かれるであろう。
どうじゃ?
ぬし、扱いに、不足あるか?」
「
… ぇえ、 …『ひとつください、おともします。』」
「うむ。いや、一つとは言わぬ、五人扶持、いや十人扶持まで出すぞ。
而して改めて問うに、貴殿はどこの生まれで? 何者なのじゃ? 」
「… ぇ、ぇええ、ぇぇえええー、
『も、ももからうまれたぁー、』
もの、もの… えぇ、 くだものでござる!」
「何? くだもの?
…うむ、道理で、きになると思った。」
桃太郎で御座います。(出囃子)