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トニー滝谷のブログ一覧

2009年04月16日 イイね!

ポール・ベンジャミンの語る話(映画『スモーク』より)

ポール・ベンジャミンの語る話(映画『スモーク』より)20年前か、25年くらい前、フランスのアルプスのどこかで、スキーをしていたひとりの男が雪崩の下敷きになって行方不明になった。遺体はとうとう見つからずじまいだった。男には息子がひとりいた。当時まだ幼い子どもだった息子は、やがて大人になり、やはりスキーをするようになった。昨年のある日のこと、彼は山へスキーに出かけた。そこは彼の父親が行方不明になった地点からさして遠くないところだったが、彼はそうとは知らなかった。父親が死んでからの数十年間に、その地点の氷は微妙な移動をたえまなくくり返し、その結果、かつてとはまったく違った地勢になっていた。周囲何マイルにもわたって人っ子ひとりいない山の中をたったひとりで進んでいった息子は、氷の中に一つの肉体を発見した。------死体とはいえ、まるで仮死状態で保存されていたかのように、傷一つない姿を保っている肉体だった。当然ながら若者はひとまず歩みを止め、もっとよく見ようと死体に近づいていった。そして身を前にかがめ、死体の顔を見たとき、自分自身の顔を見たような思いにおそわれた。否定しようもなく明確な、恐ろしい思いだった。恐怖にうち震えながら、若者はさらに仔細に眺めた。それはすっかり氷に包まれていた。まるで厚い窓の向こう側にいる人間を見ているようだった。そして彼は、それが自分の父であることを悟った。死んだ男は若かった。今の彼自身よりも若かった。



Radiohead - Everything in it's right place

Posted at 2009/04/16 17:47:38 | コメント(0) | トラックバック(0) | ケータイ小説 | 趣味
2009年04月03日 イイね!

マキノクミコ

小学生の時、佐々木っていうまあ一番仲が良かったやつがいて、ある日、佐々木と、体育館の中の倉庫にある跳び箱の中に二人で隠れてようぜって話をして。なんでかって言うと、跳び箱の隙間から女子のブルマー姿のケツが見られるじゃんって理由だったんだよね。僕も「あ、それいーぜ!! やんべーよ!!」なんつって。まあ、まだ勃起もあんまりしないような子どもだったんだけれど、なんか女子のケツは見たくてね、二人とも。ブルマー姿でもケツはケツだからね、女子の。それでじっと隠れてたわけ。
で、案の定というか計画通り、女子達とその他の男達が倉庫から跳び箱を体育館内に運びだそうって作業のタイミングになったわけ。でね、その時、女子達が「滝谷は、牧野のことが好きなんだよ」って、女子達だけの内緒話みたいに、みんな牧野に言いだして、で、牧野は顔を真っ赤にして、「えー、なんでー? そんなことないよー。私じゃないよ」って言って(僕、よく覚えてるよね…)、牧野はずっと顔が真っ赤で、すごい嬉しそうに張り切って跳び箱を体育館内に運んでいってて。たぶん、彼女のスキルとか体力的な規格の僕の概算よりも120パーくらい上乗せしたくらいの作業量をこなしてたんだよね。僕は「あれ? 嬉しいのかな? 俺も牧野のことがずっと好きだったんだけど…。へぇ~」って思って。めちゃくちゃ照れちゃって。相変わらず跳び箱の中でね。横の跳び箱の中にいた佐々木はなんかじっと息を凝らしてて、こいつ何モンなんだってちょっと思った。まあ、そんなことがあって。でも、僕はその当時「女子? うっせーよ。タキタニクンは今日も帰りの掃除サボったんですぅ いけないと思いまーす。って、いつも女子、うっせー」って感じだったんで、パンクスピリットだったんで、別に牧野をトイレに連れ込んじゃうとか、飲みに誘ってぐでぐでに酔わせて、ホテルの入り口までさりげなく自然に誘い込んで底面タックルかまして中に押し込んじゃうとかはしなかったんだよね。つまり、純だったんだ。

牧野は、成績が良くて、スポーツ万能な女の子だったのだけれど、その後、彼女は私立の中高一貫の女子中学に入って、僕は市立の中学によくわかんないけど進んで、それから二度と会うことはなかったんだよね。



The Beatles - Drive My Car
Posted at 2009/04/03 05:15:19 | コメント(0) | トラックバック(0) | ケータイ小説 | 趣味
2009年03月11日 イイね!

立体靴下をめぐる冒険 Re-Engineering Edit - Chapter 5 (CODA)

ビルを出て、駅に向かう。なかなか考えがまとまらないときにそうするように、溜池山王まで歩くことにする。六本木交差点を抜け、赤坂見附付近に向かってどんどん歩く。そろそろ、ダブリナーズが見えてくる頃だ。生ギネスが飲みたい。よろよろ歩くうちに、ふと、見かけない看板が目に入ってきた。近づいてみる。白地に赤いペンキで殴り書きのような文字が目に入る。

「立体靴下専門店」

立体靴下…。ふむ…。立体靴下?

よく見ると、そこは雑居ビルで、1階は不動産屋になっている。2階がその店のようだ。僕はふらふらと2階への階段を上がることにする。階段の壁には、赤茶けた選挙ポスターが貼ってある。階段には、ガムや吸い殻がこびりついている。およそ美しいとは言えない光景。2階にたどり着き、店の狭い入り口が見えた。ドアは開け放たれている。なにか言いようのない、悪意のような空気を感じたが、用心しながらその店に入ってみる。

果たして、その店はいつわりなく靴下の専門店であった。床には大きなダンボールに入った色とりどりの靴下の山。その山が、4つほどある。壁にも、やはり靴下がピンナップされている。その靴下群を立体靴下たらしめているのは、靴下の表面に縫いつけられているカエルの造形であったり、ピエロの顔であったり様々だが、それはやはり立体靴下なのだ。なるほどそういうことなのか。僕は少しがっかりした。いったい自分は何を想像していたのか、黒呪術にかぶれた店主がオジーオズボーンの格好をして口にコウモリをくわえながら出迎えてくれる画だったのか。安堵し、余裕が出てきた僕は、より詳細に店内を見回してみた。立体靴下、立体靴下。あそこにも立体靴下。また一枚のポスター。そして、一目見た瞬間(本当に瞬間だ)、それはとてもグロテスクなものであるとわかった。

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大相撲…。元横綱……。担当山口………。


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どこを辿って僕はその店を抜け出たのか覚えていない。途中、吐いていたのだと思う。口の中に異物感がある。僕は、はじめて自分が壊れる感覚というのを味わった。だが、僕は理解した。それは-----自分の頭蓋骨の中にあるのだ-----と。

気がつくと、目の前に家のドアがあった。ブザーを鳴らす。声にならない声を振り絞って僕は言う。

「ただいま僕だよ」


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午前2時過ぎ。吸い殻が山になった灰皿、空っぽのコーヒーカップ、そして真冬の肌寒さ。今この瞬間のポールのイメージ。2階のベビーベッドで眠っている姿。これとともに終わること。
大きくなって、読み書きができるようになったら、ポールはこれを読んでどう思うだろうか。
そして、2階のベビーベッドで眠っている、彼の甘美でどう猛な、小さな体のイメージ。これとともに終わること。



Bob Dylan - Like a rolling stone
Posted at 2009/03/11 20:23:43 | コメント(1) | トラックバック(0) | ケータイ小説 | 趣味
2009年02月26日 イイね!

立体靴下をめぐる冒険 Re-Engineering Edit - Chapter 4

オフィスの赤い秒針は、完璧に回転し続ける。1時間毎に60回、腹立たしいほどきちんと時を刻む。また無意味な1日が過ぎ去ってしまった。
4時半頃、僕は廊下に出て、経理のミス・ウィルマーに会いに行く。ミス・ウィルマーは、巨大な電子計算機の最高司祭だ。
「やあ、ハニー。僕のこと、好きかい?」
「もちろんよ」
「服をぬいで、横になってよ」
ミス・ウィルマーは嬉しそうに、にやりと笑い、肩をふるわせた。
「けど、もしよかったら、まず365 ×74年の計算をしてくれない?」
ミス・ウィルマーがキーを差し込むと、電気が点滅し、クロームの穴から青い炎が吹き出し、煙が流れ出た。機械はあえぎながら、待ちかまえている。「2万7千10日」
「至福の喜びである睡眠時間を、その3分の1に費やすとして、減算すると?」
モーターが回る。超音波速度で、高い電子音が聞こえる。「1万8千6と3分の2日」
「寝過ごしたとして、その6と3分の2を差し引き、僕がすでに費やした退屈で恐ろしい期間割ることの1万8千日では?」
トランジスターがおしゃべりを中継すると、紫色のライトがハミングバードの心臓のように脈打つ。オゾンの匂いが鼻をつく。「0.0000555。どうして、こんなこと知りたいの?」
「そいつが僕の人生の正確な分数だ。これまで生きてくるために、いかがわしい恩恵と交換にここに捧げてきた時間のね。おやすみ」
「おやすみ、トニー。本当に、あなたって変わってるわね」
5時11分、僕はまた自動エレベーターを無事に脱出した。エレベーターを利用するたびに、僕の勝ち目が薄れていくことに気づいている。


Radiohead - Creep
Posted at 2009/02/26 22:38:46 | コメント(0) | トラックバック(0) | ケータイ小説 | 趣味
2009年02月24日 イイね!

立体靴下をめぐる冒険 Re-Engineering Edit - Chapter 3

「鏡よ、鏡」翌朝もそう問いかけると、最後まで言い切らないうちに返事があった。
「オーストラリアの羊飼いは、AAにランクされました。今日は、あなたとベイルートの売春宿の主人とは、遜色無しです」
「金貸しじゃなかったのか!」
「商売の手を広げているのです。彼は野心家です。わたしがお話しできるよりずっと」
そして手が伸びてきて、僕の額に烙印を押す。鏡で見ると、きょうのは古代英語の書体で、昨日より大きな文字だが、やはり<敗残者>の烙印だ。今日はオフィスで披露しろというのか。

僕の狭いオフィスのデスクにつくと、僕は白い紙を一枚、目の前に置く。頭の上に雲が浮かぶ。雲の中では、並木のある川をでっかい丸太が流れていく。丸太をスパイク・シューズを履いた足で、クルクル転がしているのは、ふさのついた帽子をかぶった木こり。 『ひばり』を歌っている。僕はボールペンを手に取り、木こり達の危険でロマンティックな仕事の、最終的な産物を汚しはじめる。きれいな、まっしろな紙。言いたいことを全部受けとめてくれる。十四行詩でも、積み荷目録でも、人間を自由にしてくれる真実を力強く最肯定することばでも。僕は紙のまん中に大文字で、「ヘルプ!」と書いた。
30分かけて、僕は文字にひげ飾りをつけ加え、ローマ字まがいに飾りたてた。そのあと、ベージュ色のプラスティックとクロームの新しくて大きな複写機に向かう。DIL・Aコピー・ダイヤルをつまみ、25枚にセットして紙を載せる。コピーが出てくる。かすかににじみ、化学薬品の匂いがするなめし革のようなコピーが、秋の枯れ葉のように受け台に舞い出てくる。ヘルプ!…ヘルプ…!…ヘルプ!…見ていると催眠術にかけられたようになり、神経の末端がほぐれてくる。
席に戻り、コピーをぜんぶいっぺんに窓から落とし、六本木の街の上を、ひらひらと飛んでいくのを見守った。視線を戻すと、ボスのジャック・フィニイが、僕の狭いオフィスの入り口に立っていた。僕より2歳年上で、3インチ高く、30ポンド重く、頼りになり、2倍の給料をもらい、かなりハンサムな男。その男が、親指と人さし指であごをなでながら、思いやり深そうに僕をみつめている。「おはよう、トニー」ジャックは時計をちらと見て言った。
「ああ、どうも、おはようございます!」僕は少し神経質になっている。「わたしは、ちょっと、あの…」なんと言えばいいのかわからなくなって、僕はかたをちょっと動かし、肩をすくめ、明るくほほえんだ。次にひどく眉をしかめたが、その時にはジャックは行ってしまっていた。僕は両手を口に当て、ジャックの後ろ姿に、声にならない叫びを浴びせる。「あんたなんか大嫌いだよ、ジャック! 戻ってこい! ジュードーでこてんぱんにのしてやる!」僕は手の甲で、空気を勢いよく切り裂く。少し気持ちが晴れたが、たいしたことはない。


Kula Shaker - Hush
Posted at 2009/02/24 21:10:55 | コメント(0) | トラックバック(0) | ケータイ小説 | 趣味

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・カエルくんとは 1987y PORSCHE 911 3.2 Carrera。愛称、カエルくん。2007年12月に、友人のところから僕のところへ引っ越してきま...
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