2009年02月24日
僕の仕事の内容と、オフィスで毎日何をしているかとを話したいという押さえがたい誘惑に、僕は頑固に抵抗している。僕の深層心理を知るためには、必要な情報だろうが、僕が教える気になるはずがない。わかるかな? 僕は自分のしていることがはずかしい。ばかばかしくて、つまらなくて、変わりばえがなくて、非生産的で、給料も安い。とにかく、僕をはじめ、オフィスの同僚の仕事は、他の人たちのしていることと同じなのさ、ヘリコプターをチャーターして、六本木の街を低空飛行し、高層ビルの中をのぞいてごらん。オフィスで書類の回しっこをする人々で、森ビルをいっぱいにするために、20いくつもの橋やトンネルを作ったんだとわかるから。最近は書類を複写する高価な機械も入れてある。こいつはまったく、面白い機械だ。次から次へ複写書類が出てくるところは、催眠効果満点で、僕なんか夢見ごこちになる。
つまり、オフィスで僕らがしていることは、幻覚と知覚のはざまで、狂気と憤怒と安楽とをたもとうとしながら、書類に追い回され、胃潰瘍用のコーヒーのカップと、肺ガン用のタバコに追いかけられ、神経症的なトイレ通いに明け暮れるというあんばいだ。
Morphine - Early To Bed
Posted at 2009/02/24 01:46:21 | |
トラックバック(0) |
ケータイ小説 | 趣味
2009年02月23日
午前6時30分、汚水のように濁った電灯に照らされた夜明け、まだ耳もとで目覚まし時計のベルが響いているようだ。僕は目を閉じたまま、フラフラとバスルームに向かう。これで6秒間は眠りをむさぼっていられる。
やはり目を閉じたまま、洗面キャビネットの鏡の前に立つ。いつものように、夜中に奇跡が起きて、目を開いてみると、変身した僕が映っていればいいと思う。だが、何も変化はなく、少しも良くなっていない。
鏡に映っているのは、いつもと同じ、髭の伸びたばかみたいな、29才の男のつらだ。いつもと同じ、まっすぐなとび色の髪。茶色がかった赤い髪はありとあらゆる方向に突き出ている。そして、いつもと同じ、充血したバセット犬のような目。
「鏡よ、鏡、この世で一番のとんまは誰だ?」僕はつぶやいた。
「今日も変わりはございません」なつかし重々しい声が聞こえる。「依然として、アル中のオーストラリアの羊飼いと、ベイルートの金貸しと、あなたと、みな同じぐらいのとんまです。なにかあれば、あなたが優位に立つでしょう」
天井から、白い長いロープの、金の縁取りのあるゆったりした袖に包まれた大きな手がすっと降りてきて、僕の額にでっかいゴムのスタンプをぺたんと押した。右のこめかみから左のこめかみまで、でかでかと黒い大文字で<敗残者>の烙印を押された僕。
僕はほとばしる生ぬるいシャワーを浴びて、それを洗い落としたが、ベッドルームに戻り、服を着ていると、その烙印が体の芯にまで深く、しみこんでしまったとわかった。
Beck - Loser
Posted at 2009/02/23 20:26:24 | |
トラックバック(0) |
ケータイ小説 | 趣味
2009年02月13日
朝、喉の乾きを覚えて眼が覚める。昨夜、スミルノフとパイナップルジュースのカクテルを、私としては珍しく飲みすぎたのだ。体のささやかな抵抗なのだろう。階下に降りて、冷蔵庫からペリエを取り出す。それをゴクゴクと飲む。ちょっと迷ったのだが、薬箱から胃薬を取り出して、それもペリエと共に胃に流し込む。バスルームに向かう。鏡を見る。いつにもまして充血した目。やれやれ。今日もハリウッドスタアの1日が始まるのか。「ブラピちゃん! あっと、トニーちゃん! また間違っちゃったボク。アハハハハ! オーラがすっごい似てんのよ! なんかさ、やっぱスターは違うんだなあって! アハハハハ! で、どう? 最近。あっち方面、相変わらずこれもんで? ちょっとボクにもまわしてよぉ、スター! カリスマ! 神! 神話! あっと、そろそろ本番いこうかぁ」ジョージのいつものセリフが聞こえた気がした。
ブラジルのコーシー農園で暮らすという夢は、もはや私のオプションに残されていないようだ。
Galactic- 移民の歌
Posted at 2009/02/13 23:02:33 | |
トラックバック(0) |
ケータイ小説 | 趣味