• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

つーやん☆のブログ一覧

2012年01月11日 イイね!

藤沢公男の提唱するメンテナンス術~第五章研究開発と実車結果との落差について~

自動車メーカーの開発はゼロから開発が始まり、次第に完成された姿となって新型車を世に送り出し てくる。その技術力は恐るべき力を秘めている。多額な開発費を掛け、新型車をリリースするのだか ら、ノーマルも捨てたものではない。しかし、全ての面で万人向けに振ったセッティングを採用するこ とになる。また新型車の開発テンポは早く、時間との勝負、コストとの勝負となってくる。新しい技術 の開発は100%満足な性能に到達しなくても、販売開始時期は待ったなしで訪れてしまうのだ。ま た、どんなに実験・試験方法が進歩したりコンピューターによる解析が進歩しても、市場での結果は実 験結果と100%合致するものではなく、その想定の範囲外の事態が必ず発生する。また、経年劣化に 関しては、短時間に過剰な劣化を起こさせて、長期間の劣化を予測する「推定値」でしかないので、実 際に10年、20年経過した場合の経年劣化を考慮した訳ではない。メーカーの責任はあくまで保障期 間であるから、その期間をクリアすることがひとつの基準になっている。だが、気に入った車を10年 以上の長期間に渡って愛用しようとする場合には、メーカー保障を超えた期間の保守が必要である。ま た経年劣化は複雑で、使用される地域、保管場所の状態、メンテナンス等で状態は大きく変わる。例え ば中東に輸出した自動車が数年後に、計器盤(ダッシュボード)に大きな亀裂が入ってしまうトラブル が多発したとする。メーカーはこのエリアでのダッシュボードの耐久性を向上させる等の対策を行い、 次のモデルからはその対策を盛り込んだ製品作りをする。問題は一度把握した問題に対する対策(経 験)も後進に継承するシステムが確立されていないと、熟知した設計者の配置転換や退職により、また 新任者が同じ過ちを繰り返すことになる。

5ー1:実験DATAの持つ意味を理解する
実験とは実験装置を使用し色々な側面から試験材を測定し数値データーを得ることである。試験方法 や試験装置はべらぼうに高価格であるが実験で得られたデーターにより性能を把握し結果を知ることが できる。結果が悪ければ改善を盛り込み、どの程度の向上が得られたかを再度測定し数値を比較検討す る。一般の人は、その装置を一目見ただけで「凄い、確かな商品開発をしている!」と感激するに違い ない。他の項目でも解説しているように実験と実車では大きく異なるケースも出てくることを認識しな ければばらない。私自身でさえも、日産大森、ニスモ、オーテックジャパンではエンジンのベンチテス トを行ってきた。また、エンジン性能試験がレースの勝敗を左右するほど重要な意味を持っていたこと は言うまでもない。でも、実験の数値や対策を一歩誤ると実験結果は生きてこない。例えを上げると チェリーX1-Rが1300cc(TS 仕様)で165馬力を発揮しエンジン音も甲高く、いかにも速そうな排気音を発していたがラップタイム は伸び悩んでいた。(見た目でも車の加速や伸びが感じられなかった)何年後かにエンジンを分解する 機会に恵まれたがポート内径が驚くほど太かったのでその理由を一瞬で突き止められた。反対にポート 内径は細いほど流速が早まり高回転も伸びるというノウハウを知っている技術者がいれば結果は違って解かる、また数値化(デジタル化)した時に意味あるものとなってくるのである。 エンジンベンチテストで製品の性能をチェックすることになるが、どんなに長期間ベンチテストを重 ねても、車両搭載での実際DATAとは異なってしまう。また、市場に出てからの実際の使用では、 様々な人が様々な使い方をするので、私は沢山の実車DATAの積み重ねを重視している。経年劣化や ドライスタートも実車で確認しないと気が済まない。ユーザーレポートも1枚が持つ意味と、100枚 が持つ意味、そして1000枚が持つ意味とではその信頼性、信憑性は大きく違ってくる。そこから得 られたDATAを分析してゆけば、自然と見えない性能が浮き彫りとなってくるというのが藤沢の考え 方である。 エンジン潤滑は、オイルパン形状、バッフルプレート、ストレーナーの位置、オイルポンプの構造や 砥出量、オイル通路や穴の大きさなど、エンジン形式の違いで大きく異なってくる。実際走行ではオイ ルは横G・縦G・前後Gでシャッフルされ、気泡が発生したり片寄ったりする。ブローバイガスが発生 し、混合気中のガソリン希釈も発生する。摩擦熱や爆発燃焼による温度上昇で油温が上昇する。ピスト ンやクランクシャフトも、熱の影響を受けて膨張収縮を繰り返し、設定されたクリアランスも変化す る。エンジン回転数もアイドリングの低回転から最高回転までの間を不規則に上昇下降を繰り返し、し かも長時間にわたり連続して使用される。ホンダS2000の最高回転数は9000rpmと高いの で、オイルは濁流のようにポンプで給油されている。これらの説明で何を伝えたいのかと言えば「こん な複雑な条件を試験機で100%解明することなどできない」と言いたいのである。 誤解を招きやすいので補足する。チムケン圧力試験機で圧力試験を行い、オイル潤滑の良否を判断する 手法は一般的に広く用いられている。中には、このチムケン圧力試験機を「信頼できない試験機」「何 もオイル性能が解からない」と否定する人もいる。この試験機は「圧力耐荷重と磨耗」を比較する目的 の試験機なのだから他の要因が解からなくて当たり前であり、それ以上のものを求めるたものではない と割り切るべきである。オイル開発メーカーで使用されている試験機は更に複雑ではあるが、それでも オイルに関わる全ての性能を解明することはできないので数種類から数十種類の各種試験機を用いて全 体性能を把握しようと模索している。それでも実走行との格差が生まれてしまうので私が試験機より実 車テストにこだわっている理由が理解してもらえれば幸いである。どんな試験機によるどんなテスト も、実際ユーザーが使用しての結果には適わないからだ。何故ならそれを最終的に評価するのは試験機 ではなく、実際にその恩恵や被害を受けるユーザー自身だからである。

5ー2:生産車は全て同一性能ではない
この項目を説明する上で車両による個体差が顕著な、マニュアルミッション(MT)を例としての話 を進める。全く同じ10台の新車(MT)を乗り比べると浮き彫りとなってくるのが、不思議と1台1 台ギヤの入り具合が微妙に違うという事実である。だが実際は、なかなかそのような機会には恵まれな いので、ユーザーは「個体差」ではなく、「車両形式固有の特性」と判断するだろう。だから同一車種 限定のオーナーズクラブなどに入会して、自分の車両より調子の良い・悪いミッションに出会うと「何 故?」と疑問に思い、もし使用しているMTオイルが違えばきっと「オイルによる影響では?」と判断 するだろう。他にもギヤ入りは状況(気温や走行直後、暖まってから、シフトダウン等)で変化してし まう事や、あくまでフィーリングの問題なので明らかな指標がない。ディラーから「こんなもんです よ」とか「新車ですから当たりがつくまで様子を見てください」と言われてしまったら、そのまま乗る こととなる。(だが、現実には渋いミッションは渋いままで不満が募るケースが多い。) ではなぜ、生産技術や加工技術が進歩した現代で、こんな製品のバラツキが発生するのだろうか?MT は長い1本のメインシャフトに1速ギヤから6速ギヤまでが順に組み込まれている。ギヤとギヤの間にもス リーブなど他の部品が組み込まれる。こうして数10個の部品が組み込まれ、それがひとつの結合体と して完成、初めて機能する。つまり1個1個の部品が良品の基準値内であったとしても、それが組み合わ されることにより、誤差が積算され、結果がばらついてしまう。
構成部品     A    B    C     D    E   誤差合計
グループ1 誤差 +0.05mm +0.04mm +0.05mm +0.04mm +0.05mm +0.23mm
グループ2 誤差 +0.10mm +0.10mm -0.08mm -0.02mm -0.05mm +0.05mm
単体部品での良品の限界が±0.10mmの各部品で、5個の構成部品を継ぎ足して、一本の棒を作るとす る。 グループ1には最大+0.05mmの許容誤差のある部品が使われ、誤差の合計は+0.23mmである。 グループ2には最大+0.10mmの許容誤差のある部品が使われ、誤差の合計は+0.05mmである。 誤差だけでとらえると、誤差の大きい部品を使っているグループは1である。 しかし、結果として誤差が少ないのはグループ2である。製品として優れているのはグループ2とな る。 故に、誤差の少ない同士の部品を集めたとしても、それで最終結果が良くなるとは限らない。逆に誤差 の大きい部品でも、最終結果は良くなってしまう場合もある。 だから単体部品の良品限界を±0.05mmまでシビアにしても、グループ1は良品となり、グループ2は不 良品なのである。 反面、完成品の良品基準を±0.10mmとシビアにすると、今度はグループ1は不良品となり、グループ2 は良品である。 これをMTに置き換えると、一つ一つの単体部品の精度を高くすることは可能だが、完成品の良品基準 である「フィーリング」となってしまうため、これを個体差として表現するしかないのが現状である。 更に1速とリバースはクラッチカバー&ディスクとエンジン回転も関係してくるので、これらの影響も反 映される。ここにきて6速ミッションに柔らかい粘度が純正採用されたりホンダ車は、ホンダMTF(公 表されていないが5W-30位のミッション専用オイル・または同等のエンジンオイル)が純正指定され ている。この柔らかい粘度こそ(中味の添加剤も重要であるが)ギヤ入りを良好にするのに貢献してい るのである。その理由はオイル粘度が固いとギヤとシャフトの回転差は減少し一体となって回転しやす くなる。同調(シンクロ)作用はシャフトの回転数に阻害されることなくギヤ回転数をシンクロさせた いわけだから、ギヤとシャフトはできるだけ切り離されてフリーの状態が良好なギヤ入りに理想的な条 件なのである。

ミッションギヤ入りと異なって、これが新車のエンジン性能差となってくると皆目検討が付かなくな る。比較しようとしても走行距離が違っていたり、オイル銘柄が違っていたり、メンテナンスが異なっ ていたり、使用ガソリン銘柄が異なっていたりと完全な同一条件の車種を10台比較することなど不可 能に近い。では生産ラインで1台1台パワーチェックが実施されているのかと問えば、答えは明らかで 基準に合わせて1000台(生産台数により異なる)に1台という割合で抜き打ちでテストを行ってい る。全てのエンジンの馬力を測定している訳ではないのである。そして抜き打ち試験の結果が規定され た範囲内に収まっていればOKということになる。もちろん収まっていなければ原因が究明され、その 対策が盛り込まれると思われるがリコール対象でない限り、生産ラインは簡単にはストップできず、そ の間も製造は続けられる。 結論から先に言ってしまえば少しくらいの性能の違いは発生しており、またメーカーも問題にしてはい ない。当然ながらカタログ数値の公表馬力と、自分の愛車の測定馬力が20馬力違ったとしても、それ が生産不具合や、規格外品と断定することは不可能(理論的には可能であるが・・・)である。もちろ ん生産技術が進歩してゆけば性能誤差(バラツキ)は次第に小さくなってゆくだろう。一昔前には「当 たり車」「外れ車」という言葉が存在したが、現在、その言葉が死語に近くなったのは生産技術の進歩 の結果であるが決してゼロになった訳ではない。 note: 市販車のエンジンをベースにチューニングを施してゆくと、必ず出来の良いエンジンと出来の悪いエン ジンとの明らかな差が浮き彫りとなってくる。チューニングを実施するとポート形状の違いや、バルブ タイミングの微妙な違いなどが大きく影響してくる。しかし、シリンダーヘッドなどは1個の型から鋳 造されるのではなく、複数の型から生産されるので、微妙に違う部分があったりする。改造範囲の狭い ノーマル仕様を前提としたN1レースなどでは重大な要素となってくるが一般市街地を走行する普通の 使用方法であれば問題にするレベルでなく何の支障もきたさない。

5ー3:専門家は過程も重視するがアマは結果のみを重視する
何かの実験を一度でも経験した人なら解かることだが、実験には結果以外にもそのプロセス自体にも ノウハウがたくさん隠されている。例えば海水から塩を作るとすれば、「海岸で海水をすくい持ち帰 り、その海水を煮詰めて塩を作った」と略される。そして、塩がどのくらい作れたか?味はどうなの か?に最大の興味を持つだろう。しかしながら、その製作過程には「煮詰める」という行為が存在し、 実際にやってみないと判らないことが数多く隠されている。最適な鍋の大きさは?火加減は?まきを燃 やすのが良いのか炭火が良いのか?プロパンガスが良いのか?かき回す速度は?など無数のノウハウを 本当は必要としている。多くの人は海水=塩が出来るで、過程のノウハウには注目しない。当然ながら 初めて塩を作った場合と、何度も経験して「味の良い塩」を作った場合ではその過程に違いが出てくる 筈である。 これと同じことがケミカルの開発でも言える。例として私のリリースしたMTオイルの開発エピソード を紹介する。 私がMT専用フルードの開発をした時には、結果的に5年の歳月(過程)を費やした。だが、消費者の 関心は「どんな成分と原理ですか?差し支えなかったら教えて下さい」と問いあわせがくる。成分で効 果(結果)が判るのであれば、5年間の過程など必要としない。10日間もあれば製品は完成してしま うことだろう。だが、現実には、ひとつの試作品のテストだけでも数ヶ月~1年の期間を要した。テス ト車両には使用前から良好な「当り車」ではなく、新車時に問題があった「外れ車」のMTを使用。ガ ンガンと攻めた走りや冷えた状態、温まった状態、これを長期間続けて(春夏秋冬)持続性(劣化具 合)、経年変化、温度変化も一般使用と同じように見てゆく。当然ながら最初から最高の品物など完成 しない。しかし、テスト結果を次回試作品に反映することを繰り返し、7試作目で、ようやく満足でき る性能が確認できた。おもしろいのは最初は凄く入りが良くて「これは最高だね」と思って喜んでいる と、タレが突然襲ってきたり、最初は「これはたいしたことがない」と期待していないと「凄く良くな い替わりに、持続性に優れる」とかオイル性能曲線上で色々な変化が現れる。これが過程であり、その 結果を見きわめて分析し、改良を加え、少しづつ最終的に狙っている目標性能に近づける。そして各試 作品が完成すると、毎回あえて自社工場ではなく、ディラーに持ち込んでオイル交換を実施した。その 理由は、このテスト車の販売先であり、実際に2回MTを不良交換(クレーム処理)を実施しているか らである。故にこのMTのギヤ入りを熟知しているから、販売元からの意見もフィードバックしてもら えると判断したからである。そしてディラーのエンジニアは興味も手伝って、交換後に必ずテスト走行 してくれ、率直な感想を述べてくれた。5回目の試作品あたりから「これは変わりますね」という言葉 が出始め、試作7回目(販売品と同じ)の時には「エッ、ここまでやるのですか?」と素直に驚いてい た。 [estremo ギアオイル 「疾風」 開発エピソード]より抜粋 このように成分=結果という単純なものではない。確かに成分の性質で、ある程度の性能は決まってき てしまうケースも見受けるが、それは昔の単独成分の古い時代の添加剤の話である。化学の進歩が著し く進歩していることはユーザーサイドにおいてでも、販売されているオイルの規格がSG-SH-SJ -SL-SMと短期間の内に切り替わっていることでお解りになると思う。だが、更に専門的なオイル の最新技術が世に出てくることは少ない。成分も複合化が図られ複雑化してきている。 添加剤の場合は更に事情は複雑である。一般的に広く「オイルに後から入れる製品の総称」として添加 剤という呼び名が存在するが、オイル自体にも最初から沢山の添加剤が入っている。これらの添加剤を 総称して「内部添加剤」と呼ぶ。これに比べると前出の後からオイルに混ぜる添加剤を「外部添加剤」 と呼び区別している。しかし、内部添加剤で使用されている成分と外部添加剤として販売されている成 分とが、実は全く同じ成分である場合もあり、単純に区分けしたから解かり易くなるものではない。年 代的に一番古くから産業界で使用されてきた添加剤として、無機モリブデン(二硫化モリブデン)があ る。ある程度の効能が認められ、盛んに使用されてきた背景を持つが、化学が進歩しエンジン性能やオ イル性能が飛躍的に高まった現代においては自動車用としては、いささか時代遅れの性能と言わざるを 得ない。モリブデンと言う言葉は同じでも、無機モリブデンが灰色のペースト状をしているのに対し て、有機モリブデンは黒褐色な液体で、当然ながら性能も無機モリブデンよりは少し高まりペースト状 よりもデメリットは少ない。10数年前より有機モリブデンは様々なケミカルメーカーの外部添加剤と して販売されてきたが、近年では自動車メーカー純正オイルにも内部添加剤として採用されているケー スも見受けるようになってきた。ただしコスト優先なので優秀な成分と比較してしまえば性能的にはは るかに落ちてしまう。またバイクなどの湿式クラッチに有機モリブデン配合のエンジンオイルを使用す ると湿式クラッチが滑ってしまうというトラブルも増加してきている。だから添加剤嫌いの人が盛んに 外部添加剤を否定する理由もここにある。しかし自動車メーカーでも、有効な成分でコストがクリアで き、一定条件が揃いさえすれば採用されるという良き例である。この背景にはエンジン出力の向上や、 エンジン最大回転数が更に高まったことにより、従来のオイルでは対応できないという問題が発生し、 それを補う必要からリリースされたという背景は理解出来る。

note: 有機モリブデン配合に至るまでの過程 一般消費者は有機モリブデン配合だけで全てを判断してしまい、ベースオイルや他に配合されている成 分には関心を示さない。もっとも関心を示してもどうなるものでもなく解説されたとしても一般的に知 らない成分を言われたとしても、それがどれだけ有効かなど簡単には確かめようがないので意味が無 い。私のような技術屋は有機モリブデン配合に至るまでの開発過程の試行錯誤の時間が一番楽しい時間 となる。目標とする結果が得られてしまえば興味は薄れ、新たなる目標を見つけなければ生きてゆく楽 しみが半減してしまう。誤解しないで欲しいのは結果を無視するという意味ではない、結果は結果とし て出てくるものだから否定もしないし尊重しなければいけないが必ずそこには過程が存在し開発では過 程が重要でノウハウが蓄積できるというのが私の経験から悟ったことである。私も消費者となれば立場 は変わって当たり前だが結果(性能)を重視する。最善の性能を追求している私の性能基準には有機モ リブデンの保有性能は魅力を感じさせない。ただ低価格製品には盛んに使用されている成分である。
Posted at 2012/01/11 07:51:33 | コメント(0) | トラックバック(0) | estremo | クルマ
2012年01月11日 イイね!

藤沢公男の提唱するメンテナンス術~第四章プロ生活43年間で学んだこと~

私が貴重な経験を積むことが出来たのは、自分自身が持つ好奇心旺盛な性格と強運に恵まれた結果 思っている。15 歳(現在で考えると高校1年生)で機械、溶接、塗装、板金、自動車整備の基礎を(学科&実技)を学 び、実際の自動車製造ラインで艤装、最終検査、アライメント調整、ライト光軸調整、雨漏りテスト& 修理、車体製造等を一般社員と一緒に作業をすることにより自然と技術を習得することができた。その 後も修理工場、ディラー勤務(横浜日産モーター)も2年間経験した。

①:SR311フェアレディのU20エンジン・タペット調整中の藤沢
②:中央が藤沢。人で隠されて見えないが車両はセドリック・ストックカー
③:22~23歳頃 SR311
④:携行缶でガソリン給油中の藤沢 富士スピードウェイ・ピット前

日産自動車大森分室では、レース車改造開発、レースエンジン改造開発、日産レーシングスクールス タッフ、レースサービス、ラリーサービス、オプション部品開発&製造、試作車製作と多岐に渡って技 術を磨くことになる。 部署柄、ほとんどの業務が社外秘事項に該当していたので、あまり公に出来ないことばかりであるが、 約30年も経過したので少しだけ公開してみよう。パルサーエクサというクサビ型のFF車が存在した ことを知っている人は少ないと思われるが、あのFFエクサのフロントエンジンをミッドシップ(実際 はRRに近い)にするというプロジェクトが持ち上がり、私に改造が依頼された。私は1枚の設計図も引 かないで1ヶ月ほどでミッドシップ(厳密にはRR車に近い)車を完成させた。トランク部を切開し、エ ンジンブラケット製作、シフトリンケージ製作、アクセルリンケージ製作、冷却系配管など初めてのト ライに熱中し製作を楽しんだ。

クサビ形状のデザインが個性的だったパルサーエクサ。FF方式が出始めた頃。

一番苦労したのがエンジン搭載位置の決定である。ガランと開いたスペースに(ボディチェーンブロッ クで持ち上がっている状態)エンジン、ミション、ドライブシャフト、ストラット、タイヤを取り付け たアッセンブリーを押し込む。ボディの中心線と合わせなければいけないが図面上では中心線が引けて も実物車両の中心線など簡単に解らない。エンジンだって中心線など解らない。タイヤだってストラッ ト上部が固定されて始めて向きが解かるわけだから、ブラブラの状態ではアライメントなど測定不可 能。更にエンジン位置の上下も決定しなければならないことになる。(実際はエンジン重量で車両は沈 み込むことになる)この状態でエンジンブラケットを手作りで製作しなければばらないのでとても難し い作業となる。本来は位置出し治具などを製作して位置決めを実施する。また半年から数年間の開発期 間と莫大な開発資金を必要とする作業なのである。今から考えても奇跡的に思えるほど短期間な製作日 数と最小限の費用(ありあわせの部品を最大限利用した)で製作したので、今考えても実に感慨深い。 エンジンをトランク側に移動したため追いやられたガソリンタンクはフロント側に移設した。もちろん 前後重量配分を考慮すれば必然的な結果で収まる位置だ。 この改造に至るまで色々な経験を重ねて技術を蓄積していたことと、他にも、サニー、チェリー、ブ ルーバード、スカイライン、フェアレデイSR311,セドリックストックカー、フェアレディZ43 2、フェアレディ240ZなどのTS車両の改造及びラリー車の改造なども手がけてきたので、技術的 にはそれほど困難ではなかった。完成した車両で富士スピードウェイの初試験走行のハンドルを、私自 らが握り感激しながら軽くフィーリングと不具合をチェック。テスト走行は星野選手が担当した。その 結果などは当然ながら社外秘であるため公開できないのが残念である。その後、車両はテクニカルセン ターに持ち込まれ、操縦安定性テストが行われたと伝え聞いたのは、だいぶ後になってからのことであ る。

当時、2輪で活躍中の若手選手を3名富士スピードウェイでテストを実施する。 星野選手と本橋選手と2名が合格した。

その後フロントにもエンジンを載せたツインエンジンのテストに発展してゆく。最近ホンダレジェンド が4WD(駆動力四輪自動配分)を世に出してきたが、30年前にツインエンジン×4WD車がテスト 車とはいえ存在した訳だ。一番の課題は前後エンジン回転数の同調であった。当時はまだビスカスカッ プリングも開発されていない時代であったので、前後エンジンのアクセル開度の微妙な違い(エンジン 回転数の違い)を吸収できるのはタイヤのスリップとクラッチのスリップ(オートマ車であれば逃げ場 があったがエクサにはAT設定がなく前後共にMT)しかなかったのでテスト走行を重ねるうちに片側 のエンジンが壊れてしまった。今にして思えば当然とも言える事なのだが、可能性を追求した実験も必 要であり、私は熱中して仕事に没頭していた。(ダートトライアルのモンスター田嶋選手がスズキカル タスのツインエンジンでダートトライアルを戦っていた頃のことである)私が日産市販車の開発ポスト に在籍していたとしたら、4輪駆動配分システムの開発をはるか以前に提案していたかもしれない。
サニーTS1300エンジンを開発してゆくと(当時1300ccで165馬力オーバーの出力を得て いた)インテークバルブ&エキゾーストバルブ直径の大型化は必然であった。最後の熟成はバルブ大型 化による重量増を軽減すべく、チタンバルブの採用に至る。後はインテークバルブ直径とエキゾースバ ルブ直径の組み合わせを1mm単位で変更しバランス(マッチング)を煮詰めることに移行してゆく。 当然ながら最終的にINとEXバルブが大きくできる限界点に到達してしまう。技術的に突き詰めてゆ くと「せめてインテークバルブがもう1本余計にあれば(今や常識の3バルブの発想)良いのに」と到 達する。私が20~21歳の頃だったから30年以上も前になる。日産大森の中で「3バルブ、3バル ブ」と私が叫んでも誰も聞く耳は持たなかった。その頃の日産はご存知のようにS20の名機があり、 LZ系の4バルブレース専用エンジンと4バルブが高性能の決め手といった風潮があった。トヨタ2TGの2バルブツインカムは眼中になかった。それから15年以上経過し、世に3バルブが販売開始され るが、日産は他社に遅れをとって一番最後に世に出してくることになる。レースでは極限性能の領域で 勝負するので、4バルブは大きな意味を持つが一般道路の要求では、3バルブがコスト対性能のバラン スに優れていると今でも思っている。また、カムシャフト作動角を色々とテストしてゆけば誰しもが可 変作動角、可変バルブタイミングが出来ないものかと考えるようになる。後はその考えを実践しようと 動き出す、社内システムが構築されているか否かであり企業体質が大きく影響してくる。また当時の周 辺技術はコンピューター制御技術は開発されていないので、可変バルタイを制御する信頼できる技術は 整っていなかった。
ある時、技術員から近藤真彦のマーチシルエットをモーターショーに出品するから「できるだけオー バーな感じで製作しなさい」とたった一言(信じられないかと思うが本当の話。日産自動車では技術職 が設けられ、指示書に詳細な仕様が書かれた正式な指示書に沿って、現場技術者が実際の作業を実施す るのが正規な方法。後日、1行書かれた簡単な指示書を渡される)の依頼が私に舞い込んだ。いつものよ うに1枚のラフスケッチも設計図も引かずに、製作に取り掛かる。真っ先に何をしたのか・・。フェアレ ディZのファイバー製オーバーフェンダーやサニーTSのオーバーフェンダーを、フェンダーに当てて 使用できないかを調査開始。結果的にはフェアレディZのオーバーフェンダーを左右逆さまに使うこと で、何とか骨格が完成することを見つけ出す。ハンドリベットでオーバーフェンダーを取り付けた上か ら、アルミ板を板金して少しづつフェンダーを製作。段差を板金用パテで盛り付け修正した。リヤース ポイラーは他の車で使用していた物を改造。フロントスポイラーは骨格を角チャンネルで作りアルミ板 を整形しアルゴン溶接で仕上げた。レッカー車の積載を考慮して、ワンタッチ留め金(ズースと呼ぶ特 殊金具)で簡単に脱着できるようにした車である。この技術は私独特の物であったが、16歳の時に、日 産車体で塗装実習を勉強した際の教材からヒントを得ている。この教材は御用済の古いダットサント ラックであったが、塗装をするために下地の鉄板まで裸にすると、小さな鉄板が継ぎ接ぎだらけに(溶 接)製作されていたのである。もちろん曲線部分のフェンダーも含め、全てのボディーが手作りであっ た。溶接、板金の基礎技術も学び、転職した整備工場でも板金屋や塗装屋さんの手伝いで更に技術を磨 いていたので、日産大森でもTS車両改造なども最初からこなせることができ更に腕を磨くことができ た。その腕前を見込まれてのマーチシルエットの話である。手先の器用さは持って生まれた私の長所で あったので当時のレーシングカーのゼッケン番号やドライバー氏名の記入は私の担当であった。






このマーチシルエットは「マッチのマーチ」という宣伝文句で、新車販売の広告に一役かうことになり モータショーにも展示され、現在では記念車となって残っている。金色と黒の組み合わせなので、この 車を見たことがある人は多いと思う。今度遭遇した際には仔細に観察してみて欲しい。この車は単に カッコばかりでなく本当に富士スピードウェイをマッチ(近藤真彦)がドライブしている。エンジンも 改造されTS仕様が搭載されている。この車は、ちょうどマッチがレース活動を開始した時期と重な る。その他、オプション部品開発&組み立て、ラリー&レースサービス(一般ユーザーの修理)、オー テックジャパンではルマン24時間耐久レース用Cカー用VEJ30型エンジン耐久テストをメイン担当 することになりベンチテストを繰り返す毎日であった。フルスロットル(アクセル全開)で4800r pmで30分、次は6800rpmで30分と技術員から指示された回転数と時間にのっとってエンジンを 連続して耐久試験する。絶えず排気温度、油圧、水温、ブースト圧力、ベンチ内のエンジンからの異 音、排気漏れ、オイル漏れ、白煙など監視しながら神経を研ぎ澄まして運転するのである。排気温度は 少し油断するとアッという間に1200℃を超える。 また排気管に亀裂が入ったり、排気温度計が壊れたり、ウエストゲートに問題が発生したりするとエン ジン回転をアイドリングまで落として(できる限り停止しない)修理し再び実験を続けるという過酷な 耐久実験であった。 オーテックジャパン退社後、アタックレーシングを設立。当初は長年の経験を後進の育成に生かそうと 日本で初めて「チューニング&メカニック通信教育」を開始し、約3年間で1000名の受講生が受講 した。現在も私の教材から基礎を学び、独立してショップを経営しているお店が鹿児島県、兵庫県、埼 玉県など何軒か存在している。その後はAE86リビルトミッション、ヘッドチューニング、コンピュ ターチューニング、テクニカルビデオ製作と新しい分野に次々と挑戦する。 この時までは潤滑系である添加剤や高性能オイルだけで自動車が大きく変わる世界があることなど夢に も思わず、コンピュターチューニングに没頭していた。会社を自分で作ったことでサラリーマン時代で は考えられない色々な業者の方と知り合って仲良くなるメリットが生まれた。たまたま小さなオイル メーカーの技術者と仲良くなり、自社ブランドの開発に着手する話が持ち上がる。話をすればするほど オイルのプロは車を熟知しているわけではないことを痛感させられた。いきなりオイルの開発は難しい ので、第一段階はオイル添加剤の開発から始めることにする。オイル開発の技術者とはまったく違うス タンスで添加剤をテストすることができるので新しい発見を重ねてゆく。そんな中で今までの長年の経 験が生かせることを次第に実感してゆくことになる。やがて潤滑性能を大幅に向上させてゆくと今まで 考えられなかった別世界が展開することに驚きの声をあげることになり次第に添加剤とオイルなどの高 次元潤滑の世界に引き付けられ没頭してゆくことになる。今までメカニズムに惹きつけられ、真円度、 テーパー度、クリアランス、締め付けトルク(トルク締め付け法から始まって、角度+締め付けトル ク、ボルト延び測定による締め付け法)だとか、オイル通路拡大、バッフルプレート改造、オイルスト レーナーの向きや高さ&吸い込み位置改造、バルブタイミング追及、圧縮比追及、ポート形状追求など を探求してきたつもりだ。コンピュターチューンも一生懸命取り組んできた。でもこの添加剤開発を きっかけに考えてみれば、そこに深く潤滑が関わっていたことを長年にわたって見逃していたことに気 づき呆然と佇んでいる自分がいた。 コンピューターチューンを知らない人から見れば、ECUは得体の知れないブラック・ボックスでしか ないが、そこにはDATAが存在し、DATAの意味さえ判れば、それを変更することによりエンジン を自由自在にコントロールする(燃料マップ&点火タイミングマップ等、一部のDATAに限定されて しまうが)ことができる。だが、オイルに関しては分析結果で成分の95%が解ったとしても、あまり 意味のない世界。残りの5%に性能が隠されている場合もあるし成分で全てが決定されるわけではな い。お手軽ECUチューンとは違い、オリジナルオイルなどそう簡単に作れるものではないのである。 性能さえ問わなければAとBを混合しABを作ることは簡単に出来るが、現実問題それだけで高性能化 は出来ない。粘度のみを30番と50番を半々に混ぜて40番の粘度を作ることが一番簡単な方法と言え る。沢山のDATAもオイル開発になると何の助けにもならないことが多いが、私の場合は様々な経験 で培えられたノウハウが後押ししてくれる。
考えてみれば解かることだが、メカニズムから潤滑を担当するオイルを入れ忘れて走行すれば、短時間 で焼きついて寿命は終ってしまう。そこを気がつかないで(目を向けないで)長年に渡りメカニズムば かりを追求していた自分に腹が立った。全てのメカニズムは材質、構造、クリアランスというハード部 分、それを制御する部分、ハード部分を保護して作用を円滑にするケミカル部分、この三位一体により 成立する化学製品なのである。それ以降は液体の性能の重大さに目覚め、現在は液体チューニングに心 血を注ぎ、各種潤滑関連製品をリリースするようになった。

日産大森ワークスのチーフドライバー:鈴木誠一選手は私のチューニングの先生でもあった。 誠実・温厚・頭脳明晰な人柄で出張中に一緒にマージャンもした仲であった。

日産大森分室に所属していたドライバーは鈴木誠一(富士GCで風戸選手と一緒に事故死・風戸選手が マスコミの注目を集めるが、実績では鈴木誠一選手が多大な業績を残していると私は思っている)、黒 澤元治、都平健二、長谷見昌弘が所属していた。びっくりしたのは当時はフェアレディSP310,ブ ルーバード310、410の頃であるから、オプション部品などほとんどなかった時代なので、自分た ちがノーマルピストンを卓上ボール盤で穴を開け、軽量化を施したりコンロッドを軽量加工していたこ とである。ノーマルのピストンスカートを弓鋸で切断し、ピストンピンの入る肉厚の厚い所を目検討で ルーターで削り軽量化を図る。チューニング専門書で「コンロッドをピカピカに研磨して応力分散を図 る」と書いてあるが、それはオプション部品が無かったこの頃の話で、ノーマルコンロッドを極限まで 細く軽量化の目的で削っていたことが発祥となっている。極限まで細く削れば折れる確率は高まるの で、弱い一点に応力を集中させない目的でピカピカに磨いていたわけである。 その当時は、レーシングカーのエンジンや車両の改造第一ポイントは軽量化競争であった。ボディーか ら必要でない物は全て取り外す。更にホルソーカッターで大きな穴をたくさん開ける。ボンネットは ファイバー製に交換する。ガラスはアクリル板に交換。もちろん厳密な規則(レギュレーション)に 沿って改造を進める。少しでも違反していれば車両検査で落とされ、出走できないという厳格な規則で あった。だからピストンも出来るだけ軽量化を図る。コンロッドもぎりぎり削って軽量化を図る、とい う時代背景の話が、そのまま現在において常識化してしまっているのである。 その数年後からは強度を高めたオプションコンロッドが発売されるので、コンロッドが強度不足で折れ ることなど考えられず、折れる場合はコンロッドメタル焼き付きが主原因で折れることになる。オプ ション・コンロッドはタフトライド加工(高温の曹で、炭素を表面に浸透させ強度アップを図る加工) を施してあるので磨く必要性は無くなり、重量誤差を修正する目的で微調整のみを実施する。表面は固 い炭素層が形成されているので、できるだけ研磨はしたくない。だから先に磨いて重量合わせを実施し た後で、タフトライド加工を実施する順序が理想的。それから数年後にはNCマシン(DATAをイン プットすると自動的に機械加工を連続して行う)が加工現場に採用された結果、H形状の削り出しコン ロッドの登場となり、コンロッド重量誤差はほとんど無くなり、コンロッド研磨などレース界では過去の話となってゆく。
それなのにチューニング専門書の本を見ると必ず書いてあるので、この辺の事情を理解していないと、 コンロッド研磨に憧れを抱いて実施する。ノーマルコンロッドを研磨して、数グラムの重量合わせを実 施しても何の意味も持っていないことに気づく人は少ない。生産ラインではコンロッド重量を自動測定 し、一定の幅に揃えて組み込まれるように、生産システムが確立されている。自動車メーカーの技術者 はコンロッド重量誤差やピストン重量誤差が性能に与える影響など百も承知なのである。クランクシャ フトにしても、あのAE86の4AGエンジンですら10数個のバランス調整穴が開けられ、調整済な のである。そこに1個か2個、浅い調整穴を開けただけで大幅な性能変化が得られるのであれば、当然 ながらメーカーは最初から開けてくるのは明らかと知るべきだ。チューニングも時代と共に絶えず進歩 してきているのに、実戦経験の無い人の知識では古いノウハウが平気で紹介される。F1を観ていると 解かるように毎年毎年、空力ひとつ取り上げても進歩しているのでいつの時代の話か判らないような チューニングは何の役にも立たないと知るべきだ。もっと言ってしまえば、一戦一戦の戦いの中で絶え ず進化してゆく世界なのである。それなのに古い話に戻って技術論を展開しても何の意味も持っていな い。同じような現象が最近ではインターネットの世界で存在している。例えば発売当初は安定度が低 く、問題も多かった製品が、その後の改良で現在では高い性能を発揮しているのに、インターネットで 検索した結果が発売当初の製品に対してのインプレッションだったとしても、見る側はそこまで深く考 えないで「この製品は安定しておらず問題が多い」と判断してしまう。また記事自体は新しくとも、そ れを記載した人の経験が、発売当初のものだけならば、同様なことが起きる。記事を鵜呑みにせず、そ の信憑性を検証することも大切なことである。

その後も、辻本征一郎、鈴木亜久里、片山右京各選手の車両を担当。この他にも寺西隆利、歳森康師、 柳田春人、高橋健二、桑島正美、田村三男、須田すけひろ、萩原光各選手といったプロ選手のメカニッ クも担当していた。ご存知のように優勝して当たり前の腕の持ち主ばかりであるから、二位になっても 「残念!負けてしまった!」と当時は考えていた。私だけでなくドライバーも他のメカニックも同じ気 持ちだったと思われる。 フォーミュラーカーは排気量やレギュレーションが色々と変更された中で、F3だけは不変のまま、2 000ccエンジンを搭載していた。その代わりとして吸気入り口を小さく絞る規則(リストリクター と呼ばれる吸気制限部品)によってイコールコンデション化を狙っていた。その代償としてエンジン改 造はほとんど自由であり、チューナーの腕の見せ所となっていたので私は自分の持てる技術を試す最高 の舞台であると考えていた。そんな時勢、大森がNISMOに変わり、F3を走らせることになり私が エンジン主担当として参画することになる。F3シャシーにFJ20を搭載し参戦。ドライバーは鈴木 亜久里選手であった。ライバルのトヨタは2TGを途中から軽量型の3SGに変更、最強チームはトム スと戸田レーシングであった。VWは最軽量のエンジンでコックスからの参戦。日産FJ20型はエン ジン単体重量が約125kgもあり3SG(約80kg)より約45kg、VW(約75kg)より約 50kgも重かった。この重量差はレースの世界だと厳しいハンデとなる。(現GT500で50kg のウェイトハンデは最大)初期開発は追浜特殊車両部(後にNISMO社長に就任した難波社長が率い る部署で、サファリラリー車を開発する部署)が行っていたが、鈴鹿ラップタイムで4秒遅かった。4 秒差は走る前から結果が明らかに解かってしまう致命的な性能差であった。しかし、それまで培った技 術を駆使し、その後このハンディを跳ね返すことに成功する。
マカオGPにて 出走前のエンジン暖機中の藤沢と、それを見守る鈴木亜久里選手。

シリンダーブロックをサンダーで一日中削り続けて1日1kgづつ軽量化を図った。全てのボルトは出 来るだけ短くカットしワッシャーは使わない。太いボルトは、中をドリルで穴を開け軽量化を施す。少 ない予算の中で後半はチタンボルトも採用し、1g単位の軽量化を施していった。富士の高速100R だと、リアが重いと後部がアウトに流れてしまう。それを解消するためには必然的にリア・スポイラー をライバルより多めに立てることになる。しかし、1ノッチ=5ミリ立てるとパワーの無いF3では、 ストレートでのエンジン回転数は300~500rpmダウンしてしまう。タイムを短縮するための処 置がストレートでのタイムを悪化させてしまう致命的問題を抱えていた。だが、5kgのエンジン軽量 化が効を奏して100Rでアクセルを全開で踏めるようになり、タイムも0.5秒短縮された。成績も 比例するようにアップし、結果はトータル4回の優勝を飾ることができた。(もちろん、これは鈴木亜 久里選手のテクニック、シャシーセッティングを請け負ったベテランメカニックの功績でもある)残り の2戦を残す時点でポイントリーダーとなり、マカオGPに招待される。F1ドライバーへの登竜門と して有名なサーキットだ。市街地という悪条件とヨーロッパ・トップクラスの車両とドライバーが参戦 するマカオGPは、車両とエンジンのポテンシャルが非常に重要であり、歴然たるレベルの差を見せ付 けられた。それを一番に感じたのは予選後の車両重量測定。ロールバーにフックを掛け、クレーンで持 ち上げる。ワイヤーの途中に重量計をはさんで測定する原始的方式である。理想的重量配分は50:5 0なので多くのヨーロッパ参加車両は地面と平行に最初から浮かび上がってゆく。我が鈴木亜久里F3 車は(ある程度予測できていたが・・・)まずフロント側からゆっくりと持ち上がり、重いエンジン側 は一向に地面から離れない。最終的には約45~50度傾斜した所でようやく全体が浮き上がった。我 ながらこれでよく戦っていると妙な感慨が湧き上がってきたことを今でも鮮明に覚えている。ライバル チームやオフィシャルなどのレース関係者からも「よくこんな車でレースを戦っているな」と思わず驚 嘆の吐息が洩れていた。この結果を見て、どんな過酷な状況下においてもそれをクリアしようという熱 意が結果に繋がり、またそれに自分が組することが出来たことにより、私自身の体の中にそれまでは感 じることのできなかった大きな自信が確実に育っていることを強く感じ取ることが出来た。

4ー1:沢山の優秀な仲間から吸収して成長できたこと
人間一人の力でも、その力が100%発揮された際には、驚かされるような働きを発揮する。でも時 と場合によっては反対に、一人では何も出来ない無力さを痛感させられるときもある。特に災害時など であれば殊更である。日産車体では講師は現場の技術職の人たちで入れ替わりで教えてくれた。その 後、転職した整備工場も10人ほどのスタッフがいたが、個性の強いベテラン整備士の技術を盗んで成 長できた。板金屋も東京から流れてきた人で優秀な技術を持っていた。昔の腕の良い板金屋は、ドアの 板金でもパテはほとんど使わない(下手な人は沢山使っていたが)で、試作車の製作と同じで鉄板を整 形して切り貼りしていた。鉄板の凹んだところを叩けば伸びて歪が出て変形してしまう。鉄板を溶接す れば高温で同様に凸凹になってしまう。これを防止するために欠かせない作業が歪取り作業で、アセチ レンバーナーで歪の集中する1点を選んで10円玉ほどの大きさに真っ赤に熱する。板金ハンバーで周囲を 叩いて、伸びた歪を赤い1点に集める。その後に水で濡らしたウエスで冷却して歪を吸収する。この作 業を何十回、何百回と行いながら歪を取ってゆく。1回の歪取り作業を言葉で説明すると長くなるが、実 際は短時間に行わないと熱した意味がない。時には数百箇所にこの作業を行う。どこにどのくらいの歪 がたまっていて、どのくらいの大きさで幾つやるのかは経験で身につけるしかない高等技術となる。こ んな難しい匠の技術はどんなに化学が発達してもロボットマシンでもコンピューター解析(デジタル 化)でも安易には達成できないだろう。指先でさぐって鉄板の凸凹やゆがみ具合を探り当てるのも、経 験で身につけた匠の技となる。現場作業を一度も経験していない世代は、デジタル化で全てが解析でき ると思い込んでいる。次第に職人の生き残る現場が減少しているが、一度失われた匠の技は今後二度と復活することは難しい。言わば絶滅危惧種と同じ意味合いを持っている。言わば絶滅危惧種と同じ意味合いを持っている。化学の進歩で得るものも多い が、失う物も多いと痛感させられることは多い。

第三回日本グランプリ 出走前のパドックに待機中のSR310フェアレディと藤沢。 34番のゼッケンは藤沢が記入した。 当時のワークスカーのゼッケンと選手名は、ほとんどが私が記入してい た。

日産大森に入社すると、当時のチューニング創世記を模索していたメンバーが集まっていた。鈴木誠一 選手は有名な東名自動車(現在は弟の鈴木修二氏が代表)を経営しながら、日産大森ワークスドライ バーのチーフドライバーであった。富士GCレースで破竹の連勝を成し遂げた、高原選手のチーフメカ ニックは大森に在籍していて、その後退職した人が担当していた。そのとき、日産社内や社外から総勢 14名が集められ、日産大森分室(ニッサン大森ファクトリー)が誕生するのである。今から当時を振 りかって考えると優秀な仲間に刺激を受け、自然と仲間の技術を吸収し自分自身がレベルアップ出来た と感謝している。人によって発想が異なるので一緒に仕事をしていると「エッ、そんな方法もあったの か?」自然と勉強できてしまう。レースは共同作業が多いので、軍隊の規律のように一糸乱れぬ素早い 判断力と行動力が常に要求される。そこで言えることは技術的な部分は、外から見える部分と隠された 部分と2面があり、内部的部分は実際にそこに在籍し、経験しないと何も解らないということが言えると 思う。 たとえば、今まで溶接の経験がない人が溶接を依頼されたとしたら、本屋さんを探し回って専門書を沢 山購入して勉強するか、NET検索で情報を収集して作業に挑むだろう。だが最初から綺麗な溶接など できるわけはない。何事も経験しながら身につけてゆくものが技術力という見えない技術なのである。 経験を積まないと見えてこない世界は、経験を持たない人から見れば、幽霊と一緒で見えないことばか りで信じられないことになる。溶接ひとつでも材質により溶接方法は異なってくる。一般的な鉄材であ ればアセチレン溶接や電気溶接、CO2溶接などの方法が用いられるが、溶接方法により使い分けが必 要となってくる。材質がアルミニュームに変われば、アルゴンガスを用いたアルゴン溶接でなければで きない。溶接でも初心者向きなのがCO2溶接と電気溶接、次がアセチレン溶接で、一番難しいのがア ルゴン溶接の順と言えよう。TSサニーのフロントスポイラーは、初期段階ではグラスファイバーが用 いられていたが、空力部品は形状や大きさ変更による性能差がダイレクトにラップタイムに影響を与え るため、形状&サイズ変更を実施して性能を追及したい部品である。しかしファイバーだと一度型を起 こして製作する工程なので、量産品には向くが性能追及するワンオフ部品には不向きである。そこでア ルミ板を加工・溶接してワンオフで製作することになる。私もそれまでアセチレン溶接などの経験が あったが、アルゴン溶接は非常に難しかった。息を止めて溶接するわけだが溶接棒の溶ける早さが早い ので、右手の人差し指と親指で自動送りで溶接棒を送り込まないといけない。途中で溶接を停止してし まえば、そこが継ぎ目となって連続した綺麗なビートが乱される。また溶接棒ひとつを取り上げても市 販品では好みの太さが選択できなかったり、同じように見えるアルミニューム板でも成分の配合により 種類があるので、同じ材質の板を切断して好みの溶接棒を自作するように技術レベルはアップしてゆ く。更にアルミニュームは熱変化に敏感で熱しやすくさめやすい性質をもつため、溶接開始直後の溶け 出しは少なくても溶接が進むにつれて溶け込み量(溶接ビート幅)が大きくなる。そのため、溶接ス ピードも最初はゆっくりで次第に早くなってしまうが結果として溶接ビートに結果が現れてしまう。 ビートを均一に仕上げることはごまかしようがないので至難の技となる。溶接作業に入る前の設計初期 段階で、どこをどのように溶接するか、板厚は何ミリにするかといったノウハウも高度に要求される。 例えば90度で2枚の板を溶接する場合、普通に両端を合わせて溶接しようとしたらアルゴン溶接では至 難の業となってしまう。そこで片側の板の端を数ミリ90度に折り曲げておき、板の切断面と切断面を合 わせておき、それを溶接棒を使用しないで溶かしこんで溶接すると、簡単に綺麗な溶接が出来て中味が 漏れやすいガソリンでも漏れが少なく信頼性が向上する。このようにまだまだ書ききれないノウハウを たくさん必要とする作業なのである。困難であればあるほど、腕に自信のある人達は競いあって(暗黙 の内に)自然と自分たちの技術力を高めていくことに繋がっていった。当時の大森ワークスの戦跡を改 めて振り返ってみると、目を見張るほどの素晴らしい結果をたくさん残していることに気づく。このよ うに実際の開発現場の最先端に自分をいつも置いて生きてきた。それはケミカル開発に心血を注いでい る現在でも変わらぬスタンスのままである。

4ー2:トラブルの裏には複数の原因が隠れている
自動車の故障と人間の病気とよく似ているという話をした。人間の病気もその人の日常生活、食生 活、遺伝など、沢山の要素が複雑に連携しあい、複合で引き起こされる結果と言える。これを自動車に 当てはめて考えると・・・
A 日常生活=使用条件
B 食生活=ガソリン(オイル&メンテナンス)
C 遺伝=設計
新車で壊れた場合はC:設計的要因が大半で、後は購入者の誤った使用方法が原因となることが多い。これが中古車になると様相は一変する。ピンときた人もいるようにA+B=結果 図式となるように、 Aの使用条件とBのガソリン(オイル&メンテナンス)によって大きな格差が生じてくる。「ノーマル 車を改造=壊れやすくなる」と思われがちだが、改造と一言で言っても「良い改造」と「悪い改造」と 大きく二つに分けられる。確かに耐久性を悪化させる「悪い改造」を施せば壊れやすくなるが、私が提 案している改造は、耐久性も向上し排気ガスも低減できる進歩的改造術である。 5万km、10万km、15万kmと走行距離が増大するほど、故障した際の真の原因追及は難解とな る。なぜならどんなに高性能化を図っても、磨耗損傷をゼロには出来ないからである。また部品の材質 によっては、経年劣化&変化が避けられない材質も使用されている。オイル交換によってスラッジを含 め汚れを外部に排出することになるが、長期間にわたれば人間の歯に蓄積する歯石と同様、汚れ蓄積は 避けられない。エンジン部品も毎分、数千回という爆発力が加わっているので、金属疲労が発生し、応 力の集中した弱い部分から亀裂が生じたりする。またバルブフェースとバルブシート当り面は、昔はガ ソリンに添加された鉛で潤滑されていたが、法改正で鉛の使用が禁止されると、ガソリンが無鉛になっ たため、長期間使用での磨耗は避けられなくなった。これらの複数要因が作用し、バルブ当り面からの 圧縮漏れ、ピストンリングとシリンダー当り面からの圧縮漏れが進行してゆく。加えて燃料噴射装置の エアフローセンサーの汚れや磨耗、インジェクターの噴霧状態の悪化など完全燃焼に影響を与える部品 の劣化が進行してゆくことになる。 私の勧める、アーシング、トルマリン、コンデンサーチューン、各種添加剤および高性能オイルの使用 などは、不完全燃焼に起因するスラッジや燃料希釈発生を抑制する働きを持つので、「正の連鎖」で好 調子を長期間維持する補助アイテムとなる。 また、誤認されるトラブルの原因として次のような例がある。例えば8万km走行したATの変速 ショックが気になったのでATFに添加剤を添加して様子をみていたら1週間後に走行不能となった。 この場合の原因は最後に添加した添加剤に疑惑の目が向けられる。確かに最後に試した物が一番怪しい と疑うのが自然であるが、それ以外にもトラブル発生のトリガーなった部分を考察して欲しい。
確認事項 考察 メンテナンス記録が残されているか? ATF交換の実施状況が判る ATF交換は何kmで実施されてきた か? ATF銘柄は? 粘度・特性等が判る その人の運転方法は正しいのか? 信号の度にNや1・2に入れるような運転はATに負担が掛 かる その車種の平均的AT寿命は? 車種によりATの設計が違うため寿命は車種ごとに違う その車種に多発しているトラブル傾向 は? 特定車種には特定のトラブルが発生する 添加剤を使用する前の状態は? もともと異常があったのか? 添加剤の市場での評価は? 効能は広告であり、実際の効果とは限らない これらを総合的に判断して初めて解明できてくるものである。ここで走行不能になった一番の要因と思 われるのは添加剤の投入以前に、走行距離8万kmということである。AT寿命は80%、場合によっ ては99%使い果たしていたと考えたほうが自然だと思う。しかし、考察をしなければ「昨日までは正 常に動いていたから添加剤が悪い」と思うだろう。同様に車検を終わった車が車検後すぐにパンクする と「車検を受けたのに壊れた。無料で直せ!」という例も同じである。「最後に○○した」という事実 があるだけで犯人に仕立て上げられることになる。前出のATの例だと、既に走行距離8万kmは1% も考慮されないで判断されるのである。壊れるまでの1週間と、それまで使用していた8万kmの歳月 の違いを少し考えれば誰でも解ることと思うのだが、通常は簡単に無視されてしまう傾向を示す。 添加剤がトリガーとなった可能性: 余談ではあるが、走行不能になった原因に、添加剤を投入したことも要因である可能性は数%と低い確 率で考えられる。但しこの場合は、添加剤が悪さをしたのではなく、添加剤が有効に作用したから起き たのである。既に8万キロを走行し、またATFの交換が全く実施されていなければ、ATの中にはス ラッジ等の老廃物が蓄積されている。この老廃物を添加剤が洗浄作用によって剥ぎ取った場合、いきな り老廃物がATFの流動経路を塞いでしまう場合も数%と低い確率であるが発生しても不思議ではな い。前出の通り、既に8万キロを走行し、寿命は尽きようとしていたのは事実だが、いきなり走行不能 になったのにはそんな可能性もあるのだ。 だが、だがらといって添加剤の使用はNGというのは早計である。改善された80%の喜ぶ人がいて、 変わらない18%の人、トラブルの発生した2%の人の比率を考慮しなければならない。2%のトラブ ルを恐れていては80%の良き改善を傍受することはできない。だからこそ手遅れにならないうちの早 目の使用を推奨するわけである。 もっと早くATFが交換されていたら・・・・もっと早く添加剤が投入されていれば・・・・きっとス ラッジの発生は低減されており、8万キロを超えて性能を発揮していただろう。つまり一番の原因は ユーザーの管理方法に問題があったのだ。それを使用した製品に全責任を転換することは的を得ていない。
どんな製品にも、設計的な不具合や限度を超えた磨耗損傷を補え切れない限界線は必ず存在する。 「添加剤は、どこまでの不具合が完治可能かを明記すべきである」と唱える人を見受けるが、これは作 用される部品側の限界点が明確にならない以上明記は不可能である。医者が病気になった人の残り寿命 の予測は可能だが、どこまで回復出来るかの判断は難しいという話と似ている。人間の病気ならCTス キャンやレントゲンなどを用いて、内部の進行具合を目でみることが可能であるが、自動車で圧縮圧力 を測定したり、シリンダー磨耗損傷をファイバースコープ内視鏡で見ることが出来ても、メタル損傷具 合やAT湿式多板クラッチ面の磨耗損傷具合は、分解点検してみないことには解かりはしないのだ。必 ずどこかに限界点が存在するように、100%の改善は無理でも、製品Aの故障改善能力が20%、製 品Bの故障改善能力が50%、製品Cの故障改善能力が90%とするならば、A&B製品で改善できな くてもC製品なら改善できる可能性が残されている。但し、C製品を使用した人が改善できない10% になってしまうのか改善される90%に該当するかは実施してみる他に調べる方法はない。従って出来 るだけ改善能力の高い製品を見つけ出し、状況が悪化する前にテストするのが確実な方法となる。 日ごろからメカに興味がない人ほど、トラブルの症状が悪くなってから相談してくる。健康管理と同 じで「症状が軽いうちに対処して欲しい」と願わずにはいられない。対応が早ければ内部損傷は少なく て済むので、修理を望まない人ほど早めの対処と改善能力の高い対策製品(添加剤)の使用が強く望ま れる。 マニュアルミッションのギヤ入りが悪くて、シフトチェンジのたびに「ガッン」と大きな音を発生さ せていると内部のシンクロや、カップリング、ギヤ側面の噛みこむ部分が削れてゆく。新品の時は噛み こみ部分はヤリの穂先のような鋭いV字形状をしているので、V字とV字はスンナリ噛みこむ(正常な 状態)。それが何らかの阻害要因によってギヤ入りが悪い車は「ガリッ、ガリッ、」と先端が削られて ゆき、次第にV字形状はU字形状に磨耗してしまう。すると最終的にはU字とU字の先端が合致するた め、まったくシフトが入らない現象がときどき現れる。この反対に、スンナリ気持ちよくシフトチェン ジができる車は、それ以上の走行を経ても、毎シフトでの磨耗が少ないので、消耗は最小限に抑制され る。つまり機能が正常に行われていると、メカニズムはいつまでも元気が続き、へたりが少ないことに なる。

4ー3:最終到達点は液体性能の重要性に着目
昔のレーシングカー(1960年代)で使用していたオイルは、シェルのシングルグレードX-100, #40のみであった。このオイルでTSサニーで8500rpmをまかなっていた。プリンス自動車と 合併して解かったことは、スカイラインGT-Rのエンジンとミッション、デフオイルは当然のごとく 日産とは違ったオイル銘柄が使用されていた。プリンス関係者のメカニックは「このオイルでないとだ め」と言いきっていたが、その頃はシェルX-100 40番を使用しても壊れないで結果を出すことだけに集 中していたので、オイル性能の違いなど眼中にはなかったし、潤滑性能の違いが結果に影響するのは焼 きついて壊れることだけと想像していた。潤滑を司る液体性能の重要性に気がつき、開発を始めたのは 1990年。考えてみれば30年間の歳月を無駄に過ごしてきたことになる。

TS サニー110 和田孝夫選手の車両も見える

自動車メカニズムには多くのケミカル(液体)が重要な役割を担って充填されている。
1:エンジン=エンジンオイル
2:AT=ATF CVT=CVTF
3:MT=ミッションオイル
4:パワステ=パワステフルード
5:デフ=デフオイル
6:エアコン=エアコン用オイル
7:ブレーキ=ブレーキフルード
8:ラジエター=LLC
9:バッテリー=バッテリー液
10:その他AYCやトランスファー等

メカニズムは、このように実に様々なケミカルが充填されて初めて機能するように設計されている。ま ず一般的に考えることは・・・
1:レベルは適切であるか点検する。
2:汚れたり劣化していないかを確認し、交換時期を検討する。
3:交換する際に、どこの製品を使用するか検討する。

自動車愛好家の関心時は、「少しでも車両の性能をアップしたいしたい」という事。その目的は各個人 で異なってくる。
1:少しでも燃費向上を図りたい人。
2:少しでも走りのポテンシャルを向上したい人。
3:マニュアルミッションのギヤ入りの渋さなどの欠点を改善したい人。
4:自動車の耐久性を高め、長期間にわたり使用したいと考える人。

しかしながら、現実的には「予算内で・・・」でと注釈が付く。従って、どんなに高性能な製品が存在 しようとも、価格的に手が届かなければ、それを理由に使用する機会は永遠に訪れない。結果として、 液体の性能により車両のポテンシャルを高めることが出来ることに、気が付かないで終わってしまうの である。実際、車両の販売・修理・再販に携わる人や、潤滑製品を最も多く販売するGS・用品店などで も同様である。それはハイ・ポテンシャルな製品を実際に経験してみて初めて解ることであり、どんな に人から話を聞かされたとしても、にわかには信じられない世界だからである。現に、私自身、この事 実に直面するまでは信じていなかったし、逆にその事実に直面したからこそ、添加剤やオイルをチュー ニングの要として考えるようになったのである。確かにメカチューンに於いてもコンピュターチューニ ングでも車の走りを変えることは出来た。だがケミカルによる性能アップは、単純に速さだけを向上さ せるのではなく、走りの味そのもものまで別物に変えてしまう。この「走りの味」という表現は抽象的 だが、具体的には、車両が自分の「意図通りに反応してくれる結果から得られる爽快感」と考えてもら えればよいと思う。シフトチェンジの度にシフトに気を使ったり、踏み込んでもリニアに追従しないエ ンジンではこの爽快感は得られない。人馬一体の如く、「人車一体」となり、「車両」であることを意 識しない走行感覚である。多くのメカニズムは潤滑性能を高めてゆけば、更に高い性能が引き出せるこ とが解ってきた。タイトルでは「液体性能の重要性」と謳っているが、単純な潤滑性能向上だけでなく 「摩擦と滑り」という相反する要素が、相乗的に作用を齎すということ。それはオイルの潤滑性能が、 燃焼の高効率を促し、結果として振動やトルク、馬力、レスポンスなどに良い影響を与えるだけでな く、全く液体として繋がっていない「ミッションの入り」にさえも深く関与していることでも判る。当 然、メカニズムの寿命にも大きく影響している。(これらの詳しい解説は他の項目で詳しく述べる) エンジン内部の構造が理解できてくれば、そこから「エンジンはオイルによって保護されて性能を発揮 している」ということが理解出来てくる。その場合、次のステップとして「保護性能を高め自動車の耐 久性を高める」に到達し、最終的に「オイル性能によってエンジン性能も耐久性も大きく左右される」 という結論に到達する。だが実際にはその上のステップも存在する。しかしながら残念なことに、それ をここで私がいくら語っても理解することは出来ないだろう。「百聞は一見にしかず」と言うが、これ ばかりは実際に自分で経験しなければ、永遠に私の話が玉虫色にしか見えないからである。 ブレーキフルードに関しても同様で、液体性能がブレーキ自体に重要な役割を果たす。サーキット走行 を行う人なら経験がある筈だが、ブレーキフルードを沸点の高いDOT4とかDOT5に交換する。す ると対温度特性は優れるのだが持続性が低くなる。つまり、「フルードを交換するとブレーキが変わ る」という結果の先に「フルードを改良すればブレーキが変わる」という発想に到達できることにな る。こうして[ブレーキフルード添加剤]という発想が生まれた。ブレーキフルードの場合は潤滑ではなく 「圧力を効率良く伝達する」性能が重要となるが「液体性能」を高めることによりパフォーマンスが向 上することには変わりない。 時代が進むにつれ「常識めいた迷信」を唱える人も減少傾向にある。自分の常識だけで判断し、最初か ら試行することを否定していれば、永遠にその存在さえ気がつかない。20年前30年前の私自身がそ うであったと同じように・・。

第五章
Posted at 2012/01/11 05:07:44 | コメント(0) | トラックバック(0) | estremo | クルマ
2012年01月11日 イイね!

藤沢公男の提唱するメンテナンス術~第三章純正仕様が本当に一番理想的なのか?~

チューンナップを相談してくる人に私は口癖のように「純正仕様も悪くないよ。だって自動車メーカーが莫大な開発費用を掛け、優秀な技術集団が専門的見地から、妥協点を見つけ世に出してきた仕様なのだから」とアドバイスする。これはこれで正解な部分と不正確な部分とを含んでいる。運転技術が未熟だったり、自動車を下駄がわりに考えたり、ごく普通の使い方をしていたり、メカ音痴で車に対して興味が無かったりする人には正解である。反対に愛車の欠点が解る人、運転技術が高い人、もっと快適な車生活を送りたいと考える人、大事な愛車を長期間維持しようと考える人、車に対する知識が高い人、普通よりレベルの高い走りを望む人、モータースポーツなど特別な使い方をする人には不正解となる。ノーマル仕様は一般的な人の一般的使用をターゲットとして開発されてくる。もちろん多少の過激な使用条件は当然ながらテスト項目として考慮される。それでも乗り心地と操縦安定性とは相反する永遠の解決すべきテーマなので、どこかに妥協点を見出し発売されてくる。新型車が発売されて、大部分は大好評なのに乗り心地が評判が悪いとなれば、マイナーチェンジで改善される。だったら最初からマ イナーチェンジ後の仕様をなぜ出してこないのか?といった疑問が出てくる。メーカーによって事情は様々であると思うが、それが車開発の難しさで開発期間との折り合いと言える。またコンピューター解析がどんなに進歩しようが、最終仕様を決定するのはコンピューターではなく、人間の判断であり、市場の評価なのである。

3ー1:普通の走りで普通の耐久性を望む
チューンナップに興味を持たない人には、チューニングの為に大金を掛ける人の考え方を多くの人は 理解できていないに違いない。逆に「なんで純正ではいけないの?」中には「純正が一番」と平気で意 見を言う。コーヒーの宣伝文句とは反対に「違いの解らない人は何でも一緒」と大きな勘違いをしてい る。自動車と彼女が近いと感じるのは、初デートしただけでは数%しか解らないところ。だからディー ラーで試乗車に乗った時のインプレッションと、自分の車として1年間使用してみてのインプレッション では、まるで別な結果になっても何ら不思議でない。それだけ自動車評価の奥は深いのである。一見非 の打ち所のない新型車でも、愛車として長年使用していると、次第に欠点が見えてくる。だが、初めて 車を購入した人であれば比較対照がないので何も感じず、自分なりに満足していれば「最高の車」と喜 んでいても不思議ではない。それが乗車定員一杯に人を乗せ急勾配を登ると、今まで感じなかったパ ワー不足を感じたり、エアコンをONした途端に出足の加速に不満を抱いたり、ワインディングをハイ ペースで走行したら操縦安定性に不満を感じたり、大雪が降った途端にワイパーの作動範囲に不満を抱 いたりと、次第に欠点が浮かび上がって気になってくる。だから自動車雑誌の試乗記事を読んでも、参 考にはなるだろうが、それは自分が感じるであろうインプレッションとは異なるし、実際に乗ってみな いと解からない部分も多い。 エンジンオイルやミションオイルの性能についても同様なことが言える。最近の新型車は省資源・省燃 費コンセプトを追求しており、低粘度化が推進され5W-20や0W-20のような柔らかいオイル粘 度が純正採用されている。確かに低粘度タイプでは、フリクションが低下することにより燃費アップが 図れる。私もこの手の低粘度指定の新型車を購入したが、街中では特に問題を感じなかった。しかし、 自分のテストコースでもある箱根の登坂では、エンジンは悲鳴に似た凄まじいメカニカルノイズを発す ることに驚かされた。それこそ10万km以上使い込み、相当劣化したエンジンから発生するメカニカル ノイズと非常に似た音質と音量なのだ。メカニカルノイズの大小は、そのまま潤滑能力レベルを色濃く 反映しているので、ダメージ蓄積が懸念された。粘度が柔らかければ、当然ながら油膜は薄くなり保護 性能が低下してゆく。このように使用条件でオイル粘度要求はガラリと変化し、それをドライバー自身 がそれらを察知し、粘度選択を適正化しなければ、使用を続ける中で問題や故障は発生するだろう。悲 しいことにノーマル(純正)が一番と信じこんでいる人は、そこまでの知識を持たないか一般的な使用 条件のどちらかであろう。レースは使用条件が厳しいから、特別なオイルを使用することは誰でも理解 しやすいが、一般市街地でも、ある領域を超える条件が発生するケースに陥ると、タイヤもオイルも途 端に純正レベルではキヤパシティ不足に陥ってしまう。柔らかい粘度のオイルも設計ポイントの項目で 話をした「鈍感設計」の正反対であり、ひとたび限界点を超えた場合のダメージはより大きくなってし まう。それよりもオイルや新型車の開発者達も実験室での評価ではなく、実際の走行、しいて言えば箱 根の上り下りなどのようにストレスが発生する環境で、長時間試乗テストを繰り返すべきである。(秘 密保持の観点からテストコース内に限定されてしまうが・・・)普通より少しハイレベルな走行条件に 追い込まれた場合や、オイル交換に無関心の人が交換サイクルを無視し(つい忘れたりして)た際には トラブルに見舞われる頻度が高まる訳である。メーカー側から分析すれば、指定交換時期を無視した側 の落ち度であると判断するが、キャパシティに余裕のある設計をしていれば、万が一の際にもその余裕 範囲がカバーしてくれるので、ユーザーのメンタルな面への負担軽減に繋がっている。 0W-20や5W-20などの超低粘度なオイルになればなるほどに保護性能を分担する潤滑レベルの 差が大きく性能や耐久性にダイレクトで影響してくる。これは10W-50などの油膜の厚いオイルと は比較にならない特性である。油膜が厚ければ多少性能が低くても余裕分は大きくなるので大きな問題 となりにくい。

アクセルの踏み方ひとつでも、その人の性格が色濃く反映され、ゆっくり優しく触るように加速させる 人、反対に一気にガッと踏み込む人、一度踏み込んでからアクセルを少し離す人など、実に様々であ る。幾度となく書いてきているように全ての走行条件は千差万別なので、当然ながらノーマルで充分な 人が存在する反面、ノーマルでは満足出来ないと感じる人も出てくる。 レースにおいてはアクセルをあまり踏まない(パーシャル域)走り方はしない。アクセルを大幅に踏み 込んでいる時間がほとんどである。一般市街地は渋滞のノロノロ運転に代表されるように、時速10k m以下での低速運転を強いられたり、真夏の炎天下で渋滞にはまり、エアコン全開で停車しているケー スも多い。これはこれでエンジンもエンジンオイルも、そしてエアコンコンプレッサーにも過酷な条件 なのである。しかしそのダメージはドライバーには一切見えてこない。そして内部にダメージは蓄積さ れてゆくことになる。なぜなら走行することでラジエターコアに外気温の走行風は通過し、エンジン ルーム内の熱気も排出される。エンジンオイルの役割は摩擦部分と燃焼室の両方の「冷却作用」を担っ ている。冷却はエンジン本体から放出される冷却よりも、ラジエターコアを通過して放熱される冷却作 用が重要となってくる。渋滞が長時間続けば、エンジンルームにこもる熱は蓄積され次第に上昇を始め る。近年地球温暖化により、世界中の最高気温が塗り替えられているが、ここでもメーカーが温暖化に よる温度上昇分までをも設計許容限度に盛り込んでいるかが気になるところである。限界値の低い設計 だとトラブルに結びつくが、限界値が高ければ多少の上昇には影響されない。更に、ここで純正より潤 滑性能が高いオイルを使用中であれば、摩擦熱発生は軽減できるので何事も起こらない。レースでも一 般車でも最後は人間の経験と考え方が大きな違いとなって現れてくる。

3ー2:車の技術は日進月歩で進んでいるが・・・
昨今の最先端技術の進歩には目を見張るものがある。私は20代後半の時、8mmフイルム撮影機を購 入して子供たちを撮影していた。音声記録はされないタイプだった。その後、音声録音できる新型機の 購入をためらっていると、繰り返し録画や再生ができる磁気テープ記録の「ビデオカメラ」が発売さ れ、思わず購入してしまった。(カメラとレコーダーは別体。カメラとの総重量は10kg近くあった ように記憶している。)それがその後は、あれよという間に小さくなり始め、いつ購入したら良いのか 迷ってしまう程であった。テープも当初のVHSフルサイズからミニサイズ、そして8mmを経てデジ タル時代へと突入した。そして今やマイクロドライブ記録の時代。サイズもティーカップサイズにまで 小さくなった。だが大きさは小さくなっても、映像の美しさは初期のビデオカメラとは比較にならない ほど美しくなった。 同様に、新しい技術投入によって、基本設計は現行エンジンのままでも公害を出さない車が燃料を見直 すことにより解決するかもしれない。その第一候補が水素ガスであり、私がニスモに在籍している頃か ら、ある大学が水素ガスを燃料とする自動車の開発を行っていた。 しかし、これが趣味の領域の話だと理論値だけではつまらなくなる。現在のレシプロエンジンの燃焼具 合は完全燃焼ではなく、まだまだ100%完全燃焼に向かって改善の余地が多く残されている。だか ら、アーシング、トルマリン、SEVなどといった、燃焼改善アイテムが製品化されるのである。逆に 言えば、メーカーが100%完全燃焼を確立してしまったら、エンジンに関するチューニングアイテム のほとんどは意味をもたなくなってしまう。それはそれでつまらない世界かもしれない。

3ー3:なぜ超高性能オイルは純正採用されないのか?
自動車メーカーの開発は純正指定オイル(年々規格は新グレードが追加されてくる)を元に開発が行 われる。よほどの高性能バージョン(新型高性能エンジン)でなければ純正オイル性能を変更しような どといった発想は浮かばない。ディーラーではオイルをサービス品として利用することも多いが、開発 においての重要課題はコスト低減であり、オイル性能アップはそのままコストアップに直結してしま う。大衆車と高級車、ターボ有り無しでもオイル要求性能は異なってくるので、純正オイルとは言って も車種や使用目的に合わせ、数種類が選択できるように考慮されている。オイルにこだわる人は少し高 くても良いオイルを選択するが、そうでない人は価格が少しでも安ければOKと正反対に分かれる。 「潤滑レベル対価格」とのコストパフォーマンスなど、考えたこともないというのが一般の大多数だろ う。どんな場面でも共通して言えることは中途半端な知識の人と、頑固で人の話を受け入れない人が一 番始末が悪い。かえって何も知らなくても素直に受け入れてくれる人には難しい話でも伝わりやすい。 確かに「振り込め詐欺」に代表されるように簡単に信じてはいけない世の中であるから、自己防衛力が 働き危険を回避することも大事なことではあるのだが・・。 オイル性能を向上することにより「車両の耐用年数」が向上する。(後の項で詳しく解説する)資本主 義経済は消費文化に支えられ、発展するよう宿命づけられているので、耐用年数が過度に長くなること を歓迎していない。嘘か本当かは定かでないが市場では「○○○○タイマー」(○○○○は某家電メー カー名)という言葉が聞かれるように、ある一定の期間で故障することが企業戦略として盛り込まれて いても不思議ではない。短すぎる耐用年数ではクレームが増加し、商品イメージやメーカーイメージが 悪くなる。逆に耐用年数が長過ぎれば「買い替え需要」は生まれてこない。従って販売価格と耐用年数 とのバランスはある意味重要であると言える。 そうは言っても省燃費やリサイクルに代表される対環境性能への要求と、更なるエンジンを含む車両性 能の向上も望まれるので、それに対応した純正エンジンオイルの性能特性も僅かづつではあるが変化・ 向上が図られていることになる。 これ以外にも、あらゆることを総合的に検討することになる。自動車メーカーに要求されることは一般 の人の予想とは少し異なる場合も多い。経済的に恵まれていない国の車事情を少し深く考えれば解るこ とだが、性能の悪いオイルしか手に入らず修理しながら車を長年使用する国や地域が多く存在してい る。性能的に優れるオイルはコスト的にどうしても高価格になってしまうので良いオイルと判っても使 う余裕などはないし簡単に入手できまい。従って純正オイルより性能の落ちる粗悪品でも問題が発生し ない「余裕度設計」が要求されることになる。このようにオイルに限らず製品開発においては「性能に 優れるから純正採用する」と言うような単純な開発では無いことが理解できてくる。

第四章


Posted at 2012/01/11 03:13:32 | コメント(0) | トラックバック(0) | estremo | クルマ
2012年01月10日 イイね!

藤沢公男の提唱するメンテナンス術~第二章潤滑性能と耐久性相関関係を考察する~

人間に限らず、地球上で生命活動を営んでいる大小様々な生命体は寿命の長い短いという違いがある にせよ、どこかでその生命活動を停止する。また、人間が作りだした建築物、機械、自動車も全てに寿 命があるという話をしてきた。寿命が尽きるのは消耗限度に到達するからであり、例えばタイヤなどは 走行距離増大で磨耗し、スリップマークが表れ寿命が尽きることはメカニズムに弱い人でも容易に理解 できる筈だ。このように自動車はゴム製品、アルミニューム合金、鉄、鋳物、合成樹脂、ビニール、 カーボン、皮等、その時代の化学製品が反映され、色々な材質を組み合わせで部品が製造される。それ らの部品が数10万点も組み合わされて製造される。部品の寿命は材質や設計良否、使用条件、使用場 所、使用方法などで大きく左右されてしまうので一概に断定できない。 新車ユーザーは特に、「馴らし運転は必要ですか?」「エンジンオイルは3000kmで交換したほう が良いのですか?」「MT&デファレンシャルオイルは何kmで交換したら良いのですか?」などと絶 えずディーラーや販売店・ショップなどに質問を寄せる場合が多い。だが、対する回答は担当者の技術 レベルにより違うから、ユーザーは余計迷うことになる。 ではエンジンから考えてみよう。ほとんどの人は新車は「当たりが付くまでは磨耗して切粉が発生し、 その切粉が悪さをする」と想像して心配になってくる。新車の「初期当たり」と言っても、たった2000 ~6000kmでエンジンオイルを交換しなければならないほどの切り粉が発生するとしたら逆に大問題で ある。エンジンオイルの中に目視では解らないほどの数ミクロンの微粒子発生ならば理解できるが、目 視出来る程の切粉発生なら本当は異常であり、大問題なのである(ただし、旧型ミニはMT&デフオイ ルとエンジンオイルが共通であるため正常でも大きな切粉発生が普通に起きる。) エンジン内部でほとんど切粉が発生しないことを理解できている私自身でさえ、ドイツ車のBMW3シ リーズを購入した際は1年間オイル交換もなければ新車点検も行われないことに(異常があれば別だが) 驚かされ最初は違和感を覚えた。同時期に購入した国産車のディーラーからはオイル無料交換券が送付 されてきたというのに・・・長年の慣習ではこれが普通である。ではこの二者の対応の違いは一体何な のだろうかと考察すると・・・。日本人の持つ「こだわり」とディーラーが集客やサービス性のアピー ルの為に行っているのでは?という意図がが垣間見えてくる。また一般常識として1000~3000kmでオイ ル交換を実施したほうが精神衛生上安心感が生まれるというものだ。しかしながら、いくら必要性が無 いと説明されても心のどこかに「本当かな?」というささやかな疑心暗鬼があるかぎり、「交換しない よりは交換した方が良い。」と考えることは(悪くなることはないから)ある意味ヘルシーなことであ る。

エンジンの中で精密な部品が高速度で運動する部位は次の通りで超精密なクリアランス(隙間)が保た れている。

1.クランクシャフトのジャーナル部とメインメタルの隙間 30~50ミクロン
2.クランクシャフトのピン部とコンロッドメタル隙間 20~40ミクロン
3.ピストンとシリンダーとのクリアランス 30~70ミクロン
4.カムシャフトとカム軸受けとのクリアランス 10~30ミクロン

クリアランスはメーカーや車種により異なってくる。またレース車両の場合は、一般的仕様よ りクリアランスを広く設計することが多い。このクリアランスがどれだけ狭いのかが理解でき てくると話は伝わり易くなる。1ミクロンとは1ミリメートルの1,000分の1ミリであ る。となれば、クランクピンとコンロッドメタルとのクリアランスの最小値20ミクロンで考 えると全周に渡って20ミクロンの隙間があるのではなく、片側に寄せた最大隙間であり、片 側隙間で考えると半分の10ミクロン(1,000分の10=0.01mm)となる。では最 大磨耗限度はどのくらいかと言えば、隙間が規定値の約2倍磨耗したときで走行距離にして通 常なら15~20万kmほど走行後となる。もちろん、これらの数値はメーカー設計値やメン テナンス、運転状況などで大きく変化することは言うまでもない。これが「切り粉」で考えると 単位が大きく異なり軽く0.5mm、場合によっては1.0mm削れて発生する結果である。 まるで単位が違ってくるので、本当はエンジンは切り粉が発生してはいけないメカニズムと認 識しなければいけない。それが理解できてくれば、馴らし後のエンジンオイル交換はそれほど 神経質になる必要性が無いことが理解できてくるはずだ。40年前の車はシリンダーブロック が鋳物で出来ていたのと同時に現代より製造技術が低かったため、鋳砂がオイルパンに落下し てエンジン焼き付きの主原因のひとつとなっていた。そのため新車1000km点検で、エン ジンオイル交換、オイルエレメント交換、シリンダーヘッド増し締め、タペット調整、コンタ クトポイント擦り合わせ又は交換、スパークプラグ交換、重要部分増し締めが一般的点検調整 作業であった。その頃の常識が今も変わらないものだと錯覚すると混乱をきたす。

向かって右側が藤沢 車はセドリックステーションワゴン 路面が砂利道であることに注目

上記1.2.3.項目のクリアランスは絶えず高回転で回転する部分であるので、オイルポンプで強制 潤滑を行い高い油圧(良好な油膜の保持)で磨耗損傷、焼き付き防止を図っている。項目3.のカ ムシャフトの回転数はクランクシャフトの1/2回転だからエンジン回転数が6000回転時に 3000回転で回っていることになる。オイル交換をしないで長期間(2~5年間)補充だけ を繰り返しているとオイルはヘドロのようにドロドロ状となり、ヘッド上部まで潤滑できずカ ムシャフト軸受けの潤滑不良で異音が発生して壊れてしまうことが多い。一見矛盾するトラブ ルであるが、高回転で回転するメインメタルとコンロッドメタルに沢山供給する必要性がある ので、そちらに供給するオイルラインや給油穴は大きく設計されていて、回転数の低いカム シャフトは多くのオイルを供給する必要性が無い為、小さな給油穴となっている。更に、地球 上にある重力作用でエンジン下部には行き易いが上部のカムシャフト側には行きにくいことが 原因となり発生する。この例が示すように壊れた場合には、必ず幾つかの原因が裏に隠されて いる。メーカーの設計者がこのことを本当に理解していないと、オイルはメーカーの規定した 交換サイクルで必ず実施されることを前提にした、細い給油穴での設計をしてしまう。する と、このケースでのトラブル発生率は高くなる。同じオイル・同様な使い方・同じオイル交換 サイクル(但し、メーカー規定走行距離を越えて交換)の場合で、A社の車は何も問題が発生 しないのに、B社の車にのみ発生する場合、B社にそれを指摘したとしても、それは「規定走行 距離内でのオイル交換行わないのが悪い」ということになる。この辺りの技術的論点は微妙で あり、頭脳明晰な技術者ほどギリギリの耐久性を与え「どうだ大丈夫だろう!」と自己啓示欲を満たす傾向を示す。 私の考え方は「許容限度の高い設計が故障を低減し、間違った使い方をされてもダメージが少ない」と いうスタンスである。このことを専門用語では「鈍感設計」と呼んだりするが、もう少し解り易い表現 を用いると「限界値設計」と呼んだほうがピッタリくると思う。コンピューター解析が発達し、熟練技 術者が少なくなってくると、経験と言う目に見えない長年のノウハウをどうやって継承出来るかが重要 課題となってくる。 許容限度が高い設計は、確かに重量の増加を招いたり、コストアップの要因となるので年々許容限度 低減を図る傾向はいなめない。しかし、レースチューニングに代表されるような限界域での使用や大幅 な改造を実施する場合など、大きなウイークポイントが露呈してしまうことも多くなり、重要部品の大 幅改造を迫られたりする。昔の日産L型エンジンは大幅なボアー・アップを行うことが可能であるが、 最新エンジンはボアーとボアー間が隣接するコンパクト設計が重要視されるので、許容限度はほんの少 しである。 多量の切粉が発生しないのはエンジンのみに通用する話で、マニュアルミッションやFR方式のデ ファレンシャルなどは新車時では沢山の切粉が発生する。この違いはなぜかと言えば、メカニズムの構 造と作用に大きく関係している。

2ー1:ダメージは日々蓄積されてゆく内部的疲労(エンジン)
少ない発生量とは言っても、切り粉が発生する側面を考察すれば、そこには「磨耗進行」という物理 的現象が目視できない部分に隠されている。エンジン・AT・MT・デフ各部の磨耗損傷は、メカニズ ムの構造や作用により一様ではない。この項目ではエンジンについて詳しく解説してゆこう。エンジン は燃料を燃焼させエネルギーを発生している。化石燃料を精製したガソリンを燃焼させれば当然ながら 煙、臭い、燃えカスが発生することは避けられない。 燃焼室内に吸引された混合気は、エンジンが3000rpmで回転中、一分間に1気筒当たり1500 回も燃焼(爆発)を繰り返している。排気管内が黒く変色し、ススが付着するのはそのためである。完 全燃焼に近づけば近づくほど、この黒いススは減少するので排気管内は綺麗になる理屈となる。排気管 内を目視で確認、できれば指先で触って指に附着する濃さ(カーボン発生具合)をチェックする意味は ここにある。内燃機関はまだまだ発展途上であり完璧なメカニズムではない。だから、メーカーは日々 改良に励んだり、新技術を投入し改善を図っているのである。燃料の燃焼は燃焼室で行われているので 燃焼により発生する燃えカス(カーボン)は、燃焼室内にも蓄積してゆき古くなると故障原因の要因と なって悪影響が出てくる。

燃焼室構成部品
1:シリンダーヘッド側燃焼室
2:インテークバルブ&エキゾーストバルブの頭部(傘部分)
3:ピストン頭部
4:シリンダーの一部とヘッドガスケットの一部(断面部)

燃焼室は100%密閉された部屋ではなく、バルブは開閉し、ピストンは上下動を繰り返している。 従ってバルブが開いた瞬間にポート側に少し燃焼後の気体は洩れる。ピストンに組み込まれたピストン リングには、合口隙間という僅かな隙間が設けられてるので、この隙間から僅かに洩れる。更にシリン ダー内壁に接触可動するピストンリングは、100%の気体を密閉できるのではなく何%とかはオイル パン側に洩れてしまうことになる。これらの現象の中で燃えカスのカーボンは各部に蓄積し、内部的ダ メージの元凶を作るので、蓄積はそのままエンジン性能低下や故障原因として次第に影響度を高めてゆ く。従ってカーボン発生量が少ないエンジンほどオイル汚れも少ないしカーボンスラッジ発生量も少な いことになり、蓄積により発生する劣化や疲労は軽減されることになる。また発生したカーボンはバル ブ開閉作動に伴いバルブシート傘部に附着してゆく。バルブ上下動作動寸法はノーマルエンジンでは7 ~9mmリフトであり、カムシャフトにより押し下げられたバルブは、バルブスプリング反発力で急速 に戻される作用を繰り返すので、バルブシートとバルブ当り面は叩かれるごとく密着する。エンジンが 完全燃焼する基本的三要素のひとつは「良い圧縮」であり、バルブシート密着具合がカーボン蓄積や シート当り劣化によって規定の圧縮圧力から低下することにより、パワーを含めた総合出力は次第に低 下してゆく。カーボンはピストントップの側面やピストンリングのトップリング周辺まで侵入し、附着 蓄積し次第に悪い作用が発生し始める。カーボン粒子は最初は柔らかい炭を粉にしたようなパウダー状 であるが、エンジンが暖気、冷却を繰り返したり、オイルやガソリン中に含まれる様々な成分と交じり 合いながら、やがてスラッジへと変化し蓄積されることになる。ピストントップリングの別名はコンプ レションリングと呼ばれるように、主に圧縮を保つ役目を受け持っている。5~10万km(カーボン 発生量やオイル交換サイクル、燃焼具合などで大きく変化するが)過ぎると、このトップリングがはめ 込まれている溝の上下と内側にある小さな隙間は次第に埋め尽くされ、やがて固形化してゆき最終的に はピストン固着に至る。ピストンリングはスプリング張力により絶えずシリンダーに押し付けられ圧縮 漏れを最小限にするべく収縮作用をしているが、固着により張力は封印され良好な圧縮は阻害されてし まう。「負の連鎖作用または悪い連鎖」により最終的に完全燃焼は悪化しエンジン出力は更に低下してゆくことになる。
このように人間が風邪をひくと喉が痛くなったり関節が痛くなるリ次第に抵抗力が低下し運が悪ければ 死に至るのと同じように、ひとつの悪い要因が原因となって坂道を転げ落ちるように連鎖で劣化は進行 してゆくことを私は「負の連鎖作用または悪の連鎖」と呼んでいる。 回転部分や摺動部分は絶えず磨耗損傷の危機に晒されているので、オイルやグリスの保護性能により潤 滑保護しなければ即座にトラブルに直結してしまう。シリンダーとピストンリングの当り面はピストン スピードで表され、これはピストン往復運動の距離を直線距離に直して、時間当たりの距離との関係を 平均速度で表したもので、一般的エンジンの平均ピストンスピードは1秒間に10メートルから10数 メートルとなる。エンジンが動いている間は可動部は絶えず運動しているので、潤滑作用が100%保 護できなかったことにより発生した磨耗損傷は、内部に疲労痕跡となって蓄積されてゆく。 このようにエンジン劣化のメカニズムは①磨耗損傷②堆積物の蓄積③部品耐用年数経過(タイミングベ ルトやオイルシール劣化など)の三要素が主な原因となって進行する。またオイルが急速に劣化してし まう場合の原因として、オイルの性能云々だけでなく、燃焼が悪いことに起因している場合があること なども考慮に入れて欲しい。ターボチャジャー、ディーゼルエンジンはカーボン発生量が多い。コン ピューターチューンでECUを交換している車も同様である。また中古車購入では、それまでのオイル 管理が悪くて内部に汚れが堆積しているケースも見受けられる。

2ー2:磨耗損傷がメカニズムに与える影響(オートマ)
この項目ではオートマチックトランスミション(今後ATと書く)の「磨耗進行」とトラブルの関係 について、詳しく解説してゆこう。ここでは判り易くATと構造が似ているブレーキと比較しながら説 明する。 ブレーキを踏むとブレーキパッドがディスクローターに押し付けられ、摩擦力によって車は制動⇒停止 するが、摩擦するパッド表面とローター表面は磨耗する。 note: 欧州車のブレーキパッドは基本的にローターに強く食い込む作用をするので(専門用語では攻撃性が高 い)パッド&ローター磨耗が激しい代わりに制動力に優れる基本設計を採用している。一般的にはロー ター磨耗よりもパッド側磨耗が多いので磨耗により発生した粉塵はホイールを真っ黒に汚す。健康に問 題を起こす恐れが高い石綿(アスベスト)が長年使用されてきたがアスベストが健康に与える問題点が 明らかになり、建築素材と共に、自動車のノンアスベスト化が積極的に図られた。ブレーキパッド磨耗 はブレーキを掛ける頻度と走行距離、走行条件で大枠は決定されるので日本の一般道路では通常3~5 万km走行でフロントパッドは磨耗限度に到達する。タイヤ磨耗もブレーキパッド磨耗とイコールに近 い関係を呈する。この磨耗条件は日本での話でありアメリカでは日本のような曲がりくねった道や急な 山道はほとんど見受けないのでエンジンオイル、タイヤ、ブレーキパッドが10万km持続したとして も何の不思議でもない。あまりにも条件が違い過ぎるので比較対象にならない。しかし、アメリカから 輸入して日本で販売される商品の場合、自動車の事情に詳しくない会社が代理店として取り扱った際に は、英文説明書をそのまま翻訳し説明文や宣伝コピー文として使用されるケースを見受ける。 これをATで考えると湿式多板クラッチはブレーキパッドと同様に、摩擦材が両面に薄く固着された円 盤と、ローターと同じ役目をする金属円盤が交互に組み合わされ、エンジンで発生した動力を伝達して いる。ブレーキ(オイルで潤滑されない乾式クラッチのようなもの)と異なるのはATFにより冷却と 潤滑が強制的に行われている(湿式多板クラッチ)点だ。エンジンオイルとATFの決定的違いは潤滑 ⇒摩擦低減ではなく、潤滑&伝達といった相反する要素を満たさなければならない点にある。ブレーキ パッドと異なるもうひとつの違いは、AT多板クラッチ摩擦材の厚みは約1ミリ程と非常に薄い点で、 ブレーキパッドの約8ミリほどの厚みとは比べ物にならないほど薄い。(ただし1枚では無いので1面当 たり面積負担率で考えれば少ない負担で済む。)摩擦板はシフトアップ、シフトダウンの度に瞬間的な 滑りが発生し、摩擦熱発生と磨耗微粒子が発生することにより磨耗損傷が進行してゆく。磨耗微粒子は ATF中に混じることになるが粒子が大きいほど、また停車時間が長いほどオイルパン内に沈下蓄積し てゆく理屈になる。ATF交換を長期間(走行約5万km以上)に渡って行わない車両をガソリンスタン ドや修理工場に持ち込んでATF交換を依頼すると、多くの場合は断られることになる。ATF交換作 業によって各部に沈殿堆積していたスラッジが再度浮遊を開始し、運が悪いとシフトバルブに噛み込ん だりして変速に異常をきたすトラブルが発生するためである。走行距離が12万kmを超えバックしな くなった車両のATFレベルゲージを引き抜いたら、レベルゲージの先端に3センチほど磨耗したス ラッジが堆積していたので驚いた経験がある。磁石で砂鉄を吸い付けると帯のように付着する原理と同 一で、微細な磁力によって連なっていた。(この原理は強い力が掛かると内部に含有する微細な磁力が 凝縮整理され磁力が高まるため) ATの構造や材質はメーカーや車種により異なっているが、所詮、摩擦を利用したメカニズムでは「消 耗」からは避けて通れない。しかし一部輸入車メーカーにおいてはATF無交換を指定しているメー カーも出てきている。また国産メーカーはメーカー推奨値とオイルライフサイクルとの格差が大きく広 がってきている。どちらのケースも保障期間内に重大なトラブルが発生した場合は、保障対象となり無 償修理が受けられるので、この期間中に車両を乗換える人には無関係の話だが、同じ車を長期間に渡り 乗り続けたい人(乗り続けなければならない人)は、保障期間が過ぎても同じ車を乗り続けることとな るので、一歩踏み込んで新車から延命処置を考慮しなければならない。なぜならメーカー保障はあくま で保障期間内のみであり、期間終了後の修理代は全てユーザー負担となるからである。不思議と保障期 間が過ぎた頃を境に重大トラブルは襲ってくることが多いものだ。(メーカーは耐用年数を考慮して保 障期間を決めている)特にエンジン、AT,MT、エアコンなどの大掛かりな修理(OH等)は多大な 出費を招くので修理すべきか買い替えするかの決断を迫られることになる 輸入車のベンツW1400の ATリビルト品載せ換えで約100万円、同じくアウディで60万円という見積書が出た。もちろん修理会 社により金額は多少変化するし、国産車になればもっと安くなるが高額な修理代となることは避けられ ない。 国の道路事情、気候風土により、自動車の耐久性は大きな影響を受けることになる。日本は高温多湿で あること以外にも、山坂や曲がりくねった道が多く、地方では道も狭く信号も多い。また都市部では至 る所で渋滞が発生している。よって信号でのストップ&ゴーは頻繁に発生している。この状況は、エア コンを効かしたままで停止している時間が長く、また信号が変わると同時に次の信号までダッシュする ことを意味している。故にそれだけAT(ATF)に負担が掛かる状況がそこに展開する。この事情を 知らないで他国でOKだからと国内に国外仕様をそのまま適合しても、時間経過と共に問題点が浮き彫 りとなってくる箇所が出ても何等不思議はない。背後には複雑な要素が隠されていることを知らなけれ ば泣きをみるケースも出てくる。 メーカーにより定期交換部品やオイル交換時期が指定されているのは、これらの短期消耗品、中期消耗 品を交換し復活させる作業であり、長期消耗品が限度に到達した場合は多大な出費が伴うので車の買い 替えと発展することになる。実際、「ATの平均的寿命はどのくらいか?」と言われても答えに詰ま る。市街地での使用が多ければ、ストップ・ゴーの繰り返しが多いほど磨耗が進行することになるので 使用条件の違いで大きく変化してしまう。また、重大な欠陥やよほどの使用ミス、過酷な走行が無けれ ば日本車の場合は10万km前後と言えなくはないが、最低では6万km、最高で15万kmの人と大 差がついてくる。中には15万kmを超える人も少数ながら見受ける。これだけ長期間で最終結果が出 てくる場合は、何が効果的に作用して寿命が延びたのかを把握することが大変難しい。だから1台では なく多くの台数を長年にわたり調査することで、初めて把握出来るデーターであり、それが重要な意味 を持ってくるのである。

2ー3:磨耗損傷がメカニズムに与える影響(MT&デフ)
日産のスポーツ部品を開発販売しているニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(長い名 称なのでニスモと呼ぶ)の前身、日産自動車広報部宣伝第四課(大森ワークス)で、現場での正規社員 は私が一番最初だった。

真ん中が藤沢。後方にかすかにみえる車はロータスヨーロッパ。

レース車両はSR310フェアレディ レース&ラリーオプションパーツの71B型クロスミッション組み立ては、日産吉原工場まで出向いて 行ったがR190、R200型のLSD組み込みは私がメイン担当で大森(現ニスモの場所)で組み込 み、主に輸出していた。 もちろんレース用エンジンチューニング&OH,ミッションOH,デフOH、ボディー改造など全てを 経験することになる。独立後はトヨタAE86のMTリビルト作業、シリンダーヘッドチューニング作 業も行うことになり、日産とトヨタのエンジン&MTの設計の違いを比較でき、新しい発見に驚かされ ることとなる。 日産主力のミッションはメインシャフトにギヤを積み木細工のように(何の力もいらない)1速、2 速、3速、4速ギヤをポンポン入れるだけなのに対して、トヨタAE86MTは油圧プレスを用いてギヤ を分解、圧入しなければならなかった。生産性ではトヨタのほうが進歩的な方法を採用していると予想 していたので、実際にOH作業をしてみると違いが理解できてくる。3速ギヤの入りが悪くなるMTが多 かったので、OHするまでは「なぜだろう」と疑問に感じていた点も、OHしてみると「なんだ3速ギ ヤにベアリングを使用していないじゃないか」と原因が突き止められた。コストダウン目的でメイン シャフトに直接3速ギヤがはまっているだけである。もちろんベアリングと同等の役目をさせるべく、ス プライン(溝)を加工したり鏡面加工が施されている。一般の使用では問題が出なくても、少しオイル が悪かったり、操作が悪かったり、劣化が進行していたり、精度が悪かったり、激しい使用条件であっ たりすると弱さが露呈されてしまう。 AE86・サーキット走行をメインに行ったMTを下取りして分解した時、全てのギヤは驚くほど磨耗 し細っていて、結果的にケース以外は再使用できる部品がなく、リビルト作業そのものを断念したこと がある。(3速ギヤがベアリング無しで組み込まれ、損傷しているメインシャフトと3速ギヤの部品代だ けで軽く47000円、全部の損傷部品を購入すると新品MT価格よりも高価。ちなみに当時のリビルト作業 の平均は6万円が相場だった。) エンジンと異なり、異常磨耗は短時間に致命的ダメージを与えるものではなく、走行不能に陥ること も少なかった反面、内部的ダメージが進行してゆく代表例である。そもそもオイル交換時、ドレーンプ ラグに山のように切粉が附着する背景は、部品の磨耗損傷の結果である。出来る限り磨耗をさせないこ とが寿命を伸ばす簡単な方法である。これはオイル性能の優劣により目に見えて変わってくる。簡単な 話、同じ使用条件、同じ走行距離で切粉の附着が少ないオイルが優れていることとなる。特に昔のミニ はエンジン、MT,デフが一体構造でオイルも共通なので、普通の車より切粉発生(主にミッション& デフ)が多く、ドレーンプラグは磁石付でオイル交換は3000kmと規定されている。このミニでも 磁石への切粉附着は使用オイル銘柄の違いによって歴然と差が出てくる。切粉発生は磨耗した(前項で 解説したように磨耗と呼ぶより損傷に近い)証拠品であり「負の連鎖」につながる。発生した切粉はベ アリングやエンジンにもダメージを与え、ギヤ入りが渋ければシンクロやシフトレバーにストレスが掛 かり、磨耗損傷を加速させる。磨耗損傷でシンクロ機能が低下すればギヤは悲鳴を挙げ、見えない密室 で更に切粉が発生する。反対にメカニズムが良好に機能していれば走行距離が増大してもシンクロ・ギ ヤは何の痛みも発生しないどころか、当たり面は良好となり、日増しに快調となっても何の不思議もな い。私はこのことを「正の連鎖とか良き連鎖」と呼んでいる。このことは後でもっと詳しく解説しよ う。 レースシーンに数々の記録を残したスカイラインGT-Rを例にして説明すると、エンジンの性能をアップするとミッションやデフに負担が掛かる。これは鎖の話と同じで一番弱い所が必ず壊れるので、 対策を打つことになる。ミッションに対策を打てば今度はデフが弱点として浮かび上がってくるので、 デフに対策をすると回りまわってエンジンに対策は戻ってくる。この繰り返しの結果、耐久性は次第に 高まってゆく。エンジンオイルはオイルクーラーの大きさを変えることで、ある程度自由に希望する油 温(110~120℃前後)に設定ができる。ミッションオイルクーラーは通常のレースでは色々な理 由で取り付けできないが、最高油温は約115℃前後で収まっている。しかし、デフオイルは165℃ 以上にも上昇してしまうので対策が必要となり、フィン付カバーなどで色々と対策したがMAX温度は 165℃より下がらなかった。この例が示すようにデフオイルの負担は想像以上に過酷なものである。 オイルの特性を向上させ、それをクリアさせるのがオイル内・外部に含まれる添加剤であるが、実際に テストもしていないのに添加剤という名称だけで否定したり長期腐食を懸念したりする傾向が強いのは 残念な話である。その理由は極めて簡単である。GT-Rのエンジン出力を受け止める駆動系負担の大 きいデフのリングギヤ&ピニオンギヤはオイル潤滑性能が低ければアッという間に磨耗して焼き付いて しまう。レースで使用したオイルを走行後に抜こうものなら異常な臭気が周囲に漂う。この臭気の原因 は極圧剤として添加されている硫黄が反応した臭いである。火山地帯に発生する硫黄ではなく石油を精 製する際に取り出された工業用硫黄で、磨耗を防止する極圧剤として当時は盛んに使用されていた。 (コスト的に安かったので、その時代は盛んに使用されてきた)。もちろん長期腐食にも深く関係して いる成分だが添加剤(内部添加剤=もともとオイルメーカーが添加している物)を添加しなければ、長 期においての腐食がどうだこうだ議論する以前に、大きな切粉が発生するなどして結果は簡単に焼きつ いてしまうことになる。「鶏が先か卵が先か」とは異なり磨耗が先で磨耗を防ぐべく色々な成分が試行 錯誤で使用されることを忘れては語れないのに、中途半端な人ほど肝心要な点を知らないので、表面上 の部分や頭だけで推理した間違った理論を世に風潮し混乱させてしまう。これはレースに限った特別な 世界ではなく一般車でも同じことが言える。塩素化合物も添加剤として有効な成分で、効果の非常に高 い成分である。ただし近年になりオイル成分も環境に悪影響(燃焼時のダイオキシン発生・発ガン性成 分含有など)を及ぼす恐れがある成分は特定有害物質として規制の枠がはめられ、輸入禁止処置が取ら れててきている。(6-1で詳しく解説) 塩素化合物(と言っても沢山の種類があり多種多様なのだが・・・)が化学成分は無知な人にかかる と、実際は化学記号がひとつ違うだけで全く違う特性を示す物質であるにも関わらず、「塩素記号があ るもの=塩素系=悪い」という中途半端な理論展開で諸悪の根源にしてしまう。オイルグレードがSH からSJ→SL→SMと短いスパンで新グレードに変化してきているのも環境に優しい(有害物排出低 減)規制が強化されてきたためだ。このように極圧剤として塩素化合物、硫黄化合物、リン化合物、鉛 セッケンなどが使用されてきたが、テクノロジーは一般人が知る由もない水面下で、着実に進歩してい る。だが、一般の素人レベルでは、テクノロジー(というよりにわか知識といった方が正しいだろう) は机上の上で依然30年前同然のレベルで存在し世を席捲している。それが真実(30年間のテクノロ ジーの成果)を否定する材料としてしばしば登場するのは、とても残念なことである。確かに多額の開 発資金を投入した最先端の研究成果は、なかなか公に公開されるものではない。故に古いテクノロジー のみが公開され、一人歩きしてしまうのだろうが、新しいテクノロジーが一般に広く知られるようにな るのは次世代の製品が生まれたときか長い月日が経過した後年になってからである。 話を戻そう。最近はFF全盛であるが、FR車のリヤデフの構造が理解できれば、ワイパーと同じよ うに原理的には原始的と思えてくる。その理由は、プロペラシャフトからの動力はピニオンギヤと呼ば れるスクリュー形状の特殊ギヤから、リングギヤに対し90度の角度変換を伴って伝達される。エンジ ンから発生する何百馬力という強大なパワーも、同じ理屈で伝達されているのだ。この90度の変換に は、絶えず強大な摩擦力が発生する構造となっているので、大きなフリクションロスが歯面接触により 発生していることになる。リングギヤとピニオンギヤ磨耗はやがてデフ・バックラシュが過大となり発 進時やエンジンブレーキを掛けた瞬間に「ガツン」というショック&異音発生となって表れてくる。 従って、デフオイル交換時に多量の切粉が発生すること自体が大問題なのだが、今までの常識では切粉 が出ているのが当たり前であるという認識である。これを防止する目的で莫大な期間と費用を掛け、磨 耗を最小限に防ぐオイルの開発が成されてきている。 切粉の大きさと長期腐食磨耗の大きさとを比較して考えてみよう。例えば小さな切粉を1メートルに拡大 した場合、同じように長期腐食の影響度を拡大した際は、1ミリの大きさと思えば理解しやすいだろう。
ポイントは何が一番重要事項なのかであり、枝葉の問題はあまり問題ではないのだが、中途半端な知識 の場合が争点が大きくずれてしまう。 また、添加剤嫌い(否定派)は、全ての添加剤(市販される外部添加剤を毛嫌いする傾向を示す)を意 味がない物として拒否する。人間に例えれば薬嫌いと似ている。薬の場合は確かに副作用もあるが、莫 大な時間と多大な費用を掛け開発された有益な薬も数多い。ポイントは適材適所。薬を全て否定してし まったら命を失う人は確実に増加する。この薬と添加剤の話は同じような意味合いを持っている。

添加剤否定派に多い意見
A:元々オイルには添加剤が入っている。後から添加しても意味がない。 製品はコストの制約でほぼ決定されてしまうから、販売価格4リットル・1000~3000円の品物の場 合、原価率10~20%として計算すると原価100~600円。故に使用される内部添加剤は最大でも6 00円の枠内でしか選択出来ない。ただ値段さえ高くなれば性能に優れるとは限らないが、一般的には どんな品物(成分)も、性能が高まるほど高価格になる傾向にある。従って、後から内部添加剤に含む ことが出来ない性能の良い(高価格の)外部添加剤を投入して、効果が認められたとしても何の不思議 でもない。ただし、あまりにも基本性能が低過ぎるオイルや、添加剤自体が粗悪品(安価な)であった 場合は、結果としてA:の意見が肯定されることとなる。
B:一部分だけ性能を良くしてもバランスを崩すだけで良くはならない? この意見も一見、的を得ているように受け取れるが大きく間違っている。その理由は後から外部添加剤 を添加することによってベースオイルと添加剤の割合が崩れてしまうことは、この業界に精通している 人ならば常識的知識ともいえる。確かに外部添加剤の中には、1~2種類のみの単純成分でバランスを 崩す製品(TVなどの流通に載せ、安価で販売を行う製品)も多々見受けられるが、これは流通マージ ン・輸送マージン・そしてTV広告マージン(これだけでかなりの費用を必要とする)などの費用を捻出 するための、販売価格に対しての原価コスト比率に制約がある結果であるから当然のことである。対し て、効果を優先して開発された高性能な外部添加剤(価格的には高価になってしまう場合が多い)は、 複数の成分をバランス良く含有し、崩れを補正。トータルでの性能を向上させているので、混同して語 ることはできない。またベースオイルを含有する別の目的は、粒子または微粒子タイプを主成分とする 場合、ベースオイルに混合させスムーズな添加と混合分散(混じりあう)効果の促進を図っている。Aにも当てはまることだが販売(=原価コスト低減)にのみウェイトをおいたオイルの場合、高性能な極 圧剤など使用できないので、後から磨耗防止や焼き付き損傷を防止する成分の添加は大きな意味を持つ ケースも出てくる。アメリカのレースチューン専門会社で無機モリブデンを愛用している有名な会社が あった。エンジンに必ず一緒に付けてきて、注意書きにも必ず使用するよう書かれていた。長年の経験 で使用したほうが結果が良かったと感じていたに違いないが、私はその効果度についてはっきりと確認 できなかった。オイル開発に携わって研究を進めると始めて性能の低い成分だと解った。 また現在、新車の純正指定で多い0W-20などの超柔らかい粘度のエンジンオイルで、メカニカルノ イズが気になる場合は固い粘度に交換する方法が一番良いのだが、オイル交換をしなくとも粘度指数向 上剤(蜂蜜のようなねばり気の強い物を主成分とした)で少し粘度を固くし、油膜を厚くする方法も場 合によっては有効となる。つまり目的に応じてオイルの弱い部分を補強することが出来る。何でも単純 に言い切ってしまうことの怖さを忘れてはならない。

2ー4:レーシングカーは耐久性向上も最重要課題
高性能オイルを一般普通車に使用する必要性や意味合いがあるのかと問われれば、即座に「絶対に必要 である」と答える。その理由は色々あるが、まず最初に認識して欲しいことは、激しく走行するレーシ ングカーは「速さのみを追求するのではなく、耐久性追及にも心血を注いでいる」ことを知って欲し い。一般的使用では問題が起きなくても、激しく走れば「ダメージが大きくなったり壊れやすくなる」 などの欠点が浮かび上がってくることは至極当然な結果である。レースと一口で呼んでいるが10~15 周で争うスプリントレース(100m競争に似ている)1時間~3時間ほどの中距離レース(800m競 争や駅伝などに似ている)12時間~ルマン24時間レース(マラソンに似ている)などの長距離レース に大別できる。スプリントレースは短時間ではあるが100m競争と似て、短時間で最大の力を発揮さ せるため、意外と故障発生率は高い。アスリートが肉離れしたりアキレス腱を痛めることに似ている。 また中距離レースでも長距離レースに於いても故障はそのままリタイアに直結してしまうし、長距離に なるほどダメージは大きくなる。リタイアとならなくても競争の世界では些細なトラブルでも命取りと なってしまい完走したとしても良い結果は残せない。だからレースでの1時間走行は一般道路での数万k m走行したダメージより大きいと思われる。つまり短時間で耐久性を含めた弱い部分が明らかになって くる。 普通の何倍も速く走るためにはノーマルタイヤでは役不足と誰もが解る。スパークプラグも熱価の高い タイプに交換し、オイルも潤滑性能に優れる高粘度のものを選択する。エンジン使用回転数は一般高速 道路を時速100kmで巡航するのであれば2000~2800rpm程度と低回転。これがレースと なれば、決して巡航という訳にはいかないので最高回転数(車種によっては10000rpmにも及ぶ)まで回 すことは決して珍しいことではない。F1マシンのエンジンが白煙を噴いて瞬時に壊れるのも、最高回 転数は18000rpm、常用回転数12000~16000rpmと驚愕するほどの高回転だからで ある。最高回転数が1000rpmアップしてゆくと、倍倍と増幅されて各部に負担が増大してゆくこ とになる。更なる部品強度向上と潤滑性向上が必要となってくるのは自然の成り行きである。一般道路 での一般的な使用方法であればノーマル(純正)オイルでも即座に壊れることはない。実際には内部で のダメージが蓄積されるが、目視できない部分に関してのことなので一般の人には検討がつかないでい るだけのことである。長期間かけて壊れた場合、本当はオイル性能自体に問題があるのだがオイル性能 に目を向けることはまずありえない。 ノーマルオイルから市販オイルに交換して、3万km走行後に排気管からの白煙とオイル消費が多いこ とに気づいたとしても「使用オイルの潤滑性能が悪かったのが原因」と何人の人が考えることだろう か?多くの人は「激しく走ったから仕方が無い」という考え方が大半を占めている。しかし、多くの場 合、原因は使用オイルがシリンダーやピストンリング当り面の磨耗損傷を完全に保護しきれなかったこ とで発生している。短期間で重大トラブルが発生した場合は、何が原因か断定しやすいが、長期間にな るほど原因追及は難しくなってくる。オイル潤滑レベルの性能差は短期間ではなく、長期間の検証に よって始めて得られる結果であるので、見過ごしてしまったり原因となっていても普通は解からないま ま、うやむやに終わってしまう。これは長年のアスベスト吸引による肺の疾患(肺がんや中皮腫)と非 常に似ている。オイルではなくタイヤであればバーストや異常磨耗は目視で解るので誰でも簡単に理解 出来るのだが・・・ 耐久性向上対策として、コーナー横Gによるオイルパン内でのオイル片寄り防止対策のためのバッフル プレート改造・追加やストレーナー位置の高さ変更を実施する対策を盛り込むことも多い。また強化タ イプ(吐出量アップ)オイルポンプに交換、オイル穴拡大加工、メタルクリアランスの測定と変更など 幅広く検討し、対策を盛り込むことを実施する。これらは初期設計の出来不出来が大きく響いてくる。 例えばサニーB10のA10型エンジンのクランクシャフト軸受け(メインメタル)は3箇所で受ける スリーベアリング方式であった。この時は対策をたくさん盛り込んでも、メタル焼き付きには正直悩ま せられていたが、A12型(名機と呼ばれる)では、このウイークポイントを5箇所で受け止めるファ イブベアリングとすることで解決され、嘘のように耐久性が向上したエンジンへと変貌を遂げることと なった。このようにレーシングカーでも一般車に於いても、オイル潤滑性能のレベルがどこにあるかは 非常に重要な問題であり、メカニズム耐久性を決定づける最大要素に他ならない。
実際の開発現場(ニスモ&オーテックジャパン)でR16型エンジン(フェアレデイSP311)、U 20型(フェアレデイSR311)、A10型(サニーB10),A12型(サニーB110&パル サーX1R),A14型(サニーB310),L14型(バイオレット&オースター),L16型(ブ ルーバード),L18型(ブルーバード)、L20型(スカイラインGC10)、L24型(フェアレ デイZ),LZ14型(レース用),LZ16型(レース用),LZ20B型(レース用),S20型 (スカイラインGTR),FJ20型(スカイライン&F3),VG30型(サファリラリー用)、VG3 0型(レース用)、FJ20T/C型グループC用、E13型(サニー),E15型(サニー),CA18 型(F3レース用),VEJ30型(グループCカー)エンジンと20年間に渡り、レース&ラリー用 エンジンの開発にも携わってきたが、その時はオイルメーカーから支給されたスペシャルオイルを用い てテスト&実戦を戦っていたので、オイル性能による車の変化や耐久性の違いまで追及する考え方は現 場ではゼロだった(一部の技術者が検討していた可能性もあるかもしれないが)その時はクリアランス やオイル穴の改造、オイルパンバッフルプレートの改造など、まったく違った観点より対策を盛り込ん で解決していた。


レース用タイヤは次々と試作品を比較テストしてゆくと、ラップタイムで1~2秒(レースの世界での1秒 は凄いアドバンテージ)変化するので、誰の目にも良否が明らかになり解りやすい。ではオイルはどう なのかと問えばレース関係者は100%近くオイル良否を判定できないのである。その理由は簡単で、 レースエンジンは絶えず仕様を変更し、性能向上や耐久性向上を目指している。カムシャフト作動角の 変更、カムプロフィール変更、バルブリフト変更、バルブタイミング変更、タペットクリアランス変 更、バルブスプリング変更、ピストン形状変更、圧縮比変更、コンロッド変更、ポート変更、バルブサ イズ変更、燃焼室形状変更、インダクションボックス変更など数え上げたらきりがない。それも同時に 幾つも変更し、次のレースに勝負を掛けるわけだから、オイル変更まで手が回らないし、オイル性能が コロコロ変更になったら逆に何が性能アップの真の原因か解からなくなるのでオイルは同じ銘柄で開発 を進める。 昔、「○○添加剤の明らかな効果で他車にグイグイ差をつけることが観客の注目を集めた」というよう な広告表現を見た記憶があるが、本当に潤滑(前出の広告は添加剤)の差でタイムアップしたとしても 原因不明(バイクなどの少しの違いが顕著に表れる場合、スタッフなら効果が把握できるだろうが、観 客は何が原因で速いのかまでは解る筈がない)で終わってしまう。その理由は何かと言えば「エンジン 仕様は毎回変更してくるのが一般的だから」「ドライバーのその日の状態で大きく調子が変わる」「気 温、風向き、サスペンションセッティング、空力変更、タイヤ変更」など毎回変化する要素がレース カーの場合多すぎる。ベンチ比較試験のためには、同じオイルでテストをしないと比較試験の意味を持 たない。またオイル自体の比較試験はほとんど無かった。これはオイルメーカーの開発段階で行われて くるので、現場ではレース結果として出てくるのみだ。レース後に抜いたエンジンオイルをサンプルと してオイルメーカーに送付して終了となる。オイルメーカーはこのサンプルから劣化具合(ガスクロマ トグラフィーを用いて燃料希釈度合、全酸価、全塩基価、せん断安定性)を調査することになるが、メ カニックはオイルの優劣ではなく「エンジン内部の磨耗損傷具合に興味があり」測定調査を実施する。 このように一見一丸となっているようで、実は別々なアプローチで改善に取り組んでいることはあまり 一般に知られていない。極限の性能を競い合うレースでは、逆に高性能オイルで1秒とか2秒とか目に 見える速さで現れるのではなく、耐久性向上と高性能維持に大きく貢献する働きをすることになる。エ ンジン性能向上は常識とは反対に、市街地走行であまりアクセルを踏まない走りでもトルクアップ、レ スポンスアップの恩恵を強く感じ取ることができる。またアクセルを強く踏んでハイペースで走行した 際もゴーストップでのトルクアップやピックアップ、高回転の伸びで気持ちよさを感じ取る。、このよ うに山坂や曲がりくねったブラインドコーナーが連続する一般道の方が、より恩恵を強く受けることに なりオイル性能の善し悪しを常に感じ取ることができる。

2ー5:レースに関係するプロは意外とオイルにこだわらない
一般の人から見ると、レース裏側の部分については別世界に見えるに違いない。プロ野球でもサッ カーなど勝負結果に生活や人生を掛けるプロ集団は、個々のチームオーナー、チーム監督、スポン サー、技術責任者、ドライバーなど権限を持つ人の考え方が色濃く反映される。


上記写真はTSサニー110: ドライバー黒澤元治選手とスタート前の会話を交わす藤沢((21歳の 頃) :富士スピードウェイ右回り6kmバンク使用の頃 予選1位で決勝スタート前: 予選は当時驚異的なコースレコード2分10秒前半で決勝も優勝する。

レースに当てはめ、大雑把にまとめると下記のようになる。(チーム構成により、異なる場合もある) A:フレッシュマンレースなどを含め、趣味でレース、ジムカーナ、ラリー、ダートトライアルを楽し む人。この人たちはオイルをまったく知らない人から本当に詳しい人まで色々である。オイルに詳しい 人は、ほんの一握り。 レースはお金が掛かる。だからオイル代も含めて安くあげようと考えるのが必然で、オイルにお金を 掛けたくない。性能抜群のオイルを使用したら、勝負も有利、耐久性も有利、結果的に壊れにくいの で、はるかに安くつくと理解している人は、ほとんど少数派である。もちろん、少しでも良い結果が出 ればと、それなりのオイルや添加剤を使用する人は多い。レースは車と車の改造費の他にエントリー 費、往復のガソリン代、高速代、駐車場代、食事、場合によっては宿泊代、タイヤ費用、オイル費用と 出費がかさむので裏側は大変なのだ。だから資金がなくてレースにはまってしまうと最悪と言える。 はっきり言ってレースの半分は腕(テクニック)ではなくお金の勝負(良い車、良い改造、良いメンテ ナンス)と言えなくもないのだから・・ B:ワンメークレースなどに代表されるように、レース経験を重ねてゆくと自然とタイヤとオイルのス ポンサーが獲得できるようになる。目立つ活躍をすればメーカー側から「○○オイルを使って下さい」 と話が持ちかけられ、チーム側としても経費削減は願ったりなので通常は簡単に話しが決まることが多 い。当然ながらオイルメーカーのステッカーが契約条件として貼られることになる。また、エンジン チューニングは△△自動車などチューニングを専門とするショップが行っていることも多く、この ショップが□□□オイルを気にいって使用していたりすると自然と□□□オイルがスポンサーとなる ケースも多い。このように色々なオイルを比較して性能で決定されるよりも人脈や金銭(逆にスポン サー料として支払われる場合も多い)など、他の要因で決定される場合がほとんどである。 C:大きなレースになればなるほど、自動車メーカーが関係するチームや有名チューナーが関係するエ ンジンを搭載したレーシングカーとなる。こうなると有名オイルメーカーがスポンサーとなりステッ カーが貼られることは、ほとんどの人が知っている。こういった契約は双方にメリットが生まれるため に、製品を購入するケースはなくなる。(無償支給)オイルメーカーは開発と宣伝といった二つのメ リットが生まれる。チーム側は経費節減と資金獲得、性能の良いオイル(試作品が多い)といった複数 のメリットが生まれる。 タイヤもオイルと似たような感じに思えるが事情は大きく異なってくる。 昔、レースが始まった頃は、タイヤ・オイル・スパークプラグ・添加剤などのスポンサーは大会主催者 が受け取り、ステッカーを強制で車両に貼らせていた。フロントフェンダーに貼れとか場所まで指示さ れ、貼っていないと車検で落とされた。その頃、有名だったステッカーはNGKスパークプラグ、ST P、岡本理研のOKマークなどであった。その後、チームやドライバーがスポンサーを獲得するように 変化してゆく。 このようにタイヤやオイルはドライバーまたはチームにとって重要な資金源であり、おろそかに出来 ない部分となる。他でも解説してきたようにタイヤの違いは勝負に直結し勝敗まで分けるので、過去多 くの明暗を分けてきた。これがオイルの話になるとレース関係者で「○○オイルで勝てた」という話は 20年間のレース生活で一度も聞いたことがない。
私もレース経験が長かったので、有名チューナーや有名ドライバーとの親交も深い。私が見つけ出した オイル潤滑の新発見や高い潤滑性などの話をしてみるのだが、関心を寄せるプロはほとんど見受けな い。彼らは、あくまで職人気質が強烈で形のあるメカニズムに手を加えて性能アップを図ることに喜び を見い出している。「オイルで良くなってしまったら俺達の腕の見せところが無い」とまで言い切る人 もいた。でも、勝負の世界は非情で、規則の範囲内で効果的な品物は人に内緒で使いたがる。 では、ドライバー自身がオイル性能の違いを見つけ出し、チームに提案したりするのかと言えば、こ れも一度も聞いたことがない。ただし、先ほどのスポンサーの関係でチームに多額な契約金が手に入る 場合は違う。だから「性能で使うのではなく契約金で決まる」という大人の話となる。そこにはロマン とか理想とかけ離れた現金な話がある。他の項目で解説してきたように化学製品はつかみ所が無い。エ ンジン仕様やサスペンション仕様、それにタイヤや空力など各種盛りだくさんのメニューをこなして レースに挑む訳だから、見えない所で活躍するオイルの存在は、極端に言い切ってしまえば「オイル 量」「油圧」「油温」以外はさほど注目も意識もしていないというのが本音といえる。 レース界を離れてオイルに注目し、製品開発を始めてから何年か経過して和田孝夫選手と出合う機会 が訪れた。昔、TSサニーやアドバン車両で華々しく活躍していた頃は、サーキットで顔なじみで会話 を交わした選手の一人であった。話は少し横道にそれるが、その少し前のレース界は今でも有名な選手 がたくさんいた。レースメカニック駆け出し中の私であったが、サーキット内では食堂やピット裏で遭 遇する機会はたくさんあった。名前を挙げさしていただくと、福沢幸雄選手(フランス人との混血でモ デルをしていたほどハンサム)、河合稔選手(小川ローザと結婚直後に事故死)、細谷四方洋選手、高 橋春邦選手などトヨタワークスドライバー、プリンス系では生沢徹選手ときりがない。日産ワークスド ライバーは今更言うまでもないだろう。 話をオイルに戻す。和田選手はワダ・レーシング・スポーツという会社を作りFJマシン(F3の下 に属するフォーミュラーマシン)を用いてドライビング・テクニックを習得できるよう地道な活動を続 けている。当然ながらテクニックの未熟な練習生に乗せると中には滅茶苦茶下手な人がいて、元々が弱 いと言われているスバル製のミッションが痛めつけられスクール終了後にOHを必要としていた。これ では部品代、修理代に多額の出費がかさむ。そこで手前味噌ではあるが、私がリリースした添加剤 (ATTACK X1)を数本プレゼントとして送った。半信半疑だった和田選手も送った製品を実際に使ってみて くれたようで、数日後に「添加剤でここまで変わるの?」とお礼を兼ねた電話があった。それ以来、す べてのマシンに常用してくれるまでに至り、現在では友人に勧めてくれるまでに至った。有難い限りで ある。ご承知のように和田選手はTSサニーで幾度と無く優勝を飾り、ルマン24時間レースにも出場 している。そして現在では、私が最初感じたのと同様に「レースで使っていたら、もっと沢山勝てたの に!」という話をするのが挨拶代わりとなっていった。また、私と同じように「レースをやっている人 はオイルをあまり知らない」というのも二人の得た結論だった。 大きなレース(F1,インディ、ルマン24H)で使用されるオイルは、スペシャルオイルで外部には 秘密であり、オイル粘度さえ明らかにされていない。開発の初期段階とは異なり、この手のビッグレー スでは、絶えずブレンドを変えたり素材を変えたりして結果を模索する最先端の開発現場でもある。 レースの場合は短時間で交換が前提であり暖気運転も十分に行われるので使用温度範囲を広く設計しな くてもよいが高回転多用による過酷な使用条件にマッチングすべく、以下のような条件を考慮する必要 性がある。
A:高回転、過負荷の連続による油膜切れの少ない性能。
B:高回転、過負荷の連続によるフリクション低減による油温→油圧の安定。
C:高回転、過負荷の連続による気泡増大の影響を最小限に抑制する性能。
D:燃料希釈による粘度低下の影響を受けにくい優れた潤滑性能。
E:その他、水温上昇、多量のブローバイガス、過酷な使用条件をクリアーする総合性能。

従って洗浄作用や腐食作用など、長期間使用される一般市街地オイルとは区別して製品開発されること が多い。洗浄剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤などが添加されれば、その分だけ上記A~Eの要求に答 える成分が減少するために「不利」という考え方からきている。私はオイルに関しては、特にレース用 と一般用とを区別していない。少しオイルの知識のある方なら「そんなことはない」と持論を展開する だろう。レース用と一口に言ってもレースは多種多彩であり、一般の人は区別がつきにくい。野球でた とえるとプロ野球の1軍、2軍、社会人野球、大学野球、高校野球、草野球などと幅広い。自動車レー スだって同じ事でレベルによって話は変わってくる。レース専用オイルを必要とするのは特別に大きな レース(F1,インディ、ルマン24H)の話であり、そこまでの要求が無ければ高性能オイルであれ ば十分にレースで使用できてしまう。だがこのような背景を知る人は少ないので、レースで優勝した車 両に貼られたステッカーの威力で商品を購入しようという動機が産まれる。実際に間違いなく使用され ていれば、勝利したことは事実なのだが、その製品がどこまで勝利へのアドバンテージを与えたか、一 般市販品にどこまで近い性能なのかなどは誰も知るよしはない。 私のリリースする製品も、以前よりワンメークレースや耐久レースを中心に使用されてきた経過があ る。 そして昨年からはKPファクトリーTS車両をスポンサーして当社市販オイルを試している。 結果は油温ひとつ見ても余裕があるで、他チームが嫌がるくらいの過酷な条件(夏場のピーカンなどに よる気温上昇)にならないかと走行前になるとチーム員一同が願っているほどである。

第三章



Posted at 2012/01/10 17:52:55 | コメント(0) | トラックバック(0) | estremo | クルマ
2012年01月10日 イイね!

藤沢公男の提唱するメンテナンス術~第一章プロローグ~


最先端技術が盛り込まれた新型車が産声を上げ、発売されてくる背景を考察すれば、デザインひとつ取 り上げても、その車が誕生し、長年育まれてきた気候風土や文化が色濃く反映されていることに気付くに 違いない。ドアを開け運転席に座れば、シートの座り心地や材質からも生産国のお国柄や人種の考え方が 透けて見えてくる。イグニッションスイッチを「ON」ひとたびエンジンを目覚めさせれば、周囲の静寂 を突き破り、生命の息吹きが鼓動となって五感を刺激する。期待を込めて1STギヤにシフトし車を発進 させる。チーターが獲物に襲い掛かる様に似て疾走を開始。時間が許せば我が意思に忠実な伴侶となっ て、どこまでもつきあってくれる。退屈な日常を忘却の彼方に押しやり、自由気ままで芳醇な時間を提供 してくれる。この世の中に、こんなにも魅惑の[アイテム]が、すぐ身近に存在していたわけだから、好奇心 旺盛な私は15歳で次第に自動車の魅力に魅き付けられていった。こんな魅惑のアイテム=自動車も、ひ とたびエンジンやミションが故障して動かなくなれば一瞬にして、単なる粗大ごみへと変化してしまう。 更にエンジンを分解してしまえば、個々の部品からは生き物としての活力は消え失せ、傷や磨耗や汚れが 急にクローズアップされてくる。しばらく放置しておけば錆が発生し、吐息さえ消えうせてしまう。この 感覚は文章で述べても伝わりにくいが、1度でも愛車の分解修理を経験した人なら容易に理解できること だろう。 日常生活の便利な生活道具と考え、運動靴感覚で車を使っている人とは異次元な世界がそこに展開する。 意識する・しないに関係なく、その人の愛車選択は、その人の人生哲学を色濃く反映し、生き様を投影し ていると私は分析している。快適で魅惑的な自動車満喫生活を望んでいる多くのマニアにとって、私が長 年追求して得られた重要ポイントが少しでも役立つことになれば嬉しくもあり光栄でもある。この解説は ひとつの特定された車種やメーカーを深く解説するものではなく、広く「自動車」全般を述べるコラムで ある。従って固有の数値・データは誤解を招く恐れがあるので、できるだけ割愛している。最初に断って おかねばならないのは43年間(実際にはすでに44年間だが)という長期間の研究成果を解説するの で、最後まで読んでそのディテールとポイントを把握して欲しいと思う。一部分だけを抜粋して語られて も私の言わんとする真意が誤解されて受け取られる恐れがあるから、この解説の一部転用や転記はしない で欲しい。長年の研究成果であると共に中途半端な解説は嫌いな性格なので短時間ではとても読みきれな くとも、暇な時や迷った時の参考書として使ってもらいたい。そして、本当の意味での自動車メンティナ ンスとオイル・添加剤・サプリメントを理解する人が1人でも多くなれば私にとって最高に嬉しい限りであ る。

1ー1:メンテナンスで左右される車の耐久性
人間にも寿命があるのと同様に自動車にも寿命がある。「そんなの当たり前だ」と言う前に、どうして 寿命があるのかを深く掘り下げて研究してゆかねばならない。化学の進歩に合わせ、人間の寿命が尽きる 原因は次第に解明されつつある。病気の発症は生体防御機能低下(免疫力低下)で年齢を重ねるほど右下 がりで落ちてゆく曲線を描く。また老化(さび)=酸化は年齢とともに反対に右上がりで上昇してゆく放 物線を描く。この二つの曲線が交差する点が重大な病気発症や寿命の尽きる終着点となる。そこで効果的 な手段を用いて交差する終着点を後方に引き伸ばすことにより、寿命延長が図れる。酸化は皮膚に皺(し わ)や斑点(シミ)となって表れる。歴史を紐解くと時の権力者は永遠の命を授かろうと、あらゆる物に 興味を抱き実際に試している。しかし、この世の中には効果的な成分もあれば効果の低い成分も満ち溢れ ている。したがって健康食品と同じようにオイル添加剤の性能差も様々であり、長年の使用によって大き な落差が出てくることになる。人間の死亡原因としては癌(車に当てはめて考えるとメタル焼き付き、ピ ストン焼き付きに相当)、血管や血液の劣化や心臓病(車に例えればオイル汚れによるライン詰まりやオ イル漏れ、オイルポンプ故障に相当)腎臓、肝臓疾患(車で言えばスラッジや汚れの蓄積とオイルエレメ ント飽和状態)肺疾患(車に例えれば吸気関係故障、エアークリーナーの過度な汚れ)と大雑把に当ては めることができる。自動車は保障期限が切れる頃から大きなトラブルが目立ち始めるので「機械は使えば 劣化して故障する」というのが一般的常識となって認識されている。

斉藤自動車工場・整備工時代 左側車両は前期型セドリック 右側車両は後期型セドリック

年々進歩した技術が盛り込まれている自動車なのに、耐用年数に関しては大きく伸びていないことに気づ いて欲しい。昔から「20年間耐久性のある車は製造可能であるが販売価格は2倍以上になってしまい、 価格競争に負けてしまう」と言われている。つまり消費者が少しでも安い価格の自動車を望んでおり、商 売を考えればお客様のニーズに沿った商品開発がなされることは至極当然の成り行きなのである。またこ の問題を更に突き詰めてゆけば、自動車買い替え需要は世界経済(景気)をも支えている目玉商品という 事実が浮かび上がってくる。あまりにも長い耐用年数では購買は生まれないし景気は低迷してしまう。経 済と環境問題とは切ってもきれない複雑で微妙な間柄であり、排気ガス低減車や省燃費車に買い替え促進 を図る政策(例えば10年経過すると重量税が10%アップや排気ガス低減車の優遇税制など)が実施さ れている。また景気が低迷し昇給が望めず・賞与の減額・サービス残業こそ多くなるが収入には反映され ないなどという状態では自動車買い替え期間は更に延長される。故にトラブルの発生(対象の期間が長く なったことによる)が(起因する修理or買い換えの悩める選択を迫られるケースに繋がる。 (本当は走行距離や使用期間に対し、どのような対策(メンテナンス)を施してきたのかが最大ポイント なのだが・・・・) 憧れの車を手に入れるのは生きがいであり、その人の人生そのものでもある場合、愛犬や愛猫とまったく 同じで少しでも長生きしてほしいと願うのは至極当然の感情推移と思う。そこで少しでも効果的なメンテ ナンスを施そうと最初は手探りで添加剤や高性能と謳われるエンジンオイルを次々と試してみたり、新た なチュー二ンググッズの情報を手に入れれば、さっそく愛車に装着し一人で悦にひたってみたりする。こ の技術的進歩の度合いは人様々で、エンジンを分解してポート研磨やらカムシャフト交換などメカニズム のおもしろさに引き付けられ楽しむ人や、故障や劣化した部品交換を実施して自己満足したり、外観を自 分独自のエアロパーツで飾って喜んでみたり、マイガレージで高価なワックスを塗りこんで休日の大半を 過ごしたりと、その楽しみ方は人それぞれ異なっており無限に広がっている。それはそれで、その人の生き様であり、他の人に意見を言うのはお門違いである。価値観は人それぞれである。他人に迷惑を掛けな い範疇で行えるのであれば、それでよいと私は思う。
メンテナンスも、その人の考え方や経済力、技術的レベル、車の使用状況などにより大きく異なってくる ので一様に断言できないが、性能に見合った液体(オイル、フルード、冷却水等)の定期的な点検・補 充・交換が重要なポイントとなってくるのは間違いない。そして使用する製品毎の性能やクォリティの差 はタイヤやマフラーと違い、実際に使ってみないと性能は解らない。マフラーであれば材質とか形状、溶 接の良否などを目視で確認できるから、少し鑑識眼を磨いておけば納得して購入できる。しかし、エンジ ンオイルを選択する際には鑑識眼など何の役にも立たない。いざ、オイル購入となると、その人の経験、技術力、知識、人生観、性格、経済力で、「絶対に6000 円が上限」と決める場合もあれば、人によっては「1万円以内」と決めている人もいる。だから6000 円を上限としてオイルを色々と試している人の意見は、6000円までのオイル中でのベストの選択かも知れないが、1万円以内までのオイル選択ではベストとはいえない。だが、人に話をする時には「上限ライン6000円まで」の「限定」は割愛され、あたかもそれ以上の価格帯を含めた全種類のオイルを試した上での最終結果のように話されていることが多い。
また「□□オイルは良いオイルだ」「○○オイルは悪いオイルだ」と簡単に言い切ってしまう人がほとん どであるが、オイルの性能は初期性能、持続性能、体感性能、保護性能、燃費性能、費用対効果度など多 岐に亘り、トータルでの性能を総合的に判定して結果が出るので、実際には簡単には語ることは出来な い。これらの総合性能が高ければ高いほど自動車は長期間に渡り好調子を維持することが可能となってく るから、いかに潜在性能が高い製品であるかを探し出すことが重要課題である。この正しい選択を実行し た瞬間から、「最善のメンテナンス」はスタートし、結果は約束されたようなものとなる。 話としては単純であるが、実際はこれらのテストを行う事は非常に大変であり、長期に及ぶテストと、馬鹿にならない費用を必要とする。一般市場で販売されているエンジンオイル銘柄は100種類を軽く超え、次々と新製品が発売される。もしこれを一台の車でテストしたならば、単純計算で[100銘柄÷0.5年(6ヶ月)交換=50年]もの時間が必要になる。また、その前に車の消耗によりイコールコンディションの維持が出来ない。走行距離も馬鹿にならないし、車としてのライフも怪しい。だが、個人としてテストを行うのであれば、10台で行っても最低5年は要する訳である。しかしこの5年間という期間内でも、オイルは時代の進歩に合わせ規格変更が頻繁に実施される。また新しい銘柄の追加や新しいグレードが次々と世に出てくる激戦区であるので、テスト数より新しくライン ナップする製品数が勝ってしまい、これからテストしようとする製品数は減少するどころか反対に増大してしまうことだろう。またテスト中にこれら10台のテスト車両がノーマルを維持したままとは言い難い。つまり実際のテストで「最高のオイル」にたどり着くことは不可能に近い。

1ー2:運転で大きく左右される車の寿命
車の寿命を決定するメンティナンス以外の要因として、その人の運転状況・使用状況も大きく影響する。

A:運転のクセ アクセルの踏み込み具合や走行スピードなど、密室で行われる運転技術は[無くて七癖]の言葉通り、仔細に観察を進めると実に様々であることが解ってくる。ゆっくりアクセルを踏みこむ人がいるかと思えば、反対にタイヤが悲鳴を挙げるほど急激にアクセルを踏み込む人もいる。ハンドルを絶えず小刻みに左右に切っている人、信号で停止するたびに必ずATシフトレバーをNにする人。まったくメーカーの予測範囲を超えた操作をする人の数は決して少なくない。

B:使用エリア 絶対交通量が少ない地域、極端に信号が少なく道が空いている北海道と、東京都心や大都会周辺の渋滞や信号が多い場所ではゴーストップの繰り返しが比べ物にならないほど頻繁なので車へのストレスは短期間で蓄積されてゆく。また住居が箱根などの山の上にあり、通勤で山道を降りたり登ったりしていれば、平坦路に比べブレーキやタイヤ磨耗は増大し、内部的損傷具合も進行してゆくのは当然のことである。また長距離通勤で高速道路を長距離使用するパターンでは走行距離こそ短期間で増加するが自動車への負担は少ない。また、寒冷地では長い暖機が必要になるケースもある。

C:オーナーの職業会社員で通勤は電車でする人と自動車で通勤する人では年間走行距離は大きく変わってくるし、自営業で仕事にも使用する人であれば、当然走行距離は一気に伸びる。荷物積載量の違いも大きく寿命に響いてくる。

D:家族構成と総自動車所有台数 今や一家に1台ではなく、複数台所有する人も増えてきている。奥様の買い物専用車でも軽四輪から高級車まで幅広い。また旦那様が休日に家族を乗せてドライブするワンボックス車と、趣味としてのスポーツ車を使い分けするパターンも一般化しつつある。またメンテナンスを優先させる車と後回しに追いやられる車とでもコンディションには大きな違いが出る。

E:自動車の使用目的 この項目が一番寿命を決定するのかもしれない。つまり、通勤やお買い物、ドライブ主体の一般的使い方。少し走りを楽しむ目的で購入した場合、ジムカーナー、ラリー、たまのサーキット走行やスポーツ走行を味わうための車。主にモータースポーツを楽しむ目的で購入し改造を施した車。このように購入動機も用途も多種多様となってくる。当然ながらサーキット走行が頻繁になればなるほどダメージは増大してくるので重大トラブル発生率は高まり寿命は短かくなる。

F:オーナーのメカニズム理解度メカニズムに精通していない人は、エンジンが悲鳴をあげていても一向に構わない。解らないから無頓着であり恐ろしさも何も無い。「エッ、オイルは交換するものなの?」はまだまだ許せる範囲。「車検を受ければ車は壊れない」と信じている人。中には「エッ、オイルが入っているんだ?」「運転するだけだから関心が無い。」と言いたい放題である。少し前までは交差点でスピードを落とすとギヤを変速しないまま加速して「ガラガラガラ」と平気でノッキング音を撒き散らしながら加速してゆく年配者を多く見かけたが、オートマチック車全盛となった最近では見かけるケースが激減した。このレベルであるから、車が異常を訴える初期症状など無関心で見逃してしまい、中期を通過し、末期症状に到達。そこで始めて「おかしんだけど」と平気で持ち込んでくる。だからオイルなど安ければ安い方が良い。軽四輪など下駄がわりで使い捨て感覚だから4~5万kmも使えばガタガタ、そこでセールマンの勧誘で「奥様、高い修理代を払うより新色のこんな素敵なお車はいかがですか?買い換えた方が安心ですよ!」という言葉を鵜呑みにして買い換えることになる。そこには「車こそ我が人生」という車愛好家とはかけ離れた世界が存在している。勿論、軽四輪が豪華で高価になったとは言え、100~200万円の総費用に対して、車好きが求める自動車は世界中でも生産台数が少ない希少車や、高級車など憧れの車なのだから数百万円は可愛いほうで数千万円も決して珍しくはない。たかが車、されど車なのである。このことは1-1項目のメンテ ナンスとも密接に関連してくる。自分が惚れ込んで夢が実現し購入した車と、いかに濃密な関わりを持つかという一点に集約される。

G:番外編:新車購入と中古車購入による程度差。この項目は直接には運転方法と関係は無いが、車の寿命に関わってくる問題として見逃せない。例えば5万km走行した自動車を購入した場合、従来の常識では平均耐用走行距離の半分を使いきっていると考えなくてはならない。これをどこまで延命できるかは運転方法よりもそれまで使用してきた人のメンテナン ス方法によって大きく異なっている。劣化した部分を大金を掛けてOHに踏み切るか、もっと効果的な方法で(有効な添加剤の活用、アースチューニング、コンデンサーチューニング、SEV等の装着)甦るのであれば一度試して結果を見てから判断しようと考えるかは人それぞれ異なってくる。ここまで説明してきたように自動車の使用状況、メンテナンス度合い、運転方法などは千差万別であり、ひとつとして全く同じ状況というのは有り得ない。その中で「効いた」「効かない」という簡単で単純な評価で結果を語ることは何の意味も持っていない。であるから、もっと深く掘り下げて追求してゆくことが必要不可欠となる。

1ー3:ノーマルがベストとは必ずしも限らない
誰でも初心者のうちに思うこと・・・・「新車が一番!」私だって、そこから始まり現在に到達するま で歳月を費やしてきたのだから・・・。20歳を過ぎて兄貴と共同購入で憧れのサニー1000 4ドアセダ ンの新車を購入した際は、天にも昇る夢心地であった。それまではマイカーは夢のまた夢の時代であり、 大金持ちしか味わえない別世界であり、自分でマイカーが購入できるなどとは思ってもみなかった。日本 のファミリーカー時代の幕開けは初の大衆乗用車であるサニー・カローラの登場と共に始まって、大衆車 時代が花開き目覚しい発展を遂げてきた。

サニー1000 4ドアセダン

私もそうであったが始めて新車を購入した人の大半は、最初は腫れ物に触るように大事に運転したり、優しく丁寧に洗車を繰り返したり、休日を待ち焦がれてワックスで磨きこんだ覚えが一度ならずともあることだろう。それから次第に所有年数が長くなるにしたがって、車に対する愛着が薄れ、また運転技術も向上するので自然と車の潜在性能を引き出した走りへと多かれ少なかれ変化していく。少しペースを上げた走行を経験すると、それまで気が付かなかった愛車の弱点が浮き彫りとなり、次第に「何とか改善できないものか?」と考えるようになる。中には欠点が許せず、車を短期間で買い替える人もいる。許せる範囲の欠点と絶対に許せない欠点とがあるのだ。この辺の感情は少し恋愛感情と似ているかもしれない。結婚するまでは、あばたもえくぼで魅惑的に見え惚れ込み、一緒に生活をスタートしたが、日常生活が始まると他人から見れば些細な事でも、本人はどうしても許せない部分が埋められず、結果として離婚に至るケースも出てくる。また、自分の容姿に劣等感を抱き対外的に奥手だった人が、整形手術を行った途端に積極的な考え方に変わることもある。車に例えると、それがチューニング・アップなのである。 新車がベストでもなければ、ノーマルがベストとは決して限らない。純正は生産コストの制約の中で万人に合うように平均点でセッティングされた車なのである。後は欠点を見出して改善するか?我慢してしまうか?である。

第二章
Posted at 2012/01/10 16:19:37 | コメント(4) | トラックバック(0) | estremo | クルマ

プロフィール

「みんカラ:モニターキャンペーン【モンスター サーベラスEVO】 http://cvw.jp/b/582316/48497041/
何シテル?   06/21 02:26
ヨロシクだぷ~v( ̄Д ̄)v

ハイタッチ!drive

みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2012/1 >>

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 161718 19 2021
22 23 242526 2728
29 30 31    

リンク・クリップ

スズキ アルトワークス つーやん☆【アタックレーシング】 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2019/06/28 08:41:55
ennepetal 
カテゴリ:足回り
2011/12/23 06:25:24
 
NGK 
カテゴリ:点火系&駆動系
2011/07/24 19:44:46
 

愛車一覧

スバル プレオプラス 復活の青い車 (スバル プレオプラス)
WRブルーサンバー以来の青。ダイハツ色の青ですが、これもなかなか良い感じ?(笑)第三のエ ...
スバル サンバー つーやんサンバー (スバル サンバー)
スバル復活~😃✨⤴️ 宜しくお願いします🙇⤵️
日産 モコ 代車 (日産 モコ)
次期愛車納車までの代車生活( ・∀・)ノ
スズキ アルトワークス つーやん☆【アタックレーシング】 (スズキ アルトワークス)
初スズキ車です( ゚∀゚)ノ 宜しくお願いしますm(__)m ★アフターパーツ ■タ ...

過去のブログ

2025年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2024年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2023年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2022年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2021年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2020年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2019年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2018年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2017年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2016年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2015年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2014年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2013年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2012年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2011年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2010年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2009年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation