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7月17日(土)にツーリングいきませんか?? Boxster`s PleasureのBBSへ書き込みいたしました。 是非、ご一読ください。参加検討、ご希望の方は私までメール(touring@986owners.net)ください。 6月末くらいまでに行程表をお送りします。 こちらに書き込んでまーす・・ http://www.986owners.net/bbs/wforum.cgi?no=6161&reno=no&oya=6161&mode=msgview&page=0
超絶の断崖バトル、R339「竜泊ライン」

2003年・・11月1日からの3連休を利用して、青森に行った。
3連休とのことで、友人とも連絡を取り合い、2日目の日曜日早朝、津軽半島の西北、小泊村から、太宰治の「津軽」、石川さゆり「津軽海峡冬景色」で一名を馳せ、青函トンネルが地底を走る風の岬、竜飛岬までの20㎞を一緒に走ることにしました。

相手は、名うてのドライビングテクニックを誇るA氏。
八幡平をエリアとし、FDセブンを乗りこなす腕はもちろん、特に2輪ではノービスクラスの腕を持っています。CB750Fボルドール、GSX1100カタナを自在に振り回す猛者、今日は何で登場するのかぁ・・

ぬ・ぬぁんと・・・
「パラン、パラン、パララララ・・」漆黒の闇の中からゆっくりと現れたのは・・・
既に販売終了から暫く経つヤマハのワークスマシン、伝統のYZRのテクノロジーを受け継ぐ栄光のマシン、2ストバトルエリート「TZR250R」でやってきたのでした。「な、なんと!」

言葉を失い、呆然と立ちすくむ自分に歩み寄り、
「ケッ!ポルシェボクスターなんぞ、45馬力のこのマシンで十分!」なんていつもの、軽口をたたき、「一般車が来る前に行くぞ!」
数々のバトルの紋章!所々が擦れた皮のツナギ、肩、膝にはパッドを入れ戦闘態勢も十分、背中に気迫が漲ります。道に落ちていた落ち葉が、小さな音をたててクルクル舞っています。風雲急を告げる嵐の前触れかっ・・

朝もやの切れ目を確認し、視界良好!スタートします。最初はボクスターが前に、朝の津軽半島を日本海を左手に見ながらの爽快ドライブ、後ろのTZRも2ストのテンポも心地良いビートで、片手をタンクに余裕です。

小泊村を抜け、一旦海岸線から離れます。いよいよワインディングバトルステージヘ・・ここは、一気に断崖を駆け上るオープニングステージ。パワーが物を言います。
ボクスターは全てのギヤを6400回転、MAXOUTPUTのちょい上まできっちり引っ張ります。しかし、タフな登りにいかに伝統のポルシェフラット6も悲痛な叫びを上げています。「くーっ!」伸びのタイムラグが予想以上にあります。

コーナー立ち上がりでは十分なトラクションで万全の逃げ体勢!耳にはキーンと高低差による耳鳴りがし始めています。
「ゴクッ!」唾を飲み込み耳抜きして、一段とエキゾーストノートがはっきり耳にできます。チタンマフラーの渇いた音と、1万回転を超えるアクセル全開で追いすがる2スト音とが共鳴し、風でひしゃげた椴松の谷に木霊します。

登りのステージで差をつけるべく、こちらは全開アタック!背後からはミラーに現れては消えながら、迫りくる恐怖のバンクセンサー音!ハングオンのマジモード!時折、タイトなS字立ち上がりではフロントが浮いています。「ま、まじかよ!」

峠の中間最高地点、眺瞰台からはいよいよ根性の下りステージです。

ここからは、竜飛岬の大きな発電用風車と、遠くには北海道を望む事ができます。紅葉も絶えたこの道は、風の音しかしない断崖の道。普段は人を寄せ付けない神秘的なこの道も、今日は確かにヒートアップ!熱い戦いの最終ステージへとなだれ込んでいきます。

登りでは、少し差はつけることができたのもつかの間、中速ダウンヒルでは、いよいよTZRの本領発揮!100㎏そこそこの車重、スペシャルブレーキとハイグリップSタイヤを奢り、SPチャンバーで武装!90度一軸V型2気筒エンジンの出力をMAXまで絞り上げボクスターに襲いかかります。「ギャーーーンッ!!・・」ひらりひらりと軽快なステップを披露、軽くリヤをブレークしながらクリップを立ち上がって行きます。

しかし、こちらも引かない。埼玉僕星団の威信を賭け、負ける訳には行かない!ガードレールぎりぎりのライン、「カツン!」ミラーに伸びた枝の衝撃を覚えアウトぎりぎりへ・・フルブレーキ「ズダダダダ!」タイヤを軋ませ、コーナー脱出!アクセル全開!しかし、いつもの走りが通用しないっ!バックミラーに見る見る迫る不敵な虹色のバイザー・・なぜだっ!

いつもの走り、立ち上がり重視のラインでは、下りの中速コーナーの連続ではブレーキングポイントを把握出来ない。さらに、1.5車線の道の狭さと相俟って、道幅のエスケープも無い状況ではチタンマフラーの軽さも活かせず、じっと我慢の走りを余儀なくされます。「クーッ!キビシーッ!」

このようなセクションは、できる限りブレーキに足を乗せる時間を少なく、コーナーは根性で耐えます。そして、アクセルのON、OFFでリズミカルにコーナーをクリアしていきたいところ。

ミシュランパイロットスポーツのグリップに全神経を投入!奥歯がガクガクしています。しかし、スピードを乗せすぎ、立ち上がりのアクセルオンタイミングが微妙にズレます。
その時は来た!一気にフロントがブレーク、グリップ回復までの我慢の一瞬!
「くっ!アンダーッ!」
コーナー入口ならなんとか・・出口でのミスは痛い!アクセルが踏めないっ!

その隙は逃さない!痛恨のハンドリングミス!なんとアウトから一気にかぶせてきます。戦慄の一瞬!視界の脇のヘルメットが一瞬深めたバンク角の為に消え去ります。直後!バンクセンサから火花を削り、フルハングオン!前に出ます。「くーっ!」

あざ笑うかの如く、コーナー立ち上がりではウイリーをかまし、逃げ耐勢十分のTZR!ボクスターのフロントウインドにはカストロールOILの飛沫が付着、チャンバーからの排気煙は渦を巻きながら容赦なくコクピットに侵入!気を取り直し追撃体勢に入るボクスター!

もうミスはしない。心を落ち着かせ深呼吸!今度はTZRの水平にされたナンバープレート(おまえはいい歳こいて族かい!)へプレッシャーを浴びせます。

しかーし!フルバンクでの旋回スピードはボクスターの独壇場!付け入る隙を与えません。俄然マジモード、コーナー中はTZRのケツがヨコに逃げて行きます。が、TZRはフルスロットル!
な、なんと、アクセルワークでコーナー出口に強引に体勢を持っていきます。さすが「プライドONE」おまえはフレディースペンサーかっ?!
てなこんなで、竜飛岬に到着!石川さゆりの歌碑の前でクールダウン、「うーん、中年太りが敗因だな!」(笑)・・珍しく風も穏やかな津軽海峡を眺め、海峡ラーメンを口に運び帰途につきました。
以上、楽しい友人との再会報告でしたー。
いよいよ第一部も終了・・
タケシの成長を楽しんでいただけましたか?
第二部はいよいよ雨のバトルが開始という風雲急を告げる内容で、気が向いたときに連載開始いたします。乞うご期待!!


ではここから・・

F 235/35 ZR19 ・R 265/35 ZR19 のタイヤサイズを履きこんだPzeroは、素晴らしいパフォーマンスでタケシのドライビングをサポート。
RE050のような静粛さはないし、ウエット時の安定感もRE050に軍配だろう。

しかーし、ドライグリップの高さとマナーの良さは、ミシュラン社の誇るトップパフォーマンスタイヤ、
他社からこぞってリスペクトされる至高のタイヤ、パイロットスポーツ2さえも凌駕!

中速から高速コーナーは、横Gと戦い、盤石なグリップを提供。低速コーナーは、新開発のコンパウンドと、タイヤパターンで縦方向への強力なトラクションを約束。

「ふふーーん、だいぶミシュランPS2を研究し尽くしたな・・」

コーナーでの安心感はPS2は相当高いレベルである。このP ZEROはその安心感にさらに粘り気のある感じがプラスされている。
ひょっとしたら、サーキットでも好タイムを刻むことが可能なのではないだろうか・・
しかし・・引き換えにライフ面ではあまり持たないかも???

さて、コースは中低速セクションの終盤は、リズミカルに駆け抜けることのできる70R前後のコーナーと直線を繋げたコースとなっていく。
タケシは、NewBoxsterと会話を交わしながら、いまだ粗削りながら、少しずつそして探るようなドライビングを味わっていた。
ドライビングの奥深さと喜びを改めて噛みしめていた・・・

一旦は日差しが覗いた空も、今や向かう方向には低い雲が垂れこめ、今にも泣きそうな表情をみせている・・
コーナー正面に見える木々は葉が裏返るような風が起き始めていた・・
ヒューーーーー・・・

「雨になるな・・」ポツリ呟く・・

雨は当然ながらリスキーな走りを余儀なくされ、スピードレンジも落ちるだろう。
特にミドシップの場合、スライドした場合のコントロールは難易度が相当高い。
4輪ともグリップを失い滑り出してしまったら・・どのような対処も出来なくなるのだ・・

当然タケシもまた、スピードレンジを抑えつつ、湿潤路面への対応も試してみたいという衝動に駆られている自分もそこにいた・・・

しかし、なんとか、本降りになる前にこの自分に課せられたカリキュラムを終えたいものだ。まだまだドライ路面では学ぶことがたくさんあるんだ・・

このとき、タケシはまだの背後から忍び寄る影を認識するすべは無かった・・・


漆黒の森をハイスピードで駆け抜ける一台が、ひたひたとタケシの背後に迫ろうとしていた。

「ばァァァーン、バスッ!!くォーーーーーーーン!!バスッッ!」2ペダル、シフトチェンジ時特有の音を響かせながら・・・・

―続く―
「そうか・・PSMの介入は、シフトダウンでのギヤの繋がりが悪いんだ・・つまり完璧なヒール&トゥができなくなって来ているんだ。」

それは・・ブレーキペダルの踏み込む量が少くなっていることに起因していた。低中速セクションでは、きついコーナーが連続する為、当然スピードのレンジは低くなる。コーナー手前の減速ではPCCBのペダルストロークが少しで済む為、低いスピードでは右足半分がアクセルに届かないのだ。よって、回転数を合わせられなくなるのだ。
986時代Tip乗りだったタケシにとっては及びもつかないことであったのだ。

タケシはもともとサーキット上がりだけあり高速セクションを得意にしていた。
金僕団のヨウはタケシをいろいろなステージに連れて行き、バトルを重ねた。唯一タケシが負けを喫していたのが下りの低速セクションだったのだ。
ヨウはタケシによく「下りこそアクセル踏み込むのだ!」と良く言っていたのだが、その意味はわからないまま記憶の奥に放り込んでしまっていたのだ。

走るなかで覚醒した一言が「アクセルを踏め!」なのだ・・・


「そうだ・・思い出した・・」

それはだいぶ前の話だった。下りは黙ってでも車速が乗る。コーナーを逸脱しない速度コントロールさえできればそれでいいのではとずっと思っていたタケシであったが、下りではコーナー直前まではヨウのイエロー986 2.7をつつくまで追い込むのだが、立ち上がりでは必ず離されていくのだ。それはタケシが2速固定激しくタコが踊る走る下りもヨウはギヤを3速に入れ猛烈にダイブして行くのであった。ほんの短い繋ぎの直線でもなのだ。
そうすると当然、3速から2速へのシフトダウン操作が必要となるのだ・・通常その操作する空走状態を考えれば、ギヤ固定で駆け抜けられる方が速いが、コーナーとコーナーの繋ぎの部分、この長さの判断を誤るとパワーバンドから外れた高回転、やがてはリミッターに当たることとなるのだ。

タケシの本能は、ヨウの走りを完璧にトレースし始めた。下りのコーナー出口からアクセルオン。さっきと違って、早めのパワーオンはPSM介入に繋がるため、慎重なアクセルワークを駆使している。

いままで上げたことのない3速にたたき込み、車速が乗ったら思いっきりブレーキペダルを蹴飛ばす。するとどうだ、かすかに右足小指の下にアクセルペダルが当たる・・
「これだっ!」
すかさず、3速→2速への電光石火のヒール&トゥ!スポーツクロノオンによるアクセルのシビアな反応も少ないペダルストロークで行えることとなり、2速ギヤへ完璧にクラッチはシンクロ。PSMの介入は無し、「よし!」アクセルはワイドオープン!!
「うおおおおぉぉ!」

初めての感覚にタケシは絶叫する。
流れ去る景色は、地上の急降下!足元の感覚が薄くなる下りの高速エレベーター・・
「マジに胃が空中遊泳しているぜっ!」

新たなる走りの領域に飛び込むブラックボクスター・・イエローのキャリパーは燦然と輝きを増してくる。シックスポットモノブロックキャリパーは強靭な剛性を持って、セラミックの円盤を締め上げる!!
空気は逆流し、ボクスターのフロントには一瞬真空状態が現われる。
再加速の際には「ボムッ!」かすかな破裂音も聞くようになる。

湿った森の中を急降下していくボクスター、当然リヤウイングは上がっている。
下る直線!スピードがぐんぐん上がり、ウイングの両サイドから、時折ベイパーを引きながらコーナーへ・・
強烈な風を巻き起こし、緑の葉くずを剥ぎ落とす。

「くーっ!」第二次世界大戦においてドイツの誇る急降下爆撃機「スツーカ」が逆さガル翼を翻し、獲物を狙いダイブする姿と重なりあう・・

そしてどうだ、そのブレーキのストッピングGを伝達するタイヤも忘れる訳にはいかない!装着タイヤはイタリアの誇る至宝、ピレッリ社のニュージェネレーションウルトラハイパフォーマンスタイヤ。その名は 新P ZEROだっ!

-続く-

PSMの作動インジケータなど見る余裕もなく、一瞬パニくる。
この時点でもタケシはPSM介入のことは知らないのである。

PSMの介入スピードはとてつもなく速いつうか適切である。
高速道路で、特にトンネルなんかで無駄なシフトダウンで楽しむ時も回転数が合わず、
「キュ」となるとき一瞬アクセルが無反応になるのだ。

峠道でのシフトダウン・アップ時には全部ギヤをシンクロさせスキッド音皆無な完全なドライビングを行わない限り、
速くは走れないということだ。

「はぁ??」
タケシの頭の周りには土星と天使が回っている。


「トラブルかっ?」
ぶぶぶおーーん!タイヤのスライドが完全に止まったところを見計らい再びアクセルが立ち上がる。
スピードは相当落ちている。全く安全にもう車は右コーナーをクリアしてしまった。

不思議な思いは抱きつつも今のドライビングに集中し、再びペースが上がってくる。

登りの右コーナーの頂点から左へは急激な下りのコーナーへ・・

「最初の右コーナーは向きを変えるポイントはずっと奥に持って行くんだっ!」ヒューッ・・・ゴァーーーッ・・・

コーナーの頂点へは直線的に入っていくタケシ。
センターラインギリギリノーズを合わせ、頂点手前で瞬間ブレーキ、
頂点過ぎはサスが伸び、グリップしていた荷重が一旦抜ける。

「今だっ!」

ハンドルに少し乱暴ではあるが多めの舵角を与える。と くるんとコーナー中間を頂点に持つ右コーナーを、下りの入り口で制圧する。

だがしかーし・・・

下ったと思いきや、すぐ左への切り返しコークスクリューが待っているのだ!
口を尖がらせ、「ヒューッ!フーッ!」と呼吸を整える。

左側前後輪に荷重がかかってMAX状態まで待って、ショックの伸びはじめをしっかり腰で感じ、左へ操舵!
今度は全体荷重を右に移す・・・
アクセルオンで、内側タイヤにトラクションが伝達開始、しっかりと左コーナーをクリアしてしまった。

「LSDの内側車輪へのトラクションは凄い強力というわけではない。
しかし、舵角を与えながらのアクセルオンでは、明らかにLSD無しを凌ぐっ!それも安全にだっ!」

コーナリング中の左右の車輪は差動しているため、比較的荷重のかかっていない内側にパワーが逃げていくことが多い。
ただし、一般的にはボクスターの荷重配分はマス化、バランスが良いため、LSD不要論は根強い。
両輪がしっかり接地しているのでパワーの逃げ道が無いと・・・

しかしながら一般道、特に狭い峠道は路面のアンジュレーションは強いし、且つ登ったり下ったり・・
この状況であれば、荷重が片側後輪から抜けていくことも普通にあるのだ・・

攻め込んでいくと、ボクスターは弱アンダーをキープしてくれる。タイヤのスキール音が危険のシグナルとして感覚的にとらえていれば、コーナーで事故ることはまず無い。しかしここではアクセルはジッと我慢の状態が続くはず。

意図的に慣性で尻を振り、一瞬で向きを変え、両輪をきっちり接地させコーナー出口に猛ダッシュというツワモノ?いやキワモノも金僕団にもいるが・・

ボクスターにかかわらず、安全なドライビングでは、とどのつまりブレーキングが肝なのだ。

危険なのはハイスピードのままコーナーに進入し、慌ててのパニックブレーキや、
トラクションが抜けてハーフスピン状態など、
サーキットをやる人であればこの状況は手に取るようにわかるのではないだろうか?

・・・・・・・

ブレーキングは完璧にコーナー手前で完了。ハンドルの位置はクリッピングポイントに向かって回しこまれて行き、
その時はアクセルってパーシャルプラスアルファ状態でいたよな・・・

タケシの駆る987はLSDが付いているため、今までのドライビングとは趣が異なる。
コーナーのクリップまではアクセルはプラスアルファプラス1(イチ)という感覚なのだ。

アクセルを踏み込んでいくと内側車輪にもトラクションがかかっているため、リヤタイヤは外側に追いやっていく動作をするのだ。
もちろんフロントタイヤはコーナーのラインを強力なグリップで捉えて離さない。

そう、つまり、早めのアクセルオンは弱アンダーからニュートラルステアへ積極的な姿勢変化をもたらし、
コーナーを速く駆け抜けていくことを実現しているのだ。

パワーオーバーステアになるときはPSMが当然介入していくこととなる。
PSMオンのまま介入させないで走ることが一番安全で速い走りを実現することになるのだ。
うむむむ・・凄いぞ・・これがポルシェなのか・・

ボクスターは標高400mの山の稜線を走っている。木々の間からところどころ海が見えている。

シャーッ!・・シャッ!

上空は曇ったままだが、湿った空気は心地よい。時折水たまりを通過する音も心地よい。
視界が開けた稜線が終わり、なだらかな下りが始まる。深い森の中にボクスターは吸い込まれて行く。

ここからは中・低速ゾーンに入っていくのだ。

逆カント、湿潤路面、PCCBの効果はこの場面でも強烈だ。まずは強力な制動力はもちろんだが何といっても軽量化がこれほど効くのかと思うのだ。
軽いと言われる19インチカレラS2ホイール。でも19インチだ、それなりの重量はあるはずなのだ。
さらにタイヤのハイトは低く、荒れた舗装路では、突き上げがバカスカくるものだが、しんなりといなして通過していく。
S字の切り返しでは、ロータスエリーゼを思い起こす程の軽さなのだ・・そう、プラス、ハンドルがどっしりしているのにだ・・

これは、やはりオープンカーという屋根部分の荷重が極小というのも効いてくるのだがそれを補って余りある感動の走りを体験できるのだ。

短い直線でも、車速を伸ばす為、4速までたたき込み、すぐさま3速→2速とヒール&トゥ!コーナーを立ち上がり3速めいっぱい引っ張り上げるっ!エンジンはハイトーンのむせび泣きをみせるっ!・・「ああっヨシコ!」ガクッ(汗)

この直噴エンジン・・鰐さんよりも馬力は10PSほど低く設定されてはいるものの、感心するのはトルクの出方だ。この中間速度域のセクション、速度、ギヤ位置ではホントにおいしいトルクバンドを提供、多少のミスをカバーしてくれている。

しかし・・タケシはこの低中速セクションになったとたん、ドライビングミスが目立ってくるようになる。

前半の高速セクションでの痛恨のスライドを許したあとは、ハイペースでのシフトタイミングも完璧だった。
そのセオリーのまま、このセクションに飛び込んできたのだが・・・

PSMの介入が増えたのだ、つまり、アクセルが吹けなくなるのだ・・
PSMをオフすることは簡単だが、今はOFFにはしない!

「なにが・・何が原因なのだっ?!どうすれば!」

タケシは冷静に自分のドライビングを分析していた。
なにか、違和感をかんじるのだ・・・
「そーかっ!これだっ!」
タケシはスポーツクロノのスイッチをいれた。

-続く-
決めたっ!決断は後者を選択!PCCBの威力、繋がるコーナーはLSDの実力を見せてもらおうじゃないのっ!

・・・・・・

―2年前―
タケシは同じコースを埼金団のツーリングで訪れていた。当時タケシは銀色の986S Tipに乗っていた。先頭を走る黄色素僕2.7 5Fを駆るヨウ団長を追いかけるように、ツーリングでは団長の後を走ることが多い。
コーナー手前では直線部分でヨウ団長は二回ブレーキランプを点灯させる。
五回ならばアイシテルのサインなのだが・・・

一回目のブレーキランプの点灯でコーナーのRがわかるよう後方にシグナルを出してくれていた。

短ければ高速コーナー、長ければヘアピンだ。とか・・

二回目の点灯は、思いっきりのブレーキなので、後方に位置する車は、安全マージンをとりながらライントレースでコーナーをクリアできるのだ。
また、落ち着いて団長車の動きを観察できる人気のギャラリーポジションでもあるのだ。それもあるが何といっても、この団体ではツーリング中の事故が皆無なことも自慢であるのだ。

その時のツーリングで、この段差を駆け抜ける団長車の動きが判らなかったタケシは休憩時にヨウ団長に話しかけた。
エラの張ったごつい体、ポマード付きのリーゼント、鋭い眼光、赤黒の横縞シャツではあるが、話し方は少しオカマっぽいのが特徴だった。

「アーラ、タケシさ~ん・・今日はどうでしたか?」

「ヨウさん、一発目の直線からはいる右コーナー、掘れた段差がありましたよね。あそこって、いきなり団長向き変わってヤバかったっすね。」

「フフフ・・そーぉよ。私だってびっくりしたわよ。
あれわねぇ、段差の直前で思いっきりブレーキングするのよ~。
ほんで、段差入る直前でブレーキを抜くのよ。
そうすると、車のノーズの高さはそのままで、サスが伸びるから段差のくぼみに柔らかく入れるでしょ。
でもそのときは、サスが伸びきってあまりタイヤのグリップが良くないから、車の向きを変えるチャンスなの。

だーかーらっ♪段差に入るときは少し舵当てて、リヤタイヤがくぼみに入る寸前にさらにブレーキをチョンがけするの。
あとはアクセルひと踏みね。そうすれば、一瞬で向きが変わってダッシュできるのーよー。」

と楽しそうな笑顔を見せるヨウ団長・・このひと、ちょっとやばいわ・・・・

「全く理解できません!!」キッパリとタケシは不機嫌さを装う

「タケシさん、あそこは段差手前のブレーキングがセオリーだわよ。」としっかりと目を見据えて話しかけたのだった。

いつもの柔和な表情に戻り、愛想を崩しながら、薄笑いを浮かべて、
「私も飛び越えてのブレーキも考えたんだけどね・・ブレーキする距離としては短いから難しすぎるわぁ~・・あっはっはっ!完全にじこ~る~わ~よ~♪」レースの縁取りピンクのタオルハンカチを口にあてて、豪快な笑い声。周囲に響き、そのうち雑談の中に紛れてしまった。

・・・・・・さてさて、話は今に戻って・・・・・

ブレーキングは段差を飛び越えてからの一瞬に賭ける。
4輪がフルバンプ状態は且つ最大グリップ時でもある。
瞬速のブレーキを一発で決め、少し車に舵角さえつけば、ガードレール直前でもアクセルONでパワーオーバーステア状態になるばずだっ!・・マジか(汗)

「ふ・ん!」口を真一文字に結び、次の動作を迎えるタケシ。
エンジン回転数は高めにギヤはセレクトし段差をそのままの速度で進入・・
ロードノイズは一瞬消えた・・
タイヤの影とタイヤそのものが離れるっ・・・フウッ・・

ダウッ!!ザスッ!

着地と同時にフルブレーキンッ!!グォリグォリガガ!ここまでは絶対ハンドルは正立だっ!
「げふっ!内臓がとびだしそうだぜっ!」

ギリギリとシートベルトに圧迫される。
急激なアクセル解放は、次のブレーキ操作開始をこのボクスターは予見、ブレーキプレチャージ機能が働く。
ABSの働きでここからは舵角をあてても車の向きは変わる。
しかし、なんと、一瞬のABS動作音だけで急激に減速、
同時にコーナリングフォースが立ち上がるっ!くくっ・・ノーズは綺麗に右方向のインに向かっていく・・・
「いけるっ!」アクセルオン!! ギャッ!
「オレのシミュレートでは左側リヤタイヤは、ガードレールギリギリなので路肩の雨交じりの土埃が味方し、パワーでリヤスライドを誘発!フロントタイヤは花道に乗っかってるからグリップさえ約束されていれば、この勝負は勝ったも同然!」ニヤリ!

っとその瞬間!「う・・うん??」
「あ・アクセルが・・ふ・フケナイ・・」

-続く-

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