彼が初めて徳島の地を踏んだのは、2015年のこと。
当時は
「体はでかいがハートはチキン」なんて言われるほど、臆病で慎重だったとか。
そんなJ0044号
この鳴門で、伴侶となる「あさひママ」J0480号と出逢いました。
若かりし頃のJ0480号「あさひ」と、J0044号
親父が仲間から写真パネルを譲り受けて部屋に放置してました。当然、親父はその写真の「意味」が解ってませんでしたし、私もその頃はコウノトリの姿形すらよくわかってませんでしたので、仮に貰ったときに見ても、その意味と価値は解らなかったでしょう。今だからこそ、その写真の意味は即座に解り、仰天した次第です。
しかし、彼ら夫婦が最初に巣作りをしようとしたのが
あろうことか
四国電力 鳴門変電所
よんでん「すいません撤去させてください、何でもしますから;;」
文科省「ん?今なんでもするって言ったよね?」
ただでは撤去できないんです。相手は国指定特別天然記念物。
現状変更の申請手続きを文科省(要は自治体の教育委員会とか)に通さなきゃあかんのです。
とーちゃん
「……巣がないんだが。何だ?ここに造ってはいかんというのか?
やれやれ。ニンゲンとは勝手な生き物だな」
お前が言うなし。
「是非もない。ならばここではどうだ」
四国電力 大麻町萩原 字電柱
(今年の様子)
よんでん「えっ…それだけは…( ◞´;௰;`)◞」
結局、とうとうバイパス工事を行う羽目になりました。
コウノトリに占拠されたグリッドは、現在、通電なしとなっています。
とーちゃん粘り勝ち。
哀れ四国電力w
しかし、私が出会うまでには曲折あったようで
・バイパス工事の翌日台風で巣が飛んだ
・夫婦喧嘩で数か月別居
・縒りを戻して再び繁殖チャレンジ
そのころ私は、彼らペアが鳴門市に住んでいることまでは解ってましたが
何を思ったか「大麻」と「里浦」を勘違いしていたのです。
今でこそ生態を理解しているので激しくツッコめますが、鳴門きんとき畑にコウノトリが住めるわきゃありません。コウノトリは「水鳥」ですw
近所在住だと知ったのは、月に何度も往来するほど身近な
県道41号線のいつもの沿線の風景に
アフロヘアーみたいな奇ッ怪な電柱があることに気付いた時でしたw
しかも、その上になんか背の高いのが立ってるんです。いくつも。
ああ!
これか!
これが「コウノトリ」なのか!!
灯台下暗し。自宅から、わずか徒歩30分ほどの場所でした。
さらにその数日後
とんでもない光景に出くわした。
なんと、シラサギサイズには程遠い巨大な水鳥が
県道沿いの田んぼで
普通に歩き回ってるんです。
親鳥です。
えっ
こんなに堂々と、車がバンバン行き交う県道のすぐ脇で行動するもんなの?!
ていうか大丈夫なのか、撥ねたら大事でないのか、それは(
まだ、コウノトリはシラサギ並みに臆病でデリケートなものであるという概念が私を支配してました。
初めてその勇姿を真っ向から撮ったのは、その翌日。
そりゃもう戦々恐々と、木陰から、100mほども離れて撮ってました。
それでも、初めて、今まさに目の前で活動するその姿を、じっくり確認できたのです。
感動でした。
尚、背景が県道41号本道。道路から普通に見れる状態。
さて、ターニングポイントが訪れます。
忘れもしません、去年6月某日。
前日の戦訓から、35mm換算400mm程度では、まるで届かない。
なるほど鳥撮りの標準レンズは大型相手で600mmスタートと言われるのも頷けました。鉄道とは、世界が違います。
「それともお前、EF1200mm/5.6L USMとか買えるようになって達人にでもなるのを待ってから撮るつもりか?気の長げェ話だな」
「そ…そんなつもりはねえッ!!」
「だったら。今手持ちの駒で遣り繰りするしかねェだろ?」
自宅にある最大最高の望遠、Ai Nikkor ED 300/4.5(IF)×Tc-14、35mm換算で600mm少々、しかもMFレンズ。
これが、当時の時点で用意し得た、最大の装備です。
田園地帯に、なんかカメラマンが大勢たむろってます。
その先に、とーちゃんが居ます。
近い。
横切ってそこへ行くと、とーちゃんのすぐ真横を通ることになるので顰蹙ものかな?とも思ったり
私自身、人と群れるのがあまり好きではないというのもあって
違う方位から、地形の陰に隠れて狙ってました。
画面左端の盛り土みたいなところ
そしたら。
とーちゃんどんどん寄ってきますww
最初見つけた時点で目測100m切ってたと思いますが
飛んだり、農道横断したりしながら
どんどん自分のいるほうへ進んできますw
そしてとうとう
茂みを割って、ぬっと現れました。
私の目の前、10m弱の場所にwww
…わ、私動いてないからね?とーちゃんビックリしないでね??
「…この先は水田にあらず…か」
杞憂でした。
ビックリしてつっ立ってるだけの私など、意にも介しませんw
近くを自動車が通ろうが、へのへのかっぱ。
すごいビギナーズラックですね、手が震えてましたw
とーちゃんの方からずかずか歩いてきたので、お咎めを受ける筋合いもありません。
向こうの撮影者の方々(たぶん、今じゃ見知ったいつもの面々でしょうけどw)にも笑われてたとおもいますw
そして、撮れた写真もさることながら
レンズを通すことなく、こんなにも間近で見たコウノトリは
圧倒されるほどに大きく
凛々しく、精悍で
文句なしにカッコよかったんです。
二度あることは三度ある。
翌々日、ついに私の最終決戦兵器
「SAL70200G」を投入しました。
鳥相手じゃ、その驚異の画質はともかく、リーチ的には近場向けの小型軽兵装に過ぎませんが
「彼は、人間を屁とも思っていない。予想される進路上でおとなしく置物のようにして待っていれば、何処かで必ず向こうから近くへ寄ってくる局面が来る、目の前に来る」
そう踏んだわけです。
かくして予想は的中し
彼のキャラクターを決定付ける一枚が、撮れました。
「何用か、ニンゲン」
明らかに人間を認識して見ては来るんですが、全く物怖じすらありません。
その様子は「性格:高慢 人間に対するスタンス:高」
あたかも、自分の方が高次の存在として振る舞うかのようでした。
とーちゃん…かっこいい…!!・:*(*'ω'*人)*:・
この日は、夕方にも出会いました。こんなに簡単にエンカウントするものだとは思いませんでした。白鷺アオサギレベルでエンカウントしますwww
なにしろ居たのは道端ですのでw
(旧・県道12号 撫養街道)
とっぷりと夕日が暮れるまで、ずっと傍に居ました。
夕焼け空へ向かって、我が家へと飛び立つとーちゃん。
この数日間が、去年度の私の活動を決定付けたのでした。
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とーちゃんは、徳島在住のコウノトリ旅団にあって
飛び抜けた巨躯を誇る。文句なしに一番デカい。
あさひママと仲睦まじいツーショット、
平均的なあさひママに比べて、如何に堂々たる体躯かが一目瞭然。
その巨大な翼は、緑の田園を縦横無尽に舞う。
翼スパン2m以上。目の前とか頭上を飛ぶと「うおおおお!!」ってなりますw
ただでさえでかい上に、首を一直線に伸ばして力強く滑空するさまは
大型旅客機のような優雅さと迫力を感じます。
8/10
市道わきのレンコン畑で一家団欒。もはや距離を取るとかそういうレベルじゃない。
車が通ろうが人が居ようがお構いなしw
れん君「やあ、君がとうちゃんの言ってたニンゲンってやつなのかい?僕は「蓮」、よろしくね!」
あさちゃん
「物好きな人たちもいたものよねー…」
まだ、あさちゃんは自らの運命を知りません。
「…また来たのか。懲りないな、ニンゲン」
農道を堂々闊歩する国指定特別天然記念物。
身長110cm以上、なんかもうスケール感がおかしい光景w
「ふんッ」
驚いて飛び出してきたイナゴをダイレクトキャッチ。巨体にもかかわらず、その動きは敏捷だ。
「とうちゃーん、おいらも行くよぅ」
「まだまだ修行が足りんぞ、れん」
この日は
たからくんが鳴門を去ってしまった日でした。
この家族を護り、世継ぎを育てるために
父親は、いっさい手段を選ばず、まさに修羅となって力を振るっていたわけです。
あらぶるとうちゃん。
それは、一大営巣地「豊岡」を去り、この「鳴門」の地を拠点として切り拓いた、フロンティアの厳しさだったのかもしれません。
それは、同じ種族のライバルに対してだけではありません。
残酷なようですが、彼らは生態系の頂点に位置する捕食獣。
ウシガエルとか平気でシメて喰います。そのままじゃ「丸呑み」スタイルである彼らの食事法では呑み込めないので、なんと嘴(くちばし)で何分もしばき倒して全身の骨を打ち砕いてから喰います。
閲覧は自己責任でお願いします↓
「残酷?
君らがそれを口にするかね、ニンゲン。 生きるとはそういうことだ。
君らも生きるために家畜を飼育し、屠殺したものを大量に食しているではないか。
同じことだ。
これを残酷と言わずして何と言う。違うか?ニンゲン。」
しかし
その猛々しい姿は、家族から見れば
まぎれもなく「勇者」そのものだったと思います。
「子供や家族のためによく働く」と公式HPでも称賛される、とーちゃん。
一家の大黒柱として、これ以上ない力強さで責務を果たしたのです。
邪魔者を追い立てまくった後、ようやく落ち着きを取り戻し
徳島に二両だけ、赤い国鉄キハをバックにレンコン畑を活動する姿。
ここが徳島鳴門であることを示す、これ以上ない情景だと思います。
鉄としては、絶対に押さえておきたかった絵でした。
(鉄道とコウノトリは、今もずっと私の狙い続けるテーマとなっています)
やがて、寒さも厳しくなってきた11月末
翌年の繁殖に向けて、巣の再建が始まりました…!
見事、この巣は「定住地」となったのです。
これで、来期は約束されました。
…年は明けて。
今年もまた、二羽の子供たちが見事巣立ちました。
「もも」ちゃん、「うた」ちゃん。双子の姉妹です・:*(*'ω'*人)*:・
かいがいしく面倒を見る、強くて優しいとーちゃん。
「「わーい(がぶがぶー)」」
「こらこら、お前たち、順番を守りなさい」
力強い翼を大空に羽ばたかせ、娘達のために田園を駆け回ります。
今日も、明日も…
鳴門の勇者・J0044号、故郷豊岡を旅立ってはや数年。
コウノトリ野生復帰開始以来、初めて豊岡以外での自力繁殖を成功させた「開拓者」。
今年も、ここに健在なり。
「何だ、ニンゲン。言っておくが娘ならやらんぞ」