
【前回の続き】
もらったスーパーカーカードの裏にある諸元表を見ると、「コルベット・スティングレイ」という車らしい。再度、表のコルベット写真をじっくり見るとコークボトルデザインの流れるようなラインに思わず目を奪われた。
親父のデボネアや興味がなくても知っていたクンタッシのような直線的な車か、初代ビートルや911のような丸い車しか知らなかった僕にとって、そのうねるような横姿は衝撃だった(クンタッシLP400が直線でなく曲面で構築された美しいデザインと理解するには、その後10年が必要だった)。
「これがスーパーカーか……」衝撃を受けた僕は、その日塾に行く前に本屋で、バイブル「サーキットの狼」の単行本を購入する。
確か当時、怪物マシン編の10巻までリリースされていた。人気がピークだったせいか、近所の本屋ではすべての巻がそろっておらず、一番若い巻だった3巻を何も考えずに買ったのだ(全くの余談だが、この本屋で後にバイトすることになる)。
そしてドキドキしながら、ページをめくった最初の中表紙に、コルベットよりさらに流麗な車の絵が描かれていた。コルベットと同じように曲面で構成ながら車高が薄く絶妙なラインのボディ、睫毛のような装飾が付いたヘッドランプ、凝った形のホイール……。
「かっこいい……。いや、『美しい』んだ」
僕らの世代は、生まれる前に新幹線は通っていたし、赤ん坊のときにアポロは月に行っていた。物心つくころには「マジンガーZ」も「コンバトラーV」も「仮面ライダーV3」も存在しており、小学生の低学年の時点で既に「かっこいい」ものは多数身近にあったのだ。
そして世の中に「かっこいい」以上のものが存在することが分かり始めていた小学生中学年の僕に、「狼」の中表紙に描かれたその一風変わったスーパーカーは初めて「美しい」ものがあることを教えてくれたのだ。
慌ててそのクルマの写真が載ったスーパーカー本を再び本屋に買いに走った。
インパクトのクンタッシも、最速のBBも、実力の930ターボも、そのクルマの持つ「美しさ」の前では、「かっこいい」だけの存在でしかなかった。
「かっこいい」ものはこれらほかのスーパーカーだけでなく、玩具やTV漫画の中でいくらでもある。でもクラシック音楽にも、絵画にも、寺院にも、満天の星空にも…おおよそ「美」に触れたことのなかった小学生の僕のどこか深い場所に、そのクルマは人生最初の「美しい」をこれでもかとえぐり込んだ。30年以上も化膿し続けるほどに。
その車の名はランボルギーニ・ミウラという。
このクルマのイグニッションキーを初めて捻る日のちょうど四半世紀(25年)前のことだった。
Posted at 2010/04/19 21:56:00 | |
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ミウラ | クルマ