取引先のご厚意で、信濃大町~扇沢~黒部ダム~黒四発電所~宇奈月の通り抜けにご招待いただきました。
通常一般客は足を踏み入れることの出来ない場所もあり国内屈指の秘境。記憶が薄れないうちに書き記しておきたいと思います。
出発前に、木本正次著「黒部の太陽」と吉村昭著「高熱隧道」を読んで予行演習しておきます。
縁あって、もし出かけられる場合、上記2冊を読んでおけば楽しみが倍増すると思います。

旅は米原駅から。雨の中お昼前の東京行きひかりで名古屋に向かいます。

名古屋から松本までは特急しなのに乗車。

車内でお昼ご飯。名古屋駅の売店で手配したうなぎひつまぶし弁当とスーパードライ。
昼間からのスーパードライは美味い( ̄~ ̄)
食後にウトウトしていたら松本に到着。

松本駅からはチャーターされたジャンボタクシーでホテルへ。松本駅も冷たい雨です。

今回お世話になったのは、標高1113mにある「ANA ホリデイ・インリゾート 信濃大町くろよん」。改装済みのホテルで施設、客室はピカピカ。露天風呂も最高でした。
さすがに高地のため木々の紅葉もちょっと早め。
入浴後の宴会を終え、明日の通り抜けに備えて早々に床につきました。

翌朝7時20分にホテルを出発。ホテル玄関前の温度計は8℃。天気は曇。黒部ダムでは雨が降らなければいいんですが…
マイクロバスで関電トンネル扇沢駅に向かいます。扇沢駅に向かう道路は黒部ダム建設時に、大町駅から扇沢に工事機材や車両を運搬するために造られたもので、現在は長野県が管轄する主要地方道になっています。すでに小説の中身ですね。

20分ほどで標高1433mの関電トンネル扇沢駅に到着。山特有のガスが発生して眺望はゼロ。

待合のモニターでは、黒部ダムの気温7.9℃。気温は変わりませんが、パッチとババシャツ、ダウンを着込んで防寒対策です。

8時発の電気バスで、小説でおなじみの関電トンネルを抜け黒部ダムに向かいます。以前はバス上部に給電用架線があり、パンダグラフから電気を取り入れるトローリーバスが走行していました。

電気バスへは、天井の充電器にパンダグラフで充電。

平日の始発バスなので、乗客は我々のグループ9名と他のグループ3名のみ。バス車内はそこらを走るバスと何ら変わりません。

この地図は、黒部水系を南側を上部にしたもの。上が長野県、下が富山県、日本海となります。出発地点はこの地図で左上になります。

いよいよ電気バスが発車。8時発は2台。

乗車時間は20分ほど。
まさに「黒部の太陽」の舞台。80m掘り進むのに7ヶ月を要した大破砕帯も何事も無かったように通過しました。車窓からは破砕帯の看板と今も溢れ出る地下水が確認できました。1車線のトンネルですが、途中ですれ違いスペースがあり、鉄道として運行されていたトローリーバス時代の慣行でダム方面からのバスと通札交換を実施してました

黒部ダム駅に到着。

乗車してきた電気バス。

山の下にある駅構内。

我々のグループは一般観光客と違うコースをたどるため、ここからはヘルメットを着用します。

ダムの展望台まで220段の階段を上ります。階段の中間地点にはひと休みできる踊り場があり、関電トンネル内の破砕帯から溢れ出る地下水が引かれ、飲料水として飲めるようになっています。ちょうど空になりかけていたお茶のペットボトルに水を充填!

もう少しがんばれば、眼前は雄大な黒部ダムと黒部湖。
観光放水は終了していて写真でみる放水は確認出来ず…
でも、大量の水を堰きとめる巨大な構造物には感嘆。懸念していた雨も降らず、雲の間からは青空も。
神様ありがとう(^人^)

展望台からの眺め。木々の紅葉が癒してくれます。

当日の放水は諦めてましたが、何と水位調整のための放水が実施されるとのこと。放送での注意喚起があり10分ほど待つと放水バルブからちょろちょろと水が出てきて、あっという間に壮大な放水が開始されました。写真の風景とダイナミックさに圧倒されます。
タイミングよく放水が見られて本当によかったです。

ここからは、一般観光客は立ち入れないエリア。今回は、ダム堰堤の中も案内して頂けました。
ダム建設時に使用されていたもので、展望台横の柵外に展示されているコンクリートバケットの奥に踏み入れることの無いトンネルが見え、中に入っていきます。トンネル内には堰堤内に繋がる扉があり、中はさらに長い通路が。少し歩くと厳重な鉄柵があり、その奥にエレベーターがあります。今回はこのエレベーターで下に下りました。

エレベーターに乗り、下の階へ。更に奥に進んで行きます。堰堤内の点検通路は総延長10kmはあるそうです。

この四角の穴はダムのコンクリートと岩盤の境目を見るためのもの。
もう少し歩いたところで安全帯(命綱)の着用を指示されます。

何故かといえば、今回は堰堤内から外のキャットウォーク(点検通路)に行くためです。

ドアを開け、外に出ると…

むっちゃ高い!足がすくみます。

足下には放水バルブ。高所恐怖症ではありませんが、安全帯を装着していても怖かった~
堰堤内に戻り、堰堤傾き監視やコンクリート強度テストサイト等の説明を受け内部の見学を終え来た通路を戻ります。

コンクリートバケットの見えてきました。

展望台から堰堤に下ります。
発電用の水を蓄えたダムを間近に。

堰堤中央部まで歩きました。放水側は放水による気流で強風です。

きれいな紅葉。

黒部ダムの石碑。この左手には管理事務所とダム建設時に殉職された方の慰霊碑があります。

堰堤の散策を終えたら、いよいよ黒四発電所への移動。黒部ダム駅に戻り、トンネル内をちょっと歩きます。

少し歩くと、今度は関電トンネルではなく、黒四発電所に向かう黒部トンネルを走るバスが待機しています。このバスに乗り、インクラインのある作廊に向かいます。乗車時間は30分ほど。掘削時の案内等がスピーカーから流れていました。

途中でタル沢の展望所に。

横孔を歩き、展望所へ。

トンネル内の湧水が黒部川に向け流れ落ちています。

残念ながら雨が降り続きガスも発生していました。

本来なら剣岳や雪渓が見られるようですが、残念ながら何も見えませんでした。

タル沢展望所に掲示されていた案内板

横孔を歩きバスに戻ります。

しばらくバスに揺られると標高1,325mのインクライン乗り場に到着。

このインクラインは黒四発電所に資機材を運搬するのが主目的に設置されているもので、写真にある客室キャビンはあくまでも仮設。天井クレーンで取り外しが出来るようになっています。

インクラインは距離が815m。勾配は34度で白馬ジャンプ台くらいだそうです。標高1,325mの上部駅から865mの下部駅まで20分かけて移動します。

壁面には案内板と

時刻表。時刻表に基づき運行されているのが不思議に思います。

いよいよ発車。

下は確認できません。

非常時の対処方法等のビデオを見ていたら中間地点ですれ違い。

傾斜が分かるようにトンネル壁を撮影するもわかりにくいです。

キャビン内の説明図を見た方が分かり易いです。

そうこうしてる間に下部駅に到着。

黒四発電所への案内看板

トンネル内を徒歩で少し進みます。

関西電力株式会社黒部川第四発電所に到着。

レセプションルームで黒部ダム、第四発電用の開発経緯や工事時のプレゼンを聞きます。
先人達の思いを今に伝えるくろよんスピリットという言葉にちょっとウルッと。

発電所の心臓部。発電機が4台並んでいます。東芝製と日立製が2台ずつで335,000kwの電力を黒部ダムから導水管を通ってくる水力で発電。
水車の下まで15mあるのでオーバーホール時に吊り代を稼ぐため天井も高くなっています。
当日はメンテナンス中で発電機は稼働していませんでした。

同じフロアに展示されているドイツ製ベルトン水車。ステンレスの鋳物です。水車の重量は12tとのこと。

発電機本体部分

発電機と水車をつなぐカップリング部分。100分の1の精度で組み付けられています。稼動中でもこの部分は見学可能らしいです。

重電メーカーはあっちこっちと合併してますね。

何段も重なったケーブルラック。大阪まで繋がる制御用ケーブルが満載です。今なら光ケーブル何本かで対応出来るそうです。

発電所の制御室。黒四発電所は現在は無人で大阪中之島の制御所で遠隔操作しているそうです。

昼食後、応接室を見学。紅白歌合戦で中島みゆきがここで歌ったことはご存知かと思いますが、写真がいっぱい展示してました。
ブラタモリの色紙が展示されていたので一枚パチリ。
ゆっくりと…は出来ず、発電所はそこそこで退出します。
その後に乗車する上部専用軌道やトロッコ電車の時刻がきっちり決まっているためです。

上部専用軌道の黒部川第四発電所前駅

時刻表と路線図。地下の専用軌道までもが定時運行されているのがすばらしい。

発電所前から宇奈月方面をパチリ。

上部専用軌道のバッテリー機関車

機関車にも関電マーク

運転席は前を向かず横を向いています。上り下りとも対応するためらしい。
このバッテリー機関車につながれた小さな客車に乗り、欅平竪坑エレベーター上部駅を目指します。
途中紅白歌合戦で中島みゆきが地上の星を歌った場所を通過して、仙人谷に向かいます。

上部専用軌道仙人谷駅

仙人谷ダム上のなんたら滝。
名前忘れたー

昭和初期に黒部川第三発電所の水源として築かれた仙人谷ダム。

上部専用軌道の説明

仙人谷の標高は859m

全体ルート案内看板。
仙人谷の次はいよいよ欅平。

仙人谷を出発するとまたトンネルで、硫黄の匂いがしてきます。吉村昭著の高熱隧道の舞台です。

トンネル内は岩盤を素掘りした痕跡が見られます。

岩盤の表面温度は今でも40℃を超え、車窓からも岩盤に湯の花が浮かび上がっているのが確認できます。
トンネル掘削時には岩盤温度が160℃まで上がり、黒部川の雪解け水をポンプで送り、直接作業員にかけて掘り進んだようです。
当時のダイナマイトは40℃で自然発火したそうなので、青竹でダイナマイトを包んで対応したそうです。
どちらにせよ現代では考えられない過酷な現場だったことがわかります。

欅平上部駅に到着。

標高は800m

欅平上部駅には展望台があります。

高熱隧道掘削時に志合谷の作業員宿舎が泡雪崩で吹き飛ばされぶつかった斜面を見られます。詳しくは高熱隧道でご確認を!

欅平上部駅から下部駅の標高差は200m
人荷兼用エレベーターで下部駅まで移動します。エレベーター内には貨物車がそのまま入れるようにレールも敷設されています。峡谷鉄道を上ってきた貨車を専用軌道で発電所まで運搬出来る仕組みになっているんですね。

エレベーターは昭和初期に設置されたものでアメリカのオーチス製。当時の日本の技術力では製造不可だったそう。

エレベーターを下りれば…

欅平下部の黒部峡谷鉄道乗り場

専用客車がスタンバイしてます。
これに揺られてトロッコ欅平駅に向かいます。

欅平駅に到着。ここからは一般観光客と同じ列車に連結されて宇奈月駅へ。
一度降車してヘルメットを脱ぎ、駅の外まで行ってみました。

駅構内に高熱隧道を書かれた吉村昭氏の万年筆が展示されてます。

欅平駅

駅前の展望所

黒部峡谷鉄道の電気機関車

専用客車に乗車して宇奈月へ。
1時間半弱かかります。

途中関西電力の発電所やダムが点在してます。近代日本の水力電源開発の足跡を感じ、黒部川の急流を見ながらトロッコに揺られているとついついウトウト…

気付けば宇奈月駅に到着です。標高226m

宇奈月駅前にある黒部川電気記念館にも立ち寄り。黒部峡谷に設置されていた日電歩道が再現されています。
足下は崖で100mに急流。想像しただけでも足がすくみます。
この通路で機材を運搬したなんて想像できません。

電気記念館を出て帰途につきます。北陸新幹線黒部宇奈月温泉駅。標高3.3m

はくたか号にて金沢へ

金沢駅でお弁当とビールを買い込み…
標高9.9m

名古屋行きしらさぎ号に乗車

車内で夕食。with宇奈月ビール

米原に到着。
今回の黒部ツアーはこれにて終了です。普段絶対に見ることのないところを見学させてもらい、本当にいい体験ができました。
ご招待いただいた○○社様、関西電力様、ご案内者様、ご同行者様本当にありがとうございました。
くろよんスピリット、日本の誇りを十分に堪能できました。また機会があればぜひ訪れたいです。
長いブログになりましたが最後までお読みいただきありがとうございました。