株式市場でジャスダック上場の中堅出版社、幻冬舎のMBO(経営陣が参加する買収)の行方が注目を集めている。
見城徹社長らによる買収計画に、投資ファンドの「イザベル・リミテッド」が対抗。昨年12月末までに見城氏側が一般株主から発行済み株式数の58%の買い取りにこぎ着ける一方、イザベルも市場で株式を買い進め、1月20日提出の大量保有報告書によると総議決権の37.48%を握った。
<価格決定に一石>
イザベルは幻冬舎がMBOを発表した昨年10月29日から約2週間後に租税回避地の英領ケイマン諸島に設立された。
イザベルの登場で、見城氏側は当初22万円だったTOB(株式公開買い付け)価格を24万8,300円に引き上げるなど計画の修正を迫られた。
今後の焦点は今月15日に幻冬舎が予定する臨時株主総会。イザベルが反対に回れば、MBO計画が暗礁に乗り上げる可能性もある。
幻冬舎への市場の関心は、イザベルがMBOの買い取り価格を巡る議論に一石を投じた点にもある。
見城氏側が提示した当初のTOB価格は直前株価(14万6千円)に51%上乗せした水準。修正後にはさらに13%上乗せした。
だが、それでも帳簿上の企業価値である1株純資産(37万6千円、昨年9月末)を大幅に下回る。計算上では、買い付け後に会社を解散すると1株当たり13万円近く利益が出る水準だ。
大半の株主がMBOに伴う株式買い取りに応じるのは、上場廃止になれば市場で売却できず、換金には当該企業に改めて買い取りを請求せざるを得なくなるためだ。
買収側は直前の株価にプレミアム(上乗せ幅)を付けて買い取り価格を提示するので、市場で売るよりも有利との判断も働く。
<司法での判例も>
だが買い付け価格より高い株価で買った人など、MBOに応じない株主もいる。こうした株主が訴訟に踏み切った事例がある。
焼き肉店「牛角」を展開するレックス・ホールディングスが2006年に実施したMBOでは東京高裁がMBO価格(23万円)を47%上回る約33万7,000円の買い取り価格を決定。
歯磨き製品大手のサンスターのMBOに対しては、大阪高裁が09年9月にMBO価格を29%上回る840円の買い取り価格を決めた。
司法はともに株主の主張を一定程度認めた。
野村証券金融経済研究所の調査では、MBOが日本で本格化した05年から07年までの平均プレミアムは市場価格に対しおおむね20%前後で推移。これが07年半ば以降に上昇して09年1~3月期は約50%となった。
司法の判断が「企業にプレミアムへの配慮を高めた」(野村証券の西山賢吾シニアストラテジスト)。
だが08年秋のリーマン・ショック後は株主の権利意識が高い外国人投資家の存在感が薄れたことなどで、09~10年は20~30%程度に逆戻りした。
3日に増田宗昭社長によるMBOを発表したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。00年の東証マザーズ上場時と03年の公募増資で計約70億円を調達した。CCCは3日に直近株価より約3割高い買い取り価格(600円)を提示したが、過去5年以内に同社株を買った投資家は必ずしも利益が出ない。
MBOのプレミアムを大きくすると、買収資金の負担が増し、経営改革の足かせになりかねない。自社の株価が過小に評価されていると判断する企業にとって、MBOによる非公開化は経営の選択肢。
だが株価上昇などに期待しながら、MBOで株式売却に応じざるを得ない多くの株主への適正な対価を探ることが課題になる。
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企業動向(その他) | 日記
Posted at
2011/02/07 21:56:52