
大学時代の友人が1Mクーペを手に入れてはしゃいでいたので、出張で近所に行ったついでに突撃訪問して、厚かましくも運転させてくれるよう頼んだのですね。彼とは長い間同じ研究室で切磋琢磨した仲で、学会で遠征する度にご当地のフーターズで一緒にふざけまくった仲でもあり、更に彼の過去の恋愛相談という名目の愚痴に散々付き合わされたりもした仲なので、慣らしがやっと終わった所なのに・・・と渋る彼に「お前のワイフにあの話をしても良いのか?」と尋ねると、あっさりお願いを聞いてくれました。うん、やはり持つべき物は素直な友達ですね。
まあ彼の話は置いといて、車の話をしましょう。
この1Mクーペですが、現行のMシリーズの中で一番価格が安く、非常に高いバランスを持つと評判のM3と足回りを共有しつつ、その短いホイールベースと軽い車重のお陰で俊敏な動きを可能とさせるパッケージングがどうたらこうたら・・・と、かなり良さそうな前評判が広まっていました。
しかし、それに反して僕の1Mクーペに対する印象は少し複雑なもので。数年前に乗っていた135iと基本的には同じN54を使っている=ガラスの燃料ポンプを持っているという点、そして1シリーズのシャシーにM3の足回りを足して、更にZ4等の35iS用エンジンを引っ張ってきた、喩えるなら昨日の晩御飯の残り物を寄せ集めて作ったお弁当のような構成を見て、うーん…と、思っていたのですね。しかし一方、1MクーペはX5MやX6Mより更に明確な将来のMモデルの指標になる車でもある訳で、メーカー的には絶対に失敗してはならない車=悪い車になる訳がないだろう、という予想も同時にしていたのですね。
車に乗り込んでからしばらくの間は、ネガティブな印象が目立ちました。エンジンは135iと大差ないし、シフトフィールも135iと大差ないし、インテリアも部分的にアルカンタラ張りな135iだし…と感じられた訳です。
が、しかし。その印象は、道が山へと差し掛かり、良い感じにくねり始めてから激変しました。135i以上のトルクで更にフレキシブルになったエンジンのお陰で、どのギアからでも即座に加速出来て、更にM3より短くなったホイールベースのお陰で、明らかにクイックに動くのですね。しかもMT。楽しくない訳がない組み合わせですよ。特に峠道のような細くクネクネした道でペースを上げると、下品なエロい笑い声が自然と零れてしまうのですね。本当に楽しく運転できる、良い車だと気付かされました。
1Mクーペは135iよりむしろM3に乗り味が近く、特にバネの硬さやロールの少なさは、まさしくM3のそれでした。最大トルクはM3を遥かに上回るので、規模の小さいサーキットや狭い峠道では恐らく1Mクーペの方が良いペースで運転できるんじゃないかと思います。
ただ、決して良い所ばかりでもないです。エンジンのレスポンスは135iより鋭いとは言え、自然吸気のMな車と比べるとそこまで鋭くなく、特に回転落ちのだるさが気になりました。リアが流れそうになった時も、M3の方が挙動がずっと分かりやすく、コントロールもしやすかったです。そして何よりも、これは主観が多分に入る上に、僕が以前135iに乗っていたから余計に感じたのかもしれないのですが、車に乗り込んでエンジンをかける瞬間、正直な所あまりゾクゾクしなかったのですね。
フェラーリやランボルギーニだともちろん、ポルシェやGTR等の車に乗り込んでエンジンをかける時、僕は大抵この特別な感覚を持ちます。M3からも感じますし、M3のライバルであるC63なんて、毎回エンジンをかける度にお下品な変態スマイルをかましてしまう程です。その高揚感というか、ワクワクさせる感じというか、特別な感じ。それが1Mクーペからは感じられなかったのです。
しかし、一度アグレッシブな運転を始めると、そこには完全に非日常的な世界が広がる訳で。自分でも気付かないうちに、日常が非日常へとシフトして行くのですね。それこそが、この車の最大の長所なんじゃないかと僕は思っています。特別に感じないからこそ、気負う事なく、いつでも気軽に楽しく、運転だけに集中できる車だなと感じられたのですね。
欲しいかどうかと聞かれたら、はっきり言ってめちゃくちゃ欲しいです。これほど運転に没頭できる車はそうないです。最高の大人のおもちゃですよ。M3と比べてどっちを買いたい?と聞かれれば、間違いなくM3を僕は選びます。が、遊び車としての視点で比べると、1Mクーペの方が良いおもちゃだと言えます。僕がこの車を買えない理由はただ一つ、僕がリッチではないからです。もしも僕が車を同時に5台くらい持てる程に恵まれた身分であったなら、間違いなく手に入れていただろうなとも思います。
それだけに、惜しいのですね。もし、アメリカと同じような値段で、更に500台限定くらいで日本でも1Mクーペを発売していたら、確実に即完売していただろうと思います。BMWジャパンがこの車を売らないと言う判断を下したのは、凄く残念でなりません。この車の良さが一番活きる場所は日本の田舎の道路なのに、その肝心の車が日本で公式に売られる事がないというのは、本当にもったいないなと思うのです。輸入の手続きの時だけサスペンションにウマを噛ませるなり何なりして、ちょっと無理をしてでも売ればよかったのに・・・と、心から思わせてくれる、そんな車でした。良い車ですよ。
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試乗記 | クルマ
Posted at
2011/10/02 14:32:43