仲林工業株式会社のブログ一覧

昨日の続きです。

これまで何社とも機屋（はたや）さまとお付き合いのある仲林工業も、ボディカバー用としてストレッチ素材の生地を紹介いただき実際に過去に試作したことがあります。
しかし、試作すればするほど見えてくる問題もありました。


──ストレッチ素材の採用を断念した経緯

私自身、ウェイトの際にトレーニング用ウェアとしてアンダーアーマーのコンプレッションと呼ばれるものを着用します。スパイダーマンがまとうぴったりとボディラインにフィットするようなタイプのシャツです。全体的にフィットするものの、このシャツ、身体にかかる負荷は均一ではありません。
胸の中心辺りは谷間によって浮きが出るうえ（浅いテンション）、肩周りや脇の下は最初、窮屈なくらい張りつきます（強いテンション）。ただ人間はお車と異なり運動をするうえで腕の上げ下げであったり、呼吸による胸板の厚みも常に変動しますので、テンションの散らばりがあっても（むしろ）効果が出ます。
お車は外装を変形しながらの運動は行いません。そこにテンションの散らばりが絶えずかかるのです。

物理的にも負荷の不均等は致し方ないのですが、仲林工業で試作した際にネックになったのは「縫い目」により発生する不均等な負荷でした。
上記のスポーツウェアを実際に着用した経験のある方ならおわかりかと思うのですが、首回りや脇腹など、縫製ラインのある部分に初めは違和感というか圧迫というか、時にはかゆみの伴った刺激が発生することがあります。
カバーも同じように、ストレッチ素材に応じた糸や縫製を適用しても、負荷は特にこの縫製ラインから発生してしまいました。決まった個所を走る縫製ラインは、当然のこと次回装着時も同じラインとして負荷を与え続けます。車体で言いましたら、ボディの同じ個所がその縫い目に当たり続けることになります。これが非常に気になりました。

加えてストレッチ素材の場合、負荷のかかる部分は生地が拡がり、そうでない部分は肉眼では張っているように見えても緩みが出ています。生地というのは基本的に縦糸と横糸で構成されていて、生地が拡がるというのはこの網目が荒くなることを意味します。
雨水等の表面張力のある物質であれば多少荒くなったところで透過は免れますが、太陽光は通り抜けてしまいます。例え人目からは「影」に思えても、光は乱反射を起こし、伸び縮みする生地の網目をかいくぐります。しかも、この網目が荒いところとそうでないところ、つまり太陽光の到達・当たりムラが出るのです。
屋外保管メインのボディカバーとして、この点は厳しいポイントとなりました。

また起毛付きで試したところ、伸縮によるものか、埃や塵をキャッチした際に取り除くのが困難になりました。ただでさえ起毛は埃や塵を絡み取りやすいもの。肉眼で捉えられるものがそうだったので、目に見えない埃や塵であれば、伸縮する縦糸と横糸の隙間に挟まりやすくなるのではないか。
これも悪点となってしまいました。
（これを打破するためか、ストレッチ素材のボディカバーで洗濯可のものを見た際は、なるほどと感心した覚えがあります）

トータル的に、伸縮性のない生地で、留め具でしっかりと固定した方がボディカバーの総合的な効果として理想なのではないか。生地に伸縮性がなければ、縫製ラインの伸縮もなく、そのテンションがボディの決まった個所に与え続けることもありません。埃や塵のキャッチも減らせますし、縫い目を設ける以上はストレッチ素材の利点を活かしきるのは無理があるのでは、、、というのが仲林工業の至った結論でした。
また前回の冒頭でもお話の通り、カバーは消耗品。これによるコストも計算したい気持ちがありました。つまり、効果がそれほど見られないとわかったものに対してコスパが悪くなってしまうのも、採用に結びつかなかった点です。

（上記のお話はあくまで仲林工業での試作での場合になります）


──見た目だけでは言い切れない

車体へフィットしている＝ボディカバーとして優れている

このようにイコールとして思われている方は多くおられます。また、初回装着時の印象が良いから良いボディカバーだと思い込まれる方もおられます。
もちろん、間違いではないのですが、、、
実はフィット感（だけ）のあるボディカバーを作り出すことは簡単です。重要なのはそこに本当にカバーとしての効果が含まれているのかどうか。ボディカバーの良さは年単位で使用してみなければ判断できない部分があります。車体へフィットしている＝ボディカバーとして優れているとは結びつかない所以です。
とはいっても、日々フィット感に感動したという御礼のお言葉も頂戴しています。これは私どもとしてとても嬉しいお言葉で、誤解なきようお伝えさせていただきます。誠にありがとうございます！


永年ボディカバーを愛用されているお客さまに上記の内容を話しますと、「目から鱗」「衝撃的」といった反応を頂戴することがあり、いつかはこちらでもご案内できればと思っていました。「フィット感」について細かな部分にズーム致しましたが、ボディカバーの蘊蓄、という感じでお聞きいただけましたらうれしいです。
どうぞ引き続きよろしくお願い致します。