今年4月には、トヨタとスバルがコラボレーションを組んで出来上がった小型FRスポーツカー、トヨタ86・スバルBRZがデビューし、新たなスポーツカーの時代を切り開くことへ期待しておりました。
今ではある程度鎮静化したものの、当方自身のFRへの思いは変わらないのですが、各自動車メディアの取り扱い方は20世紀のスポーツカー全盛期と変わらないもので、あくまでも求めるのは公道では非現実的なハイスピード領域での話で、「もっとパワーを」という声が根強く、このままでは一旦絶滅した国産スポーツカーの二の舞となり、パラダイムシフトになり得ないのでは?という懸念をしているこの頃です。
と、少しばかり86を取り巻く環境への不安を抱える中、VWがやってくれました。
かつてのオールドビートルで国民車構想をしたかのように、今度はFFではあるものの、これまで最もベーシックだったポロよりも、更にコンパクトなセグメントに挑戦したのです。
それが、今回メインで取り上げるアップなのです。
VW アップ 1.0 4ドア ムーブアップ! 5速ASG FF (168) 12.27(920kg/75馬力)
もしも、ドイツがVWが、ミラやアルトのような日本の軽自動車を作ったら、こうなるであろう・・・という形をしたアップです。
試乗前にショールームで、最高額のハイアップ!で内外装の仕上がりやパッケージング・シートの出来具合・運転環境・後席環境をチェックしたところ、ここには車両価格200万円以下の低価格車だから・・・という言い訳は皆無で、内装の仕上がりぶりはザ・ビートルにも引けを取らないもので、シート骨格をしっかりと設計している辺りは、ゴルフ・ポロと同等とまでは言わないまでも、その血統を感じさせるものです。
後席だって、さすがに脚を伸ばす程の余裕はないものの、小ぶりなサイズの中でシート本体の出来の良さをも含めて、大真面目にベストな着座姿勢になるように仕立てていることが判ります。
運転環境も、さすがに左H前提の設計故に右Hの違和感ゼロとは言わないまでも、ペダル位置を後方に下げて足元スペースを広げているも、後方に下げるを最小限に抑えているため、後に紹介するフィアット500と比較すると、かなり違和感は少ない方です。
後は、シングルクラッチASGの出来がどうか?アップの評価はこれが全てと言っても過言ではないくらいでした・・・。
結論から言えば、ツインクラッチのDSGのシフトショックの少ない完成度の高さには至らず、1速から2速へのオートモードでのシフトアップにて、シフトショックが伝わってしまう部分はありました。
よって、自動変速での癖は残ってはいるのですが、手動変速モードにしてやることで、クラッチ操作のみを自動にしたMTとして、小型車本来のエンジンポテンシャルを最大限に引き出すための、高回転までエンジンを回し切ってアグレッシブに走らせるのが非常にたやすくて、しかも面白い走りになっているのです。
また、ASGには普通のATのようなクリープ現象がないため、特に坂道発進ではブレーキを離したら直ちにアクセルを踏んで後ろに下がるのを防ぐ、といった対処は必要で、これでも恐怖心が解けない場合は、自動車学校での基本に戻ってパーキングブレーキを掛けて、ほんの少しエンジン回転数を上げた後に、パーキングブレーキを解除しながら発進させることで、十分に対処は可能に思いました。
ただ、中間グレードのムーブアップだと内装がちょいとショボイ・・・。
もし、タイヤを14インチから15インチにインチアップして不具合なかったら、出来ればハイアップ!で…と期待を胸に、次のクルマの試乗へと向かうのであった・・・。
フィアット 500 0.9T ツインエアー ラウンジ 電動ガラスサンルーフ付き 5速AMT FF (251) 12.35(1050kg/85馬力)
アップのハイアップ!に試乗するにも、混雑してて相当待ち時間が掛かるとのことで、合間にライバル?のフィアット500に試乗する。
もし、2気筒のツインエアーだったら・・・と思ったらその通りだったのです。
実のところ、昨年でツインエアーのフィアット500はオープンのCを含めて2度試乗したことがあるのですが、いずれも卸したてで慣らし運転中であったため、高回転まで回せなかったのが、何とも口惜しいところでした・・・。
そして今回、ようやく高回転まで回せる車両で乗ることが可能になり、今時復活した直列2気筒の振動はそれなりに多いけど、かつての日本の360cc軽カーを彷彿とさせる軽快なエンジンフィールで、正にあの頃の軽自動車を現代の最新技術で再現させたような、そんなレトロな雰囲気と絶妙に合った乗り味に魅了されました。
機能的に厳密に評価すると、右Hの弊害はそれなりに多く、ペダル位置がかなり後方になり、ドライビングポジションもステアリングを中心に合わせて、脚は多少窮屈に曲げながら妥協する、という部分はあるのですが、こうした弱点を知った上でも、更に魅力的なものでした。
タイヤとシャーシとのバランスという部分では、Cの16インチがオーバーサイズ気味で、今回のラウンジ15インチとだったらOKでした。
走り重視ということで言えば、出来れば電動サンルーフはオプションなさらないことをお勧めします。
それだけで、天井のガラス分だけ軽くなって、クルマ全体としての重心が低くなりますので・・・。
このフィーリングを記憶しながら、再びアップへの試乗へと向かうのであった・・・。
VW アップ 1.0 ハイアップ! 16インチ・ウプシロンアルミ 5速ASG FF (194.9) 12.27(920kg/75馬力)
再びアップの試乗となり、今度は最高額のハイアップ!でも16インチタイヤにインチアップされた仕様で、インチアップの影響を見る上では、より極端になって判りやすいかも?と。
それで、パワートレインやパッケージングの基本はムーブアップ!と同一で唯一16インチタイヤが違いではありましたが、結果的にはインチアップへの影響は特になし。
バネ下重量が増しても、特別脚の接地性やハンドリングが悪化することもなかったため、シャーシ剛性面ではフィアット500以上のものがある、と確信したものです。
で、このアップ。国民車構想と言っても良いほどの徹底振りですが、割り切るところは徹底的に割り切るという潔さの持ち主です。
具体的には、4ドアでも後席ガラスの開閉は不可で、大昔の2ドアセダンの様にガラスを外にずらして開閉するだけのもので、パワーウィンドーが装着されていても、運転席側のスイッチも運転席用のみで、助手席側は実際に助手席側のスイッチに手を伸ばして開閉操作をする形なのです。
こうしたことで、日本の軽四・コンパクトカーの至り尽くせりに慣れきったユーザーにとっては、非常に不便なクルマに思うでしょうが、ドライバーにクルマを正しく操作・使用して、常に謙虚な気持ちでドライビングさせるという意味で、このアップはドライバーに助言しながら成長させるという、正に車輪が4つ付いたコーチのような存在である、という意味で成長を促す国民車である、と言ってもよろしいかと思うのです・・・。
’10 スズキ スプラッシュ 1.2 CVT FF (93) 11.93(1050kg/88馬力)
スローコンパクト最後は、スズキのスプラッシュです。
何と、2010年モデルとのことで、CVTが1軸式だった初期型になります。
なので、最新のスイフトやソリオと同じエンジンだとは思えないくらい、かなり元気に走ります。
まるで、ドイツ車のような骨太でパッケージングもパーフェクトで、直進性も剛性感も運転環境もシートも抜群です!
昨年に乗ったのが、2型?でCVTが2軸式になったもので、気持ちCVTがかったるく感じたところで、某メーカーのエンジニア出身の販売員に言わせると、スズキが2軸式CVTにした本音は、CVT本体を小型化したくて、CVTのプーリー系を小さくする為だったのでは?とのことで、これが真実だとするならば、1軸式の方がレスポンス良くて走り面ではむしろ有利だった、とも言えるわけです。
ただ、ドライバーを成長させるという部分では、上記3台のシングルクラッチAMTの方が向いているところでしょうが、大半のエンスーでないドライバーにとっては出来るだけ運転操作は楽な方が良いと思うのも無理はないところで、最も運転しやすくて良いクルマを・・・ということであれば、このスプラッシュはむしろお勧め株です!
今回のスローコンパクトの選択は、正直どれを選んでも十二分に満足出来るクルマばかりです。
なので、上記のインプレを参考にした上で、読者ご自身で自分のスタイルに合った1台を見つけるきっかけになれば・・・と思うわけです。
それでも、あえて当方個人として選択して順位付けした結果、次のようになりました。
第1位 フィアット500 … 良いクルマ選びではアップに負けてますが、クルマの面白さでは勝ってました。
第2位 ハイアップ! … インチアップしても死なない乗り味に、100万円台でもお洒落な内装が与えられているのが素晴らしい。
第3位 ムーブアップ! … 徹底したベーシック路線こそが、真の美しさ。出来れば2ドアで。
第4位 スプラッシュ … シングルクラッチAMT苦手なら、これで。