●独身最後に借りた車に再会
スギレンさんの
カムリプロミネントは2015年に長期レンタルし
バブルセダンの持つ大人の余裕を楽しませていただいた。私が独人時代最後にお借りした車を再びお借りする機会を得たので、再び感想版追補版を書かせて頂く運びとなった。
あれから5年も経過し、この個体は
クランクプーリーのトラブルで廃車の危機を迎えていたが、スギレンさんのコネクションとこだわりで危機を脱したばかりだ。
カムリプロミネントG感想文は
コチラ
●マルチシリンダーエンジンが一層レアに
2015年のトヨタではV6エンジンを積んでいたのは
GS、IS、RC、RXのレクサス勢に加え、
クラウン(2.5L、3.5L、3.5HV)
マークX(2.5L、3.5L)
アルファード/ヴェルファイア(3.5L)
エスティマ(3.5L)
上記9車種であった。
2020年7月現在のラインナップでは
LS、LC、GS(廃止予定)、IS、RC、RX、
クラウン(3.5HVのみ)
アルファード/ヴェルファイア(3.5L)
9車種との車種数では変わらない。
V8からダウンサイジングされた2車種が増えたが、トヨタブランドでも最上級E/Gとしてラインナップされ、
V6が200万円台で買えた2015年から、たった五年で
500万円以上の車種でないとマルチシリンダーが楽しめない時代になった。これも4気筒ダウンサイジングエンジンの進化が進んだ結果だろう。
そんな現代におけるカムリプロミネントは
V6_2.5Lエンジンを積んだだけで十分個性を放っている。
思えばトヨタ博物館で展示されているステータスを競った車たちは
12気筒やら
16気筒やら摩擦損失の塊みたいな贅沢なエンジンを持っていたが、今はフラッグシップモデルでもV6になってしまった。
自動車を取り巻くメカニズムは単純化と簡素化の歴史とも言える。
●家族3人で岐阜城を目指す
以前お借りしたときは一人で試乗させていただいたので、二回目の今回は妻子を伴って試乗に出かける事にする。
ファミリーカーと言えばミニバン、ステーションワゴンが転じてスライドドア付きのハイトワゴンやSUVこそがファミリーカーで、スタイリッシュ派のセダン、といった様な錯覚を抱きかねないのだが、そもそも50年前の
ファミリーカーの本丸はセダンであり、スタイリッシュ派のためにはハードトップやクーペがあった。
チャイルドシートも難なく取り付けられ、3歳の我が子を搭載。助手席には第二子がお腹に居る臨月の妻が座った。デミオではシートスライドやリクライニング位置に制約が見られるが、カムリプロミネントでは
余裕の室内長のお陰で広々している。
この
「広々」というのは現代人が車に使う「広々」ではなく、決して窮屈ではない。車室内でだらしなくゴロゴロできる広さがあるという意味の「広々」では決してないのである。
つまり、リビングでごろごろ寝転がって一家団欒、というのではなくキチンと座るのだが、頭や手足が不自然な位置で拘束されないという
乗用車らしい広々であることに注意が必要だ。つまり、シートベルトを着用しそれなりに正しい姿勢であればカムリプロミネントで
不満が出るような狭さではないということだ。
これならもう一台チャイルドシートを載せても問題ないし、長いオーバーハングの恩恵で
ラゲージルームは十分容量が確保されているから(おやつや飲み物、着替えが満載で)武器になりそうな重いリュックサックもベビーカーも余裕を持って積み込める。
自身がバネットセレナやライトエースノアで少年時代を過ごしたので、ミニバンやSUVに慣れきっていたが、
セダンでも十分家族を乗せる包容力がある事に改めて気づかされた。これも全長4670mmという長い全長ゆえに出来たことなのだろう。
妻子を乗せた状態で現代としては低めのパッケージングで私は適切なドラポジをとることが出来た。
イグニッションキーを回すと
4VZ-FE型フォーカムE/Gが目を覚ます。デリカシーの無い
ノイズやバイブレーションは皆無、シフトレバーをDに入れ、PKB解除レバーを引くとガコンと音がした。静々と自宅付近の住宅地をゆっくりと走らせた。
自宅付近に90度コーナーがいくつかあるが、目一杯ステアリングを切って
4WSの逆相操舵による小回り性(5.0m)を堪能しながらいつもの農道を目指す。5年前に試乗したときは敢えてタイトなワインディングを走りに行ったが、今回は家族を伴ってのドライブの為、軽く操縦性を確かめた程度だ。結論、やはり
フロントヘビーなV6ゆえにコーナーが楽しくなるような車ではない。その代わり、制限速度+α程度の速度域では
快適な乗り心地と心地よい
V6サウンドが楽しめる。
高速道路に合流した。ETCゲートからランプ路を経て加速車線へ。深くアクセルを踏み込んで本線に合流する際、V6の
クオーンというサウンドが明らかに4気筒と異なるスムースさを伴って耳に入りプレステージ感が伝わってくる。マルチシリンダーエンジンのスムースなフィーリングは現代のEV走行で感じる先進感に通じるものがあるかもしれない。
高速道路では100km/hで2500rpmと少し高めの回転域を使用するが、そもそも
心地よいE/Gの音色のため私は気にならない。5年前同様に風切り音の大きさは気になったが、私達家族が普段乗っているRAV4やデミオと較べれば十二分に静粛であり、妻が「やっぱり高級車だね」と感心していた。
都市高速や国道を経由して名神一宮ICから東海北陸道の岐阜各務原ICを走行し、木曽川を渡って久々に県外へ出ることとなった。交通量は少なめでクルーズコントロールでのんびりバブルセダンのドライブを楽しんでいた。後方から
「岐阜34」の年式の近い欧州車が追い越し車線を伸びやかに追い越していった。
何となく我がカムリプロミネントもその欧州車に追随して追越し車線に躍り出てみた。TEMSをSPORTに設定し堅めのセッティングに切り替えた。普段はソフトな乗り味が似合うのだが、このときばかりは引き締まったサスによるスタビリティの恩恵を受けながら速めの速度域のバブルセダンを楽しんだ。
4WSとTEMSの相乗効果で
風が強い高速道路でも十分以上の走りを楽しむことが出来る。
5年前にタイトなワインディングに持ち込んだ際はフロントヘビーな基本レイアウトがネガティブ側に振れたが、ハイウェイ走行では荷重が
駆動輪への安定したトラクションとなって家族を乗せたドライブで快適性に繋がっていることが分かった。
高速道路を降りて岐阜市内を走らせる。意外と交通量が多かったが余裕ある動力性能を活かして岐阜城にたどり着いた。城下町の風情あふれる路地を走らせても取り回しに苦労することも無く黙々と目的地へ連れて行ってくれた。
岐阜城ではロープウェーのお世話になって随分とショートカットしたものの、その後も臨月の妻にはかなりハードな上り坂を歩かせてしまいながら岐阜城の展望台からが美しい景色を楽しんだ。
帰りに岐阜県のショッピングモールで買い物をササッと済まし、夜の名古屋高速を快適にクルージングしながら帰宅した。途中、追越し車線で断末魔の音を立て、エンコパから白煙を噴いてスローダウンしたKeiが前を塞いで車線変更を余儀なくされるシーンがあったが4WSのカムリプロミネントはレーンチェンジでも余裕を残して危険を遠ざけることが出来た。
名古屋高速の都心環状線をムーンルーフから名古屋の摩天楼を楽しみながらの
オトナなドライブを楽しんだ。特に立体感のある美しいデジパネの液晶文字も良い演出になっている。
余裕のある動力性能でゆったりと走り、充実した装備品を堪能しながら移動を楽しむ、これこそがバブルセダンの使い方であると結論付けたが、それは5年経ち、私の生活が変わった後でもそれは変わらなかった。
●追補版まとめ
前回のスギレン企画から5年、私の生活も変わり車を見る着目点も変わった(気がする)。今まで気にしていなかった部分が気になり、気になっていた部分に肝要になったり。
前回のパーソナルユース主体の使い方とは違い、家族を乗せて走った事で、カムリプロミネント
のおもてなし性能の高さが一層際立った。
家族を気遣える快適性、流れの速い高速道路でも
家族に速度を感じさせない安定感など5年前に気付き切れなかった魅力を知ることが出来て大変良い経験になった。車の真価とは乗ってみないと分からない。使ってみることで真価が発揮され、使い方の違いでも見えてくる真価が異なることを再認識した。
セダンはかつてのファミリーカーの雛形として君臨したが現代ではSUVやMPVほどの広大な包容力が無い分、
スポーティさを身上とするワンパターンなキャラ設定が横行している。元々セダンは、経済性重視のモデルから、高級車、GTカーやスタイリッシュなHTまで様々なキャラクターがあり、多種多様な選択肢があった。
ここ10年~20年でグッとSUV人気が進展し、スライドドア付きのハイト系ワゴンがファミリーカーとしてもてはやされる時代になった。一方でいま自動車メーカーで働き盛りの30代~40代の人たちは確実にRVブーム以降の入社である。
セダンを知らない人たちがセダンの企画担当になってしまったのか定かではないがセダンは車高が低くてスポーティ。全長が長くてスマートだからエモーショナルなスタイルを。少数派の乗り物だからスペシャルティ的な個性を、と
勘違いに勘違いを重ね、モデルチェンジのたびにエモーショナル方面、スポーティ方面を過剰に意識した車作りが行われた。結果、現在の各社のセダンのラインナップは
端正でゆったり楽しめるセダンという本来のホームポジションがすっかり抜け落ちている。
適度な囲まれ感で肩肘張らずに快適な移動ができる現代版のカムリプロミネントのような品のいいセダンが一台くらい市場に存在しないと
セダン離れは加速していくばかりではないだろうか。
当時も傍流の高級車であり、世間の評価のそれほど高くなかった30年近く前のセダンだが、現代では得がたい感覚の贅沢さを私に教えてくれた。
スギレンさんに感謝。
●2021年追補版
共同所有のプログレにスギレンさんが乗られているときに我が家で預からせていただいているのだが、ご厚意で普段のレジャーや買い物でも活用させていただいている。2021年、2020年から引き続き
コロナ禍によって閉塞感漂う重苦しい雰囲気のなかで、私はカムリプロミネントを運転して気づいたことがあった。
コロナ禍の中、出社もままならず私はほとんど在宅勤務で一日を終えることが多くなった。朝起きて慌ただしく子供を保育園に送る。9時から在宅勤務を開始し、夕方離業して保育園に迎えに行く。そして食事・風呂の世話をするなど育児時間を取ったら、再び在宅勤務に戻り22時に仕事を終える。このルーティンの中で外の空気を吸うことが本当に少なくなった。一時期、家から出るのは保育園の送迎だけになってしまった。
ちょっと外の空気が吸いたくなり、プロミネントを連れ出して自宅付近をサラッとドライブした。車の中だからマスクはしない。対向車も来ないような深夜の田舎道を窓全開でゆっくり走らせる。真っ暗な畑の一本道に止まったカムリプロミネントが一台。頭上にはすぐ満天の星空が広がっている。ハードトップゆえにヘッドクリアランスも決して余裕がなく、現在主流のSUVと比べればむしろタイトな部類に属するだろう。しかしムーンルーフを開ければすぐ頭上に澄んだ空気の夜空が広がっているのはなんという解放感だろうか。
そしてある休日、カムリプロミネントに子供らを乗せて自宅から20分程度離れた近所の公園へ連れて行った。緊急事態宣言ゆえに県外への移動ができないので長距離ドライブは叶わず、近所の公園を往復するような休日を何回も繰り返していた。
子供が遊び疲れて帰るときにふと夕焼けが見たくなり、海岸を目指してカムリプロミネントを走らせた。後席で疲れて眠る子供を気遣いながらそーっと有料道路をひた走る。日没までに着くために比較的急いだが、それと悟られない走りはカムリプロミネントが得意とするところ。突き上げるようなショックを感じさせず夕焼けが美しいポイントに無事到着した。
お気に入りの夕焼けが見えるポイントにカムリプロミネントを止めた。窓を全開にしてムーンルーフを開けると青空から夕焼けの複雑なグラデーションの中にエネルギッシュに沈みゆく太陽が広がる。夕日を浴びたカムリプロミネントはいつにも増して輝いていた。朝の光に照らされているより、どこか夕焼けが方が似合う面白いボディカラーだ。
私にとって
ハードトップセダンとはデザインを優先するためにタイトな室内空間でも良しとしたボディタイプだと理解していた。しかし、窓・ムーンルーフ越しに広がる景色は私を開放的な気持ちにしてくれた。つまり
ハードトップセダンは物理的にはタイトだとしても、精神的な解放感を与えてくれるのである。写真では開放感の一部しか伝わらないのが残念だが、この瞬間のハードトップセダンが「広くて開放感がある」事は事実なのである。今までにない閉塞感が漂う時代の空気の中で、すでにオワコンと化したハードトップセダンに強烈な開放感を見出したのは今更ながら面白いではないか。
再びスギレンさんに感謝。