2011年12月08日
夢か・・・現か・・・
憧れのアーティストのライブで、目の前に現れた人物を本人ではないのではないかと疑ったことは無いだろうか?
私はいつもそう感じてしまうのだ。「まさか僕の前にあの人がいるはずがない」と・・・。
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いつもはフェンスの外側で多くの観客と共に、且つその中でも大いに熱狂しているのが私である。
今回のその場所は観客などまったくいない、嘗て知った場所とはまったく趣を違えていた。
そして私自身もそこを訪れた理由がいつもと違っていた。フェンスの内側を愛車で走るのだ。
Cパドックを出てちょっとした坂を登り一瞬コントロールタワーが見えたところで右折、そこがピットレーン出口であった。
ピットレーンを走り始めた瞬間、あの感覚が現れ始めた。
「ここは本当にそこなのか?俺はどこで何をしているのか?」
確かに目の前に広がる風景は映像やゲームで何度も見た光景だ。1コーナーのスタンドはつい2ヶ月前に足を運んだ場所なのだ。
決して速いとはいえないスピードだが愛車はいつもと同じ音を奏で、一般道とは少し違った路面の感触をステアリングから伝えてくる。
「あ~~~、本当にここに来たのだな。そこを俺は走っているんだ」
一瞬安心した私を、また別の感覚が私を包み込んだ。
1コーナーを廻り2コーナーに頭を向けると、そこには突然車を止めさせフェンスのすぐ前にまで行き彼を応援している多くの人々に向かって満面の笑みで大きく手を振る彼の背中が見えた。
S字コーナ、逆バンクを抜け、デグナーを廻って見えてきた立体交差の下には、その年非力なエンジンでの戦いとなったキャメルイエローのマシンが止まっていた。
ヘアピンに差し掛かり速度を緩めると、突然インを突いて白地にメタリックグレーのカーNo.23のマシンが入り込んできた。
彼のマシンと僕のFNのフロントタイヤが一瞬当り彼は颯爽と走り去って行った。
スピンカーブの内側には、その年なんとか2度目の予備予選を通過したにもかかわらず僕らに殆どその5バルブの音を聞かせる事なく止まってしまった赤いマシンがあった。
130Rに差し掛かると最新式のエアロシステムで勇敢にもとんでもないスピードで駆け抜けて行くカーNo.16。
出口で縁石に後輪を引っ掻けあわやクラッシュという状態になりながらも華麗に立て直し何事も無かったようにシケインへと消えて行った。
1周目も終わりに差し掛かりメインストレートを走っていると、横から鮮やかな青色に特徴的なフロントウイングを持ったコンパクトなマシンが一瞬だけ私のマシンの前に出てその周のリードラップを奪って行った。
2周目に入ると既にCスタンドに手を振る彼の姿はもう無かった。
S字コーナーの先では突然のトラブルでクラッシュしてしまった独特なフロントウイングを持つ黒鉄色のマシン。
彼の最後の勇姿を見届けようと詰めかけた大勢の人々に、右手に白地に赤のヘルメットを持ち左手で背中越しに手を振る彼の姿があった。
Dスタンドに目をやると、「TOMORROW」と書かれた虹色のタオルを大きく左右に振りながら「上を向いて歩こう」歌う2ヶ月前の私がいた。
2度目のヘアピン。もうさっきのように彼には抜かれまいとインを締めて廻り込むと、先ほどの彼はここの観客に向かってさっきと変わらぬ表情で手を振り続けていた。
200Rを抜けスプーン手前の土手に目をやると、学祭の「SHOW-YA」のLIVEを蹴り、バイト代を貯め、祖父の形見のNikon F3に同じくバイト代で買ったSIGMAの400mmの望遠レンズを覗き込み、慣れない流し撮りに悪戦苦闘する18の”僕”の姿があった。
被写体はその前の周にシケインで接触し、フロントウイングを傾けたまま走り続けた、赤と白のカーNo.1。
2周の体験走行もそろそろ終わりに近づいた。
先頭車両はメインストレートに停めるためハザードランプを点滅させている。
最終コーナーでこちらもアクセルを緩めるとカーNo.2の赤と白のマシンが駆け抜け真っ先にチェッカード・フラッグを受けた。
集合写真等を撮り終え自分の愛車に戻りCパドックに戻ろうとエンジンを掛けると、前方でエンジンを一度ストロールさせた黄色いマシンが息を吹き返し、その年で終わりとなる轟音を響かせ1コーナーの彼方へと走り抜けて行った。
「誰かが後ろからを押してくれたんだ」
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Cパドックに戻りライトアップされた観覧車を見て気が付いた。
「本当はあの観覧車をフェンスの内側から見たくて此処に来たんだっけ・・・」
憧れの聖地を走る事は出来たが、夢は果たせなかったのか。
只、今回体験したことはもう2度と体験出来ない気がする。
次もしここに来たとしても、もう彼らと会う事は無いだろう。
不思議な余韻を残したまま、その長い一日は過ぎてゆくのであった。
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サーキット走行 | クルマ
Posted at
2011/12/08 23:13:42
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