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2011年01月31日 イイね!

ある恋の終わりと始まり。







老人の手のしわを見ていた。


甲には、筋の上にかぶさった染みだらけの皮膚。


祇園という街で、
きらきらと着飾ってこれ見よがしに歩く私に、
その老人はまっすぐな目をむける。


明日が来るかどうかなど、
もうどうでもいい、
ただ流れて、
死んだらそれでもいい。

どちらかといえば、
今が死んでいて、
息絶えれば生まれられるのかもしれない。




『まさこ』
この名前を知らない人はいないだろう。

この道に入ったのは、
18の春。

金と性欲と権威欲が渦巻く街は、
ちょうどよい腐り具合だった。

常識を飛ばしてくれるのは、
酒か?源氏名か?


『まさこ』が隣を歩く、
それだけで得意顔になる親父の歳ほどの男に、
笑顔で謝辞するのは、
あなたに求められた姿の『まさこ』




『まさこや、ソムリエの勉強をする気はないか?』

『お勉強ですか?うち、賢うないさかいなあ・・』

『資格を取ってどうこうではないんだよ』

『お勉強自体が楽しいことなんでしょうか?』

『そう、どうだね、忙しい合間にさ』

『暇人やさかい、大丈夫です』




十年、
毎月食事に連れて行ってくれる、
私の事情やうわさなど、
知らんふりの『パパ』


いつも、
姿勢正しくソファにすわり、
カカカと笑ってバカ高いワインを、
強請られるがままおろし、
ほんの一杯飲んでは帰る。


いいお客さん。
そんな一言で、いいのだろうか。


かわいげない女に、
同情しているのだろうか。




休日、
約束していたゴルフコンペを断り、
『パパ』と、
ワインバーに行った。

正午、
開店時間はp.m.5:00とある、
酒蔵の奥のカウンターに座る。


金の葡萄のバッジをつけたおばさんが、
大切そうに抱えてくるひとつの瓶。

『なんでもない日だが、お祝いをしないか』

そう言って、
テイスティングを終えたおばさんと、
ウインクを交わすパパ。

三つのまあるいグラスに、
そっと注がれるのは、
香水ですか?

それは、飲み物ですか?

気がおかしくなっても、しりませんよ?


恋のときめきなど、
とうに捨ててきた。

そんな幻想など、
見る意味はないと感じてきた。

でも、
これは、恋だ。


瓶の中の、
姿は見えない、でも、そこにいる、
それしか見えない、
誰かに、恋をしている。



『パパ・・ありがとう』


そう言って、隣を見ると、
そこには、恋をしている一人の老人。











パパがこの世からいなくなり、
私は水商売の世界から足を洗った。


恋のままに、時間をとめてしまったひとは、
恋と愛を、
ちょうどその中間におしとどめ、
私に生きることを教えた。


恋せよ、乙女。


香りにむせながら、

ひとり恋にうつつをぬかし、

ほやけた頭に浮かぶのは、

あの老人のしわの手の甲。








Posted at 2011/01/31 09:47:11 | コメント(0) | トラックバック(0) | 文書保管庫 | 日記
2011年01月31日 イイね!

つきもの。












右肩がずっと凝っていました。




僕はそれを揉んだり叩いたりして、
何とかほぐそうとしていたんです。



原因は何かと考えれば、
それは不景気でうまくいかない仕事か、
言うことを聞いてくれない彼女か、
寝心地の悪いベッドか、


そんなことしか浮かばなかったのです。







原因を何とかしようと躍起になっても、
余計におかしくなるばかりで、


もうこの肩凝りとは、
上手にお付き合いするしかないと、
ちょっと諦めていました。






だってほら、
誰にだって持病みたいなものの、
ひとつやふたつ、
あるものでしょう?





肩凝りぐらいで死ぬわけじゃないし、
我慢できることならすれば済むこと、
そう思っていたんです。








凝りが酷いときは、
つい眉間にしわを寄せたりしてしまうけれど、


仕方ないじゃないか、


それだけ僕は、
毎日一生懸命頑張っているのだよと、
自分に言い聞かせながら、
過ごしていたわけです。






それが。







肩凝りが、
なくなったんです。






不思議なくらい、
すっと、
なくなったんです。









憑き物が落ちるというのは、
こういうことなんじゃないかと思いましたよ。







朝起きたら、
普段は石のような肩と首が、
羽根のように軽くなっていて。






その前日は休日で、
僕は歯医者に行きました。



歯並びをほんの少し整えて、
噛みあわせをよくしてもらって、


その後、
帰って部屋の掃除をしました。







忙しくて、
なかなかできていなかったことでした。






部屋にはいらないものがたくさんあり、
ごみ袋に5つ分のがらくたを処分しました。




処分している途中に、
母の写真が出てきました。






小学生の僕と、
まだ若い母の写真でした。





母とはもう何年も話していないことに、
気がつきました。




心のどこかで、
僕は彼女に対して恨みがましい感情を、
抱いていて、
ろくに話すらしてませんでした。






そこで、
田舎の母に、
電話をしました。






何の様だね?

と、

相変わらずの憎まれ口をたたかれながらも、
また顔見せなさいと言われ、




普段なら、

忙しいんだよ。

と、
返しているだろうところを、



ありがとう。



と、
返していたんです。








きっと、

噛みあわせがよくなったからに、
違いありません。







それだけです。







肩凝りがなくなってからというもの、
僕の周囲は変わっていきました。




人ともめたり、
いらいらしたりが減って、
時間にも余裕ができているように感じます。







人のせいにすることをやめると、
とても楽だということにも、
気がつきました。






自分が気にかかることを、
すぐに片付けるようになりました。





自分ひとりでできないことに、
無理をしなくなりました。





悩んで夜更かしも、
しないようになりました。





それを彼女に話したら、
とても喜んでくれました。






そしてそんなことを、
心から幸せだと感じています。





こんな話を長々と、
聞いてくださってありがとうございます。





では、
これから仕事に行ってきます。










Posted at 2011/01/31 09:46:07 | コメント(0) | トラックバック(0) | 文書保管庫 | 日記
2011年01月31日 イイね!

新月の夜。








ろうそくがもう短くなっちまった。




今宵は月も見えねえで、

おらのぼろ提灯の明かりで照らされる、

おらの足元だけがかろうじて歩いてやがる。




あたまン中の道筋たどって、

ぼろ長屋までこころぼそく歩いてんだ。




今宵はいつものおつっあんとこで、

いい酒でもねえが、

うめえ酒呑んで呑まれちまったよ。



提灯が揺れてんだか、

おらの足元が揺れてんだか、

ちょいと区別がつかねえなあ。





この先はええっと、

四辻をこっちにまがって・・・と・・・・









『ぐええええっ!!』









どさん・・・・










な・・・・なんでい・・・・・・




ざかざかざかざかざか


提灯をあげれば、

黒い影がこっちに向かって擦り寄ってきてるじゃねえか。





ぎらりと鈍い光がひらめく。





ひいいいいい!


辻斬りかい!!




なんでこんなとこに居合わせちまったんだ、

間が悪いにもほどがあるぜ!!!





『おい!』


『ひいいいい!

い・・命だけはご勘弁を・・っ!』




逃げようにも千鳥の足じゃあ飛ぶに飛べねえ、

すくんで拝むしかがたがたがたがた。






『提灯をよこせ』



『へっ、へへいっ・・

・・・・・しかしあの・・・・

もうろうそくがほとんど残ってないんでして・・・・』



『いいからよこせ』





ぎらり。




ひいいいいい!






ぼろ提灯欲しけりゃくれてやるってんだ、

頼むから追っかけてこねえでくれ!



足がもつれてひいこらひいこら、

けつまづいてはよつんばいで、

逃げて逃げて逃げて、

ほうほう、

逃げおおせたか、

・・ほうほう、




・・こっちはどこやら、

道に迷っちまったじゃねえか・・・・






どっかのお屋敷の軒の影だが、

しばらくおらを隠してくれい、

心の臓がやぶれっちまうよ、

ほうほう・・・・






がた。







『・・・・どちらさまか。』


扉のむこうは主の声か。


『夜分すまねえ、

道に迷っちまって・・』



『今宵の暗がりじゃ仕方あるまいて、

あかりをお持ちいたしましょう。』


『おお・・ありがてえ・・

このご恩忘れませんぜ、

お名を頂戴できゃあせんか』


『よいから気をつけてお帰りなされ。』


『へい!かたじけねえ』





ああしかし・・・

今宵はとんだ災難だぜ、

たまんねえ酒もとんじまったぜ。





ざりざりざりざり・・


足音だってたてたくねえ気分だ・・・




ざざりざざりざざりざざり・・・・



ん?

後ろに誰か・・・・・



ざざりざざりざざりざざり・・・・・・



『おんなし方向ならお供いたしゃあしょか』



『・・・・』




なんでい、返事もしねえで。




ざざりざざりざざりざざり・・・・・・





まあいい、

ひとつの提灯がふたりの足元をてらしゃあ、

御仁の提灯はふたつ仕事をしたってもんだ。



もらいもんが名乗らずのやからにゃまたもらい福、

それでいいんじゃねえか、



『おっと、おらはここいらで失礼するが、

よかったらこいつを使ってくれい、

どうせもらいもんだ・・・』







提灯をかざせば、


黒い影がゆらりと動き、


提灯を受け取ると、


また暗闇に消えていっちまった。








Posted at 2011/01/31 09:44:16 | コメント(0) | トラックバック(0) | 文書保管庫 | 日記
2011年01月31日 イイね!

ギルティ。







少年は、

小さな瞳で見ていた。



カマキリが、

カマキリを食うところを。



じっと。




目をそらすことなど忘れ、

その音までも、

聴いていた。




さて、


足と羽根のみを残し、

二体が一体になったのを、

見届けると、

少年は立ち上がる。




ひざの裏が痺れている。



三角の顔が、

少年をまた、

じっと見ていた。



目をそらせない。



足がすくんで、

後退できない。



やがて日暮れを知らせるチャイムが鳴る。



暗くなる。

闇が来る。

帰れなくなる。



少年はつばを吐いた。

何度も吐いた。



やがてカマキリが草陰に身を隠す。



少年は這うように、

来た道を逃げていく。



背後には巨大な釜。

口にはカマキリの味。




家の暖かな光に、

母を求め、

その胸に頬を着地させる。




母の手には、

カマキリの腹が握られていた。









Posted at 2011/01/31 09:43:05 | コメント(0) | トラックバック(0) | 文書保管庫 | 日記
2011年01月31日 イイね!

ビリジャンの瞳。




『アマルフィに行きましょう』


彼女の誘いは、いつも突然だ。

しかも、言う事が突飛だ。


『後数年のうちに、
あそこも世界遺産登録なんてされて、
今の環境が維持できなくなるわ。
その前に行っておきたいの』



彼女は、
真っ赤なクーペに乗っている。

結構な遠方であっても、
それで出かけるのだ。


今回は、
五指に入るくらいの遠出で、
空港に着いた私に、
酔い止めと水を用意してくれていた。


運転が、少々、あらい。


高速道路を降りると、
視界が急に明るく開け、
海沿いに出る。


断崖の海岸線の、
細いワインディング・ロードを、
慣れた様子で走る。


窓を全開にし、
彼女の赤毛とビリジャンの瞳が、
鮮やかに輝く。


彼女は、
いつも黒い服を着ている。

この日も、
暑いくらいの日だったにもかかわらず、
黒のハイネックに黒のスラックス、
履きこんだ黒の革靴で、
薬品のにおいを漂わせていた。


道の脇には、
栗の木の青や、
レモンの木にかかった羅紗の黒、
小さな赤い花、
断崖、入り江にへばりつく建物、
すべてが流れていく。


一段と深い入り江の街は、
アマルフィ。


一面陽の光を浴びて、
紙粘土を張り付けたような人工物が、
白く浮き出ている。


レモンチェッロをソーダで割り、
ぐびぐび飲みながら、
細い路地を、
迷うこともなく歩く彼女。


私はもう、息が上がっている。


もうどこだか分からない。

壁に囲まれたくらい路地を抜けると、
広場があり、
広場の隅っこの暗い路地に、
また入り込んで進む。


明暗にくらくらする。


不意に彼女は立ち止まり、
上に向かって、

『Ciao!!!』

と、大声をあげる。


古い白壁の建物から、
女性の声が聞こえてきたかと思うと、

いきなり私の脇のドアが ばんっ 
と開き、
花柄ワンピースのでっかい中年女性が、
黒服の彼女に突進し、
何かを叫びながら抱きついた。


二人は、
満面の笑顔で何かを話しているが、
私にはイタリア語は分からない。


汗だくで突っ立っている私に、
二人はまた笑顔を向けた。


『彼女はローザ、私の友人よ』


彼女の住まいには、
たくさんの絵が置かれていた。

飾るというより、
置かれている様子から、
それは彼女の描いたものだと分かった。


からだに巻きついた脂肪を、
ぶるんぶるんさせながら、
花柄の彼女はキッチンに舞い込んだ。

黒服の彼女は、
慣れた様子で、
テラスに私をいざない、
古い椅子に座った。


そこからの景色は、
息を吸うことも忘れるくらいの、
あまりにも美しいものだった。


入り江にへばりついてまで暮らす、
その心は瞬時に解せた。


呆然とする私の、
背後からパイ生地のいいにおいがしてくる。


横を見れば、
黒服の彼女は、

なんと、
うたた寝をしている。

いや、目を閉じているだけか。



よくよく考えれば、
私は彼女と十年以上付き合っているわけだが、
彼女のことはよく知らない。

こんなイタリア人との仲だって、
さっきはじめて知ったのだし。


口数だって少ない。

最低限の会話で、
私たちは付き合ってきた。


それでいいと、
また、今もそう思っている。


風が、あまりにも心地よい。



こんな時間を、

過ごせているだけで、

もう、他に何がいるか。



歌声が近づいてきた。

花柄の彼女は、
片手にワイン、
片手にでっかいパイを持ち、
近づいてくる。


そして、また何かを言った。



『ねぇ、ミュウ、今彼女はなんて言ったの?』


彼女は目を開け、微笑んで言った。




『あなたの娘は、きれいな黒髪ね、と言ったのよ』













Posted at 2011/01/31 09:42:02 | コメント(0) | トラックバック(0) | 文書保管庫 | 日記

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「禾乃登 [こくもつすなはちみのる] http://cvw.jp/b/924416/31022269/
何シテル?   09/02 14:31
   ふろいらいんです。よろしくお願いします。  このページでは、  写真と日記で毎日の生活を丁寧にしようなどと試みています。  車のブログ...
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