
日曜の午前9時。
ここは国道246号線。
ふと右に視線をやると東急駒沢大学駅の出口が見える。
いつもは渋滞で有名なこの三車線の通りも今日の流れは順調だ。
信号待ちで停車すると黒のドレスに身を包んだドイツ生まれの美女が現れた。
少し大柄な高級感漂う黒のボディーに映りこんだ、地を這うような美しいエクステリアの彼女はいつ見ても妖艶だ。
彼女は近年、衝突安全基準等の問題で大柄になっていく周りのライバル達と比較すると非常に小柄である。
軽量、コンパクト、ハイパワーが彼女の特徴でもある。
空前絶後の流麗なエクステリアデザインを誇り、軽量コンパクトなロータリーエンジンをフロントミッドシップに収める事で可能となった理想的な前後重量配分50:50による驚異の運動性能、低回転域ではトルク重視のプライマリータービン、高回転域では爆発的な加速力を生み出すセカンダリータービンを作動させるシーケンシャルツインターボで完全武装された心臓部による異次元の加速性能というピュアスポーツに不可欠な要素を全て高次元で実現した唯一無二の女である。
そう、彼女はもはや二度と現れることはない不世出のピュアスポーツなのである。
世間では彼女のような女達を「ピュアスポーツカー」と呼んでいる。
しばらく、彼女でしか絶対に奏でることの出来ない甲高いサウンドを楽しみながら国道を走って行く。
すると左側にコンビニが見えてきた。
三車線の一番右から左側へ車線変更する為に、少々古くさい音のするウインカーを作動させる。
彼女とのドライブ中は、こういった車線変更も意地悪してくる他のドライバーは滅多にいない。
すんなり車線変更を完了し、コンビニ入り口の段差に気をつかいながら彼女をエスコートする。
コンビニで買い物を済まし、工夫されたドアノブを引き、少々分厚いドアを開け、体をすべりこませる様に乗り込み、コンビニで買った品物を助手席に無造作に放り投げる。
彼女の室内には、ドリンクホルダーもなければ小物入れも運転席側におまけ程度に一箇所存在するだけである。
実用性は皆無だが、ドライバーの為だけに特別な空間が用意されている。
ステアリング、シフトノブ、アクセル、ブレーキ、クラッチ、全てがドライバーの自然に手足を置いた位置にあるのだ。
彼女の室内は狭いとか乗り降りが不便とか友人等から良く聞く話だが、彼女にそんなものは全く必要ない。
彼女に足りないものは、ドライバーだけである。
そう、彼女は走る為だけにこの世に送り出されてきたのである。
再び国道を走っていくと、首都高速の入り口が見えてきた。
トンネル、ブラインド、アップダウン、そして3速、4速を主体とする高速コーナーが連なる巨大環状道路である。
首都高速も渋滞で有名だが今日の流れは順調だ。
はるか前方に右コーナーが見えている。
左車線と後方には誰もいない事を確認し、右足にいつもより力を込める。
独自のサウンドと同時に、都内高層ビル群に囲まれたアスファルトの上を彼女は加速していく。
右コーナー一番奥のポイント少し手前でブレーキを踏む。
軽く前のめりになる感覚と同時に、左手、右手、右足の操作を駆使しながらコーナーを立ち上がっていく。
彼女と一緒でなければ体験できない世界の一つでもある。
彼女はコーナリングマシーンとも呼ばれている。
彼女の限界域はこんなものではない。
そのパフォーマンスの限界を知るドライバーは、ほんの一握りであり、常識レベルで考える領域をさらに踏み越えても、まだ限界には程遠い。
残念ながら私には、彼女のパフォーマンスを限界域で楽しめるテクはない。
しかし、彼女と過ごす週末の限られた時間は非常に楽しい時間でもある。
私は、彼女を所有しているだけで、幸せなのである。
しばらく彼女とのドライブを楽しんだ後、芝浦PAに立ち寄った。
彼女を駐車場にエスコートした後、缶コーヒーを飲みながら、もう一度彼女を見てみる。
ロータリーエンジンでしか実現できない低く構えたボンネットに、どこから見ても破綻のない一貫した曲面で構成されたボディは、彼女が世に送り出されてから20年近く経ったとは全く感じられない。
しばらく彼女を眺めていると、見知らぬ一人の中年男性が近づいてきた。
彼は興奮気味にこう言った。
懐かしいな。
他の女に浮気しても最終的にはこいつなんです。
今でも街中で見かけると別れなければ良かったと後悔してますよ。
本当にいつみても綺麗な女だな。
そんな彼に私は言った。
同じですよ。
私も浮気しましたが、やっぱりこいつが最高です。
こんないい女は、他にはいないですから。
そう、彼女の名前は、『FD3S(RX-7)』である!!
Posted at 2011/10/02 10:46:55 | |
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