• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+
イイね!
2008年06月15日

タイム・カプセル

タイム・カプセル 数えで古希の「父の日」に、不惑の息子が実家を訪問。
お互い、どことなく「この年になって」という気恥ずかしさがあったけれども、親不孝な僕は、こういう機会でもないと滅多に実家に顔を出さない。まあ、いい機会だったと言うべきだろう。

 その折、父が「ちょっと面白いものがある」と見せてくれたのが、今から100年近く前、1913年の新聞の縮刷コピーだった(添付画像は数年前のものだけど)。一部8ページ構成。僕らが見慣れた新聞となにが一番違うって、テレビの番組表がついていない(笑)。まだ放送始まってないもんな。あ、あと言葉遣いが全部文語で、漢字が正字(旧字体)。幸い、高校大学と漢文や古文がわりと好きで結構得意だったお陰で普通に読む限りには特に不自由はない。固有名詞を別にすれば。

 「市俄古(シカゴ)」とか「桑港(サンフランシスコ)」なんかは普通に読めるけど、「葡萄牙(ポルトガル)」や「勃牙利(ブルガリア)」あたりまでならマァ読めるけど、流石に「黒山」国だの「聖市」は分からない。スティーム・ロコモティブを「汽車」としたセンスなのだが……『黒山』国とは「モンテ(山)ネグロ(黒)」であり、『聖市』とは「サン(聖)パウロ」の由。

 面白がって95年も前の6月某日の新聞紙面を読んでみると、時は折りしも第一次世界大戦前夜、バルカン半島情勢を巡る「路透」通信(これ、ロイターと読む)等々の外電記事が2面を埋め尽くす。また、それを受けての尾崎咢堂や犬養毅の談話が掲載されている。年甲斐もなく(という言葉があたる年齢になったんだな、僕も)興奮してしまった。
 歴史の教科書や用語集などの文献的知識でしか知らなかった固有名詞、社会情勢が、この古新聞の紙面では「現在進行形」の出来事なのだ。歴史年表の上に箇条書きされていた出来事が、妙に生々しく目の前に立ち上がってくる。

 そういう時事的要素も読んでいて面白いのだけれども、表題に「タイム・カプセル」の語を選んだのは、このわずか8ページの古新聞には、そのときその瞬間に同時代人は恐らく意識もしないであろう「当然の風俗」が、琥珀に封入された昆虫の化石のようにクッキリと残されているように感じられたからだ。

 今の新聞紙面と違い、第一面はトップ・ニュースではなく、全面に新刊書籍の広告が掲載されている。今の新聞なら最下段に一列並んでいるだけのあれが、5段組くらい積みあがっている。その殆んどは英和の辞典、辞書、実務用語集なのだけれども、その中に紛れ込んで「女優論」なんて本が宣伝されていたり、『生殖器病ハ亡国病ナリ』なんてあおり文句を掲げた公衆衛生――と言っていいよな――の書籍が上梓されていたことも分かったりする。平塚らいてうの『青鞜』も宣伝されていた。

 俗に言う「三面記事」は文字通りなのだけれども、今で言う「社会面」の性格よりはもう少し、ゴシップだねの読み物性が強い。日の下に新しきことなし、との警句を思い起こさせるが、どんなに技術や媒体が変化・進歩しても人の営みって変わらないようだ。
 その一方で、わずか一世紀足らずの時代の流れで、もう分からなくなりつつある日常風俗の言葉もあったりする。和服に詳しい母は一発で言い当てたが、定期船から身投げしたらしい女性が着ていた「瓦斯(ガス)竪縞」という服装がどういうものなのかが、僕にも父にも判らなかった。ちなみにこれ、化繊の安物の着物なのだそうだ。
 特に注釈もなくサラリと記事本文に書かれていた事から想像するに、当時新聞なんぞと言うものをわざわざ購買するような人々というのは教養層に属したのであろうけれど、そのことを別にしても「瓦斯(ガス)竪縞」と書けば、それだけで当時の人たちには十分話が通じたということでもある。

 そして、その「定期船から身投げか?」の記事で面白いのは、安物を身につけて入水を図ったであろう女性の履物(船上甲板に残されていた)が桐柾目の下駄で、一緒に心中したらしい男性の残した洋傘(とかいて「こうもり」と読む)が矢張り桐柾目の下駄、黒革の鞄などだったということだ。
 僕や父には「やたら所持品を詳しく書きたてているね」としか分からなかったけれど、母に言わせると「下駄や小物(高級品)と着物(安物)、チグハグなのは何で?」ということになる。こうした時代習俗の基礎知識に欠ける僕や父には、気づくこともできない「違和感」だ。

 俄かミス・マープルとなった母の推理では「形見分けがあるでしょう。そのときに、高いものを身につけたまま入水したとなったら、『なんて勿体無いことを!』と死後もくそみそに言われるから、残された関係者への最低限の義理立ての意味からも、道行では高級な小道具を身につけていたけれど、身投げするときの服には安物を選んだはず」。うーーーん、ロッキングチェア・ディティクティブの現物を見た感じだ。いや、もしかしたら約一世紀前にこの紙面を目にした読者も、僕の母と同じように想像を巡らせて三面ゴシップ記事と言う『読み物』を満喫したのかもしれない。

 何年か前、読売新聞社が創刊以来のバックナンバーをデータベース化して、確か研究機関向けにDVDソフトか何かにして(確かすごいお値段で)頒布を行ったと記憶してるが、それを実際に試した人が、面白くて面白くて面白くて面白くて、下手したら日常生活が破壊されかねないくらい没入してしまっていると告白しているのを、何かで読んだ気がする。そのときは「ふーん。まぁ分かる気もするけど、そこまでかねえ」と感じたものだが、今は実感として強く同感の意を表したいところだ。社会生活の全てを放擲して、この古新聞の世界に耽溺できたら、それはそれできっと幸せだろうなあ(笑)。
ブログ一覧 | 芸能・文化 | 日記
Posted at 2008/06/17 14:51:02

イイね!0件



今、あなたにおすすめ

ブログ人気記事

ランタンが仲間入り
boby1192さん

東雲APITに行って来ました。
紫.さん

【四葉來郎衛門さんM2CP納車記念 ...
まあちゃ55さん

MINI原人雪とたたかう KRIE ...
MINI原人さん

カミングアウト! 実は・・・ 高速 ...
ウッドミッツさん

【シェアスタイル】10%OFFクー ...
株式会社シェアスタイルさん

この記事へのコメント

2008/06/17 19:58:22
 ご無沙汰しております。
 一種の考古学ですね。私も強く惹かれます。

 そういえば、1,2年前に老父が私に新聞のデータベースDVDをくれましたが、そんなに高いものだったのか不明です。
 医療情報だけ(そんなものがあるのかも不明ですが)・・だったか、一度確認してみます。
コメントへの返答
2008/06/18 10:36:12
あぁ、なるほど、確かに考古学っぽいです。ロマンを掻き立てられるところなんかも似てますね。

 コメントを頂いてちょっと気になったので『読売新聞』『DVD』『創刊』でグーグル検索して確かめてみたら……「CD-ROM」で、明治時代分だけで39枚組、お値段なんと92万4千円!!!

このあと「大正の読売新聞」「昭和の読売新聞・戦前1&2」「同・戦後1&2」と続刊がありまして、価格にばらつきがありましたが、フルセット揃えると消費税込みでなんと373万8千円!!うひー。そこそこ立派な車が買えちゃう値段でした(笑)。おいそれと個人が手を出せる商品じゃないのが残念です。
2008/06/19 00:28:17
ちょっと話題からずれるかも知れませんが、北海道で夕刊が廃止されると言うニュースを見て、新聞の将来について、段々不安を感じるようになってきました。
まずは全戸配達制でしょうか、その内維持出来なくなるかも知れませんね。
そうなると、押入れや引き出しやダンボールから古新聞が出て来る事もなくなって、当時の世相に思いを馳せるような事もなくなるのかも知れません。
コメントへの返答
2008/06/19 12:09:48
新聞は、従来のビジネスモデルがもう既に成り立たなくなっているようです。聞いたところに拠ると、元々は新聞本体への広告出稿が主要な営業収入源であったところ、これがアテにならなくなっているのだとか。
販売店の維持も、専売店形式だと困難で、競合他社との相乗りに移行しつつあるようです。
全国紙で一番ひどいのがS紙でグループ他社からの「輸血」なしに独立採算としたならば既に事業として成立しないレベル、ついでM紙が死線を彷徨っている……という話を聞いたことがあります。Y、A、NKも到底安泰とは言えず、文字通り「サバイバル」の様相を呈しているらしいです。
現在価格を調べてみる

おすすめアイテム

 
 

プロフィール

「そろそろ寝ないとなー。あした、絶対仕事が面倒くさいことになるの確定だから。」
何シテル?   09/17 23:51
曲面の綺麗な旧い車が好き、エレガンスのある車が好き。そんなこんなでユーノス500に乗りつづけ、もう……何年だ?  気がつけば屋根のない車まで併有。いつまで乗り...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2018/12 >>

      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     

リンク・クリップ

Automotive Design 
カテゴリ:新しい車関連
2003/08/09 00:21:12
 
All The Web 
カテゴリ:便利
2002/12/27 14:03:26
 
Hubble Space Telescope Public Pictures 
カテゴリ:科学・文化・芸術
2002/11/08 15:59:43
 

ファン

26 人のファンがいます

愛車一覧

マツダ ロードスター マツダ ロードスター
2005年10月、発作的に衝動買いしてしまいました。 いい車だなぁと思ってはいたものの所 ...
マツダ ユーノス500 マツダ ユーノス500
気が付けばデビューはもう19年前。 最新の車とは比べるべくもありません。 ガタガタゴトゴ ...
マツダ ランティス マツダ ランティス
俄かオーナー経験は僅か3週間で終わりましたが、とてもいい車です。 代車だったので、コンデ ...
マツダ アテンザ マツダ アテンザ
例によって例のごとく、借り物の車での「パートタイム・オーナー」です。レンタルしたのは10 ...
ヘルプ利用規約サイトマップ
©2018 Carview Corporation All Rights Reserved.