
「大門にある『
山本屋本店』本店の味噌煮込みうどんを食べにこない?」という殺し文句で僕を名古屋へ呼び寄せたのは、フランス車、とりわけルノーを得意とする並行輸入業者「
RENO」。これが「
山本屋総本家」なら東京にもあるし、麺の硬さが物足りないのでお断りするところだが、愛知か岐阜でしか食べられない「〜本店」となれば話は別だ。品川から新幹線に乗った。
名古屋コーチンをトッピングしたバリカタ味噌煮込みうどんを完食した後、RENOのオヤジが切り出す。「実は乗ってみてほしいクルマがあるんだ」。「ふっ、味噌煮込みうどんのためだけに僕を呼ぶわけないと思っていたよ」と僕。「でもうどんの話をしただけでホントに来たよね」(オヤジ)というやりとりはともかく、この度、ルノー・ウィンドなるクルマを輸入したんだという。
◆トゥインゴCC
「ミストラル」だの「シロッコ」だのマセラティやVWが風の名前を大事に大事に車名に使ってきたのに、ここへきてルノーがざっくり「ウィンド」。それはさておき、ウィンドはリトラクタブル・ハードトップの2シーター・クーペだ。ベースはトゥインゴ。全長3828mm、全幅1698mm、全高1415mm。ホイールベースは2368mm。 2+2と2シーターという違いがあるが、プジョー207CCより少し小さい。ヘッドランプやフロントグリルなど、ディテールのあちこちにトゥインゴを思わせる形状が見られる。写真で見るとクーペというわりにはずんぐりしたように見えるが、実際に見ても、天地に厚く、ホントにずんぐりしている。
RENOが入れたのは、ベルギー仕様のエクセプシオンというグレード。エンジンは直4の1.6リッターNAを積む。最高出力133ps/6750rpm、最大トルク16.3kgm/4400rpm。トランスミッションは5MT。日本に正規輸入されているトゥインゴRSと同じエンジン、トランスミッションの組み合わせだ。ほぼフル装備で、オートエアコン、ブルートゥース付きオーディオ(電話も可)、17インチアルミホイール(タイヤは205/40/R17のコンチネンタル・スポーツコンタクト3)などが備わる。なお、本国には直4、1.2リッターターボ仕様もある。
ルノーおなじみのBCBGなインテリア
トゥインゴRSと同じエンジン
◆リトラクタブル・ハードトップ考
突然だが、ここでいったんウィンドの話から外れることを許してほしい。世にリトラクタブル・ハードトップ車が増えた。一時はすべてのオープンカーが硬い屋根になっちゃうんじゃないかと心配したものだが、頑なにソフトトップにこだわるモデルもあり、棲み分けができた。格納できるハードトップ自体は戦前からあったし、SLKや206CCがブームを起こす以前にも、ソアラ・エアロキャビンやCR-Xデルソルなど、愉快なルーフのクルマがいくつかあったが、ここ10年くらいでオープンカーのなかにリトラクタブル・ハードトップという新ジャンルが確立された感じだ。
ハードトップにもソフトトップにもメリットとデメリットがある。ハードトップの短所のひとつは開閉に時間がかかること。複雑なアクションでトランスフォームする様子は見ていて楽しい。が、それも10回も見れば飽き、信号待ちでさっと開閉できるほうがありがたいと思うようになるはずだ。しかも、最近のソフトトップ車は走行中に開閉できるものも多い。赤信号中に開き切らず、走りながら完了させる姿はとてもキザだが魅力的だ。キザが嫌ならそもそもオープンになんか乗るなという話である。
だから、リトラクタブル・ハードトップにはできる限り開閉の速さを求めたい。例えば、外苑西通りや国道134号の赤信号でバッチリ決められる秒数で完了してほしい。イチかバチかトライして、間に合わなかったらしばらく「只今トランスフォーム中」のまま走らなくてはならないのだ。これ以上の罰ゲームはない。
◆開いて裏返って閉まるだけ
話をウィンドに戻そう。気になるウィンドのルーフ開閉所要時間は12秒と短い。これならたいていの交差点で大丈夫だろう。カタログで調べると、マツダ・ロードスターRHTが12秒で並ぶが、その他のモデルは軒並み20秒以上を要する。12秒は開口面積の小さな2シーターでないと実現不可能な秒数だろう。
短時間で開閉できるだけでなく、ウィンドの開閉の仕組みがシンプルかつユニークだ。まずトランクリッドが荷物の出し入れ時と逆に開いてルーフを迎え入れるのは他のリトラクタブル・ハードトップ車と一緒。次に、他のモデルはたいていルーフをZの形に格納するが、ウィンドはルーフ後端を支点に180度裏返るだけ。あとはトランクリッドが再び閉まって完了。リトラクタブル・ハードトップ車には、結構高いモデルでも閉じる際にルーフとフロントシールドがぶつかってガタンと音を立てるモデルがあるが、ウィンドはルーフそのものが軽く小さいため、何事もなかったかのようにパタンと閉まる。
一般的なリトラクタブル・ハードトップのモデルのようにリアウィンドウも格納されるわけではなく、シート後方のロールバー部分はそのまま残り、ロータス・ヨーロッパ並みの天地しかないリアウィンドウも、開けていようが閉めていようが同じ状態で残る。解放感はタルガトップ並み。風の巻き込みは少ない。
背(座高)の高い人だとクローズド状態での頭上空間はギリギリ
この薄い空間にルーフが収まる。トランク側のヒンジはこんなにシンプル
トランク容量はルーテシアと同じ270ℓを確保
私物のZEROがいい味出してますね。ポリカーボネートだけど
◆安っぽさは微塵もなし
ルーフが開いていようと閉じていようと、ウィンドは、そのスタイル、サイズから期待する通りの走りを見せる。133ps、16.3kgmに車重1248kg(フランスの公式webサイトより。計測方法が違って日本の計測方法より幾分軽く表示される)だから、速くはないが、かといって遅くもなく、トゥインゴではRSに用いられるエンジンだけにレスポンスは上々かつ回せば気持ちよく吹ける。
ルーフが開くといっても、シンプルな機構で開口面積もほどほどのためか、オープン/クローズ時で体感的な剛性感に変化はない。コンビニ駐車場の入り口にある段差を斜めにゆっくり通過しても、ルーフの状態に関係なく低級な音は皆無だ。スピードを上げて走ると、小さな屋根開きグルマとは思えぬ乗り心地に驚く。
シャシーカップ(2種類あるうちの硬い方)を採用した日本仕様のトゥインゴRSの乗り心地は特別に硬く、街中では閉口気味だが、ウィンドはシャシースポール(柔らかい方)を採用した日本仕様ルーテシアRSに近く、ソフトじゃないけどイヤじゃないタイプの乗り心地にしつけられている。血相を変えて走りたいならトゥインゴRSの方が気分は盛り上がるだろうし、実際に速いだろうが、何度も彼女に乗って欲しいなら断然こっちだ。屋根開くし。ド新車の売り物だけにビュンビュン走らせるわけにはいかなかったが、この感じだとワインディングロードも苦手ではないはず。
◆275万円
RENOではルノー・ウィンドに275万円のプライスをつけている。好きモノが指名買いするモデルに対して高い安いと決め付けるのはナンセンス。気になったらとにかく一度見にいこう。この力の抜け具合、遊べる屋根、 でもきちんと走る基本性能……(2シーターが候補になる環境にあるなら)ちょっとグラっとくるモデルだ。
Posted at 2011/05/28 21:17:38 | |
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