
いつもお喋りだった君の声が何処からか聞こえた気がして、振り向くけどそこには誰もいない。大きな瞳でじっとこちらを見つめる君の気配を感じて部屋の隅に目を凝らしてみるけど、そこには誰もいない。
この空白が簡単に埋まるとは思えないけれど、大丈夫。僕はペットロスで自分を見失ったりはしない。
だって君が、飼い主がそうならないように、最後までちゃんと考えてくれていたのだから。
6月頃から急に体重が減って、衰えが目立つ様になった君は、自分の最後を察知していたのかもしれないね。病院に行ったり、薬を飲ませてあげたりしたけど、君は「もういいよ」と言っていたみたいだ。
前日、足元にまとわりついてご飯を何度もおねだりする君の様子はいつもと何も変わっていなかった。だから、まさか突然逝ってしまうなんて予想もしていなかった。
確かにその日は朝からひどく元気がなくて、身体を動かす事も辛そうだったけど、そんなに深刻なものだとは思わなかったんだ。「薬を飲めばまた元気になるさ」くらいにしか思っていなかった。その日は僕も体調が悪くてちゃんと看てあげなかったけど、許してね。
6時頃、動物病院に電話して明日の予約をとった後のこと。君はテーブルの下にうずくまっていた。目は見開いたまま、口元からは涎が流れていた。抱きかかえようとしたら、君は最後の力を振り絞って立ち上がろうとしたよね。
持ち上げた君の身体の、何と軽かったことか。
膝の上に乗せると、君は僕の腕に顎を預け(すぐに袖は君の涎でグショグショになった)、身体をそっと横たえた。それからはあっと言う間の事だった。
小さなしゃっくりを何回も繰り返して…やがて呼吸が速くなり…君はそのまま動かなくなった。
こんなに急に逝っちゃうだなんて。
君は飼い主に迷惑をかけず、人の手を煩わすことなく、静かに逝こうとしたんだね。何日も苦しんで心配をかけたり、看病させる事もなかった。最後の最後まで、本当に立派な猫だったよ。
君はずっと人と暮らしてきたから、飼い主の心なんてお見通しだったんだ。
あの日は僕が家に居る日なんだって、ちゃんと分かっていたでしょ?僕が8月4日から旅行するって事も、察知していたでしょ?いつもなら我慢して待っているところだろうけど、今年の暑い夏を乗り切る事はとても無理だって、自分で分かっていたね。
そう、だからあの日を選んだんだね。
あの日、ああいう形でお別れをするのが一番なんだって、知っていたんだね。お陰で死に目に会えないなんて事もなく、短い時間だったけど最後にお別れが出来たから、良かったと思っているよ。
最後の最後まで飼い主に気を使ってくれて、ありがとう。
22年間の思い出は重すぎるし、思い出せば涙が止まらなくなる。
君は臆病で人見知りだったけど、飼い主にはいつもベッタリだったね。帰宅すると一目散に走って迎えに来るのは、嬉しかったけど。お転婆の君が若い頃には、いくつも事件があったね。ベランダで雀を捕まえた事、そのベランダから転落して鼻の頭を擦りむいた事…そして預け先の家から脱走して、5日間も行方不明になった事件。たぶん君の人生一番のピンチだったんだと思う。
そんな事、もう君は覚えてないかもしれないけど。
そんな君も去年あたりから、遊ぶ事を一切やめ、毛繕いも爪トギもしなくなった。
ここ最近は、ご飯をねだるとき以外は静かにしている事が多かったけど、そんな時でも、大きな目でいつも僕の事をじーっと見つめていたよね。
何を考えているんだろう?何を言いたいんだろう?っていつも思っていたけど。
今なら分かるよ。
君はお別れの日が近い事を、察していたんだ。
その時に、もっともっと沢山「ありがとう」って言っておけば良かったな。
もう君の元には届かないかもしれないけど、でもこれだけは言っておきたいんだ。
君が僕を必要とした以上に、僕には君が必要だった。
たったひとつの命、かけがえのない君。
間違いなく、最高の猫だった。
感謝を込めて
2013年7月22日
Posted at 2013/07/22 23:43:44 | |
トラックバック(0) |
カマニャン | ペット