本車の運動性能の素晴らしさなどは散々言われている(私も、少なくともパナメーラは存在意義自体が揺らぐと思う)ので識者の先輩方に任せるとして、令和のEV化トレンドにより「無限物欲に支配されながらも有限の資産状況に悩まされる」ような我々エンドユーザー等にとっても、いよいよ従来のエンジン車(=内燃機関モデル)とは全く異な思考が必要とされる日が来つつある。
本日のタイカンで言えば、RWDである【素】のみは別として、今回試乗した【4S】は4輪駆動。つまり上位のタイカン【ターボ/ターボS】らとはパナソニック謹製のバッテリー容量はおろか、駆動モーターの型番までもが全く同一。それなのに、インバーター出力の違いとECU書き換えだけでターボ(+400万円)あるいはターボS(+700万円)との出力差が生まれている驚愕の事実に納得出来なければ、電気自動車にターボ命名という不満に相まって、独ポルシェAGも相当「阿漕な」商売をしてきたな……と不満を感じる旧ユーザーは正直言って少なくなかろう。
メカニックがパーツリストを確認すれどターボ専用部品が何処にも見当たらない──これは911のみを愛するユーザーには周章狼狽の物語だ。元来、ターボが964時代から神格化されてきた理由は物理的にあらゆるエンジン部品が専用型番で組まれていたのだから。これが(メーカー保証が切れるので誰もやらないだけで)悪意があれば4S購入後にコンピュータチューンによりターボSにアップグレード出来てしまう。しかも、各モデルでエアロ形状にすら差が無いため、いよいよもって“輝かしいリアエンブレム”と西海岸御用達のヴィーガンレザー、PCCBの追加に単純+700万円もの価値を見出せるか?ということを試されているに等しい。
成金ではない、真のお金持ちは、買うのだと。
本質的に「エンジンが無い」という事実を、突き付けられ、受け入れる他無い。
あるいは一方で、これまた内燃機関モデルと違いEVモデルにとっては維持性においてボトムグレード【ならでは】のメリット(たとえばメルセデスS350は排気量が小さいことによりS600よりも燃費、修理費、自動車税などにおいて優れている)がそもそも皆無であることも特筆すべきことと感じる。中古車市場は一体どうなるのだろうか。EV車では、アッパーグレードほど車体性能が増すばかりか、同時に巡航距離や燃費までも向上するのだから。
要は(イニシャルコストを別にすると)極論、下位グレードを購入するメリットが全く無い(!)というのがEV車での新常識となる。中古市場ならば、尚更だ。
メルセデスであればランニングコストが低い理由から長年V6の「350」や「ディーゼルモデル」、「エアサス非搭載グレード」の方が一般に本邦のデイリーユースでは“庶民的”であり、複雑なV8モデルなどより逆にリセールバリューが高かった。ポルシェも同様にマカンも維持パーツの安価な“素(直4)”が人気だ。
その意味では、富豪も庶民もエコノミストも、全ての人々にとって一律タイカン【ターボS】のみが最良の選択になるのだから、そのヒエラルキーは一層堅守されるだろう……。
さてこのタイカン、実際の性能はパナメーラのシェアを奪い尽くすレベルの、全方位的な領域でリリースされて来ている(本当に、パナメーラはどうするつもりなのだろうか)。
逆に911だけはあまりにも別のベクトルであり、これはもはやパフォーマンス云々ではなく3:7のスーパーリアヘビーの持つ独特の蹴り出し感、異常なる運転特性を一度知ってしまった人間にとって、もはやEV車と直接のライバルに挙がることはあり得ないだろう(ミドシップ車はEV車と近しい存在になり得る)。だからポルシェはあくまで911、という信者が(多数)居ることも実に納得出来る。そんなことはポルシェAGも勿論百も承知。エンジンを、パーツ一つ一つを愛でる時代は終わっていないと。奇しくも5:5のミドシップスーパーカーが次々とEVに食われていく昨今。逆説的だが明らかに「完全でない」RRという工芸品の素晴らしさを再確認出来た「完全な」EVモデルの試乗だったと思いたい。
ともかくGT3は大事にしたい─。
Posted at 2021/02/03 17:32:08 | |
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