第1弾、
第2弾に続く、遅々として進むシリーズ第3回です。
最近こそBRICsを初めとする新興国でようやく各メーカーが母国ラインナップ外の「独自モデル」を作るようになってきましたが、「グローバル化」が進んだ80~90年代は発展途上国の自動車史に於いて概ね不毛な時期だったように思います。 60~70年代にそれなりに育って栄えた各市場独自のモデルたちが、もちろん合理的な理由があってのことながら、その時期どんどん消えていきました。アルゼンチンでも、60年代半ば、既に約20万台に達していた全需を背景に花開いた「国産車」たちが、後継車に恵まれることなく一生を終えていきました。
そんな「アルゼンチン国産車」の中で、クルマ好きな人たち(オヤジたち?)に今でも語り継がれている"Nostalgic Hero"の筆頭に挙がる(と私が思う)のは、
Renault Torino(ルノー・トリノ)です。
え、何それ? ルノーにそんなモデルあったっけ? それにトリノって言えばイタリアだしフィアットの本拠地だし、仏ルノーのモデル名としてあり得ない! ・・・ごもっともです。 でもあったんです、そういうクルマが。
+ + +
デビューは1966年。 当時、仏ルノーと米カイザー(後AMCに吸収の末、消滅)の合弁だったIKAルノー社が、米向けランブラー・アメリカンをベースに開発したモデルです。 ボディは、なんとピニンファリーナによるリデザインで、ランブラーとグリーンハウス部を共用しているにも関わらず、元が凡庸なアメリカ車だったとは思えない軽快でスポーティなスタイルに変貌(さすがPininfarinaです)。 バリエーションは4ドアセダンと2ドアクーペの2種が用意されていました。
Renault Torino Coupe TS ('73頃) posted by (C)corno4
Renault Torino S ('73頃) posted by (C)corno4
インテリアも、いかにもイタリアンGTらしいT字型インパネ(木目とシルバーの2種があった)をはじめ独自デザインを採用。 人口より牛の頭数のほうが多い^^アルゼンチンらしく、牛革をふんだんに使ったトリムも用意されました。
Torino Grand Routier ('76頃) posted by (C)corno4
一方でエンジンはランブラー用のOHVに代えて、ジープ向けに新開発された(Wagoneer用として1963年に登場)OHC・直6・3.0L/3.8LのTornadoエンジンを国産化して搭載。 高性能仕様はウェーバーの2バレルキャブレターを3連で用いて215馬力を発生、ZF製4速MTとの組み合わせで最高速205km/hを誇ったそうな。
これらにより、主にイタリア人とスペイン人をルーツとする(それぞれ人口の約40%)アルゼンチン人にとって、Torinoは「我が国のオリジナル車!」と誇れる国産GTカーとなり、長く愛されることになったのでした。
Torino Grand Routier ('76頃) posted by (C)corno4
逸話として、フィデル・カストロ元議長(キューバ)、カダフィ大佐(リビア)、故ブレジネフ元書記長(ソ連)がこのTorinoを愛用していたという話が残っているようです(wikiによる)。「非西側」のVIP(=米や西欧のクルマに乗るわけにはいかない)の目から見て、高級高性能車として一定の評価を得ていたということなのでしょう。 また、1970年の大阪万博においてもアルゼンチン館に展示されていたんですって。 その1台はどこに行ったのか?
さて、デビュー以降、1970年、1974年、1978年にマイナーチェンジを重ねた後、Torinoは1981年に生産を終了、惜しまれながら15年に亘るモデルライフを終えました。 累計生産台数はセダン約4万台+クーペ約6万台の計約10万台で、クーペのほうが多いところにTorinoらしさを感じます。 当時からチューニングパーツは豊富で、今でも人気は高く、国内での位置づけというか人気具合は「アルゼンチンのスカイライン」とでも形容できるかもしれません。
Torino Coupe ZX ('80頃・最終期) posted by (C)corno4
そんな人気を物語るのが、小規模コーチビルダーによる数々の改造車の存在です。 下に写真を挙げる2つがその代表でしょう。 ひとつはワゴン。 そしてもうひとつはフロント・リヤともに外板を大幅改変、低く構えたワル顔に大型ガラスキャノピーが特徴的な迫力のチューンドカー。 子供ながらに、「これかっこいい~!」と思った記憶があります。
Torino Zafari posted by (C)corno4
Torino Comahue posted by (C)corno4
日本のスカイライン(R34までの)がそうであるように、こういう「Nostalgic Hero」的なクルマは現代というより「ちょっと前」のものであり、これから出てくることはもう無いだろうなと思います。 20~30年後、現代のクルマを我々はどう懐かしんでいるでしょうね。
■ フォトギャラもアップしました:
・
Renault Torino (1) - 街角で見かけたTorinoたち
・
Renault Torino (2) - 当時切り抜いた雑誌広告より、他
■ おまけ(1):
Torinoのエンブレムはトリノ市の紋章をモチーフとした雄牛です。 後ろ2本脚で立ち上がったその姿は、フェラーリとランボルギーニを足して2で割ったようにも見えるのがちょっと笑えます(^^)。
Torino Logo posted by (C)corno4
■ おまけ(2):
TVCMの動画を見つけました。 この70年代っぽさ、何とも言えません。
Posted at 2010/02/12 10:58:05 | |
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