核となるのは入力が5Vから20V、出力が12Vから15Vの昇降圧DC/DCコンバータで、容量100Ahの標準的なディープサイクルバッテリーに適した充電電流は10Aなので150Wクラスになる。
DC/DCコンバータにはいくつかの手法があって、効率、部品コスト、安全性でそれぞれ一長一短がある。まずトランスによる絶縁型とトランスを使わない非絶縁型に大きく分けられる。
いくら精密な保護回路やアルゴリズムを使用しても、ノイズによる誤動作、サージ電流、水濡れや車内の高温などに起因する電力半導体(FET、ダイオード等)破壊の可能性を0にはできず、入力と出力が意図せず導通状態になった場合、特に降圧幅が大きい場合は出力に繋がる負荷装置に深刻なダメージを与える。トランスは磁界変動により電力を伝達するため、制御装置が破壊されても絶縁は保たれるが、効率と部品コストでは不利になる。例えば100Vから12Vへ降圧する場合はトランスによる絶縁が必須となるが、今回は例え入力と出力が導通しても電位差は数Vなので、安全性を極端に損なうことにはならないと考え非絶縁型を採用する。
非絶縁型コンバータにはリニアレギュレター、チャージポンプ、スイッチングレギュレターがあるけれど、リニアレギュレターは降圧しかできず、チャージポンプは150Wもの電力は扱えないためスイッチングレギュレターに決定、さらにCuk、SEPIC、フライバックの手法がある。Cukはコスト安で安全性も高いけれど入出力極性が反転し効率が悪いため、SEPICとフライバックに絞って検討する。
SEPICは入出力がコンデンサで直流的に絶縁されることが最大の魅力で、入力側のリップルが少なく特にソーラーパネルの保護に適した回路とされる。反面コイルを2つ使うため効率は80%程度、20%の損失は30W程度の発熱になるので冷却FANが必須となり、熱暴走の危険は高くなる。フライバックは同期整流とすることで高効率が狙え、専用ICでは98.5%の効率を達成している例もある。数Wの発熱なら冷却FAN不要で信頼性が高い。FETが導通状態で破損するとバッテリーからソーラーパネルへの逆電流により高価なパネルを全損する恐れがあるが、ハイサイドにFETが2つ入っているので保護回路の応答性が良ければ同時破壊の可能性は低い。コストはコイル1個対FET2個+FETドライバICでほぼ等価。リップルは大きめだが周波数を上げることで改善できる。
甲乙付け難いところだけれど、キャンピングカー内で使用する場合静粛性は絶対条件なので、冷却FAN不要のフライバックを採用する。
さて、最も簡単な構成なら
PIC18F14K50、コイル、FET×2、ダイオード×2、INとOUTのコンデンサで500円のUSBモニターロギング機能付充電コントローラーができる。しかし効率は80%程度で変動応答性も悪く、水ポンプなどの誘導性負荷をOFFしたときの逆起電力が入力側に瞬間的ではあるが逆流しソーラーパネルを痛める恐れがある。効率を上げるにはダイオードをFETに代替して同期整流とし、ハイサイドにON抵抗の低いNchFETを使用するためにブートストラップドライバ回路を組む必要があるが部品点数が多くなるので現実的にはFETドライバICを2組加えると+500円で効率は90%超になる。変動応答性を上げるにはPIC18Fでは実行速度に限界がある。PWMを100kHzで動かすとコンパレーター割込みは16サイクル毎が限界でUSB通信の優先割込に重なるとさらに割込遅延が発生するので、数百μ秒は大電流が流れても反応しないため単体では短絡保護が成立しない。
電力変換専用のdsPIC-GSなら1サイクル毎の制御が可能だがUSB付きdsPICはなくさらに+500円になり実装が増える。マイコンは機能が多くいろいろなことができるけれど、単機能の性能は専用ICが勝ることが多い。パソコンと家電の関係と一緒で、パソコンでテレビも録画も電話もカーナビもできるけれど、専用製品のほうが性能が良く、パソコンのようにフリーズすることはほとんどない。画面が止まってしまうだけなら笑って許せるけれど、電源制御が止まれば150Wの電力は発火に充分で就寝中のキャンピングカー内では命にかかわる。
ところでここ数年のLED照明の普及は目覚ましく各社から普及価格になった制御用ICが多数リリースされている。負荷としてのLEDと鉛蓄電池は定電圧定電流源を必要とする点で似たところがありその制御ICは流用できる。さらに調光機能を持つICもあり、調光=充電電流制御に置き替えることができる。その中でもリニアテクノロジ社の
LT3791は98.5%の効率で、各種保護回路を備えたうえで1.5%、わずか3Wの熱損失しか発生しないなんて個人の努力では到達しがたい領域で、それが500円で手に入るならわざわざFETドライバ回路や保護回路を組んでPWMをプログラミングしてもコストと手間を考えたらメリットはない。さらにマイコンとのインターフェイスも考慮されていて電流モニタピンの出力電圧もマイコンのADCに最適化されているし、調光用のCTRLピンとマイコンの可変Vref出力等を繋いで出力制御できる。昇降圧のモード切替やFETのPWMドライブや過電圧過電流短絡保護は任せて、PICが担当するのはUSB通信、電圧電流の設定とモニターと記録、入力源切替、ソーラーのMPPT制御のみなのでプログラム難易度は低く実行速度も要求されない。
結論として
PIC18F14K50 、
LT3791、コイル、FET×4、INとOUTのコンデンサを基本構成とし、入力側のFET-aを走行充電用、外部AC100VからのATX電源用、ソーラーパネル用の3つ用意し小信号FETでドライブ切替する。1000円の部品代で高効率、安全で自由なUSBデバイスを構築できる。
LT3791はTSSOP(0.5mmピッチ)38ピンICなのでさすがにユニバーサル基板で試作というわけにもいかない。数年前からFusionPCBなどの中華格安基板製作サービスが送料込で10枚1000円程度で利用できるようなので、eargleで試作基板の設計に取り掛かる
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2012/09/08 18:52:40