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2024/04/14

「欧州車のホイールボルトのほうが優れている」は本当か?(前編)


今まで「車にまつわるネット上の怪しげな常識や誤解」を斬ってきましたが、最後は理解していない人が意外と多いこのネタで。


(1)剛性と強度は異なる

自動車評論家の中には、口を開くとすぐに「剛性云々」と言う方がいますが、その人の文章を読む限り、剛性の意味を正しく理解したうえで使っているのか(そもそも剛性と強度の区別が付いているのか)、疑問に思える方が多いです。

剛性とは変形しにくさであって、強さ(=耐えられる力、壊れにくさ)である強度とは異なります(※1)
例えば、釣り竿なんかはすぐに折れるようでは使い物になりませんが、適度なしなりも必要で、強度は高いけど剛性は低い。
なのに、何とかの一つ覚えじゃないが、何でもかんでも剛性あるいは剛性感(※2)などと表現するので、大抵は疑問符をつけたくなるような、おかしな文章になっている。

そもそも単純に「しっかり感がある」とか、あるいは昔のように「硬めの足回り」などとわかりやすく言えばいいものを、妙に通っぽさを出したいのか、「剛性感の高い走り」だとか「ハンドリングの剛性が高い」などと言って、かえって半可通である事(或いは物書きとしては致命的ともいえる国語力の欠如)をさらけ出しているように思う。


(2)ボルトに求められるものは何か?

その最たる例が、誰が言いだしたか知らないが「欧州車の使うホイールボルト(以下、ハブボルトと記載)のほうが部品点数が少ないので剛性が高く、そのため剛性感の高い走りが得られる」というもの。

恐らくは「ホイールはボルトで支えている」という素人発想なんでしょうが、カーメディアや評論家だけでなく、タイヤショップやチューニングショップのオーナーなどの、いわゆるプロの方でもこう話す人が多いので、そう信じているカーマニアも結構いるようですが、
はっきり言って、都市伝説です。

ホイールの締結(高力ボルトを使った摩擦接合)においては、軸力が重要と何度も書きましたが、軸力とは「押さえつける力」のことです。
なので、ボルトに求められるのは、適度に伸びつつ(=弾性を備えつつ)、簡単には伸び切らない(=降伏点が高い)ことです。

仮に剛性が高い、例えば単純に材料としてのヤング率(縦弾性係数)が軟鋼よりも大きいダイヤモンド製のボルトでは、役に立ちません。
つまり、ボルトに求められる性能は釣り竿と同様、剛性ではなく強度なのです。

なお、ハブボルトをハブのネジ穴に直接ねじ込もうが、スタッドボルトを打ち込んでナットで締めようが、あるいは両ねじボルトにしようが、同じ軸力が出せるボルトであれば摩擦力(締結力)自体には差がなく、当然走りにも全く影響しません(※3)
(ボルトの強度や弾性、有効長さなど、他の条件が同じであることが前提)

(続く)


注釈
※1
ちなみに、強度と似たものに硬度がありますが、硬度とはその字の通り硬さです。
例えば、ガラスのような脆性材料は硬度は高いが、強度は低い。

※2
そもそも「剛性感」(直訳すれば「変形しなさ感」?)という言葉も、自動車評論家の造語ではないかと思いますが、今回はあえて使いました(個人的には「しっかり感」と書きたい所ですが)

※3
なお、トヨタはISやbZ4Xなどの一部車種にハブボルトを採用した時に、次のように説明している。
『トヨタ自動車がハブボルト締結に設計変更したのは、一言で言えば走行性能を高めるためだ。クルマの操舵(そうだ)性や走行性を高める効果があると同社は説明する。これには締結力が増して高剛性化でき、ばね下質量が軽減するという理由の他に、ハブとホイールの圧着面積が増すという大きな理由がある』(日経クロステックより引用、原文ママ)

この記事を書いている人(文系?)が、恐らく内容を正確に理解したうえで書いていないせいか、伝聞形式の文章になっているので、トヨタが何を言っているのかイマイチ正確に伝わってこないが、ハブボルトにした理由としてあげている「締結力が増して高剛性化でき、ばね下質量が軽減する」という説明は、「(ハブボルトのほうが部品点数が少ないので剛性が高く、かつ軽量であるという)世間一般の認識に迎合してアピールしたほうが、手っ取り早い」ぐらいにしか聞こえない。

また、もう一つの大きな理由という「ハブとホイールの圧着面積が増す」というのも「サブフレームのバカ穴の隙間を埋めて接触面積を増やし、剛性を上げる」というリジカラなるオカルトパーツの言い分と同じで、呆れるしかない。
確かに素人考えでは、接触面積が広いほうがしっかり締結されるように思うが、高校物理で学んだクーロンの摩擦法則を思い出せば解る通り、摩擦力は見掛けの接触面積に依存しない(なぜなら、面接触はミクロで見れば点接触の集合だから)

つまり摩擦力の大きさは、接触面の状態(=摩擦係数)と押し付ける力(=垂直抗力)の2つの要素で決まる(なお、ゴムのような弾性材料は別で、荷重が同じなら、接触面積が広い方がより高い摩擦力すなわち駆動力や制動力が出せる。なので、レーシングカーは太いタイヤを使う)

これが摩擦接合においては、摩擦力=摩擦係数✕軸力なので、摩擦力を上げるには、ボルトの強度を増して軸力を上げればよいだけの話である。
つまり、既にLSやランクルでやっているように、M14のスタッドボルトにすればいいだけの話で、ハブボルトの方が構造的に強度が高くなるなどという話は聞いたことがない。

もっとも、トヨタの優秀なエンジニア達が、その程度の事実を知らないはずがないので、軸力以外の別なメリットを享受したい、つまりは欧州ライバルと同じハブボルトにする事で、ターゲット層である富裕層の顧客に「ホンモノ感」をアピールしたいという事なのだと思う。
実際、欧州車ユーザーの中には「レクサスなんて所詮はトヨタ車と同じ造りじゃないか」と陰口を叩いて、レクサスには見向きもしない人も多いが、そういう顧客をも取り込み販路を拡大するのが、トヨタの悲願だろうから。

ただ、もし本気で言っているなら、
物理学の法則を塗り替える快挙になるかもしれないので、ぜひ論文等にまとめて世界へ向けて発信してほしいですね。


Posted at 2024/04/14 09:03:01
イイね!
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