銀座金澤翔子美術館修善寺
何かに「Challenge」しない人間なんて、いるものか
2014年06月17日
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朝のラッシュ時、車両中程の吊り革に掴まっていた高校生。部活動の荷物か、大きなカバンを肩に掛けている。
この手の乗客は都心まで乗車することはなく、途中駅で下車するだろうと予想していたら、案の定降りていった。
無言のまま、通路両側に立つ乗客に荷物をぶつけながら。
然程混んではいなかったが、吊り革がほぼ埋まる程度に乗客が乗る電車内。
ちょっと離れたところから、呻くような声がした。
座っていた障がいをお持ちの方が下車しようとして、恐らく「すみません」か「ごめんなさい」か、何れにせよ失礼を詫びる一言を発したのだと思う。
言葉にならない言葉だったが、意図は十分伝わり、その方は降り損うことなく目的地へ向かわれた。
話せるのに、求められる一言を発しない若者。
話せないながらも、持てる力をふり絞って気持ちを伝えようとした障がいをお持ちの方。
障がいとは、人間としての能力の欠如ではない。
もし能力が欠如している人間がいるとすれば、それは持てる能力を活用しない人のこと。概ね「健常者」と呼び称される人に多い。
もしかしたら荷物をぶつけながら降りていった若者は、実は聾唖者だったのかも知れない。
最近は、障がいをお持ちの方を「Challenged」と表現する。医学的見地から症状が固定化されている「handicapped」、一時的な不自由のニュアンスが強い「disabeled」を経て、前向きな言葉が汎く定着しつつある。もし若者が聾唖者だったとしても、昨今の「challenged」なる呼称に沿った行動だったのか考えて直してみて欲しい。
2012(平成24)年の初春、私は或る書家の存在を知った。
当時放映中の大河ドラマ「平清盛」題字を制作した金沢小蘭(金澤翔子)氏。
やはり書家である母の導きで幼少の頃より書道を始め、芸術性の高い作品を次々に発表。各地で開催された個展では好評を博し、開花した才能は大河ドラマが放映された年、福島県いわき市に常設の美術館を構えるまでに至った。
金澤翔子氏はダウン症候群を患っており、日常生活面では行動に不自由な面がある。
しかし「できないこと」「持たざること」を論い、或いは嘆いて人間に特定のレッテルを貼ることの無意味さ虚しさを、この書家は痛快に体現している。
人間誰しも、欠点や不自由さを抱えて生きている。人それぞれに千差万別、本来「健常者」「障がい者」と峻別できるものではなく、個々人の持つ「個性」と呼んだ方が適切なのだろう。
困っていること、不便なことは、できる人を頼って支え合えばいい。
代わりに、芸術や音楽の才能があるなら、それを存分に発揮して世間を愉しませてくれれば、十分釣り合う。
先に記したとおり「障がい」とは人間としての能力の欠如ではなく、持てる能力を発揮しないこと。または、何か新しいものにチャレンジする気持ちを喪うこと。
金沢作品に触れ、私自身も仕事や子育てに全力で当たれているか、新しい分野に足を踏み込むことを怖れてはいないか、振り返るいい機会を得た。
そもそも、何かに「Challenge」しない人間なんて、いるものか。
程度やなすべきことの差はあれ、人間誰しも何かに挑戦し、時に悩み、壁にぶつかった痛みに涙し、それでも最後は克服して笑う。
私もあなたも、誰もがみんな「Challenged」。
※金沢小蘭(金澤翔子)氏の作品を展示している施設は、他にも東京・銀座および本文中でも触れた福島・いわきに開設されている
住所: 静岡県伊豆市修善寺970 新井旅館「山陽荘」内
電話 : 0558-73-2900
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