以前ワンオフで前後スプリングを作製したのですが、思うところあってフロントだけ新たに作り直すことにしました。今回はその流れを備忘録的に記したいと思います。
◯なぜ作り直す?
今のサスセッティングに疑問が生じた。前後ともに20〜25%ほどレートアップしたF1.75キロ、R2.2キロのダウンサスをワンオフ作製。市販のダウンサスよりもソフトで、乗り心地自体は良いし、家族からも不満の声はない。ただ、自分の望むセッティングに持っていく為の計算を間違っていたことが昨秋に発覚()
また、純正比率そのままのレートアップなので、どこまでも純正の延長線という感じで自分には若干物足りなさも感じる。
◯今回の目的
乗り心地を考慮すると、可能な限りバネレートは低く抑えたい。しかしローダウン車高、かつリアが現状既にバウンド時僅かにバンプタッチしているで、リアはこれ以上レートは下げられない。よってR2.2キロは固定で、それに合わせたフロントスプリングのみを変更する。
◯まずは情報と数値収集
車の車検証、諸元やturbobricksのフォーラムから、サスペンションに関する数値を拾ってくる。
FR車
車体乾燥重量1310kg(セダン)
1人乗車時1380kg
最大乗車時1585kg
ホイールベース2650mm
車軸重の比率 前:後=55:45
レバー比 前=1,後0.82
純正Fスプリング 1.4kgf/mm前後
純正Rスプリング 1.6kgf/mm前後(ワゴン1.8k)
単輪あたりの最大アンチロールバー剛性
前=0.785kgf/mm(23mm径)
後=0.57kgf/mm(21mm径)
※フロントはSAI角の影響により、実効レートは名目の2.3%程度ダウンする
以上の条件から、
1人乗車時1380kgおよび最大乗車時1585kgのそれぞれにおいて、ベストバランスなFスプリングレートを決める。
◯固有振動数からレート計算
ここでスプリングレートとレバー比から実効ホイールレートを求めるのですが、なんと前回はリアのレバー比を1/1.22=0.82とすべきところを、間違って逆数の1.22として計算していました。現在2.2kのバネなので真の実効レートは3.2キロちょいと言うことになりますが、この計算違いで1.48キロとしてしまい、それに合わせたFスプリングを作成していました。結果的に両方とも揃って2割ほどアップだったので、これが正解と思い込んでおりました。
今回はちゃんと真の実効レートを用いながら算出していきます。生成AIの助けも借りながら、諸条件からまず前後輪における固有振動数を求めました。用いたAIはChatGPT、Grok、Geminiの3者で、それぞれ数値を出し、相互に検証・評価させて、最終的に3者が一致するベストのバネレートを決定していきました(簡易マギシステム)。なお正確なバネ上重量は不明なので、簡易的に軸重を用いました。
現状リア2.2キロにおける固有振動数を算出すると
1人乗車(1,380 kg): rear f_n ≒ 1.616 Hz
最大乗車(1,585 kg): rear f_n ≒ 1.508 Hz
となりました。ここから固有振動数を一致させる形でフロントのレートを決定すると
3.991…ほぼ4キロと算出されました。当初の1.75キロに比べると明かに高いですね。純正と比較すると実に2.8倍以上のレートです。
ただ、生成AIの3者とも、前後の固有振動数を一致させるやり方には否定的な意見でした。おそらくレートが高くて乗り心地重視には向かないこと、バウンドの収束は早いが疲れる乗り心地になること、前後の周波数の一致は、速度次第ではカーブの減速帯などで振動がむしろ強調されてしまうことなどが理由と思われます。
◯ではどうする?
生成AIとのやり取りの中で、Grokが盛んに「flat ride理論」と言う語句を連呼するので、そんな理論が存在するのかと思って調べました。どうやら、モーリス・オレー(Maurice Olley)と言う人によって確立されたサスペンションチューニングの理論だそうです。物凄くざっくりとまとめると
①前輪の振動数を15〜20%ほど低く設定する
後輪を少し硬く設定することで、前輪が段差を乗り越えた後のピッチングを、続く後輪で速やかに収束させる。
②車両の旋回半径と前後重心位置の設計
前後のサスペンションを独立した2つのマス・スプリングとして捉え、ピッチングの慣性半径を適切に設計する。
と言う2点になります。特に今回は①が関連ありそうです。再び生成AIの3者を交えて議論を繰り返し…満場一致で出した答えはフロント3.12キロ。固有振動数 1.45 Hz 前後、前後差は12%となりました。
次に、上下方向の固有振動数から導き出したバネレートのバランスと、前後方向のピッチング振動数を比較してみました。ピッチ振動数は概算で2.6Hz、上下方向の1.7〜1.8倍程度となりました。上下振動との共振は起こりにくい…と予想されます。
最後に左右方向のロール振動数との比較。前後のアンチロールバーの推定レートも加味し、ロール周波数は1.66Hzくらい、上下固有振動数よりすこし高い程度です。前後・左右方向の振動数とも相性は良好の様です。安心しました。
さて、レートは決定しましたので、次はスプリングの設計です。スプリング設計で重要になるパラメーターは①線径、②コイルの中心径、③有効巻数の3つになります。同じ3.12キロでも、上の3要素でバネのキャラクターは大きく変わります。
柔らかい乗り心地を実現するには、なるべく線径は太く、中心径は大きく、有効巻数は多くするのがセオリー。実際は純正形状のスプリングなので中心径ほぼ固定、残る線径と有効巻き数で調整していきます。線径13mmから16mmまで色々試した結果、16mmで第一案を設計。その後、発条会社とも相談の上、最終的には線径は15mm、有効巻き数は1.75キロのバネよりも少しだけ多い設計になりました。
1G荷重時から逆算した自由長は、かなりギリギリ…下手したら遊びが出てしまうかどうか?と言うくらいになりました。全てのパラメーターにおいて、おそらく純正形状ダウンサスの限界なのではないかと思うほど詰めた設計かもしれません。これ以上を求めるならば、ダウンサスをやめてコイルオーバーに変更するしかないと思いました。
◯スプリング発注、完成
発条会社にメールで相談。何度か検討のやり取りとやり直しを行い、最終的な設定が決まったので発注。上にも書いた様に、第一案は線径16mmで相談したのですが、最終的には15mmと言うことになりました。
こうして1ヶ月半ほどで完成したスプリングは当初の3.12より少し下振れして3.05キロ前後になりました。改めて上下固有振動数を算出してみます。
フロント1.40Hz
リア1.62Hz
4輪全体 1.50Hz
フロント<リア比率 16%となりました。フラットライド理論の20%に程よく近い、理想的な数値です。
純正スプリング(1.4kgf/mm)と、今回作製したワンオフスプリングVer.2 (3.05kgf/mm)の見た目比較です。一目で方向性がまるで違う事がお分かり頂けるかと思います。線径も太く、自由長もかなり短い、いかにもなダウンサスですね。
対してこちら(左)は、これまで装着していたワンオフスプリングVer.1(1.75kgf/mm)。あくまで右の純正に近い性格という事がよく分かります。実際、乗り心地も相当良かった。Ver.2だいぶ自由長が違いますが、これでもほぼ同じ車高(純正から-40mmくらい)になります。
今回のスプリング変更はある意味、ボルボ240特有の柔らかな乗り心地を捨てて、現代の車に近いセッティングに振ったと言うことになります。
Posted at 2026/03/16 07:35:14 | |
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