両面宿儺

歴女というわけではありませんが
古い書物が好きでよく読みます

そのなかにこんな話があります


六十五年 飛騨國有一人 曰宿儺 其為人
壹體有兩面 面各相背 頂合無項 各有手足 其有膝而無膕踵

力多以輕捷 左右佩劒 四手並用弓矢 是以 不随皇命
掠略人民爲樂 於是 遣和珥臣祖難波根子武振熊而誅之

（現代語訳）
六十五年、飛騨国にひとりの人がいた。宿儺という。
一つの胴体に二つの顔があり、それぞれ反対側を向いていた。
頭頂は合してうなじがなく、胴体のそれぞれに手足があり、
膝はあるがひかがみと踵がなかった。

力強く軽捷で、左右に剣を帯び、四つの手で二張りの弓矢を用いた。
そこで皇命に従わず、人民から略奪することを楽しんでいた。
それゆえ和珥臣の祖、難波根子武振熊を遣わしてこれを誅した


日本書紀に出てくる両面宿儺

その容姿から『怪物』と言われ
恐れられた人物の話です

（円空作　両面宿儺像）

私が初めて宿儺を知ったのは
楳図かずおさんの恐怖漫画だったと思います

その中の宿儺は
恐ろしいけれど、とてもかわいそうな一面を見せていました


身体形状の記述からすると、宿儺は一種の奇形であったと思われます
双子で生まれるはずの兄弟の身体が
背中合わせにくっついてしまい
そのまま成長した

昔は奇形というものは
『鬼』と呼ばれるか『不幸をもたらす悪魔のようなもの』と言われ
今では信じられないような差別と迫害を受けていました

宿儺は運が良かったのか・・
人里離れた山奥で　ひっそりと生活するようになります

私の記憶では
宿儺は　良家に嫁いだ武家娘が生んだ子で
生まれた子の容姿を見た主人が
娘が発狂しないように、産後の正気を取り戻す前に山奥へ隠したと記憶しています


あるとき
水を汲みに行った宿儺兄弟は
水汲み場で一人の村娘を見て　恋に落ちます

だが
兄も弟も、娘に自分の容姿を見られたら
きっと嫌われるに違いない

そう思って身を隠し
村娘が水汲みに来るのを遠くから見て
それを楽しみにするようになりました


それでもやはり
娘と一度でいいから話してみたい


きっと百合の花が似合うに違いない
いや、桔梗が似合うだろう


背中合わせにくっついていた、仲の良い兄弟は
次第に喧嘩が絶えないようになり

ついに
どちらが娘に求愛するかで大喧嘩をし
戦って、どちらか勝ったほうが娘に会いに行こうと言い出します


そうして宿儺は

自分で刀を持ち出し
背中のくっついた部分に刃を入れ
二人になったところで、決闘を・・・

仲の良い兄弟だったのに
なんでも助け合っていた兄弟なのに・・・



勝ったのは兄でした


兄は山百合の花を持って

背中からは　大量の出血でふらふらしながら里へ下り
娘の家の戸をたたきました


何も知らない娘が戸を開けると
逆立つ髪
見上げるような大男


娘は思わず兄に向って


『化け物！！』


と叫んでしまいます




それを聞いた兄は・・








何も言わずに山へ帰ろうと
振り向いたところで



この山に住むという
化け物退治にきたという武士
（難波根子武振熊）とその兵の

雨のような矢を受けて絶命してしまいます





その亡骸を
ふと見た娘は気づきました


宿儺の手には
斧でも弓でもなく
百合の花が一輪握られていたことを。


宿儺の容姿が
いくら恐ろしくとも
村を襲う化け物ではなかったことを。







その後宿儺は手厚く葬られ
土地の神として崇められるようになりました








・・・・。





なんかね
今日、妖怪人間ベム見てて思ったんだけど
同じだなあって。



容姿どうこうよりも
妖怪よりも人間の内面のほうが怖いね