
ギスは測定器である「んなこたぁ言われなくともわかってるよ」と言われる事は承知の上です。
多少使い勝手が悪かろうが、すこしばかり器差や精度が悪くてもそれは「価格なり」の物と言えます。
方や2万オーバー、安い方は2千円程度で手に入るんですから。
もともと、ノギスは0.01の単位は測るものでは有りません。
その領域はマイクロメーターの領域となるのです。
ラジコンではエンジンのピストンは消耗品と言えます。
だから「なんかスローが安定しないなぁ」とか「なんか圧縮が無いな~」とかの場合、大抵ピストンを測ってみます。
小型の模型エンジンはピストンリングなんて入っておらず、リングが入るのは排気量が8cc程から上のサイズです。
なので小排気量の模型エンジンのシリンダーには5/100程度のテーパーが掛かっていて、上死点で圧縮を確保するようにできています。
この程度の測定なら、0.05が正確に測れれば事足りるんです。
そこで出てくるのがノギスです。
先日、30年連れ添ったミツトヨのノギスを不注意から壊してしまったのは前のブログに書きましたが、結局新しくミツトヨのノギスを買いなおしました。
2万円以上の出費は痛いです。
ミツトヨのハイエンド スーパーキャリパーです。
しかも電池が不要のソーラータイプ。
通常のノギスと異なるのは、内部にバッテリー替わりのキャパシターを持ちソーラーで僅か60ルクスで動作すると言う仕様。
通常のソーラータイプだと照度が落ちると白目を剥くけど、スーキャリパは充電された内部キャパシターで70分の動作が可能で、蛍光灯の灯りで十分に機能します。
まあ、正直言うと現在のハイエンド機を使ってみたかったと言う事もあります。
で、もう一つ持っているのか3千円以下で買ってきた、APのデジタルノギス。
確かに精度は落ちるけど趣味で使用するには十分な能力を持っています。
でもガサガサした動作感は何度使っても慣れません。
で、以前壊した500-301という型番を持つ当時のハイエンド機と現在のハイエンド機、そして価格が一桁違う故、気の毒では有るけどAPのハイエンド機?という三つ巴の比較をしてみましょう。
え?500-301は壊しただろうって?
それが復活させたんです。
既にメーカーサポートも終了しているこの機種、ダメ元で裏蓋をはがし、内部を開け基盤を取り出し、剥がれていた半田を直し、電池の極板にちょいと半田を盛って接触を確保しました。
で、今はちゃんと動いてます。
上から
500-301 30年前のミツトヨ、デジタルノギス
500-774 現行のミツトヨ ソーラーデジタルノギス
AP010937 APのデジタルノギス。
ちなみに、左に写っているのは5.990mmのピンゲージで米国に行った折りに手に入れたもの。
【3社比較】
1.文字の大きさ、これは圧倒的にAPの勝ち。
500-774が7.5mm(縦)に対して10mmという圧倒的な大きさで、老眼でもはっきりと見える。
(だが老眼でジョーの噛み具合は見えないので老眼鏡を使用する、別に表示が小さくても現実的には困らない)
旧式の500-301に至っては、5.2mmという小ささです。
2.アブソリュートゼロ機能(電源が切れても、ゼロ点を記憶しており、電源が入る度にゼロ合わせ不要)
これは、500-774、AP共にこの機能を持っており、どちらも問題なくこなす。
しかし、500-301は古いだけあって、電源を入れる度にゼロセットをしなければならなりません。
そのかわり電源オートオフ機能がなく、OFFボタンを押さない限りは動き続ける。
(これで何回高価な酸化銀電池をすっからかんにしてしまったか)
3.表示ホールド機能標準搭載
これを持っているのは500-301だけで、500-774にもAPにも搭載されていません。
ミツトヨでこの機能を付けるにはオプションでホールドスイッチを付けなければならないんですがソーラータイプは適用外。
で、どうするかと言うと、まずは普通にジョーで噛みます、そのまま0点ボタンを押しゼロセットします。
でノギスを外したらジョーを0のところまで動かしてマイナス表示を無視して読めば測定部の寸法となります。
コレは安物のデジタルノギスでも出来ますので、覚えておいて損は無いテクニックです。
4.任意位置のゼロ点設定
これはさすがに全機種が持っています。
無ければデジタルノギスとしては使い物になりません。
アナログノギスでは不可能な機能と言えます。
5.電源オートOFF機能
これはAPは持っていますが、500-774はソーラー電源のため電源ボタンさえ有りません。
500-301は前述したようにオートOFFはなく、電池の続く限り動き続けると言う仕様。
どちらが良いとは言い切れませんが、データを転記したりしているうちに表示がフッと消えてしまうのはAPのノギス。
500-301はそれがない代わりに高価な電池(酸化銀電池)を1か月もすると使いつくしてしまいます。
(現在のミツトヨは、省電力化されていて電源入れっぱなしでも2年以上稼働するようです)
6.防塵・防水機能
これはスーパーキャリパと呼ばれ、切削クーラントがかかっても、キリコが掛かろうが粉塵も問題なしと言うミツトヨ唯一の機能です。
他の機種は多少の防水機能を持った物はあるけど、基本内部は基盤丸出しで電解性を持つ液体を被れば白目を剥くかエラーを吐く事になります。
7.ショックプロテクト
これもスーパーキャリパの圧勝で、そのため表示モジュールが少し大きくなってしまったのは否めません。
本来は小さいほどありがたい。
8.器差
500-301 ±0.02mm
500-774 ±0.02mm
AP ± 0.03mm
この辺は価格差があるので仕方ないでしょうね。
逆にAPは、良くこの価格でここまで煮詰めたと言いたいですね。
ここまでの物が作れるのに、ネジはなんであんなにダメダメなのだろう。
9.カタログ上の繰り返し精度
500-301 0.01mm
500-774 0.01mm
AP データなしだが、実測値から0.02程度と推定
10.温度ドリフト
500-301 無し
500-774 無し
AP 0.01~0.04のドリフト(温度差により変動)
これはミツトヨには温度補正回路が入っているためで、APには温度変動によるスケールの伸び縮みがモロに測定値に影響します。
手にもって測定する測定装置であるゆえ、温度補正が無いのは誤差に直結するのです。
価格故、仕方ないことか。
11.実測(ジョー中央部)
AA 5.990mmのピンゲージを用いて固定器にセット。
室温20度で3時間以上放置してからノギスを手に持ち十分にノギスが温まってから測定しました。
5回測定し、1測定ごとにゼロ点に戻るか確認し、その後ゼロセットを行い次の測定を行います。
記載は〇で囲んだ数値が測定回、最初の数値がピンゲージの読み取り値、「:」を挟んでゼロ点に戻した時の表示値(リセット前)となります。
500-301
①5.99:0.00
②5.99:0.00
③5.99:0.00
④5.99:0.00
⑤5.99:0.00
500-774
①5.99:0.00
②5.99:0.00
③5.99:0.00
④5.99:0.00
⑤5.99:0.00
APデジタルノギス
①5.99:0.00
②5.97:0.01
③5.98:0.00
④5.99:0.00
⑤5.95:0.01
APは器差が0.03mmとなっています、よって⑤以外は誤差内ですが繰り返し精度を加味すると最大±0.05mmの誤差が発生する可能性があります。
これに温度ドリフトの差が加算されますのでやはり 0.1の単位しか信頼できないノギスですね。
12.ジョー先での測定
本来ノギスはジョー先での精密な測定は不可というのが常識で、ここら辺りもネットにはアナログノギスの目盛りの読み方は良く出ているが、大抵の動画はノギスの当て方を間違っています。
面で当たれるものにはジョーの太い部分で測るのが原則で、先が薄くなっている部分は曲面を持つパイプなどの肉厚を測るのに使用使用します。
(これは学校で教えていると思いたい)
あと、大切なのはワークに直角にノギスを当てる事です。
殆どの動画は素人の集まりなのか、まともに測れているものを見た事が有りません。
円筒などの外側径を図るのであれば、ジョーの中央部で測るのが正しいやり方で、もっとも誤差が少なくなります。
だから、ノギスの持ち方、測り方を見ただけでどんなに偉そうなことを言ってても素人だとすぐにわかってしまうんです。
だが、あえて今回は禁断の測定方法で見てみようと思います。
500-301
①5.98:0.00
②5.98:0.00
③5.98:0.00
④5.98:0.00
⑤5.98:0.00
旧式&使い倒しのためジョー先がヘタっているのか、すり減っているのかわからないけど0.01mm小さい数字が出て来ます。
やはり寿命なのか?
500-774
①5.99:0.00
②5.99:0.00
③5.99:0.00
④5.99:0.00
⑤5.99:0.00
測って、ほっとしました。
新品しかもハイエンド機、これでバラついたら泣きたくなります。
AP
①5.93:0.00
②5.94:0.00
③5.97:0.00
④5.92:0.00
⑤5.93:0.00
ジョー先では0.07mmmもの誤差が発生しており、信頼できるのはやはり0.1mmの単位となります。
たしかに、説明書には「ジョー先では正確な測定はできません」と記載があります。
オイオイ、じゃあ曲面を含む肉厚は測れないってことですかい。
それはあんまりである。
原因は、スライダーが滑らかに動かないのと、サムローラーの食いつきが非常に悪く目いっぱい力を入れ動かさなくてはならないので、ワークへの当たりが強くバラバラになってしまい、ジョーが歪みそれが誤差となってくるのでしょう。
あと、刃先が厚いためそれも測定誤差となってくる様です。
たぶん、使用している金属が柔らかいため厚くせざる終えなかったのでしょうね。
このようにスライダーの動きはノギスの精度に直結して来ます、だからガサガサ動くノギスは生理的に好まない理由なんです。
この点合格点が出せるノギスはミツトヨだけです。
あと、安いノギス全般に言えることですが、測定工具として致命的欠陥を持っていることが多いんです。
たとえばコレ。
これはスライダーを右に引き切った場合の右端の写真ですが、ミツトヨのものはサムローラーが外れそうな位置でも脱落することは有りません。
しかし、APのものはこうなります。
そう、脱落するんです。
もしこれが、クランクケースの中入れば「クランクケース割り」の作業が増えるし、大型装置の中ならば取り返しのつかないトラブルになってもおかしく有りません。
もう一つ有ります。
ノギスにはクランプネジという物が必ず付いていますが、なんとこれが脱落するのですよ。
ミツトヨなど一流メーカーの物は抜け落ちないようにできて居ます。
この様な中華製ノギスを致し方なく使用するときは、場所によってはこのネジとサムローラーを外して使用するしか有りません。
勿論精度もへったくれも無い、定規の方がまだマシです。
プロが中華工具に手を出さないのは、こうした経験に裏打ちされた機能と使い勝手と言えます。
必要があって高いものを買うしか無いのが現状で、けっして見栄や所有欲で買っているのではないんです。
高くない給料や利益の中から、泣く泣く費用を絞り出しているのが現状なのです。
まあ、趣味の範囲の利用なら、多少精度が落ちようが、部品が脱落しようが構わないだろうけど「時間=経費」のプロにとっては信用問題であり、利益に直結します。
こんなことから、持っている工具と使い方で大体その人の技術レベルが解ってしまいます。
ちなみに、ベテランは好んでアナログノギスを使用する人が多い。
それは、電池切れや強電界、強磁界でも影響がなく、トラブルが少ないからです。
でも決定的な欠点も有ります。
アナログノギスには任意の0点設定が出来ない事。
コレが有ると無いのでは作業性が変わってきます。
まあ引き算が出来れば済む事なんですが、一手間増える訳です。
特に似た様なワークを繰り返し測定する時などは重宝します。
でもさっと取り出してスッと測りたいときも有るんで、工具箱にはアナログノギスも一丁放り込んで有ります。