おつかれさまでした。

　集大成のラストラン。

何度も軌道を外れようとするそりを手なずけ、氷の高速コースを突き抜ける。


タイムは公式練習を通じても最高の５３秒４２。


「ウルってするんじゃなくて、すがすがしい気持ちになる滑りを考えていた」。

そう話す越の目に熱いものがうっすらと浮かんだ。

　勝負という意味では完敗。
０．１秒の短縮に取り組んできたスタートダッシュも不発だった。
最先端の戦いは、陸上トラックで１００メートルを１０秒台で走るような最初のスプリント力がものをいう。かつて世界と渡り合う武器となった屈指のそり操作だけでは、太刀打ちできない。
「限界値。自分のスケルトンは時代遅れ」。
潔く認めた。

　日本のスケルトン界を先導してきたパイオニア。
自分の挑戦には一区切りを付け、これからの役割を考える。
「選手として結果は残せなかった。だが、経験を伝えていくことが、次のメダルチャレンジ」。
２７歳の田山が自分の順位を一つ上回った。
成長した息子を見つめるような満足そうな顔で、固く握手した。

　この日最後の４回目の滑りは、上位にいた地元カナダ選手の失格がなければ巡ってこなかった。
３度出場して、メダルには手が届かなかったが、神様からのご褒美だったかもしれない。
そんなことがあるからこうも言う。

「五輪にはもう一回来たいなあ」


越さん、お疲れ様でした。
そして、ありがとうございました。