東日本大地震の経過

3月11日午後2時46分。
昼のミーティングを行おうとした時に地震が発生しました。
今までも地震が多発していた栗原市ですから、「せいぜい震度５くらいだろう」とたかをくくっていましたが、地震はいつもなら収まる時間になっても収まるどころか強さをどんどん増して行きます。
「ここにいなさい」
ミーティングで集まった従業員を、店内で一番強度のある場所に残し、お客様を避難させる為に売場へ走りました。
天井からは埃が落ち始め、視界は次第に悪くなっていきます。
そして、まるで映画さながらの「ばちっ、ばちっ」という音とともに停電。
自家発電の微かな照明の下、お客様を安全な場所へ避難させます。
危険なのは、天井から吊るされている防炎垂というガラス。
設計上、柱付近のものしか割れないようになっていますが、それでもお客様の近くに落下してきます。
足元と、天井のガラスの両方を見ながらお客様をひとまとめにして店外へ誘導します。
何度かこれを繰り返し、防火扉でトイレに閉じ込められたお客様や、売場で座り込んでしまったお客様を見つけ出し、約６分で全員の避難が完了。
火災も無く、奇跡的に従業員、お客様に怪我人はありませんでした。
なかなか、繋がらないメールで家内に安否を確認。
家内も息子２人も無事でした。

震度７。２００８年に経験した、「岩手宮城内陸地震」のそれとは、圧倒的に違う揺れでした。

１７時。自家発電の燃料も既に切れた店舗は真っ暗。
電気・ガス・水道・そして携帯電話も使えない。ラジオと携帯のネットからのニュースで、今回の地震は栗原だけではない、関東から東北全域にわたるかつて例の無い災害であることを知りました。しかも、太平洋沿岸では津波まで。

「これは、家族の生命にも関わる大変な事態になる」

直感的にそう思いました。

１８時。
家内と息子２人を岩手・水沢の実家に避難させることにしました。
セレスのガソリンは約１０L。Kei号は約１５L。

水沢の往復は約130ｋｍ。

燃費ログを見ていただければ、どちらも博打に近い残量です。高速道は通行止。国道も無事とは限らない・・・渋滞に遭えば、水沢に家族を届けられたとしても、栗原まで戻れる保証はありません。

外は、季節外れの吹雪。

その時「啄次郎」氏からTEL。
この状況で、この日唯一通話できた電話です。

「実家は無事だから・・・、４号避けて裏道繋ぐにしても、山は走るな」
啄次郎氏のアドバイスを受けて、国道４５７の使用予定を、国道４号＋県道１４号使用へと変更。

結果、これが成功。国道４号線は、宮城と岩手の県境を少し一ノ関寄りに行った橋梁が一部破損、大型トラックがそれにはまり片側交互通行で大渋滞になっていました。
家族と当面の食料を満載したKei号は、50km/ｈ、3,000rpmを上限に、真っ暗闇の中、ひたひたと水沢を目指します。

途中、大船渡線の２両編成の列車が踏切前で運転を打ち切っており、その踏切回避の為、４ｋｍ程遠回りしたものの、２０：０７、水沢に到着しました。
いつもの２倍の所要時間でした。
電話が繋がらず、心配だったお義母さんは、お向かいさんの家へ避難していて無事でした。

帰り道。
すっかり軽くなったKei号は、来た時と同じ50km/ｈで栗原に戻ります。
Kei号は無事に私を栗原まで運んでくれ、更に３日間、通勤できるだけの燃費で走ってくれました。

震災から５日後。
私のあの時の判断は正解でした。
それ程、今の栗原市は生活に関わる様々な点で逼迫しています。

しかし、太平洋沿岸では、更にそれを上回る筆舌に尽くしがたい過酷な状態にあり、私の仲間も生命の危機に直面しながら小売という仕事を遂行しています。