アップルストア銀座

銀座通りの中ほど、老舗百貨店「松屋」の向かいにあるアップル直営店「アップルストア銀座」。
iphone、ipadなど新製品発売開始の度に大行列が発生し報道されるので、店頭の様子をテレビ画面でご覧になられた方も多いだろう。私は通勤時に銀座通りを歩くことが多いため、ほぼ毎回銀座3丁目にある店舗から京橋方面に続く行列をリアルに見掛ける。
少々待てばネット上でだって購入できるものを、汗かいて、あるいは寒さに震え脚を棒にして長時間並ぶ。草臥れ切ってやっと店頭に辿りつき、ようやくゲット。喜びを爆発させる。
行列が起こる都度思うのだが、最新アイテムを並んで初日に買った、という行為自体に価値を見出すコアなアップルファンの行動は、かなりアナログ的と言えはしまいか。
アナログでは追いつけない、デジタルだけでは味気ない。
アップルファンの人たちこそ、一番バランスのとれた人たちなのかも知れない。
毎度の大行列とは別に、アップルがニュースになったのは2011年10月、偉大な創業者スティーブ・ジョブズ氏死去の報だった。アップルストア銀座の店頭も、訃報に接し追悼の花束・メッセージ、そして林檎の実を手向ける人々が絶えなかった。
私のごとき凡庸な傍観者からすれば、この上ない成功体験を積み重ね、短くとも最高の人生だっただろうと勝手な推測をしてしまう。ジョブズの発言や、ネット上に残された「語録」を読むにつけ、亡くなった本人は人生に後悔こそしていないと思うが、やりたい仕事(=jobs)はまだまだたくさんあったことだろう。
私はMacやiPhoneユーザーではないし、ましてやジョブズの「信者」ではない。ただ、彼の頭脳の中だけに存在し永遠に世に出る機会を喪った、もしかしたら世の中を革新したかもしれない製品が数多あったかと考えると、熱狂的ファンならずとも無念の想いを禁じえない。
ジョブズの父親はシリア人の学者で、母(アメリカ人)が当時まだ学生だったためか、生後すぐに養子に出されている。
養父母の下で成長し、ガレージに引きこもってコンピュータを弄るオタク集団だった学生時代も、大学を中退しカリスマ経営者として歩み始めてからも、中東系の出自を理由とした差別がなかったわけではなかろう。しかしそれが故にスポイルされることも疎外されることも無く、時価総額世界一の企業を創り上げたことは周知の通り。
ジョブズの父の出身国シリアは、アメリカが全面的に支援するイスラエル建国以来、アメリカ・イスラエルと鋭く対立。イスラム原理主義組織ハマスを支援し、アルカイダを匿っているという理由で、アメリカはシリアを「テロ支援国家」に指定している。
だが、シリア人二世が率いるアップル社を抗議のデモ行進が取り囲んだ、とか、ネット上でシリア系アメリカ人であるジョブズに対する差別的な暴言が渦巻いているなんて話は聞いたことが無い。
どの国・地域の出身であろうが、市民権を持つ者は等しくアメリカ国民であること。どの国・地域の出身者が経営していようが、アメリカで創業したアメリカの企業であることを、国民が理解しているからなのだろう。
そのアメリカにおいても「9.11」以降、中東出身者に対する謂れなき差別や迫害が顕在化し、社会に暗い影を落としている。
経済の面でも、リーマンショック・ユーロ危機と続く後退・縮小のトレンドが止まらず、個人の努力では解消し得ない格差拡大が続く。
人々は寛容さを喪い、諦めと怠惰が綯交ぜになった絶望感に沈み、抜け出そうともがくことすら止めようとしている。
旧来の価値観に囚われない、寛容で自由な人々から支持され成長してきたアップルだ。こんな世の中だからこそ、また改めて強烈なブレイクスルーを仕掛けてほしい。
リテラシーの巧拙や所得の多寡から生じる格差を拡大させないために、何時でも誰でも容易かつ安価にアクセスできるツールを世に出して欲しい。
ジョブズ自身はもういないが、ジョブズと共に仕事をしてきた人々、ジョブズを支持してきた人々が沈滞する世の中を変える原動力になるなら、それもまたジョブズの大きな「仕事」として賞賛されるだろう。
住所: 東京都中央区銀座3-5-12 サヱグサビル本館
電話 : 03-5159-8200
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