岡本太郎作「明日の神話」
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世界的な前衛芸術家、岡本太郎氏が、1968年から1年をかけメキシコで製作した巨大壁画。
メキシコ人の依頼主が所有・経営するホテルのロビーに飾られる予定で、岡本太郎自身が現地に赴き制作。壁画完成後、仮設置まで進んでいたが依頼主の経済的困窮でホテル経営が破綻。壁画が設置されたホテルは開業の日を迎えぬまま人手に渡り、撤去された岡本作品の行方も分らなくなってしまっていた。
縦5.5m・横30mものサイズの壁画を容易に隠蔽できるはずもなく、岡本作品の価値を理解できぬ人たちによって処分されたのではないかと諦められていたが、2003年になってメキシコシティー郊外の資材置場に放置されているのを発見。奇跡的に日本へ移送の上、完全修復がなされることとなった。
「明日の神話」は、ビキニ環礁の水爆実験で被爆した第五福竜丸事件をモチーフに、水爆が炸裂する瞬間を描いたものとされる。
国内での最終的な保存場所については、核兵器廃絶を訴える広島・長崎のほか、岡本太郎の代表作「太陽の塔」がある大阪府吹田市などが誘致に名乗りを上げていたが、最終的には現在設置されている東京都渋谷区に決定した。
毎日200万人以上が行き交う渋谷駅構内、京王井の頭線とJR線を結ぶコンコース上で、鮮やかな色彩を放ち続けている。
その「明日の神話」に、落書きがされたという事件があった。
落書き、といっても壁画そのものに手を加え毀損したわけではなく、右隅部にベニヤ板をベースにして「追筆」したもの。
どうしても干渉してしまう、作品本体を保護するための板を固定する金具部分は、「追筆」のベースにちゃんと欠き取りがしてあって工作の面でもなかなか芸が細かい。事前に採寸するなど、周到に準備したに相違ない。
福島第一原子力発電所らしき建屋から、どす黒いきのこ雲が立ち上る構図で、当然タッチは岡本太郎風。PC画面で粗いニュース画像を眺める限りでは、何ら違和感なく画が連続しているように見え、落書きと切り捨てるには惜しいクオリティだった。
事件を受け、マスコミのインタビューに答える岡本太郎記念館々長も、怒るでもなく、「ほめるつもりはないが理解しやすい」と話している。
一連の原子力災害で生じた放射線の影響を心配する声に対し、かつて大気圏内核実験が行われていた頃は、もっと放射線量も放射性物質の降下量も多かったとコメントしていた科学者がいた。
実際問題、その時代に生きていた世代から生まれた私たちが、ごく普通に生活できているので疫学的には「問題ない」ということなのだろう。
しかし「明日の神話」のモチーフとなったビキニ実験を含め、大気圏内で核爆発し放題の状態がまともなはずもなく、基準をそこに置くのは市民感覚としておかしい。
ただ、遠くは広島・長崎、近くは米ソ冷戦の頃に終わった出来事だと思われていた(私に言わせると勘違いしていた)、「核の恐怖」が再びゾンビの如く蘇ったことは間違いない。
「明日の神話」は、未来のことでも、ましてや遠い過去のことでもなく、「現在進行中の神話」なのだ。
今なお耀きを失わぬ岡本太郎の芸術性を讃えつつ、「追筆」されたテーマが早く色褪せ滅び去るよう、願って止まない。
住所: 東京都渋谷区道玄坂1-12-1 渋谷マークシティ
電話 : 03-3780-6503
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