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土浦駅

過去に学ばぬものは、過去に復讐される
2012年04月30日
カテゴリ : 茨城県 > 交通情報 > その他
 霞ヶ浦に面し、豊富な水を活かした日本一のレンコン栽培で知られる土浦市。
 その玄関口・土浦駅は、東京都心と東北・浜通りを結ぶ常磐線の拠点駅でもある。


 現在でも貨物取扱いがあり、霞ヶ浦側の東口駅前広場に設けられた貨物駅進入口では、次々とコンテナを積んだトラックが出入りを繰り返す。
 貨物駅構内にはその昔、車扱い貨物が発着していたであろう上屋のあるスペースも残されているが、残念ながらレールを剥がされている。現在供用されているのは、コンテナ貨物列車が出入りする着発荷役線1線と留置線1線のみ。
 留置線はつくばエクスプレスの新車搬入に使用されたことがあり、他線と接続のないつくばエクスプレスの新製車輌は、車輌メーカーから土浦駅あてに発送され、当駅からは陸送で県内守谷市の「つくばエクスプレス総合基地」まで運ばれた。
 しかし留置線は、上記のような特殊な貨物を扱う場合に際してだけ用いられるようで、通常の荷役作業で使用されているのは着発荷役線だけだ。

 この着発線、ちょっとした工夫が凝らしてある。「E&S方式」と呼ばれる、本線上の貨物列車へそのまま荷役する方式を採用しているのだ。


 一般的な貨物駅では、本線に接続する着発線と荷役線は別になっている。着発線までは本線用の電気機関車が入ってくるが、荷役線は作業の支障になるため敢えて電化せず、ディーゼル機関車で列車の一部または全部を荷役線に移していた。

 しかしその手順では、機関車の付け替え・列車組成に時間が掛かる。そこで考え出されたのが、着発線で荷役作業をして駅滞在時間を短縮する「E&S(Effective&Speedy)方式」だった。


 着発線に張られた架線には、饋電(電源供給)を停止できるよう絶縁区間とスイッチが設けられ、荷役作業に伴う感電事故を防いでいる他、ヤードによっては架線を張る高さを若干上げ、フォークリフトも架線高さにまでコンテナやアームが届かないようリフトアップ高さを制限した車輌を配備して、架線を引っ掛け破損させる事故が起き難いようにしている。


 着発線へは、上り貨物列車は本線から直接、下り貨物列車は一旦水戸側へ引き上げた上で、後退で進入。機関車の付替えや貨車の移動を行うことなく速やかに荷役作業を終え、速やかに本線へ戻っていく。
 トラックとの競争に負けないよう、鉄道貨物が知恵を工夫を凝らして対抗する様子が、旅客駅ホームから間近に見て取れる。



 その土浦駅に発着する貨物列車が惹き起こした、もしかしたら歴史的な転機として活かされたかもしれない悲劇があった。



 第二次世界大戦の最中にあった1943年。戦況悪化を如実に反映し、秋雨そぼ降る中で挙行された神宮外苑での「学徒出陣壮行会」から5日後の10月26日夕刻。
 土浦駅で入換作業を行っていた上り貨物列車が、信号掛のポイント転換ミスから誤って上り本線に進入し脱線。直後に通過するダイヤとなっている別の上り貨物列車を防護すべく、事故を知らせに操車掛が信号場へ駆けたが時既に遅し。入換中の貨物列車が脱線して3分後、土浦駅を通過する上り貨物列車が衝突し脱線転覆、今度は下り本線を支障してしまう。
 更にその3分後、折悪しく土浦駅に進入してきた下り旅客列車が、進路を塞いでいた上り貨物列車に激突して脱線転覆。客車のうち1両が、土浦駅南側の桜川橋梁から川に転落し水没するなどして、死者110名・負傷者107名を数える大事故となってしまった。

 10分足らずの間に列車3本が事故現場へピンポイントで集結し、すべてが脱線転覆してしまうというのは、悪魔の所業としか言いようがない。

 しかし戦況の悪化で学生の徴兵猶予すら廃止される中、ベテラン鉄道マンが次々と戦地へ送られ、輸送の現場を担う職員の技量・士気が落ちていたことも遠因として挙げられよう。
 そして最も悔やむべきは戦時中という特殊な社会情勢の下、戦意高揚に水を注しかねない事故の報道は殆どなされず、鉄道当局による事故の調査や原因の究明は捨て置かれ、当然に設備・運用面での安全対策も講じられなかったことだ。

 この「土浦駅列車衝突事故」の検証が遺漏なく行われていれば、同じ常磐線上でまたしても悪魔の悪戯から列車の三重衝突事故となった、戦後の「国鉄五大事故」の一つに数えられる「三河島事故」(死者160名・負傷者296名、列車3本のうち2本が旅客列車だった)を防ぐことができたのではないかとされる。

 「三河島事故」発生は、鉄道輸送の安全にとって歴史的な転機となるチャンスを喪った「土浦駅列車衝突事故」の復讐だったのかもしれない。



 事故に巻き込まれながらも九死に一生を得た乗客に、幼き頃の坂本九がいた。母親と疎開するために常磐線下り列車の乗客となっており、乗車々輌も桜川に転落した前から4両目だったとされる。
 幸いにも何らかの事情で、事故の瞬間は別の車輌に居たため難を逃れたが、坂本九が後に「JAL123便」に搭乗し、遭難死したことは周知の通り。

 圧力隔壁の杜撰な修理が直接的原因とされる「日航機墜落事故」も、以前から指摘されていた隔壁およびドアの破損がもたらす急減圧に因って全ての油圧系統を喪失する危険性に着目し、サブの系統を準備するなど抜本的な安全対策が施されていれば、コントロールが儘ならない状態で山中に墜落することはなかっただろう。

 結局事故に学ばなかった我々は、土浦駅の事故では生き残ることができた坂本九の朗らかな歌声を、神への贈り物として永遠に手放してしまった。



 如何に苦難に満ちた時代であろうと、大きな犠牲を強いた事故の検証・原因究明・安全対策を怠ってはならない。
 未来の日本人が過去に復讐されることのなきよう桜川の畔、常磐線の鉄橋脇には慰霊碑が建立され、常磐線を行き来する列車の安全、そしてあらゆる交通機関から事故を無くせるよう、静かに見守っている。



住所: 茨城県土浦市有明町1-30

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