前橋ビル(映画「クライマーズ・ハイ」ロケ地)
命を追った、あの夏の「北関東新聞社」
2014年06月22日

群馬県の県庁所在地・前橋の表玄関たるJR前橋駅北口と、地元民鉄・上毛電鉄のターミナル中央前橋駅を結ぶ道路、および群馬県庁から主要国道である50号線へ抜ける道路が交差する地点の北西角に建つオフィスビル。
この建物は大ヒットした邦画「クライマーズ・ハイ」の主要な舞台である、主人公・悠木が勤務する架空の地方紙「北関東新聞社」の本社社屋として、スクリーンに登場している。
2013(平成25)年にTBS系列で放映され、社会現象ともなったドラマ『半沢直樹』主演の堺雅人は、私が好きな俳優の一人。
堺雅人の出世作であり、彼のファンになるきっかけとなった作品の一つが、1985(昭和60)年8月に発生した日航機事故を追いかける地元地方紙の奮闘を描いた『クライマーズ・ハイ』である。
物語の最終盤、新聞社を牛耳るセクハラワンマン社長(山崎勉)に楯突き辞表を提出した日航全権デスクの悠木(堤真一)を追う、中堅記者・佐山(堺雅人)。社屋(当ビル)屋上で、佐山は辞職を思い留まらせようと入手した事故犠牲者の遺書を読み上げる。
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マリコ
津慶
知代子
どうか仲良くがんばってママをたすけて下さい
パパは本当に残念だ
きっと助かるまい
原因は分らない
今5分たった
もう飛行機には乗りたくない
どうか神様たすけて下さい
きのうみんなと食事したのは最后とは
何か機内で爆発したような形で煙が出て降下しだした
どこえどうなるのか
津慶しっかりた(の)んだぞ
ママこんな事になるとは残念だ
さようなら
子供達の事をよろしくたのむ
今6時半だ
飛行機はまわりながら急速に降下中だ
本当に今迄は幸せな人生だったと感謝している
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映画自体は架空の新聞社を舞台にしたフィクションだが、この遺書は実際に事故で亡くなられた、海運会社重役の方が遺されたもの。
御巣鷹の山中に消えた520柱、それぞれ人生が突如断ち切られ「幸せだった」などと誰が言えようか。
「幸せな人生だった」と書き記されたのは、遺された家族の哀しみが少しでも和らぐよう、死を覚悟した人が最後に見せた精一杯の優しさである。
小さな地方新聞社内の派閥抗争に精根使い果たし、狭い人間関係の軋轢に思い悩むよりも、無念にも生を断ち切られた犠牲者と遺族に寄り添い、その想いを社会に伝える使命の大きさを、佐山がとつとつと語りかける演技が心に強く残るシーン。
社会派の作品とは言え所詮エンタテイメントでしかない映画で、このような重いテーマを扱うことへのご批判はあろう。
しかし時間が経つにつれ確実に薄れていく事故の記憶を、架空の新聞記者のセリフを通じて観る者へ訴えかけ、交通機関の安全向上の願いと犠牲者への想いを新たにすることは意義深いと私個人は思っている。
また夏を迎える度に、私たちの利用する交通機関は一歩、半歩でも安全になっているだろうか。
その啓発に、私の愛する映画・好きな役者が関わってくれたなら、単なる娯楽ではない大きな社会的貢献を果たしたことになる。
※映画の収録後も暫く空家のまま残されていたが、2016(平成28)年に再開発事業が始まり解体に着手。翌年春には完全に姿を消し、更地となった。
新しいビルは、商店も入居する複合施設として整備される予定。
住所: 群馬県前橋市本町2丁目13-7 ※電話番号は前橋市フィルム・コミッション
電話 : 027-235-2211
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