世の中には様々な笑い話が存在するけれど久々に【
大笑い級のリリース】をホンダが発表した。
さて、来季のB.A.R Hondaが擁するドライバーは、早々に発表のあったルーベンス・バリチェロと昨年、そしてまた今年もウィリアムズと契約問題で大騒動を起こしたジェイソン・バトンである。今季絶不調の佐藤琢磨が正ドライバーになれる確率が低い事は分かっていたが、バトンは昨年擦った揉んだの末に来季ウィリアムズ入りの契約を済まていた事はご承知の通り。よって琢磨にもB.A.R Honda残留の目は残っていた。もしバトンのウィリアムズ移籍が決定した場合はホンダの意向でアンソニー・デビッドソンではなく琢磨に来季のシートを与える事になっていたようだ。
が、ここに来てバトンの悪い癖が出た。
本来なら昨年シーズン中にあれ程契約問題で迷惑をかけたからにはウィリアムズへ移籍するのが筋というモノであるが、この英国人青年はまたもや我が侭を言い始め『BMWエンジンを失い今季不調のウィリアムズは嫌だ』とB.A.R Hondaへの残留を希望する旨を公言し始め、バトンを失いたくないB.A.R Hondaとしても『金銭で解決するなら金を出そう』という言葉をB.A.Rのニック・フライとHRDの和田康裕が発言し始めた。契約が絶対である欧米世界では本来F1であれど交わした契約は絶対の筈である・・・が、モータースポーツの崇高な精神や尊厳も大金で解決してしまうような現在のF1界にとって契約など多額の金銭の前に紙切れ以下のシロモノでしかない。ウィリアムズ側は『いくら積まれようとバトンの契約を売り渡す気はない』という男気のあるプレスリリースを一応出してはいたが、その舌の根も乾かぬ内にバトンは違約金を支払う事によってウィリアムズとの契約から解き放たれる事となった(この辺は流石に何枚も上手のウィリアムズである)。
まあ、こういった話は現在のF1でよくある事なので別段驚く事もない。結果として琢磨はB.A.R Hondaのシートを失う事となったが現在までの結果を見る限り、これも仕方がない事であると1ファンである私は(感情論はともかく)諦めるしかなかった。ホンダとしては第三期での勝ち星を渇望しており、その上で勝てる可能性が高いドライバーを選択したのである。もっとも、未だ一勝もした事のないドライバーを残留させる為に相当な金額の違約金をB.A.R Hondaが払った事は間違いない事である筈なのに(Mシューマッハならともかくバトン個人が契約解除の為にン十億円も払えるか?)ホンダが発表したのは
【このリリース】である。
この欺瞞を笑わずにいられようか。
ホンダは完全に今回のバトン問題から逃げの一手を打っている。バトンの契約はバトンの問題であってホンダの関係するモノではないと言いたいのだろう。当然それは企業としてイメージ損失を恐れたからに他ならないが、ホンダにとって厄介なのはB.A.R Hondaには佐藤琢磨が正ドライバーとして今季のシートに座っていたという事だった。当然ホンダの本拠地である日本で日本人ドライバーである琢磨の人気は高い。しかも他ならぬB.A.R Hondaのドライバーとして今季戦っているのだ。正直成績は低迷しているが、それでも彼の人気が現在の日本におけるF1人気に一役買っている事は疑いようのない事実である。当然昨年の契約問題もありバトンはウィリアムズへ移籍すると思われていた事もあって、バリチェロのチームメイトは琢磨で決まりであろうという思いが少なからず存在し、何よりホンダの存在は大きかったに違いない。『日本のホンダが日本人の琢磨を放出するなど無い筈だ!』というある種の願いにも似た空気があった。ホンダとしても琢磨の存在は大きなものであると感じていただろうが、それよりも勝ち星という結果を最優先にした彼等は残りのシートにバトンを座らせ、琢磨はサードドライバーとしてチームに残す算段だったに違いない。正ドライバーではなくてもB.A.R Hondaに残しておけば日本のファンも納得し八方丸く収まってくれると単純に思っていたのだろう・・・が、彼はレーサーだった。
サードドライバーの悲哀は同チームのデビッドソンの姿を見ていれば良く分かる。彼はドライバーではあっても基本的にレースは出来ない。バトンよりも親しいデビッドソンと琢磨の事である。きっと様々な話を交わしていたに違いない。その中にはサードドライバーの悲哀に関する話題もあった事だろう。根っからのレーサーである琢磨が飼い殺しとも言えるサードドライバー契約を受ける事は、2007年のシートを確約されない限りあり得ない。しかも、ホンダが多額の違約金をウィリアムズに払い、バトンをB.A.R Hondaに留まらせたという事を現場レベルで見聞きした彼にとって、嫉妬から『ホンダに裏切られた』という感情が芽生えてもおかしくはない。当然彼は新たなシートを求めてB.A.R Hondaからの離脱を決意する事になった。レースをさせて貰えないチームなど彼にとって何の存在価値があるだろうか?
思ってもいなかった佐藤琢磨の反乱である。
ホンダは自らの存在に傲りを持っていたのかもしれない。今までホンダのドライバーとして、また同じ日本人として琢磨は必ず自分達の考える通りに契約するだろうと。けれど彼等はレーサーという人種と他ならぬ人間の感情というモノを甘く考えていたようだ。しかも、日本国内の空気も読み切れていない。琢磨はB.A.R Hondaに残留しない旨を発表し移籍先を探し始め、そんな彼を見た日本のファンは『ホンダが琢磨を見放した!』と感じ憤り始めた。しかも、最初に琢磨へ食指を動かしたのはジョーダンである。このチームのマシンに搭載されるエンジンは御存知トヨタ製・・・もしジョーダンのシートに琢磨が座ったりしたら、トヨタはここぞとばかりに彼の存在を利用して日本国内で凄まじいF1キャンペーンを展開する事は必至である。もしそんな事になったら、ホンダは過去に苦労してF1で勝ち得たイメージを根こそぎ今季好調のトヨタに持って行かれる事になりかねない。
慌ててホンダは琢磨の移籍先としてミナルディへ打診を開始したようだ。勿論様々な美味しい条件を付けているのは間違いなく、琢磨は移籍先にとって鴨葱状態である。けれど、所詮はジョーダンとミナルディ・・・テールエンドを争うチームに琢磨を移籍させる事になってもホンダは日本企業として恥ずかしくはないのだろうか? もしバトンに多額の違約金を投資する甲斐性があるなら、ウィリアムズに琢磨を移籍させるくらいの気概を持って今回のバトン契約問題にまつわる一連の騒動を沈静化して欲しかった。
しかし、正直今回の件でホンダの事が嫌いになりそうである。
いい加減もっと世間の空気を読んで欲しい。
というか・・・
現在の国内販売数を考えれば、とてもF1どころじゃないだろうに。
それとも、ホンダはもう日本国内の事など、眼中にないのだろうか?
Posted at 2005/09/27 16:25:49 | |
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