
パパがどうしてもというから、今日は一緒にパパの車で軽井沢に。ほんとはあまり気乗りがしないんだけれど、先週誕生日にブルガリのリングもらっちゃったし、たまにはパパと遊んであげてと、ママにも言われたからしょうがない。
パパは新しい車が来て、ご機嫌でとにかく出かけたいらしい。ママも散々付き合わされて疲れちゃったから今週は私の番だって(笑)。
でもなー、パパの自慢の新車は、シート低くて乗りにくいし乗り心地悪いし、音うるさいし、なにがいいのか私にはさっぱり解らない。特別なポルシェなんだよって自慢されたけど、大きな羽根ついてて必死な感じがなんか暑苦しい。
友達のヒロコにも「マキのパパってチョイ悪系めざして頑張ってるって感じだよねー、ジーンズまでアルマーニとかきめちゃってるし(笑)」って痛いところつかれちゃたし。
「マキ、いくぞー、ここからの山道がこの車の本領発揮なんだぜ!、飛ばすぞっ」
って浮かれすぎ;;;マジ引くんですけど。
高速のってからずーっと飛ばしてて疲れちゃったから、もうちょっとでつくからって言われたけど、このSAで止めてもらったのに。
また飛ばすのかよっ!。
「とばすの、やだなー、腰と首が痛いよー、このシート硬いし。ゴツゴツしてるし」
「あと15分ぐらい、いやこの車なら10分、10分でつくから、あっという間だよ」
ほんと自分のことばっかで暑苦しい。シューゾーかよ。
私は、オープンカーが好きなのに。かっこいいよ。
「あ、あれ屋根あいてるあの車いいなー、あれもポルシェでしょ?」
「ああ、ボクスターSか。屋根空くやつなんて真のスポーツカーじゃないんだよ、軟派なデートカーで飛ばすのには向いてないんだよ。だいたいあれはパパのポルシェの半分ぐらいの値段しかしないんだぞ。」
「そんなこと聞いてないよ。私はヒロコの彼氏がのってるみたいなオープンカーがいいな」
「ヒロコちゃんの彼氏は、なに乗ってるんだ?ポルシェか?ベンツか?」
「アウディって言ってたよ、TTって言ったかな」
「はははは、ありゃだめだ。見掛け倒しで重いし、全然スピードでないし話にならん」
「だからぁ、飛ばさなくてもいいんだよっ。かっこいいんだから」
「だいたいオープンは髪が乱れるからダメだ。マキだってやだろー髪くちゃくちゃになるぞ・・・とにかくベルトして出発するぞ」
髪の話は痛いよ~パパ。気持ちわかるけどオープンで乱れなくても、薄いのはバレバレなんですけど・・・。
私の気持ちは、まるっきり無視したパパは、急発進させてサービスエリアから高速道路にでた。
「ここから軽井沢ICまでが、おもしろいんだぞ。この車のためにあるような道なんだよ。アムロいきますーっ!!」
おいおいガンヲタかよ・・・オニ寒いよ、パパ;;;
あ、ちょっと前のほうにヒロコの彼氏の車と同じのが走ってる。やっぱ可愛いなー丸っこくて。いいなーオープン。
「お、お前の友達の彼氏の車ってあれだろ?、なんだよ開けて走ってるのに180も出してるよ、必死だなー(笑)遅い車のくせに。マフラー2本でて左ハンドルだからクワトロだから頑張ってるんだな。しかも緑なんて変な色だし」
「そんなことないよ、かっこいいよ、おシャレじゃん、ヒロコの彼氏も同じ色だったよ」
「ま、パパの愛車の敵じゃないってところ、見せてやるさ!」
パパは、前を走るTTに向けてパッシングしてる・・・やだな。
必死なのはどっちだよ・・もしヒロコの彼氏の車だったら恥ずかしいよ。
「ほらな、どくだろ?奴だってちゃんと解ってるんだよ、格の違いをさ。陸の王者がだれかってことをさ!」
追い抜きざまにチラッとみたら、ハンチング被った丸顔のヒゲのおじさんが運転してた。
ヒロコの彼氏じゃなくてよかった;;;
でもパパみたいに手袋とかしてなくて、ゆるくて、なんか余裕がある感じだった。
そもそもパパって、なんで手袋してるんだろ??。
「さーってブッチぎるかっ」
「パパあんまり飛ばさないでよ、恐いよ」
「大丈夫だよ、大して飛ばさなくてもブッチギリだからさ。
おお、がんばるじゃんか。付いてくるよ、必死だな(笑)」
パパは、ドンドンスピードを上げる。
良く見えないけど、メーターの針が結構上の方まで来てる・・・
でも私の横のドアミラーには、ぶっちぎるはずのTTが大きく写ってる。
「パパ、まだ着いてきてるよ、速いよ!アウディ。」
「うるさいっ、そんなはずないんだよ、TTがこんなについてこれるはずないんだよ。200km超えてるってのに。これからのワインディングで勝負だ」
パパは、2車線の右から左一杯までつかってカーブを走ってる。なんかかなりヤンキーで迷惑な感じ。
「パパっ!抜いてく車の人が恐い顔して、こっちを見てるよ、恥ずかしいよ~。」
「妬んでるんだよ、パパの車が速くて凄いことをさ!」
「でも後ろのアウディの人は、ずっと同じ車線だけ走ってるのに離れないよ」
「・・・・・」
ヤバっ!、パパが無口になるときは、テンぱってる時だってママが言ってた。どうしよう。パパはテンぱると無理して失敗するタイプだから、マジでヤバい。
「パパ、恐いよ、やめようよ」
「・・・・・」
うわ~マジで無口だ。ヤバいよ、ママたすけてー。
あっ!アウディがキタっ。
今まで後ろに居たアウディが、大きくカーブで膨らんだパパの横に、すすっと並んだ。
恐る恐る見たアウディのおじさんは怒った顔じゃなくて軽く笑ってる。
余裕だ・・・パパとは違う。
「なんだとっ、並ぶのかっ」
パパは完全にテンパッてガンヲタはいってる。
しかもアムロじゃなくて、しっかり敵ヤラレキャラだよ;;;
アウディは横に並んだ後、次の右カーブでスルスルと滑らかに前に出てしまった。でもって、トンネルに入っていく左コーナーで、スーッと曲がっていってさらに離れていく。どうみても追いつきそうに無いぐらい速い。
タイヤがキュルキュルいいながらトンネルを出たのに、アウディはすっかり見えなくなってた。
ちらっと見たパパの横顔は泣きそうだった。
「しょうがないよ、腕の差だよ。パパがんばったよ。ダーツとかでもそうだもん。ヒロコの彼氏とか2mぐらい離れたところからでも真ん中いれてくるもん」
「・・・・・・」
無視かよ。
実力の差なんだからしかたないじゃん。ホント、私にはパパのフォローはむずかしいよ。ママみたいに上手くできないよ。
パパは泣きそうな顔をして黙ったまま、軽井沢ICに到着。料金所にはいるところでケータイが鳴った、ママからだ。ラッキー!たすかった。
「ママ。うん、今、軽井沢の料金所でたとこ。・・・大丈夫。でもパパがかなり凹んでる、アウディに負けちゃってずーっと無口(笑)。うん・・・・パパ!、ママが電話代わってって!」
パパは料金所の外に無言で車を止め、電話にでた。
「はい、ママ。・・・・わかってるよ。はい、はい。もう大丈夫、もう無茶しないから、はい。ご飯食べたら安全運転でのんびり帰るから。」
しょげてるパパは可愛そうだけれど、いい薬だってママは電話で言ってた。
でも、やっぱりオープンはかっこいい。
なんか必死な感じがないし。余裕だし。家に帰ったらママと一緒にオープンカー友の会を結成して、次はパパにオープンカーかわせなきゃね(笑)
「パパ、窓開けてもいい?」
「あ、いいよ。軽井沢きて冷房いれてんのもなんだしなー。高原の空気あびないとな。」
パパは手袋をとって窓をあけてから、ゆっくりと車を出した。
※ この物語はフィクションです。実際する人物や団体と一切事実関係はありません。