
このまえ,「発言小町」という女性を中心とする掲示板に,車の座席ごとの安全性に関する話題がありました.内容は,チャイルドシートを助手席に着けるのは非常識か?というものです.その女性は,助手席に着けるようになったとのことですが,そのことでママ友から「子供を助手席に乗せるなんて危険極まりない,非常識だ」と非難されたとのことでした.そこでの質問内容は「本当に非常識なんでしょうか?」とのこと.
車は頑丈さには定評のある欧州車(ベンツかボルボ?)とのことで,ディーラーからはOKがでた上で(法規には則っている)とのことです.当然助手席のエアバッグは開かないようにしているとのこと.
レスには「非常識だ!」との意見が多かったのです.また,論点として実際に安全かどうか,よりも世間一般の認識はどうであるのか,そして今現在の世間一般の認識から解離しているのか?という観点からの回答もありました.興味を引いたのは,比較的車に詳しそうな人の意見として,助手席が極めて危険であるという客観的証拠はない,という意見でした.
私も人並みに,助手席は最も危険,運転席の後ろが最も安全,と聞いていたので,実際どうなのだろうな,と思ってググってみました.そうしたら確かにそのような客観データは見あたらず,また自動車会社とか,交通安全協会的なところでそのような明言をしているところは見あたりませんでした.ともあれ,座席ごとの,事故の際の死傷率のようなものはあるだろう,と思ったところ,以下のサイトが見つかります.
JAFのページ
ぺーぺードライバーなりに思うのは,こういうタイプのデータから安全性を議論するのもなかなか難しいもので,車種ごと,またその車が満たしている安全基準ごとに異なるし,だからたとえば20年前くらいのデータはあまり参考にならんだろう,とか,また大昔のデーターに基づいて,いまや単なる都市伝説的に,実質上無根拠に流布している情報もあるかもしれない,ということです.この助手席が危険,というのもそういうたぐいである可能性は否定できないです.また,たとえばシートベルトについていうと,今時シートベルトをしないドライバーは,するドライバーと比べて運転態度も異なるかも知れない,そういうことすらも考えられるわけです.
さて,一番明確なデータは,チャイルドシートを法規に則って付けている人のうち前席に付けた人と,後ろに付けた人とどちらが死傷率が高いか?ということになりますが,さすがにこれは母数が少なすぎておそらく検証可能なほどのデータはないでしょう.
そこで多少論理は飛躍しますが,法規に則って適切にチャイルドシートをしている限り,危険性の度合いは大人のそれと比例関係にある,と考えます.つまり大人のデータで助手席が後ろよりも死傷率が高ければチャイルドシートの場合でも同様の傾向になるし,助手席も後席も変わらない,というのであればチャイルドシートでも助手席と後席は変わらない,と想定するということです.
そうすると上記リンクでそれに相当するのは,上から4番目の表「シートベルト着用有無別の交通事故状況(2005年)」です.せっかくなので表を画像としてつけておきました.
さて,このなかの,シートベルト非着用は無視するとして,シートベルト着用者の中では:
助手席の死亡重傷率:2.90% (3,084/106,358)
後席の死亡重傷率:1.77% (408/23,035)
となります.率を丸呑みすれば助手席の方が高いですが,統計的に有意差があるかどうかは確認したいところです.統計には詳しくないので,手許にあるパッケージでちょいちょいと計算しました(Z検定による母比率検定,とやらです).有意水準5%では:
助手席同乗者の死亡重傷率:2.90±0.10% (3,084/106,358)
後席同乗者の死亡重傷率:1.77±0.17% (408/23,035)
私が最初に想像したよりは幅が狭いですね.素人の直観は外れることも多いものです.
ここからいえることは助手席と後席とでは有意に差があるということです.つまり事故が起きたときは助手席の死亡重傷率は3%弱,後席の死亡重傷率は2%弱程度ということになります.ちなみに運転席の死亡重傷率は2.76±0.04%(p=0.05)で助手席とほとんど変わりません.助手席は,事故の際運転手はつい自分をかばう方に動くから,という説明がありますが,そのことよりも全体に前の座席の方が危ない,と解釈する方が自然であるように思えます.
ここからすると,確かに助手席の方が死亡率は高い,といえます.どの程度高いかまではなんとも言えませんね.
ここからは私見ですが;
まず,どの程度高いか,ですが,後席の死亡重傷率は2%,助手席は3%とするとその違いは1.5倍,この比率が子供の場合にも変わらないとします.チャイルドシートを使用した場合の死亡重傷率は1.11%とあります.ざっと1%,これらは大抵後席とすると,前席の死亡重傷率は1.5倍で1.5%程度と推定されます.
これを踏まえていうと,自分ならば,どっちでも同じならばわざわざ助手席に設定することはありません.ただ,それなりの理由があって助手席に設定することは特段非難もしません.それほど大きな差でもないですし,それだったらば大人でも助手席はもってのほか,という理屈になりますので.
Posted at 2011/08/13 13:12:39 | |
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