2012年12月25日
ケイジというクルマ好きの男がいた。
彼(ケイジ)は、欲しいクルマがあると、その時に乗っているクルマを下取りにして、見境なく契約してしまう癖があった。
そんな彼は、気付くとロ-ンばかりが残る悪循環に悩まされていたものの、新しく購入したクルマの魅力に抗えず、ロ-ンの支払いをモチベ-ションに日夜働くことを生業としていた。
表向きは"クルマのため"だが、気付けば"ロ-ンのため"に働く目的がすり替わっていることを、彼はまだ気付いていない。
一応断っておくが、彼も分別のついた大人なので、何でもかんでも契約する訳ではなく、何となく買うことが出来そうなクルマだけに触手を伸ばすところが微笑ましい、ただのクルマ好きである。
ある日の夜、彼は何となく日課としているインタ-ネットの中古車検索をしていたら、ある一台のクルマを説明する内容に目が止まった。
「なになに・・・ポルシェが開発に関わっているだって?」
~ しばしの沈黙 ~
ざわざわ・・・ ざわざわ・・・ ざわわざわわ・・・(決して"カイジ"のパクリではありません。)
「ほ、ほしい・・・」
圧倒的購買欲!("カイジ"からインスパイアされただけなんです!)
「ポルシェは買えないけど、これだったら何とかなる!」
圧倒的楽観視!(この男は単純のようです)
気付けば、彼はドイツ製のミニバンについてネットサ-フィンで調べあげて、ある店のHPとブログに辿り着いたのであった。
ここはC県のとある街にある中古車販売店「カフェ959」。
今日もカモが来ないか? と、手ぐすね引いて営業中・・・。
そんな、いつもの週末にその男(ケイジ)はやって来た!
彼の現在乗っているクルマは、AE92のトレノ(1.6Lのハイメカツインカム仕様)。
漫画"○文字D"の影響でトレノを買ったのだが、86(FR)と92(FF)の違いが分からないくせに、走り屋を気取るカワイイ野郎である。
そんな彼の愛用ブルゾンは"ニスモ"であり、トレノには何故か? FLAT-4のステッカ-が貼ってある。某漫画風に言えば「圧倒的無知!」なのである。
カランコロン♪(ドアの開く音)
マスタ- 「いらっしゃいませ!」
ケイジ 「すみませ~ん。 ザフィ-ラを"買いたい"のですけど。」
マスタ- 「え?! "見たい"じゃなくて"買いたい"と仰いました?」
ケイジ 「Yes! コ-ク Yes!」
マスタ- 「買ってもらえるのは有り難いのですが、まずはザフィ-ラの説明をさせてもらえませんか?」
ケイジ 「お願いするっす・・・」
マスタ- 「了解したっす(笑)」
~ 実車を前に説明をするマスタ-に対して どこか上の空なケイジ ~
マスタ- 「あの~ 聞いていらっしゃいますよね?」
ケイジ 「Yes We Can!」
マスタ- 「・・・。」
マスタ- 「...という訳で、外車と言ってもオイルとか基本的なポイントを抑えておけば意外と維持しやすいんです。」
ケイジ 「見た目は普通でも中身は本物志向なんですね。」
マスタ- 「試乗してみますか? それとも契約しますか?(冗談っぽく)」
ケイジ 「じゃ、契約で・・・。」(キリッとしたマジメな表情)
マスタ- 「(ポカ~ンとした顔で) はい?!」(狐につままれた表情)
ケイジ 「ボク、このクルマを買います! 下取りはあの車(トレノ)です。」
マスタ- 「じゃ、さっそく書類の準備しますけど、本当に試乗しなくて良いのですか?」
ケイジ 「いいんです!」(某サッカ-ニュ-スの俳優風)
~ 危険な空気を感じるマスタ- ~
マスタ- 「契約の前に下取り査定でもしましょうか?」
ケイジ 「そうですね。 ボクのトレノ、カッコイイでしょう? このライトのパカッというところが・・・」
マスタ- 「事務所で待っていてもらえますか(汗)」
ケイジの話を遮るように事務所へ誘導するマスタ-。
トレノの査定は見るまでもない。だって、ハイメカの92トレノなんて・・・。
一応、トレノの各所を見るマスタ-。
ボンネットを開けようと、ドアを開くと最初に目に付いたのがオイルスタンド屋のシ-ルであった。
「げっ!」と驚くマスター。
一番新しいシ-ルは、なんと1年前だった。ボンネットを開けてエンジンル-ムを見渡すマスタ-はもう一度「げげっ!」と呟いた。
何故かって? それは衝撃の連続だったから・・・。
ボディは白いのに中は紺色だった。一度も洗ったことのないようなキノコ形のエアクリ-ナ-に、エンジンヘッドにはオイルが吹きこぼれたような跡が。気を取り直して、オイルゲ-ジを抜いてみたら、オイルが少ない上に真っ黒!
さらに、冷却水は汚れており、ウォッシャ-液は空っぽという有様であった。
マスタ- 「可哀想な車・・・、ウチの子は売りたくないな・・・。」
当然のごとく、ケイジご自慢のトレノは下取り査定ゼロであり、廃車費用をもらわないとダメな状態。
そこでマスタ-、一か八かの説明を行うことに。
マスタ- 「お待たせしました。」
ケイジ 「(期待した面持ちで) どうですか?」
マスタ- 「ズバリ言います。 査定はゼロで廃車費用をもらわないといけません
。」
ケイジ 「トレノって価値があるのではないのですか?!」
マスタ- 「それは程度の良い、86というFRのトレノですよ。お客様のトレノはFFです。」
ケイジ 「中古車屋のオヤジはそんなこと・・・」
マスタ- 「(苦笑) 4A-Gを積んだAPEXとかス-チャ-のGT-Zなら多少は・・・と考えましたが。」
ケイジ 「ボクの車、DOHCですよ?!」
マスタ- 「ハイメカツインカムは中古車市場での価値はありませんね。」
ケイジ 「(気を取り直して) 程度は良いでしょう?」
マスタ- 「残念ながら・・・。」
ケイジ 「オイルだって高いの入れたんですよ。」
マスタ- 「一年前ですよね。」
ケイジ 「車検はちゃんと通りましたよ。」
マスタ- 「ガソリンスタンドでは車検を通しただけみたいです。」
ケイジ 「ウキィ~(錯乱状態)」
マスタ- 「それと・・・。」
ケイジ 「まだあるんですか?(もう泣きそうな表情)」
マスタ- 「先刻も説明しましたが、ザフィ-ラは外車です。オイル管理や部品交換など国産車より管理はシビアです。だから、費用もそれなりに掛かります。維持していけますか?」
ケイジ 「・・・。」
マスタ- 「売るだけ売って、お客様が売った車をダメにしても“外車ってそんなものです”という商売も出来ますが、それは私自身のプライドが許しません。」
マスタ- 「程度の良いザフィ-ラは少なくなってきています。うちのカワイイ子をお客様に嫁がせて良いのか? 正直葛藤があります。"嫁には出さんオヤジの会"ではありませんよ。」
ケイジ 「(長考の末)ちょっとザフィ-ラを購入するのはペンディングします。
」
マスタ- 「(ホッとした表情で) わかりました。 また、何かありましたら連絡ください。」
ケイジ 「おじゃましました。」
マスタ- 「またお待ちしています。」
ケイジが去った店では、マスタ-が「カモがネギ背負って逃げていく・・・」と、軽いため息をひとつ。
お客様の信用を得るには時間が掛かるが、信用を失うのは一瞬である。
マスタ-がケイジにとった行動は、もったいない気もするけど、これで良かったのだと思う。
「世の中にはうまい話は転がっていない」という、カフェ959 “ある日の出来事” であった。
その後のケイジだが、乗っていたトレノのタイベルが切れてトレノは廃車し乗り換えた模様。
しかし、ケイジは変わった男である。
彼が購入したのは三菱ランサ-のセダン。 初期のランエボかと思いきや"V6"だそうだ。
いつか、ケイジのクルマ遍歴を聞いてみたいものだ。
きっと、面白いに違いない。

Posted at 2012/12/25 17:41:09 | |
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