
2021年に登場したニューモデルの中から、私のベスト5を選び、好き勝手に書きたいと思います。
対象車は、2020年11月1日から2021年10月31日までに発表または発売された乗用車。日本カー・オブ・ザ・イヤーの流儀に則る事とします。
しかし、コロナ禍でなかなか新車に触れる機会がなく、残念ながら試乗は一台も叶わず。
乗っていないので走りには一切言及が出来ないことを、先にお断りしておきます。
主に商品企画やデザイン、ユーティリティ面で、私見を書き連ねていきます。
それでは第1位から。
1. ホンダ ヴェゼル

私はすっかりこのクルマの虜になってしまった。

まずコンセプトがいい。商品の解説を読んでみると「AMP UP YOUR LIFE」をキーワードに、「自信を持って運転できること」や「美しい所作」「共感」「爽快」といった文言が並ぶ。
私たちは大量消費の時代を生きてきた。昨今の新型車に限らず、この世の中全般に蔓延る、自己主張の激しい演出過多に些か食傷気味だった私にとって、自然体の姿勢がとても響いたのだ。

クリーンで上品なデザインは、街も山も海も、買い物も旅行も、老若男女、冠婚葬祭、どんなシーンにおいても嫌味がない(本来、大衆車はそれが当たり前であってほしいんだけどね)。
無駄な装飾を排し、フレームレスとしたボディ同色グリルは新鮮な印象。ボディにも無駄なラインが無く、つるんとしている。非常にモダン。

このクルマ、外で見るとちょっと不思議な存在感がある。水平なボディラインを基調に、エッジと丸みのコントラストが面白い。やけに浮遊感もある。
どことなく、かつてのHR-V(私の元愛車)を想起させる。そこもかなり惹かれたポイントだ。
結構攻めていて個性的なのに、ミニマルで自然体に見せるスタイリング。
初見で「おっ、いいね」と思わせ、じっくり見れば見るほど味わいを感じるデザインは、日本車ではそう多くない。

インテリアデザインもスッキリしており、質感も高い。とはいえ先代ヴェゼルのインパクトを思うと、物足りない人も居るだろうけど。それにしても、余計なノイズのないインテリアというのは好感が持てる。

内外装とも、安心安全に直結する“視界の良さ”という重要な機能性を追求しながら、ミニマルなデザインに落とし込んでいるところに魅力を感じる。

ラゲッジスペースの使い勝手や、リアシートの広さは外見から想像する以上のものだった。とくにリアシート足元はラージセダン並み。
こういった空間マジックは「M・M(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)思想」のホンダらしいところだ。
成功作と言える先代型から大胆な変化を遂げているが、スタイリッシュな割には実用性が高くて扱いやすいSUVという、ヴェゼルならではの美点はしっかり引き継いでアップデートしている。

何よりも、日常の生活を豊かにするためのデザインや快適性に重きを置いた、という開発思想に惹かれる。
国産のクロスオーバーSUVもいろんなモデルがあるけど、今度のヴェゼルはなんだか明るくて、爽やかで、優しい。
クラスレスで上品な雰囲気を持つ、実用性の高い乗用車。
私はこのクルマを見て、セダンやハッチバックに乗っていた人たちが今後ますますSUVに流れていくのだろうな、と思った。
2. ホンダ シビック

今度のシビックでまず嬉しかったのが、新型のワールドプレミアと同時に国内導入が明らかにされ、すぐに発売されたことだ。
先代は海外発表から2年遅れで日本導入。その前の型に至っては、タイプR以外の普通のシビックは日本から撤退してしまっていた。
現行のCR-Vやアコードも海外から数年遅れで、旬の過ぎた頃にようやく日本へ導入。近年のホンダはそんな事を繰り返していたため、今度のシビックの早期日本導入は嬉しい誤算であった。
今回で11代目となる新型シビック。国内向けは日本で生産され、先代から引き継がれた1.5LターボエンジンにCVTまたは6速MTを組み合わせる。

ボディタイプは5ドアハッチバックに集約され、セダンは海外専売となってしまった。しかし、先代の販売状況やハッチバックのデザインのスタイリッシュさを考えると、納得は出来る。
今度のシビックは、「爽快シビック」というグランドコンセプトが掲げられている。
このクルマを見て、触れて、乗った人が爽快感を味わえるように。そんな狙いでデザインされたという。

内外装はスッキリと上質で、美しい。きっと年月が経っても飽きの来ないデザインだろう。
どこか昔のシビックやアコードに通じる雰囲気もあり、ほっとする。かなり好みだ。とくに後ろ姿は、近年の国産車の中でも指折りの格好良さだと思っている。

低く身構えたスタイリッシュなデザインでありながら、何気に使い勝手への配慮が行き届いているところも、このクルマの大きな魅力だ。
運転席からの視界がよく、ゆったりと安心してドライブ出来る環境作り。リアシートも、外見から想像する以上に広々している。

そしてラゲッジスペースにも見所が多い。ハッチゲート開閉の際、ユーザーの動線がなるべく小さくなるよう工夫がなされている。
取っ手は左右に2つあり、左利きにも優しい。さらに内側にも取っ手があるという親切設計。
横に引き出して使えるトノカバーも素晴らしいアイデアだと思った。作り手の優しさが感じられる。

地味ながらこういった部分がしっかりデザインされていると、より好感度が高まるのだ。
ただし、バリエーション展開には不満がある。
国内向けには1.5Lターボの上位グレードしか設定されなかったため、スタート価格が300万円超えの高級車になってしまったこと。
そしてホンダを代表する主力車種でありながら、今後のホンダの主力パワートレインとなる筈の「e:HEV」が最初から設定されなかったこと。
もしかすると、先行デビューした1.5Lターボは趣味性の高いスポーティ仕様という位置付けで、今後追加されるe:HEVには普及版のグレードも設定されるのかもしれない。そうであってほしい。
「e:HEV」と「タイプR」は、来年デビューと公表されている。
ここ数世代、日本では右往左往していた印象のシビックブランドだが、ホンダとしてはこれからも日本でしっかりと育てていく気があるようだ。今後の展開を楽しみに待ちたい。
3. ホンダ N-ONE

なんてことだ。ベスト3がホンダで埋め尽くされてしまった。どうやら最近のホンダのシンプル&ナチュラル路線は、ことごとく私のツボを突いてくるようだ。
正直に申し上げると、まさか2代目N-ONEが登場するとは思わなかった。しかしフルモデルチェンジしてくれた。いちファンとしては、まずそのことが嬉しい。しかも、6速MTまで登場。ホンダの上層部にN-ONEを贔屓している人がいるのかなと思うほど、優遇されているように感じる。

ただしコストカットは徹底されている。ボディはまさかの旧型から流用。これで本当にフルモデルチェンジ?と思ってしまうほど、見た目は変わっていない。
先代のデザインが非常に好評だったから、もし変えるとしてもMINIのように、超キープコンセプトになったのは間違いない。それならば、いっそ流用してしまえと。下手に変えるよりいいじゃないかと。そんなところだろう。

それでも、灯火類や樹脂パーツの変更でモダンな印象になっている。これがなかなか効果的で、ボディ骨格は変わっていないにもかかわらず、先代より低く踏ん張って見える。
奥目で正面を見つめるヘッドライトもいい塩梅。制約の多い中で、N-ONEの魅力を引き立てた巧いモデルチェンジだと思う。

一方、インテリアは他のNシリーズのパーツの集合体のようで、テーマ性という意味では少し疑問符が付くものの、なるべくコストを抑えながら全面刷新された。

N-ONEはデザイン重視の軽自動車だが、室内は広く、ラゲッジの使い勝手も意外にいい。この美点は新型にも当然しっかりと引き継がれている。
助手席の足元が広くなったのは、旧型ユーザーとしては羨ましい限りだ。

そう、旧型ユーザーから見ても魅力的な仕上がりとなっているのだ。類い稀なる超絶キープコンセプトながら、見事なモデルチェンジといえよう。
ユニセックスでタイムレスなデザインの軽自動車というのは、貴重な存在。今後も永く愛され続けてほしい。
4. 日産 ノート

日産入魂の一作という意気込みが伝わってくるのが、何よりいい。
近年、会社としては何かとネガティヴな話題が多かった上に、日本軽視としか思えないくらいラインナップを削りまくっている日産だが、久しぶりに国内市場でいいクルマを出してきた。
明確にフルモデルチェンジ、まさに「全面改良」だと実感する。日本のユーザーのために、力を入れて開発されたというのがよくわかる。

3代目となる今度のノートは、車格感が飛躍的に向上した。
全体的にスッキリとしたテイストながら上質感がある。引き算のデザインを意識しつつ、細部に拘ることで“いいクルマ”の雰囲気がちゃんと漂っている。
この点はヴェゼルやシビック、近年のマツダ車にも感じるところで、2021年現在の自動車のトレンドと言えそうだ。

中でも、上級モデルの「オーラ」はかなり面白い。“プレミアム・コンパクト”、要するに“小さな高級車”を目指して開発された。
こういったコンセプトは日本車の苦手とする分野だが、オーラはかなり上手くいっていると思う。

インテリアのセンスの良さにはクラっと来てしまった。ファブリックを効果的に使用し、新しい時代の高級を感じさせる。

エクステリアも洗練されており、新型ノートシリーズの本命といった印象。3ナンバーのワイドボディを採用し、ボディ側面がふっくらして情緒感が出ている。

上位車種から乗り替えても満足出来そうな、クラスレスなコンパクトカーに仕上がった。

パワートレインは日産お得意の「e-POWER」一本に絞ることで、尚更クラスレス感が出た。その分、価格帯もかなり上がってしまったが…
目玉装備のプロパイロットは、ナビとセットオプションで40万円以上する。これを選ぶだけで価格が跳ね上がり、とてもコンパクトカーとは思えないお値段となる。見積りを前に、少し引いてしまうかもしれない。
とはいえ、スポーツモデル、プレミアムモデル、クロスオーバーモデルなど、幅広い層に訴求出来るバリエーション展開は魅力的。

かつてサニーやティーダ、ブルーバードシルフィあたりに乗っていたユーザー層の受け皿として、やっと最適なモデルが登場したと思う。
3ナンバーボディのオーラならば質感の面で相当満足度が高まり、ティアナあたりの上級セダンから流れてくる人も多そうだ。
もちろん、これだけの商品力があれば新規顧客の獲得も期待出来る。

新型ノートシリーズは良いなと思う反面、日産の国内販売をノートに頼り過ぎな現状もある。ノートにだけ注力しているから、気合が入るのも当然といえば当然で、手放しに褒められない複雑な心境だ。
乗用車の需要はこれ一台で賄うぞ!という事ならば、素直に喜べない部分もあるにはある。
今後、日産が再び日本でのプレゼンスを高めたいならば、こういうクルマをどんどん投入していくほかないだろう。
5. トヨタ カローラクロス

とにかくコストパフォーマンスの高さに驚いた。CセグメントのSUVが199.9万円〜というのは、結構なインパクトがある。
他のカローラ同様、GA-Cプラットフォームをベースとし、今どきのクロスオーバーSUVど真ん中をいく、大き過ぎず小さ過ぎないパッケージを構築。

同クラスの「C-HR」のようなクーペ風のシルエットなどは採用していないので、視界が良く、室内は充分な広さを確保。リアシートを倒せば車中泊が出来るぐらいのスペースが広がる。フル乗車時の荷質容量もクラストップレベルなので、万人に受けるだろう。
全幅が1,825mmと、カローラを名乗るにしては大きいのが少し気になるものの、最小回転半径は5.2mに抑えてある。SUVとしてはかなり取り回しがいい。

トヨタの伝家の宝刀であるハイブリッドも当たり前のようにラインナップ。クラストップの低燃費を当たり前のように叩き出す。
価格を抑えたガソリン車も設定し、幅広い層にアピールする。さすがカローラだ。

デザインもなかなか悪くない。日本独自仕様のフロントフェイスに関しては、最初はどうも微妙な印象だったが、だんだんと好きになってきた。
トヨタにしては優しい表情で愛嬌も感じられるのが良い。コアラみたいだ!
インテリアの質感は、価格を考えれば上出来。基本的には他のカローラシリーズと共通化でコストカットしながら、SUVらしく縦の流れを強調したセンターコンソール等で、上手く差別化を図っている。

全体の印象としては、ときめきはしないけれど、なかなか良いじゃないかと思える。多用途に使えるバランスの良い乗用車だ。
カローラのくせに少々格好つけすぎな印象のハッチバックやセダン、ツーリングと比べると、カローラクロスの少し背が高いパッケージはファミリーにも向く。老若男女みんなが選びやすい内容。ある意味とてもカローラらしいではないか。

このクルマに関して、私は褒めちぎるほど心を奪われたわけではない。思い入れなどは特にない。しかし、あまりの総合力の高さに驚かされたのだ。
自分では欲しくならないけど、周りには積極的にオススメ出来る。
ソツのない作りで、競争力のあるプライス。無味無臭かもしれないけど、大きな不満もない。そう思えるクルマが、果たして世の中にどれほどあるか?
世界のトヨタの主力車種カローラここにあり、という貫禄さえ感じるのだった。
このカローラクロスの登場により、トヨタは完全無欠のSUVフルラインナップが完成したといっていいだろう。かつて90年代のセダンがそうであったように。今も昔も、やはりトヨタは強い。底力を見せつけられた。
ミニバンタイプを除けば、現代のファミリーカーの定番はクロスオーバーSUVと言えるくらい、今このジャンルは支持されている。
令和のカローラのど真ん中は、このクルマになっていくのかもしれない。
というわけで、
2021年の新車ベスト5は
1. ホンダ ヴェゼル
2. ホンダ シビック
3. ホンダ N-ONE
4. 日産 ノート
5. トヨタ カローラクロス
と相成りました。
ホンダのデザインがじわじわキテます。そして、珍しく国産車だけのランクインとなりました。
思えば、ここ2年、新車の展示イベントはことごとく無くなりました。かといってディーラーにもなかなか気軽に行けず。新車に触れる機会が少ないから、どんどん疎くなっていきます。
さてさて2022年はどんな年になるやら。