先日,友人と喋っていた時に車高調の話になった。
曰く,同じ車種に乗ってる友人がクルマを手放すにあたり,
ヤフオク流しになりそうだった車高調を譲ってもらったんだと。
(まぁこの辺は随分前の話,譲ってもらった時に聞いた)
で,最近なんとなくで,その車高調の減衰調整をフルハードにしてみたらしい。
そして「めちゃくちゃ跳ねる!」といってなんか喜んでいた。
……ただでさえ超かったいLARGUSの車高調だぞ。
よく一般道でフルハードにしようと思ったもんだ。
てか以前に最大戻しでも硬いって言ってたくせに。
ちなみに,この「最大戻しでも硬い」を聞いて,A05AにLARGUSを入れるのをやめた経緯がある。
(今にして思うと「硬い」のではなく「乗り心地が悪い」だったのかもしれない。後述)
大体,ギャップでぴょこぴょこ,衝撃ガツガツの足をスポーティなどと有難がっているうちは二流だ。
バネレートは乗り心地の言い訳にはならないし,ストリートでは無闇に上げりゃいいものではない。
乗り心地を犠牲にしないスポーツ,そういう足は存在するし作れる。
それは得てして高いが,そこをケチって安い車高調に飛びつくくらいなら,いっそノーマルでいいだろう。
閑話休題。
ともかく,一応その時には助言として,
「一般道では出来る限り柔らかくしておいた方がヘタリは少ないぞ」
と言っておいた。
これは,減衰調整機能付きサスペンションにおける一種定説のようなものだが,
今回はこのことについて考えてみたいと思う。
まず,ハード設定で一般道を走ることのリスクについて。
跳ねて危ない?
そういう話ではなくて……いやそれはそうなんだけど。
一般的な自動車用ダンパーが減衰力を発生する仕組みはご存知だろうか。
ざっくりいえば,筒内に封入されたオイルの中をピストンが移動する,
その時にオイルからピストンが受ける抵抗が減衰力である。
この減衰力によってピストンの移動=サスペンションのストロークを減速させるわけだが,
では,ここで減速させられた分のサスペンションの運動エネルギーはどこへ行くのか。
……運動エネルギーの常だが,これは基本的に熱に変換される。
要は,ダンパーが減衰をすればするほど,ダンパーオイルは加熱していくというわけだ。
そしてオイルと呼ばれるものはほぼ例外なく,熱を入れれば入れるほど劣化していく。
これが「一般道では出来る限り柔らかくしておいた方がヘタリは少ない」理由である。
減衰調整を硬くすればするほど,路面のギャップを律儀に減衰し熱を溜めていく。
その結果,ソフトで乗るよりもオイルの劣化が早くなるのである。
では逆に,柔らかい方はいくらでも柔らかくしていいのか。
減衰調整を最大まで戻してしまえばいいのか。
これは一概にはいえない。
それでいいものもあれば,よくないものもあると思う。
一番弱い状態がどのくらいの減衰力なのか,ものによって違うからだ。
だから「出来る限り」柔らかくするという表現を使っているわけだ。
柔らかすぎてしまうと何が起きるかというと,車高調=バネレートアップという前提では,
逆に乗り心地が悪くなり,場合によっては「硬い」という印象になることがあるのだ,不思議なことに。
上述の「LARGUSフルソフトでも硬い問題」は,あるいは振動の収まりの悪さが原因かもしれない。
純正であれば,ダンパーがヘタって柔らかくなるとフワフワして乗り心地がよく感じることが多いが,
バネレートがアップしている場合,ダンパーが働かないと高周波で揺すられることになる。
その周波数に人間の体が追従できないと,シートに打ち付けられ「硬い」と感じるのだろう。
多分(推測入ってます,間違ってたらゴメンナサイ)
で,減衰調整機能付き車高調に話を戻して,ツマミをどこまで戻していいかだが,
あくまで個人的なイメージだが,5段とか8段調整ぐらいなら最大まで戻してもいい気はする。
12段くらいだとまぁまぁ多分,16段超えてくるとやめた方がいいんじゃないかなという感じ。
減衰力の設計基準値を調整幅の中間において制作していると仮定した上で,
調整1段あたりの変化が大きいのか小さいのかを考えると,段数多めはちょっとリスキーだ。
一応,この「出来る限り」の程度を計算することは可能だ,理論上は。
問題は,それを算出するのに必要な数値が一般公開されていないことだ。
必要な情報は以下のとおりだ。
①バネレート
②減衰力(Tension/Compressionそれぞれ,ピストン速度ごと,それを調整段数分全て)
③バネ上重量
①のバネレート,これは説明書に書いてあるだろうから問題はない。
②の減衰力一覧表,これはまず手に入らない。
製造元に問い合わせても教えてもらえるかどうか。
メーカーによっては,中間値だけコントロールしてあとは出来たなり,なとこもあるかもしれない。
③のバネ上重量,もはや分かるわけがない。
知りたかったらジャッキアップして足回りを解体してバネ下重量を計るしかない。
その上で車検証の軸重からバネ下重量を引いてみればいい。
まぁ,分かりませんチャンチャン,では無責任なので,計算方法だけ書いておこう。
とはいえ基本的にはAutoexeのサイトにある貴島孝雄氏の説明を噛み砕いただけだ。
そちらを読んで理解している人は飛ばしてもらってもいいと思う(単位系もそちらを参照)。
まず,減衰力計算の基準となる
臨界減衰力を算出する。
臨界減衰力とは,バネ・ダンパー系の振動が一発で収束するような減衰力のことで,
一般的にはバネ定数
kと質量
mとして
臨界減衰力=2√(
km)
と表され,クルマの場合は,
kが左右バネレートの和,
mがバネ上重量にあたる。
この臨界減衰力は,1m/secを基準としてピストン速度に比例する。
0.3m/secであれば0.3を,0.05m/secであれば0.05をかければよい。
これで各ピストン速度での臨界減衰力を算出することができた。
あとは,各ピストン速度における実際の減衰力の和(Tension+Compression,左右)が,
臨界減衰力に対して何%であるかを算出するだけだ(これを減衰比という)。
減衰比=(縮み減衰力+伸び減衰力)×2/臨界減衰力
この減衰比から,乗り心地や応答性といったものがある程度だが見えてくる。
0.1m/sec以下と0.3m/secの減衰比を下記を参考に見て,普段の走行環境に合わせて調整する。
・0.1m/sec以下
最低でも50%を下回らないようにしないと不安定。
50~60%ぐらいが普段乗りの基準値,平均車速が高い人は60%以上に。
車種によっては100%を超えることもある。
・0.3m/sec
20%:乗り心地寄り,不整地を想定,Cセグメント以上ではあまりない
30%:普通の乗用車
40%:スポーティカーのレベル,FTOが純正でこのぐらい
50%:本格スポーツカーレベル,乗り心地は辛い
というような計算をして,自分が街乗りだと思う特性までは減衰を弱めていい。
あるいは,純正同等の減衰比になるように調整するか。
このいずれかが「出来る限り」柔らかい状態だといえると思う。
という感じで,今回は街乗りにおける車高調の減衰調整について考えてみた。
サスペンションメーカーが情報を出さないおかげで漠然とした記事になってしまった。
数値諸元ぐらい,取扱説明書にもきっちり書くべきだと思うのだが……。
まぁ,今回出した減衰比の話は,便利なので覚えておいても損はないだろう。
これを知っておけば,ダンパーのオーダーメイドでもいい買い物が出来るかもしれない。
ただし注意点として,上記計算は独立懸架であれば問題ないのだが,
リジッドやトーションビームだとあまりあてにならないことを付け加えておく。
(反対側のバネ・ダンパーが多少一緒に動くことや,トーションビームの曲げの影響が出るせいかと)
足の話繋がりでちなみにだが,私は今これを買おうか悩んでいる。
http://www.kybclub.com/Release/news15/Re15-vol_13_SR_mirage.pdf
開発中の旨は知ってたんだけど,てっきり日本には入ってこないのかと思ってた。
今の自作仕様も別に悪くはないが,やはりちゃんしたメーカー製ダンパーの方がいいに決まってる。
買うかは分からないが,念のため貯金を始めるか。