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2011年09月17日

RB26DETTの真実その7

スカイラインらしい味を出すこと
それが新しいスカイラインの使命

 正規手配の出図を前に、吸気系部品の大幅変更は辛いところであった。目標性能の300psにも達しているのだし、このままの仕様で行きたいという気もした。が、自分で運転してみても、誰よりも高速の伸びが不足していることを実感していたし、何よりせっかく8000rpmまで使えるように設計したのに、運転者がそこまで回したくなるような特性でなければ価値がないと判断したのである。
スペックだけではないスカイラインらしい味を出すことが、新しいGT-Rの使命だということは開発チーム全員が思っていたことでもあり、趣旨を良く部品設計に説明して納得してもらい、何とか変更手配に踏み切ることができた。
後にも先にも、目標性能を充分に達成していながらトルクカーブが気に食わないからといって設計変更したのはこのRB26DETTくらいではないかと思う。
 言うまでもなく、量産車の設計というのは妥協の産物である。しかし、安易な妥協をせずにどこまで踏ん張り通せるか、どこまで往生際を悪くできるかで完成度が決まるのである。つまり設計者は「ない袖を振らなければいけない」のである。(エンジン設計部に伝わる川柳に「ない袖振るのが設計の仕事」というのがある)そういう意味ではR32GT-Rの開発を担当した者たちは、相当に質の悪い(=往生際の悪い)連中であったろう。
そして自分の担当でない部分についてもお互いにびしびしと注文を付けるのである。自分がこのスカイラインを買う身になれば当然いろいろな要求は出てくるはずだ。そのこだわりの一つ一つがクルマとしての完成度を高めて行ったのである。「自分に関係ない部分だから黙っておこう」、「自分が買うクルマではないからこのくらいで良いだろう」などと思っているようでは本当に良いクルマはできないのではないか。
 開発担当者全員が人一倍こだわりが強いので、それぞれの自己主張も激しい。しかし、自分の担当部分を良くしたいと主張するだけではバランスの良いクルマは決して生まれてこないのである。それぞれのユニットの性能を充分引き出しながら、全体をうまくまとめていくのが車両主管の腕の見せ所であり、一番クルマ作りで差が出るところなのである。エンジンとかシャシーという視点で見ると素晴らしいのに、クルマ全体としてはつまらない、というクルマがあることに気付くと思う。それとは逆に、コンポーネント一つ一つを見ると大したことはないのに、クルマとしての完成度は素晴らしいというクルマもある。
 この点では、伊藤主管の手腕は抜群であった。上司を説得できなくて困っていると強力に後押しをしてくれたり、良いものができれば心から喜んでくれた。半面、真面目にやらずにあきらめたりすると「お前は首だ、もう会社に来なくていい」と怒鳴られた。言われた方も黙っていることなく、「自分は伊藤さんに給料をもらっているわけではない」と言い返す度胸を持っていたのだが。
上下の隔てなく議論し、技術や仕事のやり方については本気で怒る。しかし仕事を離れれば仲良くできる、というのがスカイラインチームであった。
伊藤主管は車両のコンセプト作りのときも、決して自分の主張にだけ固執するのではなく、みんなの意見を聞きながら、いつの間にか自分が思う方向に引っ張っていくような人であった。一言で言えば「夢を語り、その夢を開発チーム全体で育てていくことがうまいリーダー」であった。「伊藤さんのために頑張ろう」ではなく「伊藤さんとだったら自分の目指しているクルマを作れる」と思わせてくれたのだ。7代目スカイラインの途中まで主管を勤めた櫻井さんはもっと親分肌で、「櫻井さんのために一肌脱ごう」という気にさせる人柄であった。どちらが良いということではなく、それが二人の個性ということなのである。ともにR32を造り上げたという意味で、個人的には伊藤さんに、より仲間意識を感じている。
 RB26DETTエンジンでは、従来のターボエンジンの問題点であった、高速高負荷時の燃費改善に取り組んだ。ナトリウム封入排気バルブやステンレス鋳鋼製の排気マニホールドを採用して、タービン入口排気上限温度の設定を、従来のターボエンジンより50℃程度高くした。同時に燃焼室まわりの冷却性を向上し、対ノック性を改善している。これにより高速高負荷時の混合比を従来のターボエンジンよりも10%以上リーンにすることができた。そうはいっても、もちろん最高出力で走行すればそれなりの燃料を消費するのは当然である。エンジンの性能曲線を見ればわかるとおり、最高出力付近では燃料消費率は300g/ps・h程度である。280psで走行すれば、90l/h程度の燃料を消費する。120l入りのガスタンクを持つN1耐久レースカーが、1時間半程度で給油のためにピットインするのはこういう理由によるのだ。
 このようにエンジン開発は進められ、88年3月にはいよいよ第一次(1ロット)試作車が完成することになる。

第七話終了
ブログ一覧 | R32 | クルマ
Posted at 2011/09/17 09:48:08

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この記事へのコメント

2011年9月17日 10:01
こんにちは。

開発者皆さんの熱い魂と想いの集大成が、名車R32GT-Rを誕生させたのですね。
コメントへの返答
2011年9月17日 10:59
こんにちは
コメントいただきありがとうございます
自分が本当に欲しいクルマを作るんだという気迫が、開発を担当するものたちに仕事以上のことをさせたのだと思います。
しかしGT-Rが急にできたわけではありません。
R32GTS-tがあってのR32GT-Rです。
さらにはR31があってのR32ということでもあります。
2011年9月18日 7:14
クルマやエンジンもさる事ながら、櫻井氏と伊藤氏の2人のリーダーシップの違いも興味深いところですね・・・。

ご両名とも、日産を、そして日本を代表する名主査であった訳ですが、クルマに関する周辺技術が急速に高度化、複雑化してきた1980年代、伊藤氏のキャラクターと総合的キャッチアップ能力もあいまって、R32 GT-R があれほどの名車に仕上がったのでしょうね・・・。

まさに「クルマは人なり」を実感させられる話だと思います。

コメントへの返答
2011年9月18日 9:31
コメントありがとうございます
そうですねー、詰まるところ、リーダーシップとは
・自分の想いを強く持っている
・厳しさとやさしさを兼ね備えている
・指示する部分と任せる部分のバランス良い
・部下がうまくやったら心から喜ぶ
・責任をかぶる(自己保身しない)
というところでしょうか。
自分を信じ、人を信じられる人じゃないとだめですね。

プロフィール

「旧L20の重量」
何シテル?   09/18 17:17
yoshi-sennaです。エンジンをこよなく愛するエンジニアです。 2002年初めから4年半ほどRenaultにいた関係でParisに住んでました。 20...
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