
エンジン性能の未来的考察
出力を上げるにはどうすればよいのか、燃費と出力は両立できるのか、ディーゼルはなぜターボと相性が良いのかなど、普段皆さんが疑問に思っていることを、理論的に、しかもやさしく解説しています。1問1答式なので読みたい所から読むことができます。
ちょっと長いですが、「はじめに」の部分を掲載します。
今年の夏休みを利用してフランスのパリを経由して南イタリアに行ってきた。パリにはわずか2日間いただけだが数ヶ月前と明らかに違っていることにすぐに気付いた。街中を走る自転車が多いこと、そして至る所に設置された自転車のスタンドの存在だ。夏休みの真っ只中なのでまだ利用しているのは旅行者が多かったが、秋になれば多くのフランス人も使うようになるに違いない。スタンドからスタンドへと自由に乗り捨てができる極めて使いやすいシステムが整っており、自転車の形もフランスらしくスマートなのである。路面電車を復活し、自転車をあっという間に市内に配置するなど官民が協力してパリから自動車を少なくする工夫をしている姿がそこにはあった。我慢をせずに、しかし本気で格好良くやるのが欧州流なのであろう。しかし、だからといってすぐさま目に見えるほどパリの中を走るクルマが減ることもないが長い目で見れば着実にその方向に向かうはずだ。
ひるがえって我が日本はどうであろうか。日本でも自転車通勤する人が増えてきており、レンタカーの需要やカーシェアリングも着実に増えつつある。確実にエコロジーの発想は定着しつつあるが、欧州ほど官民が協力してシステマチックに進まないのが残念だ。
最近、盛んに「エコカー」という言葉がマスコミの記事に登場してきているし、日本でもCNGのバスが走り、バイオ燃料が使用されるようになってきている。排気をクリーンにするだけでなくCO2の発生量を抑制することが重要視されるようになったためだ。自動車メーカーにとってそのための技術開発は今まで以上に優先順位が高くなってきている。
利便性の高いパーソナルな移動手段としてクルマが今後も世界的に支持されていくためには多くの技術革新を迫られているが、ハイブリッドシステムのクルマやバイオ燃料を使用するというだけで、果たして単純にひとまとめにしてエコカーと言えるのだろうか。
トヨタプリウスやホンダのシビックハイブリッドなどの小型車ならともかく、2.4トンに迫る車重で600psのハイブリッドカーが本来の意味でのエコカーであるかどうかは大いに疑問が残る。また、本来食用や飼料であるはずのトウモロコシなどでバイオ燃料をつくることや、そのために熱帯雨林を畑に変えることが本当にCO2削減につながるのか。1ヘクタールの畑から収穫されるトウモロコシで1年間に30人の人間を養えるのにクルマの燃料として使えば1年間にわずか2台を動かせるに過ぎないことを知れば、北米のバイオ燃料推進政策などはまさに環境を食い物にしていることが良くわかってくるであろう。単にクルマが走行するときの燃費や排気性能だけを問題にするのではなく、トータルで現在の化石燃料を使用したクルマと比較してどうなのかをよく検討することが必要なのである。
種々の条件を満たした上でのことだが、クルマは軽量であること、システムはシンプルであることが価値のあることである。環境に対する負荷は、クルマを企画、設計する段階から少なくするように考えていかなくてはならない。中国やインド、ロシアなどでも自動車が普及してきて、ますますエネルギー事情やクルマをつくる材料の供給など厳しい条件が突きつけられてきている。これからのクルマの技術はどうあるべきなのかは、現在、次々と登場してきている技術やシステムについて、より深く理解することが欠かせないことになっている。そこで、エンジン性能との関係で、少なくともこれだけのことは知識として持ってもらうことで、本当の意味での「エコカー」はどのようなものになるのか考える手がかりにしたいと思って、この本をつくった次第である。
もちろんそれだけでなく、エンジン性能に関する基本的な知識を正しく伝えることも目的としている。
第9章にディーゼルエンジンに関しての項目を配置したのは、8章までが、基本的にはガソリンエンジンを中心に解説しているからで、10章以降はガソリンエンジンとディーゼルエンジンの共通問題を扱っている。とはいえ、厳密に分けることができるものではなく、また、それぞれの章の中に収まらない問題が多く、燃費性能で述べていることは、フリクションロスの章でも述べていることと非常に関係していることであったりする。そのため内容について多少の重複があることをお許し願いたい。
エンジンは、システム全体として捉えることが大切であるが、ひとつひとつの性能に関して具体的に述べることの積み重ねで、全体像を読者各々の頭の中で創りあげてもらうしか方法がないものなのかもしれない。
最後になったが、この本をつくるに当たっては、多くの方々にお世話になり、また名前や企業名を挙げないが、参考にさせてもらった資料も多かった。この場を借りて感謝する次第です。
Posted at 2011/09/01 21:04:30 | |
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出版 | クルマ