『中島飛行機の残滓を継ぎて』nanbuさんの力作「プリンスのあゆみ」に圧倒されました。
年表作りというのは地味ですが、何かを調べようとする時に最初に必要な基礎情報になります。しかし、さまざまな情報ソースを一つの年表に集約しようとすると食い違いが出てきてとても悩むのです……。
ちょうどプリンス車について調査中だったこともあり、刺激を受けました。プリンスの難解な型式記号を明らかにしてやろう、とちょっと火がつきました。
ちなみに、【型式】は(けいしき)ではなく(かたしき)と読みます。
たとえばトヨタの場合、型式の命名規則はこんな感じ。
P K 3 0 V - B (トヨエース パネルバン)
||||│ └ボデータイプ2(特装車用)
||||└──ボデータイプ1(派生車種のみ。V=バン等、詳細下)
|||└───グレードおよびボデータイプ(0=STD,1=DX,5=色々,6=マスターライン等)
||└────主にモデルの世代(1~)
|└─────シャシー型式
└──────エンジン型式
例外もありますが比較的わかりやすく作られています。その後桁数が増えましたが、現代でもこのルールが基本となります。制定から50年以上を経て運用が可能なあたり、将来を見据えたコード設計の賜物でしょう。
観音クラウンの1500スタンダードがRS20、1900スタンダードがRS30になるように、排気量の違いで二桁目の数字を変えるなど、ある程度柔軟に運用されているようです。一桁目の数字の7のように、輸出モデル用として割り当てられた数もあり、全貌を知るのはなかなか大変です。
1961年12月現在のトヨタのボデータイプ記号(『トヨタ技術』より)
しかし、プリンスの場合はスカイライン(初代)がALSID-1型と、いきなり難解です。
注)黒いクルマは57年式のプリンスセダン(AISH-VI)かセダンスペシャル(AMSH-1)ですね。半世紀前のミス。
コマーシャルはボディ形状が変わると型式名が大きく違う
一方、プリンストラックは低床も高床も同じ型式を名乗る

なかなか難物です。(以上の写真は『自動車ガイドブックVol.4 1957』より)
暗号解読よろしく各モデルの型式名を並べて共通点を探ったところ、なんとなく法則性が見えてきました。
ALSID-1 (プリンス スカイライン デラックス)
||||│ └マイナーチェンジ(無印は試作?)
||||└──グレード(D=DX,S=STD,P=グロリア)
|||└───ボデー累進(ABCDEFGHIJTを確認)
||└────ボデー形状(S=セダン,T=トラック,P=ピックアップ,V=バン,B=バス,R=スポーツカー)
|└─────モデル型式(詳細下へ)
└──────エンジン型式(A=GA4型1500cc,B=GB4型1900cc)
1型、2型の後に記号が付く場合もあり、これはボデー違いの派生車種を表すようです。(ライトコーチAQVH-1Lなど)しかし、トラックの場合、ボンネットとキャビンが同じなら架装が違っても型式には謳っていません。
エンジン型式は、この命名基準の頃には2種類しかありませんが、GA4型というのはガソリン+A型+4気筒を示していると思われます。
2文字目はシャシー形式とのことですが、シャシーを共用するクリッパーとマイラーが別の記号ということからかなり細かく区分されている模様。便宜上、モデル型式としました。整理すると以下のようになります。
《セダンとその派生モデル》 |
I |
1952~ |
プリンスセダン、コマーシャル |
M |
1956~ |
セダンスペシャル |
N |
1956 |
プリンスBNSJ |
L |
1957~ |
スカイライン、グロリア、スカイウェイ |
《小型トラックとその派生モデル》 |
F |
1952~ |
トラック、ピックアップ、ライトバン |
O |
1957~ |
マイラー |
R |
1958~ |
ニューマイラー |
《キャブオーバートラックとその派生モデル》 |
K |
1955~ |
キャブオーバートラック、ルートバン |
Q |
1958~ |
クリッパー、ライトコーチ、マイクロバス |
など。事例が少ないのでネーミングの規則性が読めません。
プリンスセダンからスカイライン(グロリア)へのモデルチェンジでAIXXからALXXへと二文字目が変わるのがポイントで、この一文字で車名と世代管理を兼用しています。これでは記号の枯渇が早そうです。
1962年に命名規則が改定され、マイナーチェンジしたスカイラインがS21、新型のグロリアがS40と命名されたのは、この辺りの事情があってのことかと思います。(Sはセダン、Tはトラックとなった)
考えすぎかもしれませんが、型式名にモデルチェンジの概念がない所には航空機に通じるセンスを感じます。旧軍の軍用機をはじめ、旅客機のB707から787 、戦闘機のF14からF18あたりを見ても、全てサブタイプの概念しかありません。プリンスのエンジンにマイナーチェンジで付与された11型、21型という記号もゼロ戦などに通じるものがあります。
しかるべき資料に当たれば分かることでしょうけど、こうして読み解くのも面白いものです。
四文字目のコードはボデーのマイナーチェンジを示す固有記号と判明しましたがですが、どうも命名基準がよく分かりません。
60年代のマツダとダイハツも相当に覚えにくい型式名を採っているので、これも解読したい所なのですが、なかなか大変そうです。
2017.12.24追記
モーターファン29巻13号(1975-10)に掲載された“幻のショーカー・リストアップ”によると、プリンスBNSJのアルファベットは「B型エンジンを搭載したN型シャシー使用のJ(3)番目に作られたセダン」という意味だそうです。
Jが3番目というのがよく分かりませんでしたが、セダンを並べると…
AISH→ALSI→BNSJ。なるほど、H・I・Jと連続しています。なんだこれ。
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2013/02/12 23:14:15