
一般に「旧車は純正部品の供給が止まったらおしまい」なんて言いますが、私の師匠は
「純正部品が終わってからが旧車」と言います。
その心は……大枚はたいてショップ経由で部品を買ったり、クルマ1台分の部品をストックすることではありません。もちろんそれも大事なことですが、その前にやるべきことがあるのです。
それが“優良部品”。
ラビットスクーターのパーツは執拗なまでに富士重工のまるフのマークやウサギのマークが入っていますが、ユーザーに純正部品を使ってもらおう、優良部品ではなく、という狙いがあります。それだけ、当時はアフターマーケットパーツが多かったということなんですね。
ウサギは長らくウチで寝てます
古くからの愛好家の中にはこの手のパーツを「まがいものの社外品」として蛇蝎のごとく嫌う方もおられますが、うまく付き合っていくのが旧車に長く乗るコツだと思います。
では、“優良部品”とは何か。
日本自動車部品協会では次のように定義しています。
自動車メーカーが自社のブランドと流通ルートで供給する補修用部品を「純正部品」というのに対し、自動車部品メーカーが純正部品と同等以上の品質と性能を保証して提供する交換補修用部品を、優良部品といいます。
しかし、優良部品をインチキなものと決め付けるのは早計です。たとえば戦前のトヨタA型のエンジンは1933年式シボレーをスケッチした直6OHV、日産トラック80型のエンジンは
グラハム=ペイジのライセンスによる直6サイドバルブ。これらを国産化したわけで、戦前に興った日本の自動車部品工業は、すなわちアメリカ製パーツの互換品の生産から始まったといえます。
グラハム=ペイジのライセンスで生産された1951年式ニッサンN180キャブオーバーバスのA型エンジン、直6サイドバルブ3,670cc85馬力
当時の逸話として、車屋四六氏の書いた名著『進駐軍時代と車たち』にこんな話がありました。昭和30年代、氏が手に入れたボロボロの1941年式シボレーでガール・ハントに勤しんでいた頃。田舎の凸凹道を走ったショックでバッテリーが外れデスビに直撃、部品割れてエンコしたものの、近くの部品屋で手に入れた「日産トラックの部品」で無事復旧。当時の日産トラックのエンジンは戦前のシボレーをコピーしたもので互換性があり、地方で外車の部品は手に入らないが、日産の部品なら全国どこでも入手することができたのである、というお話。

優良部品は昭和22年に商工省令第19号にて公布施行された「自動車優良部品認定制度」で明文化された古い制度です。戦後の窮乏期の外貨不足、物資不足の中で、なんとかしてまともな部品を供給するために、国の認定制度が取られました。
当時の国産車といえばトラックとダットサン、それ以外の大多数のクルマは外車でした。(空襲を逃れた横浜製フォードや大阪製シボレー含む)戦時中の輸入途絶、そして戦後の窮乏状態の中で海外から部品を輸入するわけにもいかず、何とか国内で部品を生産する必要があったわけです。
この「自動車優良部品認定制度」の背景には、米軍の軍用車を日本国内修理する再生工場があったようです。「フジキャビン」の富士自動車(後の日産自動車追浜工場)や、トヨタ自動車挙母工場、モノコックバス「ふじ号」を生んだ富士産業(後の富士重工伊勢崎工場)など多くの工場がその舞台となりました。
昭和33年、富士自動車が生産した国産初の水平対向6気筒エンジン、7,700cc213馬力。ただし自動車用ではなく、セスナL-19 バードドッグに搭載された航空機用(交通科学博物館にて展示)
米軍車両の補修部品は当初アメリカから輸入していたようです。しかし朝鮮動乱の勃発などの影響により、在日米軍は日本国内での部品調達を目論むこととなりました。そして、米軍の自動車部品の仕様書を元にパーツの国内生産が進められています。
これらの部品のいわば保障として“優良部品”という制度が働いていた、という側面もあるはずです。
これは昭和20年代の話ですから、その後のヒルマンやオースチンのライセンス生産以前の話。そして、三菱ジープはこの時代の申し子というわけです。
さて。“優良部品”って使えるよ、という話をするはずが、ずいぶん深くなってきました。あんまり書くと日本自動車部品工業史を書き起こすようなことになりかねないので、手短に。
自動車の国産化、と言っても単に製造ラインを整備しただけはクルマは完成しません。自動車メーカーは沢山の部品メーカーから調達したパーツを組み立ててクルマを作っています。
部品メーカが完成車メーカーにパーツを卸し、それがサプライチェーンに乗って供給されると“純正部品”。全く同じ部品でも、部品メーカーが自前の商品として販売すると“優良部品”の扱いになります。
この線引き、たとえば「用品店で買った小糸のシールドビーム」「工具商で取り寄せたNSKのベアリング」「デンソー品番で取り寄せたオルタネータのブラシ」…どの線から“優良部品”の扱いになるのか?と言うと良くわからないところでもあります。これらはあまりそう呼ばない気がします。
また“優良部品”を中心に製造している部品メーカーもあります。よく知られたブランドではPIAA。ワイパーブレードを純正パーツとして取り寄せる人は滅多に居ないとおもいます。旧社名エバエースと言い、かつては純正互換の補修用フェンダーミラーのメーカーとして知られていました。
とある事情で純正品のワイパーを買いましたが、値段が高くてビックリしました。
旧車乗りの中でよく知られたSeikenのブレーキ部品も“優良部品”になります。しかしこれら優良部品は、原則として自動車ディーラーでの整備で使われることはありません。
最近ではトヨタが用品販売に乗り出し、この壁を崩そうという動きもあります。系列のタクティーがDJ(ドライブジョイ)ブランドでオイルフィルターやブレーキ関係の消耗品を販売しており、用品店JMS(ジェームス)とディーラーで同じ部品を扱っています。しかし、大多数の優良部品は自動車メーカーが品質を保証する純正部品ではありませんから、メーカーからの部品供給が終わればディーラーではお手上げ。
たとえどこかのメーカーがそのパーツを製造していたとしても、そしてそれが純正部品を製造している部品メーカーであったとしても、自動車メーカーの供給網に乗らなければ端末に「セイサクフノウブヒン」と出てきて一巻の終わり…部品が出なくて車検が通らないので廃車にするしかありません…つきましては当ディーラーで次の新車のお見積もりを、というわけです。
では、優良部品を使ってクルマを修理できるのはどこか?というと、町のモータースさんなんですね。ディーラーで直らなくても旧車ショップなら直る、という背景には、単にそういう事情があったりもします。“優良部品”の話題は、なぜか旧車雑誌で見かけない話ですが、場合によっては旧車ショップでなくとも普通の整備工場で十分に対応できる場合も多いのです。
(つづく)
Posted at 2013/10/13 23:01:03 | |
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