静かさや岩に・・・　解説

昨日の、立石寺で感じたことをまとめました。

あくまで、私の解釈です。

皆さんの意見を聞かせておくれやす！


静かさや岩に染み入る蝉の声

芭蕉がこの俳句を読んだのは、新暦の７月１３日。

さかのぼり、６月末から７月にかけ、宮城から山形に入る。その際に越えた、山刀伐峠。この時期のブナ帯では、「エゾハルゼミ」の鳴き声が支配していたと思われる。この蝉は、寒冷地に産する種類で、旅に出て初めて耳にしたものと、推測される。梅雨前で割と湿度の少ない頃、初めて聴く音色に、不快な印象はなかったはずである。
　尾花沢に着いてからは、小雨模様の日が続いた様である。梅雨に入っていたようだ。この時期に合わせたように、鳴き出す蝉が、「ニイニイゼミ」である。鳴き声は抑揚のはっきりしない、一本調子な感じである。音色は超音波的で、決して心地よい音とはいえない。蒸し暑い日中、割と木の低い位置で鳴くこの蝉。旅人には雑音にしか聴こえなかったのでは・・・。
　山寺に着いたのは夕方。崖や岩に囲まれひっそりと建つお堂。兎に角静かだ。


　静かさや岩に染み入る蝉の声
やはりこの俳句のメインは「静かであること」　蝉の声はあくまで引き立て役。スイカに塩のようなもの。　あれほど耳障りだった、蝉（ニイニイゼミ）の声もここには無い。まるで静けさが、疲れていた身と心を、リフレッシュさせてくれた、ひと時であったことだろう。　芭蕉にとっては旅時、蝉の鳴き声はうるさいものであった。静かさの反意語である。　
論点である蝉の種類に関して。　もしこの時、芭蕉の耳に「ひぐらし」の癒しの音色が飛び込んできたなら、俳句は蝉がメインになっていたかも知れない。
自分的には希望的な観測もあり、長年、ひぐらし説を提唱していました。しかしながら、梅雨時の蒸し暑いこの日、実際に山寺を訪れ、芭蕉と同じ空気を体感してみた。芭蕉のように７里の道のりを！というわけには行かなかったのですが・・・。　やはり疲れた体に、この山寺の空間。今の時代でも、市街地の喧騒から解き放たれ、ただただ、癒してくれる。
脇役（蝉）と主役（静閑）・まさしく、塩とスイカ。スイカの甘さを強調させたいために、逆味の塩で演出する。　うるさい蝉の声をも、包み込んでしまう、静けさ。
もしかしたら、山頂で蝉は鳴いていなかったのかも。耳の奥に染み付いていた、騒音ともいえる蝉の声が、体の疲れと共に、岩に吸い取られていく様を、ある意味、比喩的に表現してみたのかもしれない。
蝉の正体は、「ニイニイゼミ」で間違いないでしょう。ひぐらしでは、このような俳句にはならないし、アブラゼミはまだ、地上に出てこない時期である・・・。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上