
豪雪山岳地帯の谷間。そこを埋めつつ寸断する雪渓や巨大スノーブリッジ、デブリ (雪崩れなどの堆積物) をぬって踊るように流れ出でる冷たい冷たい雪解け水。 しかし、ひとたび豪雨が降って地表の保水力以上の水が流れ込むとき、瀬々らぐ清流は様相を一変して自然の猛威を剥き出しにする。
すでに、かなり昔のことになってしまったが、東北や奥只見の渓流遡行で体験した豪雨と鉄砲水の恐ろしさは、今でも鮮烈に覚えている。
奥只見のときは命の危険さえ感じるほどだった。ところどころに残る巨大スノーブリッジ、そして深いゴルジュに囲まれた沢床には、満足な野営地も少ない。半身を浸している清流の水温が急に冷たく感じたのは、きっと谷奥のスノーブリッジやデブリ(雪崩れ積雪堆積物)が崩壊した証拠だろう・・・
とうとう日も暮れてヘッドランプ頼りの遡行も前進行き詰まったあげく、足を渓流に浸しながらの一夜の仮眠になった。両岸は断崖が続いているようだったが、流木を集めた焚き火が、せめてのも安心感を与えた。
・・・ウッスラ明るくなりかけた夜明け前、どこかで雷鳴を聞いた。 空模様が何かおかしいなと思った矢先のこと、近くの滝音さえも打ち消すような、どこからともなく襲い掛かってくるゴーっという雨音を聞いたのだった。それは不意打ちのような突然の豪雨であった。バケツをひっくり返すという形容があるが、時間雨量にして100ミリをはるかに越えるレベルだったのではないか。
とにかく下界の常識とは、かけ離れたような山岳部の猛烈な豪雨になすすべもない。切り立った谷
に集中的に流れ込む雨水と濁流で、明け方の沢の様相は一変した。谷奥のデブリ(雪崩れ堆積物)の大崩壊もあったのか清流は茶褐色の噴出流に豹変。ザックに装備品を詰め込んで急斜面を攀じ逃げる時間的余裕もなく幾つもの大事な山の道具類が濁流にのまれ消えた。 それでも命からがら何とか崖を攀じ登った。ドロまじりの岩や大きな流木などが衝突する音だろうか、谷の底に暴れ狂う鉄砲水の恐怖に慄き震えながら眼下ゴーゴーと音を立てる足もとを見下ろしたのだった。 急斜面の藪をつかむ手を離せば、死あるのみ。大きな岩石や流木などが不気味な音を発す鉄砲水の猛威を知るが、ときすでに遅しだ・・・半ば放心したように断崖に、はいつくばっているのがやっとであった。
もしも、逃げるのが遅れたら・・・岩や流木の濁流に飲み込まれ、誰も拾うものなき永遠の屍になっていたかもしれない。 鉄砲水で死にかけてからの三日三晩、満足な装備品もないまま、道なき岩尾根や藪尾根をさまよい何とか人里まで出ることができたが、山中ではアブやブヨの大群にも苦しめられ猛烈な藪こぎを伴う崖越え、ぶら下がり、崖横断などの彷徨によって、全身無数の傷アザが残った。
遭難一歩手前の暗中模索の死闘行軍は、今でも脈絡のない悪夢となってよみがえるのだった・・・
Posted at 2010/07/16 15:13:55 | |
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