岡崎五朗です。新年あけましておめでとうございます。
年末はみなさん、ゆっくりお過ごしになられましたか?
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
さてさて、新年1回目のスイスポのはなし。
ダンパーは別名ショックアブソーバーとも呼ばれますが、僕はダンパーという呼び方を好んで使っています。というのも、ショックをアブソーブ(吸収)するのはあくまでスプリングの役目であり、ダンパーはその結果起こる車輪の上下振動を減衰(ダンピング)するために使われるからです。
では、そもそもクルマの場合、ダンパーはどんな役割を担っているのでしょう。主な目的は2つ。車体の上下動&ピッチングの抑え込みとロールスピードのコントロールです。
昔理科の実験で習ったと思いますが、錘(おもり) をつるしたスプリングはいったん振動をはじめると伸びたり縮んだりを繰り返します。実際には摩擦やヒステリシスによっていつしか振動は止まりますが、止まるまでにはかなりの時間がかかります。これがクルマだったら、常に車体がブワンブワンと揺れることになり、乗っている人はたまったものじゃありません。
また、たとえばステアリングを右に切ると重心にかかる遠心力の作用でクルマは左側にロール(傾く)しますが、ロールスピードが速すぎるとグラッという不安定な動きになってしまうため、ダンパーでコントロールし、ジワッとした動きにしてやるわけです。
ダンパーの減衰力は組み合わせるスプリングの硬さと車重を基本とし、さらにクルマのコンセプトに合った味付けを加えることで設定されますが、ここで重要なのは、スプリングの硬さが絶対的なロール量を決めるのに対し、ダンパーはあくまでも過渡状態、つまりロールが起きてから止まるまでの間のみに効いてくるということです。ダンパーの減衰力を高くするとロールスピードは遅くなりますが、絶対的なロール量は変わらない。けれども、実はこの部分が乗り心地やハンドリングのフィーリングに大きな影響を及ぼすのです。

こちら(
http://www.carview.co.jp/magazine/recommend/2011/suzuki_swift/)で試乗インプレッションを報告しているように、新型スイフトスポーツの足回りは決してガチガチではなく、むしろ「しなやか」という表現が似合う特性に仕上がっています。それでいてふわふわ感がなく、しっかり燃している。この、ちょっと魔法のような特性には、サスペンションの土台となるボディがしっかりしていること、スプリングレートを無闇に上げていないことがもちろん効いていますが、もう一点、大きな役割を担っているのがモンローのダンパーです。
フロントに伸び方向の余計な動きを規制するリバウンドスプリングを内蔵していることも大きな特徴の一つですが、新型スイフトスポーツのダンパーセッティングで僕がもっとも感心したのは、低ピストンスピード領域での減衰力チューニングをきめ細かく行っている点でした。ダンパーのピストンスピードだいたいの目安として、状態のいい舗装路で0.08m/秒、一般的な舗装路で0.1~0.15m/秒、荒れた舗装路で0.2~0.3m/秒、砂利道にいくと0.8m~1m/秒と言われています。普通、ダンパーの減衰力(kg)は0.3m/秒時の数値で表しますが、これは段差を乗り越えるようなかなり速いピストンスピード領域での特性に相当し、ステアリングを切り込んだときのロール抑制に関しては、0.1m/秒以下という、ピストンスピードが低い領域の特性が大きく関係してきます。ステアリングを切った際、必用以上のロールスピードを抑え込みつつ、変に突っ張らず外輪側にスムースに荷重を乗せていく…そういった特性がもたらす絶大な安心感と優れた正確性には、開発エンジニアと実験ドライバーがこだわり抜いた絶妙のダンパーチューニングがギュッと凝縮されているのです。
さらに言うなら、新型スイフトスポーツのモンローのダンパー は、もっと低いピストンスピード領域での特性にも優れています。走りはじめた瞬間、それこそ時速10km/hとか20km/hといった極低速域でも、足がしなやかに動いてくるのが感じられる。これはもう0.1m/秒どころか、0.03m/秒レベルの減衰力特性までしっかりとコントロールチューニングされている証です。このレベルになると検査機器で計測するのは難しいのですが、欧州を中心とした徹底的な走り込みを通して磨き上げていった新型スイフトスポーツのドライブフィールには、人間の感性でしか作り込めないテクノロジーがしっかりと反映されています。
もちろん、こうした特性を実現するには精巧なダンパーが欠かせません。ほんの僅かな誤差やバラツキがあるだけで、低ピストン領域での減衰力特性は大きく変わってきてしまうからです。先代に引き続き新型スイフトスポーツはモンローのダンパー を採用していますが、それはモンロー がスズキの要求する厳しいスペックに応えられる技術と熱意をもってたからこそ。カタログにはたった1行「モンロー社製ショックアブソーバー採用」と書かれているだけですが、その背景にあるのは、両社が共有する「いいクルマを作りたい」という熱い思いと、それを通じて結ばれたエンジニア同士の固い信頼関係なのです。
かなりマニアックな内容になりましたが…こちらの
特別企画「─削ぎ落とせ、研ぎ澄ませ、深化へ向かえ! ─ 新モダンSPORTハッチ伝説」でも、スイスポの性能の真髄に迫る話をかきました。まだ見ていないという方は、ぜひ併せてご覧頂ければと思います。
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2012/01/05 19:37:56