2009年03月24日
どうもご無沙汰しております。
最近真剣にクルマ選びを再開しました。
となると気になるのはやはりあのクルマ・・・
というわけでかなりの長文になりますが、以前書きかけて放置していた試乗記に大幅な加筆を加え、
今更ながら公開しようと思います。てか長すぎ(笑
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欧州市場における「プリメーラ」の意義
1984年4月、日産は欧州における生産拠点として、英国タインアンドウィア州サンダーランド市に新工場を設立した。1986年6月にはミドルクラスサルーン「ブルーバード」(日本名:オースター/スタンザ)の生産を開始するが、群雄割拠の欧州市場において堅調ではあるが爆発的な人気を獲得するには至らなかった。元来は産業の衰退したサンダーランド市の誘致により設立された英国工場ではあるが、その莫大な設備投資回収のため更なる稼働率の向上が急務であった。
そんな中、英国ブルーバードに代わる欧州戦略車として一台のミドルクラスサルーンが発表される。初代プリメーラ(モデル名:P10)。1990年2月の事である。
'80年代後半、日産社内では「'90年代までに技術の世界一を目指す」ことを目標としたプロジェクトが発足。通称「901運動」と呼ばれるこのプロジェクトは、R32スカイラインやそのツインターボ・電子制御4WD仕様であるスカイラインGT-Rといった名車を送り出し、「技術の日産」という日産自身が長らく掲げてきた企業スローガンを名実共に確たるものとした。初代プリメーラもこの901運動の申し子であり、前マルチリンク/後パラレルリンクストラットという凝ったサスペンション構成をはじめとし、欧州のライバルに対抗すべく運動性・操縦性の向上に力を注いだ。
同年秋、英国日産自動車製造会社(Nissan Motor Manufacturing(UK) Ltd; NMUK)はサンダーランド工場でのプリメーラの生産を立ち上げる。日本仕様に準ずる4ドアセダンに加え、欧州専用モデルとして5ドアハッチバック仕様を用意。当時の日本車としては最高位となる欧州カー・オブ・ジ・イヤー2位を獲得し、モデル末期に至るまで堅調なセールスを維持したプリメーラは、1992年からサンダーランドでの生産を開始したマイクラ(日本名:マーチ)と共に、欧州における日産の屋台骨を支える重要な柱となった。
こうして本来のターゲット市場での成功を修めたプリメーラだが、日本においても欧州車ライクな性格が功を奏し一定の支持を受ける事となる。この「日本製欧州車」というイメージに一役買ったのが、日本にも少数が輸入された英国生産5ドア、通称「UK」の存在である。正確には「プリメーラ2.0eGT」といい、モデルライフ後半には装備を簡略化した2.0SLXが追加投入された。
その後プリメーラは1995年9月に後継のP11へとモデルチェンジを果たし、P11型においてもそれまでと同様、1997年2月から英国仕様5ドアの輸入が再開されるのだが、1998年9月を以って日本国内における5ドアハッチバックの販売は終了。およそ1年半という驚くべき短命に終わったそのクルマこそが、今回ご紹介する「プリメーラUK 2.0GT」である。
5ドア化に伴う大幅な設計変更
先代の5ドアにあたるFHP10ではリアビューが全面的に刷新された為、後ろに回りさえすれば判別が比較的容易だった。しかし、事情を知らぬ者にとっては、このクルマをひと目で5ドアハッチバックと認識するのは困難であろう。それほど二代目プリメーラUKは「セダンとの共通性」に重きを置いてスタイリングされたにも拘らず、その実Cピラー以降のボディ外板は全て新規に型が起こされ、大型化されたテールゲート開口部の剛性保持に係る各種補強や、荷室容積の拡大および荷重変動要件対策としてのサスペンションジオメトリ変更など、単なる「追加モデル」の枠に囚われることのない大幅な設計変更が施された。
こうして生まれた英国仕様5ドアの中でも、荷室空間の使い勝手のよさは最大のハイライトである。ナンバープレート上部に備わる如何にも欧州仕様然としたテールゲートのリリースボタンを押すと、リアガラス部分とトランクリッドが一体となって開く。純粋に容積を比較するとワゴンに軍配が上がるが、開口部の奥行きが長い分、実際の使い勝手といった意味においてはどちらも甲乙つけ難い。特に長尺物の積み降ろしはこの手の5ドアハッチバックが最も得意とする分野である。惜しむらくは先代5ドアに備わるダブルフォールディング式リアシートがシングルフォールディングに置き換えられ、リアシートを畳んでも完全にはフラットにならない点だ。またワゴンに比べテールゲートが想像以上に高い位置まで開くため、立体駐車場など天地方向に余裕がない場所での開閉には注意が必要である。
いざコクピットに収まってみると、国内仕様との差は少なくない。先ず目に付くのは、UK専用ハーフレザーシート。見た目の高級感(サイドサポートがグレー革、中央部はIncaと呼ばれる複雑なパターンのファブリック地)のみならず、骨格そのものからして国内仕様とは全くの別物といってよい。実はこのシート、欧州専用設計かと思いきや、先代P10で好評を博したハーフバケットをそっくりそのまま踏襲したものである。従って、国内仕様P11ではいささか不満の残るサイズもたっぷりとしており、また高G領域におけるホールド製の高さも特筆すべきものである。但しクッション厚が不足気味で長距離移動では底付きしやすいのと、バックレストの平板な形状ゆえ腰椎の支持特性が余り良くない点は残念だ。また高さ方向のアジャスタが座面のみ(それでも前後独立調整式を奢ったのは立派だが)となっており、欲を言えばシート一体での調整機構が欲しいところではある。
その他細かい違いを挙げていくときりがないが、他に目に付く点としては、
・手動だが使い勝手に優れる大型ダイヤル式クライメット・コントロール
・1DINサイズで拡張性に乏しい反面高い位置に移設されたオーディオユニット
・カップホルダーと引き替えに車両中心軸上に据えられたハンドブレーキ・レバー
・欧州仕様ならではのVDO製メーター(自己診断機能付)
など、虚飾に囚われることなく使い勝手に配慮した、質実剛健な装備仕様もこのクルマのささやかな魅力と言えよう。
ピックアップ重視のセッティングに違和感
イグニッションを捻るとSR20DE型直列4気筒エンジンはややラフな振動を発しながら目覚める。どこといって特徴のない、少々時代遅れのアイドル振動だが、走り始めると思いの外スロットルを早めに開くセッティングが癪に障る。アクセルペダル自体も他の操作系に比べ軽めの味付けとなっており、ややピックアップ過剰な古色蒼然とした演出がこのクルマのキャラクターにはどうにもそぐわない。トランスミッションにおいても同様で、発進時にやたらとトルクコンバータを滑らせたがる4ATは、当時の国産車の水準と比較してもさして見るべきところのない凡庸なものだ。
しかし、半ば開き直って多めにアクセルを踏み込むと、パワーユニットそのものの印象は決して悪くない。とても低速からパンチがあるとは言い難いエンジンだが、3000rpm以上の回転域における伸びはなかなかのもので、日産らしく澄んだイグゾースト・ノートを発しながらレブリミットまで淀みなく吹け上がる。無論ただ回るだけのトヨタ3S-GEとは異なり、中~高回転域でもしっかりとパワー感を維持しつつ加速する辺り、流石に理詰めのDOHCエンジンである。だからこそ、もう少し過渡域の作り込みが欲しいのだ。市街地を普通に走るだけで素性のよさを感じさせるパワーユニットなど、ヨーロッパ方面に目を向ければゴマンとある。少なくともタウンスピードでの演出過剰なAT仕様のセッティングは残念でならない。
古典的なドイツ車風味
翻って全体的な乗り味という点で、このクルマほどヨーロッパ車に肉迫した例は稀である。ステアリングはやや重めながら路面からのインフォメーションを忠実に伝え、1cm単位のトレースも容易に行える。乗り心地は硬めの典型的な(そしてやや古典的な)ドイツ車風味であり、路面の凹凸を比較的正直に拾う反面、瞬時に振動を収束させるため決して不快ではない。こうした印象は高速域に於いても失われることはなく、特に120km/h以上でのスタビリティには文句の付けようがない。強いて言えばここでも出来の悪いトランスミッションがロックアップのON/OFFを繰り返す点が興醒めではあるが、そこに目を瞑れば高速での印象は将に"GT" の名に相応しいものと言えるだろう。
舞台をワインディングに移すと流石にパワー不足は否めないが、サスペンションには更に感心させられる。前輪マルチリンク/後輪マルチリンクビームという、いささか仰々しい名前が与えられた足まわりは国内仕様も含めた2WD全車に共通のものだが、このUK仕様のチューニングは抜きん出て秀でている。その理由をご理解頂くには、プリメーラのサスペンションの変遷についてもう少し行数を割く必要があるだろう。
P11プリメーラではフロントサスペンションを先代P10から踏襲する代わりに、パラレルリンク・ストラットのリアサスを全面的に刷新したが、これが旧型ユーザーから思いの外不評を買ってしまった。理由は単純で、それまでの完全独立懸架からトーションビームをベースとしたハーフリジッド・アクスルという比較的簡素なメカニズムに置き換えられた点が、単なるコスト意識の所産と受け止められた為だが、更に当時の日産は(高度なセッティング能力を誇りながら)リアサスの素性どおりに挙動を穏やかな方向に振り乗り心地も角を丸め、初代が持つ独特のキャラクターを捨て去ったのである。特にこの傾向は国内仕様において顕著であり、P10の硬めだが4輪でしっかりと粘る走りを知る者にとって、「新開発」リアマルチリンクビームサスは格好のスケープゴートとされた節がある。
しかし冷静にこのサスペンションを見分すると、機構学上決して悪い設計ではないことがわかる。荷重変動に対し常に(静的な)対地キャンバー角を一定に保つという設計思想は、'97年に追加されたワゴンの存在を鑑みれば合点のゆくものであり、また出来上がった現物は堅固なアームを基礎とし高い剛性をもたらした。当時の日産の状況からいってコストダウンが重要な開発要件であったことは言うまでもないが、それを単純に実際の設計と結びつけてしまうのはいささか早計に過ぎる。
シリーズ中最もP10に近い乗り味
UK仕様ではこうした素性のよさを最大限に活かしつつ、スタビリティとアジリティ(俊敏性)とのバランスをP10に近い次元まで追求したセッティングが施されている。従ってタイトベンドから高速コーナーに至るまで、適度なクイックさと安心感を両立した運動特性が印象的だ。フロントサスのやや強引なアーム配置に起因する、直進~微舵域での引っかかるような感触は多少気になるが、フロントタイヤが横力を発生すると同時にボディは穏やかにロールし始め、そこでステアリング操作を止めるとロール方向の動きもすんなりと収束する。また角速度の高いステアリング操作に対する追従性も良好で、旋回外側のフロントに荷重が集中しがちなハードブレーキング後のターンインにおいてもしっかりと4輪が路面を捉える辺り、スカッフ変化を抑えたリアサスの面目躍如といったところであろう。5ドア化に伴いボディ後半の重量が増しているが、よほど攻め込まない限り4ドアセダンとの重量差を意識させられることもない。尤も、高Gコーナリング時や路面からの大入力に対しては入念な剛性対策も力及ばず、軋み音を発する場面が少なくない点については改善の余地があるだろう(但し、私見ではあるが、こうした軋み音は主に内装材の建付けに起因するものであり、ボディ自体の剛性不足が原因ではないように思われる)。
このようにプリメーラUK、細かい不満は決して少なくないが、実用性と適度なスポーティーさを兼ね備えた真っ当な選択肢のひとつとして、販売終了から十年を経た今なお色褪せない説得力を持つクルマである。
Posted at 2009/03/24 00:47:28 | |
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プリメーラUK | 日記